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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第3章 サモン大陸編
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気がついたら1人でした

横山から解放されてから3日ほどたった。俺、アスモデウス、ルネ、それに勇者たちは案内役の騎士達と共にダンジョンの入り口の前に向かうため、階段を降りていた。


「入り口は地下にあるんだな。」


「そうです。もともとダンジョンの入り口を守るようにして、城、そして、街が作られたと聞いております。」


「そうなのか。」


なるほど。だから城を中心に街が広がっているわけだ。つまり、それほど重要な物がこのダンジョンの奥底に眠っていると言うことだろう。その正体は恐らく……。


「【聖剣グラム】か。」


「ん?なんですか?イヅナ様?」


「いや、何でもない。」


今更だが、アスモデウスは俺の本名を聞いても呼び方を変えることはしなかった。彼女が言うには“飯綱雅風”と言う名はしっくりこないらしい。本名がしっかりこないとはどう言うことか、とは最初は思ったが、彼女からすれば今まで読んでいた名前と言うこともあり、そちらが定着してしまったのだろう。


(まあ、俺もアスモデウスの立場ならそうするか。)


前の世界の名、今の世界の名。どちらで呼ばれようと俺に違いない。

しかし、俺はここであることに気づいた。


(そう言えば、夢の中に出て来たあいつは俺のことをイヅナ・・・と読んでいたよな。)


俺がこの世界に来て、イヅナと呼ばれ続けていたせいで気づかなかったが、よくよく考えてみればおかしな事だ。

夢のときのあの光景、それはまさしく日本にいた頃のものだった。だが、そこにいる俺をなぜあいつはイヅナと呼んだのか。もしかしたら、あれはあの幼い俺に話しかけるのと同時に俺にも何かを伝えようとしていたのだろうか?

