閑話④
久しぶりの投稿。本当にすみません。
更に内容は皆さんが忘れかけているだろうあの人の話。すみません。
ーーー中島先生SIDEーーー
中島 小百合は再び悩んでいた。
学園に来る前。中島は力をつけ、生徒たちを守れるようなると決心した。しかし、現実は厳しかった。
ステータスは高くとも、魔法のコントロールが上手く出来ず、不器用である中島では上手く武器を使うことなども出来ない。
そんな中島とは違い、力を日に日に増していく生徒たち。学園に来てから、心を何度折られそうになったことか…。
そして、そのたびいつも噴水のところにいる少女のもとに足を運んだ。彼女は何も言わない。ただ、聞くだけ。しかし、それが良かった。悩みを聞いてもらえる人などこの世界に来てからいなかったのだから。
だが、そんなときある事件が起きた。生徒の1人、山田が殺されたのだ。そして、その犯人は生徒である杉本。
中島は自分の無力さを実感した。
生徒の命を失ってしまったこと。そんなことになるまで、生徒の異変に気づくことが出来なかった自分自身。そして、傷ついた生徒の心は私ではない誰かによって、癒されていた。
そして、今さら思う。何故あのとき、この世界に飛ばされたとき、杉本の言葉を否定したのだろうかと。中島は地球にいた頃ならば、人助けをするのは人として良いこと、生徒たちをその方向に導こうと考えていた。だからこそ杉本の言葉を否定した。しかし、実際にこの世界に来てから中島は、あのとき生徒たちを逃がすことを考えるべきだった、そう感じた。
何故、魔神を倒して欲しいという明らかに危険な願いを聞くべきと考えたのだろうか。教師ならば、生徒を導くことよりも、守ることを考えるべきだった、と。その結果が今のこの情けない教師と、生徒たちの厳しい日常を作り出しているのだ。
そんなことを考えながら、中島は歩いていた。学園長室で一緒にいた生徒たちには先に帰って貰っていた。必死に頑張っている生徒たちの前でこんなことを考えていたら、顔に出て心配されてしまうだろうと考えたのだ。
「私のどこが教師よ。駄目駄目じゃない。」
1人でいるという安心感が中島の心の声を外に出した。しかし、そんな中島の前には先程まで一緒にいた生徒たちが立っていた。中島は驚き、一瞬動揺したが、生徒たちに心配はかけたくないという思いが、中島を落ち着かせた。聞かれた以上意味はないかもしれないがそれでも中島は平然を装った。
「先生…。」
颯太は中島に歩み寄る。
「上条くん。どうしたのかしら?」
生徒に聞かれてしまった。教師として生徒に悩みを聞かれるなど、やってはいけないことだ。
「先生。やっぱり辛かったんですね。」
「それは…。」
中島は何も言えない。あまりにも的を得ているその言葉にとっさに言葉が思いつかなかった。
「先生。悩みがあるなら僕たちに言ってください。きっと力になれます。」
「……。」
中島には生徒のこの言葉がまるで鋭利な刃物のように胸に刺さった。
いつの間にか立場は変わっていたのだ。私は守られ、導かれる側に。
「私、教師失格です。」
中島はやっとの事で口を開いた。しかし、それを聞いた生徒たちが、瞬時に反応した。
「「「それは違います!」」」
「…!」
突然のことに中島は驚いた。
歩は言う。
「俺は知ってるぜ、中島先生がこの世界に来てすぐの頃、不安になっていた生徒たちを慰めてたこと。」
颯太も続く。
「この世界に来てからも教師であろうとしていたこと。誰よりも僕たちのことを心配してくれたこと。僕も知ってます。」
最後に杉本は言う。
「俺は思ったんだ。先生が戻って来た俺を叱ってくれて、心配してくれて、俺戻れてよかったって。他の奴らだってきっとそうだ。先生がいるから、先生が待ってくれるから、勇気を出して、訓練とかに行けるんだ。」
「「「だから、先生は教師失格なんかじゃない(ねえ)(です)。」」」
「皆…。」
守ることは出来なくても、生徒たちのために成っている。自分の存在が支えになっている。それだけで彼女の心は満たされた…。
訳ではなかった。ある意味ではその言葉は逆に生徒たちに気を使わせていると、悲しい気持ちとなった。しかし、嬉しくもあった。力と慣れている自分の姿も確認することが出来た。
そんな複雑な感情を持っていた中島だったが、これ以上。生徒たちに心配はかけられない。
「……ありがとう、皆。」
中島は精一杯の笑顔を生徒たちに送った。ただその裏には、隠された本心があったのだった。
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次の日。中島は1人、学園の中を歩いていた。目的地はあの噴水。彼女のいる場所。
中島はあの子に迷惑がかかっていると思っていた。それでも聞いて欲しかったのだ。この学園を去る前に溜まっているものを出したかった。それに名前くらい聞いて来たかった。いつも黙って中島の話を聞くあの少女の名を。
しかし、いざ噴水についてもそこに彼女の姿はなかった。このまま会えないのかと思うと少しだけ寂しくなった。今考えてみると彼女は中島にとって唯一のこの学園の生徒の知り合いだった。寂しくもなるはずだ。
「せめてお礼だけでも伝えたかったなあ。」
