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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
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気がついたら目的地が決まってました


「“カラドボルグ”って何でしたっけ?」


「「「え?」」」


ルネの言葉に各国の主要人物たちが固まった。


「い、いや、聖剣だよ。物語とかでも聞いたことあるだろ?この世界にある4つの聖剣の1つだ。」


「…………。」


ルネは本当に知らないのだろうか?俺はふっと思う。子供の頃から聞かされそうな話に出てくる聖剣を忘れるだろうか。

俺はそう思い、こっそりとルネにマスタースキル『アブホース』を使い、ルネの記憶を少し見た。精神を掌握することができるからこその技だ。

俺はルネの記憶にアクセスを開始した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーーールネの記憶ーーー



俺は魔神教徒の連中を倒した後の記憶を見る。


「行きますよ!」


「少しくらい休ませてくれないかい?」


どうやらアスモデウスと2人で訓練をしていたようだ。アスモデウスも無理をさせる。

2人の訓練はただただ戦うと言うシンプルなものだった。しかし、疲れ果てているルネの体。動きが鈍い。しかし、容赦をしないアスモデウス。


「隙あり!」


ついにアスモデウスの攻撃がルネ後頭部を捉えた。


「ガッ!?」


ルネはそのまま地面に倒れ、動かなくなってしまった。


「あ。やり過ぎちゃいましたね。まあ、いつものことですね。放っておきますか。」


そう言ってアスモデウスはどこかへ去って行った。

あまりにひどい扱い。あとでアスモデウスにはお仕置きが必要だ。

俺はルネの様子を見た。後頭部を強く殴られたルネを。後頭部を。………後頭部?


「まさか。」


俺は記憶の中の記憶をも見れるか試して見た。結果は成功。もはや何でもありだ。そして、俺はそこでこの件の事実を知った。


「やっぱりか。」


そう、ルネは後頭部を強く打ったことで、何故か綺麗に【聖剣カラドボルグ】についてだけ忘れたようだ。器用なことをするものだ。


「アスモデウスが原因か……。」


俺はアスモデウスに何を言おうか考えながら、ルネの忘れた記憶を修復し、マスタースキルを解除した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ふぅ…。」


俺はルネの記憶を見終わり、再び、学園長室に意識を戻す。

ルネの記憶は修復はしたものの一度に終えてしまうと、脳への負荷が大きいため、少しずつ行なっている。

しかし、この状況で時間をあまり掛けたくはない。俺は言葉でルネが記憶を早く戻せるよう、誘導することにした。


「ルネ、少し良いか?」


俺は早速、作業に取り掛かる。


「な、何だい?イヅナさ……くん。」


アスモデウスのせいで機転の利くようになったルネは俺が男ということを知っても、そこまで動じた様子はない。


「お前は魔神教の連中と戦ったことはしっかりと覚えているか?」


「もちろん。ボロボロになったこともしっかりとね。」


そのことは覚えているのか…。


「じゃあ、そのボロボロの状態から勝ったルネだが、そのとき何故勝てたか覚えているか?」


「……確か、覚悟を決めた、のは覚えているよ。そして、僕は次の瞬間、光に包み込まれたんだ。」


ここまでくれば彼ももう思い出すだろう。


「そこで何かの名前を叫んでなかったか?」


「……そうだ。僕は確かにあそこで呼んだんだ。【聖剣カラドボルグ】の名を。」


ルネがそう言った瞬間だった。ルネの前に魔法陣が現れ、1つの剣が出現した。美しく輝くその剣はこの学園長室にはとても留めておくことのできない存在感を放っていた。


「【聖剣カラドボルグ】。僕を救ってくれた新しい力。しかし、何故僕はこんな大事な存在を忘れていたんだろうか?」


「それは簡単なことだ。魔神教襲撃後の訓練でどっかの教官が訓練兵の頭を殴りつけたからだ。」


俺はそう言って、アスモデウスの方を向く。俺に続き、ルネが向き、さらにそれに続き、部屋の中の者の視線が全てアスモデウスに集まった。


「どうしたんですか?皆さん。」


「いや、そう言えば自分のことを教官と呼べとか言って、ルネを鍛えていた付き人がいたなと思ってな。」


記憶を見てきた俺は確信をもって、アスモデウスを見つめる。


「そ、そんな変わり者もいるんですね。あ、イヅナ様、そう言えば私、急用を思い出しました。時間が無いので行かせてもらいますね。」


「そうか、それは大変だな。話は後でたっぷりしてやるから、その急用とやらに行くと良い。」


「イヅナ様が優しいときって、だいたい酷い間に合うんですよね。」


「何か言ったか?」


「いえ、イヅナ様の恋人は何も言ってませんよ。」


「付き人な。」


俺との会話が終わるとアスモデウスは一目散に学園長室から去っていった。


「という訳だ。ルネ、すまなかったな。」


「いや良いさ。僕もアスモデウスさんがああいう人だって知ってるからね。」


「そうだな。」


アスモデウスに出会ってしまった俺たち2人はどこか気が合いそうだ。


「それで学園長。話の続きは?」


「え?あ、ああ。そうだったね。」


話が逸れてしまい、なかなか進まない。


「それでだね、ルネくん。聖剣に選ばれた君にはこれから勇者様たちと共に魔神と戦わなければならない。」


「………。」


ルネは口を開くことなく、学園長の話を聞く。


「聖剣を手に取った君にそんなつもりはなかったのかもしれない。しかし、その剣は魔神を倒すために必ず必要となる力。そして、その力を発揮するには剣が選んだ者でないと不可能。」


