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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
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気がついたら旅立ちでした。

クラスメートへの挨拶を済ませた俺はその後、最後の授業を受けた。退屈な授業だ。しかし、俺にとっては地球での授業風景を思い出させてくれたありがたいものだった。

しかし、そんな授業もこれで終わり、明日からは違った生活が待っている。

頑張ろう。シヴァの為にも。歩や横山の為にも。


「イヅナ様。帰らないんですか?もう授業は終わりましたよ。」


「分かってる。」


俺は席を立ち、教室から出て行く。最後にニエーゼたちが話しかけてくれるかと思っていたが、どうやら今日は皆、用事があったらしく授業が終わると一目散に帰っていった。少しだけ寂しかった。


「……イヅナ。」


「……ミカ。」


そんなことを考えていると後ろからミカエルが声を掛けてきた。この前のときとは違い普段通りの顔つきに戻っている。


「……話が……あります。」


「……私もです。」


ミカエルから話があるのは丁度良い。俺からも話さなければならない。男だと言うことを。この学園から去ると言うことを。


「どうせなら場所を変えますか。」


「……いい……ですね。」


「では、私たちが最初に出会った噴水なんてどうですか?」


俺の言葉にミカエルは頷く。俺はアスモデウスを先に帰らせると、ミカエルと共に噴水へと向かう。その間、俺はミカエルとは言葉を交わさなかった。別れるのがもっと辛いものになってしまうと思ったからだ。

しかし、噴水まであと少しと言うところで、ミカエルが俺の前にでる。そして、ミカエルは話しかけてきた。


「……私は……あなたに会えて……とてもよかった……とても……楽しかった。」


「私もです。」


「……あなたの……おかげで……私は……変わることが……できました。」


俺とミカエルは噴水に到着した。俺たちが出会った最初の場所。

ミカエルはこちらを振り向く。そして……。


「……ありがとう……イヅナ。」


「!」


俺は驚いた。ミカエルが礼を言ったことにではない。彼女の表情に驚いたのだ。

笑顔。俺が最も望んだ彼女の表情。

この学園に来て、色々なことがあった。楽しいこと。悲しいこと。しかし、嬉しい出来事において、この笑顔ほどのものはなかったかもしれない。


「……どうして……泣いているの……ですか?」


「いえ、只々嬉しくて、それで。」


俺は頰を伝っていく涙を拭う。


「……本当……ですか?」


「はい。最後にその笑顔が見れて良かったです。こちらこそありがとう、ミカ。」


「……?……最後?」


ミカエルは何が最後なのかと言いたげだ。


「ミカ、私はあなたに言わなければいけないことがあります。それも2つです。」


「…………。」


「まず、1つ目は私が明日この学園を去ると言うこと。そして、もう1つは……。」


「……私も……です。」


「……え?」


俺の言葉を遮り、ミカエルは言った。しかし、その言った意味がすぐに理解出来なかった。


「私もと言うのはどういう意味ですか?」


「……私も……明日……学園を……去ります。」


「……そ、そうなんですか。同じ日にここを去るなんて奇遇ですね。」


「はい。」


何という偶然か。ミカエルが学園を去る日と俺の学園を去る日が全く同じ日だとは。しかし、俺はここで考える。

果たしてこれが偶然なのだろうか、と。ミカエルがここを去る理由は何か。俺はその理由に勇者以外のものが見つからなかった。

そもそも、俺が学園を去るのは勇者と共に大陸を移動する為である。それに伴ったミカエルだ。創造神の思惑があるのかもしれない。とにかく注意が必要だ。


「……だから……私はイヅナに……もう会えないかも……しれません。」


「いえ、また会えますよ。私が探し出して見せますよ。だから、悲しく思う必要はありません。」


先程まで別れるのが辛いと思っていた俺が何を言うか。


「……イヅナ。」


「では、最後にもう1つミカに言うことがあります。」


「……はい。」


「実は私。男なんだ。」


「……知って……ます。」


「え?マジで?」


「……マジ……です。……先程……アモちゃん……と呼ばれている方が……言ってました。……イヅナが男……だと。」


教室でのことを言っているのだろう。本当にアスモデウスはやってくれる。全く、あいつは付き人としてどうなんだ?