これは本心だ。もちろん、心の中に溜め込んでいるものを聞いてもらうためにもここに来たのだが、おそらく最後になるこの機会にお礼くらいはしておきたい。
「……お礼……ですか?」
中島は声がした方へとゆっくり体を向かせた。すると、そこにはいつも話を聞いてくれる彼女の姿があった。
「……喋った。」
先程の声が彼女のものだと気付いた中島は驚いた。今まで、口を開かなかったあの子が、あろうことか、彼女自身から話しかけて来たのだ。
おそらく、イヅナとの一件が無ければ彼女が、ミカエルが中島に話しかけることなどなかった。しかし、あの経験を得てミカエルは自分に心があると自覚し、自分の気持ちを知りたいと思い始めた。だからミカエルは中島に声をかけたのだ。
「……私も……喋ることくらい……出来ます。」
表情を変えずにミカエルは言った。
「え?あ、うん!そうよね。ごめんなさい。私ったら当たり前のこと言って。」
「……問題……ないです。」
少しずつ話すミカエルの様子を見て、中島はこの子は話すのがあまり得意じゃないのかもしれない、と考えた。中島は早速、本題を持ち出すことにした。
「それなら良かった。それでね、今日はあなたに話を聞いた欲しくて来たんだけど……良いかしら?」
「……別に……構いません。」
「ありがとう。」
中島はミカエルと共にベンチに腰をかけ、自分の悩みを話し始めた。
学園に来てからのこと、生徒たちの様子のこと、学園襲撃のこと、この学園を去ること。
一度、話したことのある内容もあった。しかし、中島はこれが最後だと思うと話さずには入れなかった。
「それで私ったら、生徒たちがいないと思って本音を言ったの。そしたら、それを生徒が聞いていてね。私のことを一生懸命励ましてくれたの。」
「……そう……ですか。」
「そう。それでね、私は嬉しかった。でも、本音を言えばそれ以上に苦しかった…。でもね、せっかく生徒たちが励ましてくれたのだもの。私は苦しさを心の奥底にしまい込んだわ。そうすれば生徒たちが少しでも笑って、喜んでくれて、生徒たちへの教師としての役目が果たせるもの。」
「……それは……駄目です。」
「え?」
中島はミカエルの方を向く。
今まで一度も反論をしてこなかった彼女が中島の話を駄目と言った。中島は動揺する。
「だ、駄目ってどういうことかしら?」
「……あなたは……逃げただけ……です。……生徒たちを……理由に使い……楽な方へ……逃げただけ。」
「それは違います!」
中島は自分がそんな人間ではないと思っていた。だからこそ、ミカエルのこの発言には少し不満を持った。
「……違いなく……ありません。……生徒のことを……真剣に考えるなら……その苦しさと……向き合わなくては……いけません。」
「………。」
中島は確かにそうかも知れないと考える。自分のことに答えを出さなくて、生徒たちのためにしっかりと行動できるのかと。
「……苦しいです……辛いです……嫌です……それでも……向き合わなくては……進みません。……それに……苦しさを……隠し続けても……生徒たちにいつか気づかれます……そしてあなたも……気づきます。」
「私が?何に気づくというの?」
「……考えていたのは……生徒のことじゃなく……自分のことだった……と。」
「そんな!私は!」
反論しようとする中島。しかし、そんな中島に構うことなく、ミカエルは立ち上がり、歩き始めた。まるで卿が冷めた言わんばかりの様子だ。
「待って!」
中島は必死に呼び止める。こんなことをしたかった訳ではない。ただ、聞いて欲しかっただけなのだ。
「……あれ?」
しかし、ここで中島は思う。聞いて欲しかっただけ…。そこに違和感を覚えた。悩みを聞いてもらうだけで何になるのだろう。何も言わなかった彼女に聞いてもらったところで何の解決にもならないはずだ。
溜まっていたものを吐き出す?吐き出したところで心の奥底から湧いてくるこの悩みを、苦しみをどうにか出来るわけがない。
「…そうか、私…。」
ミカエルは足を止め、振り返る。
「……気づき……ましたか?」
中島は気づいてしまった。彼女にして貰っていたことは悩みを聞いてもらうことなどではなかったことに。
今日の会話は、自分が楽な方へと行くための、自分が助かるための、自分を正当化するための、自分は正しいそう思い込むための、ものだったのだ。
「私…私。」
「…………。」
ミカエルはこのままにして置くのは可哀想だと感じた。しかし、彼女自身が切り開いて進まなくてはならないのだ。ミカエルにはイヅナがいるように、中島には生徒がいる。あとは中島がどう行動を起こすかだ。
「……さようなら。」
残酷だとわかっていた。しかし、ミカエルは中島を置いていった。それが中島の為になると信じて。
「……私……自分……生徒。」
中島は自分の考えが分からなかった。自分自身についていた嘘。それに気づいてしまったことは中島の精神を圧迫した。
ミカエルに名前を聞くこと、礼を言うことなど、彼女の頭の中にはもう存在しなかった。
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これも皆さんのおかげです。
どうぞこれからも『気がついたら魔神でした』を宜しくお願いします。