「………。」


「こんなことをいきなり言われても困惑するかもしれない。だが……。」


ここでルネは学園長の言葉を切った。


「大丈夫ですよ、学園長。僕は覚悟を決めた身です。今更こんなことで困惑はしません。」


ルネに迷いはなかった。その透き通った目を見れば分かるだろう。


「……そうか。では、“ルネ・サテライト”よ。【聖剣カラドボルグ】の担い手として、勇者様たちを支えてくれ。」


「はい。ただ、学園長、1つ良いでしょうか?」


「何かな?」


「その……イヅナくんとアスモデウスさんは勇者様たちに同行するのですか?」


ルネはそう言いながらこちらを向く。


「何ですか、ルネ。もしかして1人じゃ寂しいんですか?お子様ですねえ。」


「間違ってはいないけども、その言い方はやめて欲しいな。」


ルネは眉間にしわを寄せながら言う。

しかし、すぐに真剣な顔つきに戻り、再び同じことを聞いた。


「イヅナくんたちはどうするんだい?」


「特に考えてないな。」


「そうですねえ。」


いつの間にか戻って来ているアスモデウスには何も言わない。ルネも俺と同じ反応をしている、本当に成長したものだ。

俺たちのこれからのことについて。何も考えていないと言ったが、これは本当のことだ。今までの成り行きでここまで来てしまったため、その先のことはあまり考えてはいなかった。

いや、一応フィエンド大陸に戻り、セリカやアニスに会いたいとは考えてはいたが、正直言うと大陸の行き来をして、話をすることくらい1日で出来る。


「でもイヅナ様、私たち一応やらなきゃいけないことありますよ。」


「……まあ、そうだな。だが、その件については俺たちが動いていれば向こうから勝手にやってくるだろう。」


「…それもそうですね。」


ちなみにその件とは、創造神のことだ。創造神を倒すこと。それが俺やアスモデウスの最大の目的なのだが、あいつの性格を考えれば、必死にあいつを探すよりも、俺たちが旅をし、動きを見せた方が早く対面できると俺は考える。

以上のことを考えると、特にこれからしなければならない、と言うことはない。

ルネがどうしてもと言うならついて行っても良いだろう。


「一緒に行って欲しいのか?」


「もちろんさ。僕はまだ弱い。そんな僕を鍛えてくれる教官がまだ必要じゃないかな?」


「イヅナ様、これは行くしかありません。」


ルネは上手くアスモデウスを誘導した。

目を輝かせるアスモデウス。このアスモデウスの意思を曲げることは出来ないだろう。


「まあ、別に良いが、任務の方はこれと言ってもう無いのか?」


俺はジニアに尋ねる。すると、ジニアは何かを思い出したかのような顔をし、口を開いた。


「そう言えば、親父から伝えろって言われていたことがあったな。手紙も貰ってたんだが、途中で失くしちまったからな。内容は一応覚えてるし、直接伝えるか。」


何をやっているんだこいつは。そして、そんなことがあったのなら最初に言え。


「確か、『イヅナよ、学園での任務を終えた後のことだが、引き続き勇者たちの行動について行って欲しい。おそらくジニアが行く時点で任務のことはバレるが、勇者たちと同行しても構わない。とにかくだ。勇者たちのサポートをして欲しい。』だったな。」


馬鹿だと思っていたが、それなりに記憶力はあるらしい。


「それなら決まりだな。俺たちは勇者たちと共に行動をする。つまりは、ルネとも一緒ってことだ。」


「そうかい。」


ルネは俺の言葉を聞き、ほっとしたのか、先程まで肩に入っていた力が抜けた様子だ。


「これでビシバシ訓練が出来ますね。」


ルネの目の前まで行き、笑顔を振りまくアスモデウス。


「…そ、そうだね。」


ルネは顔を赤くしながら、返事をする。照れているのが周りから見て丸わかりだ。


「それじゃあ、この件もおしまいだね。じゃあ、次は杉本くんか。」


「……はい。」


杉本は学園長の前に出る。

見た感じはいつもの杉本だ。しかし、あの件以前の彼とはやはり違う。


「杉本くん。君は立場的には被害者であり、加害者でもある。それは分かるかな?」


「はい。重々承知して…います。」


普段とは違う口調に本人は慣れないようだ。


「加害者。しかし、君は勇者だ。この先も他の勇者たちと共に旅をしてもらう。だが、だからこそ聞かせてくれ。仲間を殺した罪を。君はこれをどうやって償うつもりかな?」


「…………。」


杉本は中々に口を開けない。だが、考えがないわけでは無い。あのとき、俺が言った言葉をどう受け止めたかは分からないが、何かを決心したのは分かっている。


「黙っていても何も始まらないぞ。」


俺は杉本の背中を後押しするつもりで言う。自分を虐めていたやつを後押しするとは、自分のお人好しなところは度が過ぎているのかもしれない。

杉本は俺の言葉を背に受け、ついに重い口を開いた。


「俺は、罪を償えるなんて思って無え、無いです。」


「じゃあ、君は一体…。」


少し前のめりにながら杉本は応える。


「けど、俺はその罪を背負って生きていきます。俺は聞いたんです、山田が何を願いながら死んだのか。あいつは死ぬまで俺のことを心配してくれてたんです。家族のことでもなく、俺のことを…。」