「はあ〜。」


思わずため息がでる。


「ミカはどう思った?俺が男と聞いて。」


きもいとか思われていたらショックだ。


「……男でも……女でも……イヅナはイヅナ……私の大切な……友達……です。」


「……そうか。」


俺はこの世界で親友が出来たのかもしれない。彼女がそこまで思っていなくとも俺はそう思っている。


「それじゃあ、話は終わりだ。これでお別れだ。」


「……そう……ですね。」


「「…………。」」


いざ別れとなると途端に言葉が浮かばなくなった。


(な、何を言うべきか…。)


俺がそんなことを悩んでいるとミカエルが先に口を開く。


「……さような…んぐ。」


俺はミカエルの口を抑える。彼女は恐らく『さようなら』と言おうとしていた。しかし。


「その言葉は駄目だ。またどこかで会うんだ。他の言葉があるだろ?」


ミカエルは少しだけ考えると、俺の手を退けてもう一度口を開く。


「……では……また……会いましょう。」


「ああ、またな。」


俺はミカエルに背を向け、その場をさる。創造神の配下であるミカエル。次に会うときは戦場かもしれない。しかし、それでももう一度会いたい。だからこその別れの言葉だったのだ。


「ミカ、お前は俺の親友だ。」


俺はそう呟くと少しだけ足を早め、寮へと戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



早朝。ようやく太陽が顔を出し始めた頃だ。

校門にはたくさんの教師や生徒、また、勇者を一目見ようと町の人たちが集まって来ていた。


「すごい人数ですね。」


「そうだな。」


俺とアスモデウスは勇者たちから少しだけ離れたところに立っている。あの人混みの中には行きたくないのだ。


「そう言えばイヅナ様。手紙はちゃんと届けたんですか?」


「ん?あ、ああ。あの手紙か?もちろん、何の問題もなくな。」


「そうですか。なら良かったですね。」


「そうだな。」


まあ、実を言うと少しだけヘマをしたのだが、恐らく大丈夫だろう。


「イヅナくん。」


「ん?ニエーゼ。それに皆。朝早くからご苦労だな。」


俺が振り向くとそこにはAクラスの皆がいた。昨日は授業が終わった後、何も言わずに帰ってしまっていため、今日来てくれたのは、正直嬉しい。


「まあ、クラスメートの出発だからね、見送らないわけには行かないよ。あ、それとイヅナくん、アモちゃん。これあげるよ。」


そう言って、ニエーゼは木で出来た四角いアクセサリーのようなものを渡して来た。


「お守り。昨日、クラスの皆と話して何かイヅナくんたちに送ろうってことになったの。」


「そうなのか。ありがとな。大事にする。」


「そうしてくれると本望かな。ね?皆。」


クラスメートたちは嬉しそうだ。


「そろそろ時間ですよ、イヅナ様。」


「ん?ああ、分かった。それじゃあ皆、またな。」


「え、あ、うん。またね。」


俺とアスモデウスは勇者たちの元へと向かう。ここからは馬車に乗り、港まで行き、船に乗って、サモン大陸を目指す。

俺はアスモデウスと共に馬車に乗り込もうとするが、学園長の姿を見かけ、そちらに向かった。


「学園長。」


「ん?何の用かな?イヅナくん。」


「1つだけ聞きたいことがあるのだが、いいか?」


「構わないよ。」


「俺は女だと嘘をついて、この学園に来たが、本来、それがバレたら即退学や処罰があるんだろ?何とかの釜を使って契約のようなことをしてるから。だとしたら、俺には何かの罰とか無いのか?」


「ああ、実はあれは去年壊れちゃってね。そう言ったものは今は無いんだよ。退学とか処罰とか僕は嫌いだからね。丁度良かった。あ、でも建前上はあるって言った方が不正見たいなことがなくなる。だから、このことは学園外には伝えていない。」


「そ、それじゃあ、もし、俺が学園に来てそうそう男だってバレてたとしても。」


「男子用の制服を着て学園生活を送ることになっただけだろうね。」


「………。」


衝撃の事実に俺は言葉を失った。まさか、俺の女装がそこまで必要ではなかったのだから。今はもう無いがわざわざ胸まで作ったのだ。それが全て必要なかった。


「全く、散々な学園生活だった。」


「それは残念だったね。」


「そうですね。」


俺は学園長に軽く会釈し、馬車に乗り込んだ。中には既にアスモデウスがいる。一応、馬車一台に4人のれるのだが、勇者は39人(元々40人だったが山田がいなくなったため。)。勇者たちは3〜4人でのるため、俺とアスモデウスが馬車に2人で乗ることとなったのだ。


「まあ、これで学園ともお別れだな。」


「はい、楽しかったですね。」


「かもな。」


俺は馬車の外にある学園を眺める。


「イヅナ様。私、これから何があってもイヅナ様と一緒にいます。」


「急にどうしたんだ?」


「私の意思を伝えたかったんです。何たって私、イヅナ様の恋人ですから。」


「付き人な。」


そんなくだらない会話の中、馬車は動き出した。遠ざかって行く学園。短い間だったが、濃密な時間を過ごすことが出来た。

こうして、俺の学園生活は終わりを告げたのだった。
















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