表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
67/164

閑話⑤ーリア編ー



ーーーリアSIDEーーー



フィエンド大陸、フォートレスの街のある日の夜。人々は寝静まり、衛兵たちはいつ来るか分からぬ魔物を警戒し、街に吹く風の音だけが静かに響く。

そんな街のとある家の中。そこには街の人々と同じように眠る1人の少女がいた。この街のギルドで働く職員“リア・グレイシア”だ。

最近、リアは日々のギルド職員としての仕事を一生懸命にこなしていた。ギルドの先輩たちもそれを認めるほどにだ。しかし、突然何の前触れもなく懸命に働くようになったリアを見て、皆、何故なのかと、不思議に思っていた。しかし、何度聞いても『また、今度。』と、はぐらかされてしまうのだ。その結果、職員の誰も(アニスを除く)が一時的な気まぐれだと解釈し、詮索するのをやめた。

だが、それは間違いであった。リアには1つの理由があったのだ。


「……イヅナさん…。」


今、リアが寝言で呟いた存在こそ、その理由に大きく関係する人物だ。

イヅナという人物をリアは最初、女だと勘違いしていた。きらめく銀髪、真紅の瞳、白く透き通った肌。とても美しい、その姿にリアは見惚れた。胸の高鳴りを感じたのだ。しかし、いざ話してみるとどうだろうか。高ランクの冒険者に決闘をし、無傷で帰って来た挙句、その勝負に勝ったと言うのだ。

リアは思った。この人は魔性の女なのだと。その美貌を使い、男を誑かす者なのだと。だが、その考えは間違いであった。

自分が新人であるが為に起こした失敗。しかし、イヅナはそんなリアに優しく対応した。他の者がこのような優しい対応をしたとしても特に何も起きなかっただろう。しかし、その対応をしたのはリアが見惚れてしまった相手だ。彼女は女でありながら、惚れてしまった。対面をしているときは平然を装っていたが心の中ではかなり暴走していた。


(優しい…。感激だなあ…。もしかして、私に気でもあったりして…。)


こんな調子だった。そのため、仲良くなろうと自分から普段通り話そうとは言い出せたものの、緊張して口調が少し畏まってしまった。

そして、さらに思考を加速させる新事実を彼女は知った。


「いや、男だぞ。」


リアがした質問『イヅナさんって女の子ですよね?』のイヅナの返答だった。

雷に打たれたような衝撃だった。自分が惚れていた人物が男だったと言う事実。そして、惚れていると自分で理解していたこともあり、彼女の思考は停止してしまった。

その後、リアはイヅナと言葉を交わすことなく別れ、勤務時間が過ぎ、帰宅した。彼女はそこでようやく頭が回り始めた。


(イヅナさんが男……。あのときは驚き過ぎて頭が真っ白になったけど……よくよく考えると好都合じゃない?)


意中の人が女と勘違いし、少し諦めが入っていたリアだったが、男だと別れば話は別だ。


「お母さん。私、遂に見つけました。」


リアはそう呟きながら、幼き頃共に過ごした母のことを思い出す。

リアは父を物心付く前に無くしており、母だけが残された唯一の肉親だった。自分の為に一生懸命に働き、優しく、自分を安心させてくれる笑顔をする母が大好きだった。しかし、そんな母もリアが10歳になる頃、病を患いこの世を去った。

悲しかった。辛かった。しかし、その度に彼女は母の言葉を思い出し、そんな感情に負けずに生きてきた。


『涙は惚れた男に見せるときのために取っておきな。』


『辛さを越えた先には良いことが待っているものさ。』


リアは数多くの言葉を聞いてきた。

そんな中の1つの言葉を、リアはイヅナを男と知ったとき、いや、見つけたときに思い出していた。


『リア、運命の人ってやつは本当にいるものだよ。その人を見ると雷に打たれるのさ。私があの人に出会ったときがそうだった。』


幼いリアはこの話を聞き、雷に打たれるなんて嫌だ、と大泣きをしたものだ。

だが、成長してこの言葉を思い出したリアはそんなことは思わない。むしろ雷に打たれたことを喜んだ。

そして、彼女は決心し、イヅナに近づこうとするが、彼はすぐにフォートレスの街を去っていった。さらには、その別れ際にアニスによってリアの思いをイヅナに知られてしまったのだ。

リアは初恋の相手への告白がまさかあんな形になるとは思ってもいなかった。

しかし、その後すぐ…とは行かなかったがイヅナは戻って来た。だが、今度は女性と一緒だった。イヅナに聞いては見たものの付き人としか言わない。何もしていないと言うが本当なのか、と疑うリアだったが、愛する人を疑ってどうする、と深く反省したようだ。

そして、話はこれだけではない。イヅナはどうやらまた何処かへと行ってしまうらしいのだ。一緒にいたいリアに取っては辛いことだった。しかし、愛する人のためと我慢するのだった。付き人が心配だったが、我慢した。

そして、リアは宣言した。ギルド員のリーダーになると。


「イヅナさんに釣り合う女になろう!いえ、必ずなります!」


イヅナは戻って来てくれると言ってくれた。ならば、今自分がすることは女を磨くこと。リアはそう考えた。

そして、彼女は翌日から先輩たちが不思議に思うほどの行動に出るのだ。


「……イヅナさん。」


再び寝言を呟くリア。

そんな彼女の枕元にはいつの間にか1つの手紙が置かれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……ん?…あ、もう朝か…。」