「そうかい。いい友だったんだね。」


「はい。」


杉本の目には涙が溜まっているのが分かる。杉本が涙を流すほどの友。それだけ絆も深かったのだろう。


「それで俺はあいつを殺したことの罪を最初は償おう、人のために行動をしよう、と考えました。けど、イヅナに言われたんです。『それはただの自己満足だ』と。確かにそうです。しかし、それをやるしか無いとも言われました。そして、それが山田のためになると。」


「どう言う意味かな?」


「山田は俺に戻って欲しかったんです、いつもの俺に。そして俺はいつも通り、とは行きませんが、正気を取り戻しました。だから、これからは人のために生きていきます。そして、イヅナに言われた通り、『幸せ』になるつもりです。


「幸せに?」


「はい、それが罪を背負い、山田のことを忘れず、かつ、山田のためになることだと、考えました。」


「なるほど。君のことを死ぬ寸前まで思っていた友のために自分が幸せになると。それだけ聞けば、それで良いのかと思うかもしれないけど、君と山田くんのことを聞いた僕はそれでも良いんじゃ無いかと思う。」


「…………。」


学園長は杉本の肩に手を置き、期待を込めて口を開く。


「杉本くん。勇者としてこれからもよろしく頼むよ!」


「はい!」


「とゆうことだけど、良いかな?中島さん。」


「…はい、彼が悩んで、悩んで決めたことです。それで、いえ、それが良いです。」


一応、勇者たちの意思の最終決定権は中島先生にある。学園長はおそらく、そんな中島先生を見て、元の世界での彼女の立場に気づいているのだろう。


「うん。それでは今日はこれで解散!旅立ちの日まではそれぞれで準備を進めてくれ!」


「なあ、学園長。」


「何かな?イヅナくん。」


何故かこちらを向いた学園長の目に熱を感じた。気のせいであってほしい。


「ちなみに旅立ちの日と目的地はどこなんだ?」


「そうか、君たちは知らなかったね。日時は今日から1週間後、目的地はサモン大陸の“グラム王国”、そこでダンジョンに行くはずだ。」


「そうか、分かった。それじゃあ、俺たちは行かせてもらうな。」


聞きたいことも聞けた俺はアスモデウス、それにルネと共に学園長室を後にする。

この学園を離れるとなると少し寂しい。しかし、新たな大陸へ行くと言うこともあり、楽しみにしている自分もいる。複雑な気分だ。

学園の知り合いには別れの挨拶をしておいた方が良いな。ミカエルともこれで少し離れることになるが、彼女の心を取り戻し、友にもなることができた。強い彼女だ、問題はないだろう。


「イヅナ様、また冒険ですね!学園は勉強ばかりで、うんざりでしたからね。あ、でも、学食は1週間に7回くらいなら食べに来ても良いですね!」


「アスモデウス、お前毎日来るつもりか?」


「それもありですね。」


こいつは食い物に関しては無駄に頑張るところがある。本当にやりそうだ。


「イヅナくん、アスモデウスさん。」


突然、ルネが話しかけて来た。


「何ですか?ルネ。」


「これから先、辛く厳しいものになると思う。だからこそ、お互い手を取り合って頑張ろうじゃないか!」


そう言って、ルネは手を出し、握手を求める。


「ルネは真面目ですね。そんなこと言うなんて。ぷぷぷ…。」


アスモデウスはルネを小馬鹿にしたような態度だ。


「じゃあ、イヅナくんだけで良いかな。よろしくお願いするよ、イヅナくん。」


「ああ、よろしく頼むよ。」


「ルネ!何私のイヅナ様と勝手に手を繋いでるんですか!!!」


アスモデウスは俺とルネの間に割って入る。そして、繋いでいた手を引き離した。


「君が嫌がったからじゃないか。」


「問答無用です!食らいなさいルネ!」


アスモデウスはバスケットボールほどの大きさの火球を作り、ルネに向かい放った。


「な、何をするんだい!?」


「死ぬまで食らいなさい!」


必死に逃げるルネ。火の玉を投げまくるアスモデウス。きっとこれからの冒険ではこれが日常となって来るのだろう。


「た、助けてくれないか!イヅナくん!」


「頑張れ。」


俺は無邪気に走り回る2人を見ながら、これからの冒険への期待で胸を膨らませる。


「ごはっ!?」


「よし!命中しました!」


煙を上げながら倒れるルネを見て、これから先果たして大丈夫なのかと、心配する俺だった。






















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