やはり、あの存在について考えれば考えるほど分からなくなる。とにかく、今はダンジョンに集中するべきだ。

俺が兵士に話しかけてから3分ほどたっただろうか。ようやく階段が終わり、ダンジョンの入り口が姿を現した。


「これは……鏡?」


横山がダンジョンの入り口を見てそう言った。

横山の言う通りそれは大きな鏡だった。高さ5mほどの長方形の鏡だ。鏡面は霞んで降り、俺たちの姿をしっかりと映す事は出来ていない。


「いったいここからどうやって入るんだい?」


「そんな事私に聞かれても分かんないですよ。」


「別にアスモデウスさんに聞いたわけじゃないんだけどね。」


ルネの言った通り、ここからどう入るのか全く見当がつかない。扉がある訳もなく、魔法が発動し転移するような様子もない。


「“現世鏡”に入るには“キークリスタル”と呼ばれる物が必要です。そして、これがそうです。」


そう言って兵士は野球ボールほどのとても綺麗とは言い難いクリスタルが出て来た。


「そんなんで本当に入れんのか?」


「まあ、歩ならそんな物が無くとも無理やり鏡を割って行きそうだけどな。」


「どう言う意味だ!」


俺の言葉に声をあげる歩。


「まあまあ、歩落ち着いて。雅風も挑発しない。ね?」


「「へーへー。」」


颯太には何を言っても上手くまとめられてしまうのが分かっている俺たちは軽くそれを流す。


「全く。それでダンジョンに入るにはどうすれば良いのかな?」


ここで本題に戻る。


「はい。この“キークリスタル”を鏡面に当てれば、封印が解かれると聞いております。」


「じゃあ、早速お願いするよ。」


兵士は頷き、鏡の前まで移動する。そして、“キークリスタル”を鏡面に当てる。

すると、“キークリスタル”と鏡が輝き始めた。


「眩しいな。」


俺が口を開く間にも、光は更に明るさを増す。ついにはその光が部屋全体を包み込む。


「………。」


しばらくして光が収まり、俺たちはゆっくりと目を開く。そこには、しっかりと光を反射し、俺たちの姿を映しだす鏡があった。


「これで封印は解けたのか。」


「そのはずです。」


俺は鏡の前に立ち、右手でそっと鏡面に触れる。すると、鏡面は波をたて、俺の右手は鏡の中に沈んでいく。右手を引くと、鏡の中から何の変わりもない俺の右手があった。


「……成功だな。」


ついにダンジョン“現世鏡”への道が開かれた。ここの奥に【聖剣グラム】がある。

俺たちが黙って開かれたダンジョンへの入り口を眺めていると、1人の勇者が動いた。確か名前は田中何ちゃら。


「お、俺が先に中の様子見てくるよ!」


そう言って、田中(仮)は鏡の中に入ろうとした。


「待って!1人じゃ…。」


颯太が止めようとしたが、それには至らなかった。何故なら、田中(仮)はダンジョンに入ることなく、鏡に衝突したからだ。


「へぶっ!?」


変な声を出し、倒れる田中(仮)。

しかし、これはいったいどう言うことだろうか。俺はその理由を知るべく、『ネクロノミコン』を使用し、“現世鏡”について調べる。


【現世鏡】


・先代の勇者により作成され、名付けられたダンジョン。その目的は【聖剣グラム】の使用者に相応しいものかを選抜すること。


ここまでは俺も知っていることだ。


・“現世鏡”への入場へはいくつかの条件がある。

1つ『勇者、またはその協力者であること。』

2つ『守るべきものが存在し、その者を守る覚悟があること。」

3つ『強者であること。』


この3つが入場の条件である。


1つ目、2つ目はまだ分かる。心を読み取るスキルなんかもある訳だから、しっかりとした確認ができるだろう。

しかし、3つ目はそこがはっきりとしない。これは恐らくこのダンジョンを作り出した先代の勇者から見て『強者』と言うことだろう。だが、先代の勇者にとっての強者がどう言った者なのかが俺たちにはわからない。


「颯太、どうやらここに入るにはいくつかの条件を満たしている必要があるようだ。」


「つまり彼はその条件を満たしていないと言うわけか。」


全員がダンジョンに入れる訳ではない。それが分かった颯太は少し考え、間をあけてから、再び口を開いた。


「全員、鏡に触れて見よう。入れる人はさっきの雅風のような現象が起こるはずだ。」


勇者、アスモデウス、ルネは順番に鏡に触れていく。そして、全員がそれを終え、ダンジョンに入場出来るものが分かった。


「ダンジョンに入れる人は、僕、歩、横山さん、清水さん、健二、雅風、アスモデウスさん、ルネくんの8人だね。」


ダンジョンに入れないと分かった者たちは不服そうだが、入れないものは仕方がない。諦めて貰おう。

元々体調が優れない者や、参加したくない者が多数いたため、ダンジョンの入り口には勇者たちは20人程しか来ていなかった。

だからと言ってこの人数は余りにも少ない。先代の勇者が与えた試練のダンジョン。それを攻略するのにこの人数では余りにも心配だ。共に行動が出来ている間は俺が守ることが出来る。しかし、予想外の事態に別々になってしまうことも考えられる。


「出来る限り固まって行動しよう。ただ何が起こるか分からない。そのつもりで覚悟は決めていこう。


颯太はダンジョンに入るメンバーに告げる。俺たちはそれを聞いた頷く。

準備は出来ている。あとはこの覚悟が揺るがないうちにダンジョンに入るだけだ。


「必ず【聖剣グラム】を手に入れて、全員無事で戻ろう!」


「「「「おう!(うん!)(ああ。)」」」」


そうして、俺たちはダンジョン“現世鏡”へと足を踏み入れた。しかし、俺たちは少しばかりダンジョンを舐めていたらしい。先代の勇者が作り出した物だ。何が起こるか分からないことくらい予想できていたはずだ。

俺たちはもう少し作戦を練るべきだった。いや、作戦自体は練っていた。魔物と遭遇したとき、もしもダンジョンの途中で逸れてしまった場合。色々な場合を考えていた。しかし、まさかこんなことが起こるとは思っていなかった。


「まさか、入った瞬間に1人になるとはな。」


古代の遺跡を思わせる石造りのダンジョン。その通路に俺は1人ぽつんと立っていた。






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