早朝。リアは目を覚ます。そして、いつも通りギルドへ行く準備をしようとするのだが、枕元に何かがあるのに気づいた。


「…これは……手紙?」


寝る前には無かったはずの手紙をリアは警戒しながら手に取り、恐れ恐るその内容に目を通す。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



リアへ


フィエンド大陸に戻れそうに無いので手紙で伝えることにした。

俺は元気でやっている。リアはどうだ?ギルド員のリーダーを目指す、と別れ際に言っていたが、その目標に向かって頑張れているだろうか?きっと、リアなら大丈夫だとは思うが、無理はしないでくれ。

それと、これからの俺の行き先だが、勇者たちと一緒にサモン大陸に行くこととなった。詳しい内容を聞いて見たんだが、グラム王国で勇者と共に訓練だそうだ。全く嫌になる。

まあ、俺のこれからはこんな感じだ。フィエンド大陸に戻れるのはいつになるか分からないが、また会えるその日を楽しみにしてる。


イヅナより



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



リアはその手紙を読み、感じた。

イヅナが遠くへ行ってしまい。会えなくなってしまう辛さを。

今すぐ会いに行きたい。それがリアの本心だった。しかし、彼女は宣言してしまった。次に会うときまでにギルド員のリーダーになると。約束を破るわけにはいかない。しかし……。

リアの中で彼女の欲望と約束が激しくぶつかり合う。どうすれば…。

悩むリア。だが、手紙の端の方に書いてあった文を見てあるその悩みはある一方に軍配が上がった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



イヅナ様のことはこの恋人のアスモデウスに任せておいてください。だから、安心してギルド員のリーダーとやらになっていてくださいね!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



リアは旅立ちの準備をする。

約束?そんなものは知らない。今、会いに行かなければこの恋の勝負に負けてしまう。自分の女の勘がそう言っている。それだけは駄目だ。負けたくない。彼と一緒にいたい。その思いが彼女を動かす。


「イヅナさん。待っていてくださいね。自称恋人の魔の手から今、救ってあげますから。」


リアは旅支度を終える。着替えよし。旅行費よし。その他諸々よし。リアは大きな鞄を背負い、親友の家へと向かう。彼女にだけには伝えよう。そして、旅立つのだ。普段通りの街の中をリアは普段とは違う様子で走り抜ける。そのせいかいつもは声を掛けてくれる街の人たちも、様子を見て話しかけるのを遠慮しているように見える。

そんな街の人たちを横目に走り、リアは親友の家まで辿り着く。


ドン ドン。


「アニス!起きてる?」


「はあ…。起きてるわよ。朝から何の用?」


力強く叩かれた扉はゆっくりと開き、中からはギルド員の制服を来たアニスがため息混じりに出て来た。準備を整え、これから出勤だったのだろう。

そんなアニスにリアは真剣な表情で話しかける。


「私、旅にでる。イヅナさんに会ってくる。」


「そう、行ってらっしゃい。」


「サモン大陸まで行くからしばらく帰ってこないかも。」


「なら、私が代わりに貴方の長期休暇をとっておくわね。ただ、できるだけ早く帰って来るのよ。何ヶ月も休まれたら溜まったものじゃ無いわ。」


「…………。」


親友のあまりに冷静な態度にリアは何と言えばいいのか分からなくなった。急にどうしたのか、何故そんなことを言うのか、そう言ったことを聞いてくれると思っていたのだが、そのようなことは一切なかった。


「……どうしたの?私の顔に何かついてるの?」


「止めようとは思わないの?」


リアはこの質問をしながら不安になっていた。もしかしたら私が親友だと思っていたアニスは私のことを大切に思ってくれてないのかもしれないと。

リアの手に自然と力が入る。

そんなリアの様子を見たアニスは「しょうがない子ね。」と言いながらリアの頭を撫でた。


「こう言うときの貴方に何を言っても意味がないでしょ?思いついたらすぐ行動に移す。そういう子なんだもの。まあ、そのせいでよく失敗したり、一度言ったことを途中で止めたりすることもあるけど…。」


「そ、そんなことは……ある……けど。」


「だから、私は何も聞かないし、言わない。いきなりそんなことを言われれば、心配するし、もっと計画とかを立てて欲しいとは思う。けど、そんなことを言って、リアが行動を起こさなかったら、後で後悔する。私はそんな貴方を見たくない。」


「アニス…。」


リアは思う。やはり彼女は私の親友なのだと。

自分を大切に思い、心配してくれ、それでいて背中を押してくれる。

リアはアニスに抱きつき、「ありがとう。」と囁く。


「何か言った?」


どうやらあまりに声が小さく、アニスは聞き取れなかったらしい。

リアはアニスから離れる。


「空耳よ。」


「……そう。」


リアとアニスは互いに見つめ合う。親友との暫しの別れの前にその姿を焼き付ける為に。

そして、それを終えるとリアはアニスに背を向ける。


「行ってきます。」


「気をつけて。」


リアは歩き出す、負けられぬ戦いに挑む為に。


「イヅナさん。今行きますからね!」


今、恋する乙女が動きだす。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーイヅナSIDEーーー



「どうしました?イヅナ様?何やら難しい顔をしてますが。」


「何かが俺に向かって来てる気がするんだが………特に周りに気配もないし、まあ、気のせいだろう。」


サモン大陸で起ころうとしていることをこのときの俺は知るよしもなかった。





次回はセリカです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