気がついたら呼び出されてました
ミカエルの件があってから3日ほど経った日のことだった。俺とアスモデウスは担任のネイティー先生から、放課後に学園長室まで来るように言われた。
恐らく、この間の件について詳しく聞きたいのだろう。上手く逃げたつもりだったが流石に学園の中で起きたことだ、ばれたのだろう。
そんなこんなで現在、俺はアスモデウスと共に学園長室に向かっているところだ。
「イヅナ様。」
「何ですか?」
突然、アスモデウスが俺に声をかけてきた。珍しく静かにしていたのだが、流石に限界だったのだろうか。
「私、重大なことに気づいたんです。今後の私を大きく変えていく重大なことに。」
真剣な表情をしてアスモデウスは言う。俺はここまで引き締まった顔をしたアスモデウスを見たのは初めてかもしれない。
「どうしたんですか?」
俺もまた、気を引き締め、その内容を聞く。
「そ、それは……。」
「大丈夫です。私も力になります。」
「イヅナ様。」
アスモデウスは苦しそうな表情をしながらもその硬く閉じた口をゆっくりと開く。
「では、心して聞いてくださいね。」
「わかりました。」
俺は固唾を飲み、アスモデウスの方へ耳を傾ける。
「実は……。」
「実は?」
「私、ニエーゼにケーキを奢って貰って無いんですよ!」
「………はい?」
俺は全く予想できなかったその言葉に思わず固まってしまった。
「約束をしたのにまだケーキを奢って貰って無いんです!もう結構日たちますよ?昨日だって、その気持ちさえあればケーキを奢るくらいできたはずです!」
「あ、あの、アスモデウスさん?」
俺はアスモデウスの話を止めようとするが、熱の入ってしまったアスモデウスはなかなか止まらない。
「ケーキですよ!ケーキ!私がどれだけあの約束を楽しみにしていたか!」
「で、でも、この間の騒動も有りましたし。」
「そんなこと知りません!」
うちの付き人に言い訳なんて通用しない。
「これはもう私の友人関係を変える重大なことです!そうですよね?イヅナ様!」
「どうでも良いです。」
早く話が終わって欲しかった俺は、雑な返答をしたが、これが駄目だった。
「どうでも良いとは何ですか!」
その後もアスモデウスの話は続き、途中、ルネと出会うまで俺はアスモデウスの話に付き合うこととなった。
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「それでですよ!ニエーゼは何て言ったと思いますか?」
「僕が知るわけないじゃ無いか。」
学園長室の前まで来てもまだ話を続けているアスモデウス。食べ物の恨みは恐ろしいものだ。
途中、ルネと合流したが俺たちと同じ要件で学園長室に向かっていたらしい。
そして、俺はそんなルネをアスモデウスの話し相手にすることに成功した。その結果が今の状況である。
「2人とも学園長室に着きましたよ。」
長々と話してきた2人に俺は言った。
「もう着いたんですか?この学園って意外と狭いんですね。」
「いや、アスモデウスさんの話が長すぎたせいでそう感じたんじゃ無いかな?」
全くその通りだルネよ。
「まあ、着いたなら良いじゃ無いですか。」
「それはそうですけど。」
「では、2人とも入りますよ。」
俺はゆっくりと学園長室の扉を開けた。すると、そこには豪華な顔ぶれが並んでいた。
学園長のニック。
グラム王国第一王女の“リリアナ・ベル・グラム”。
エルダー国女王の“エルティナ・ナタ・デュラル”。
そして、最後に…。
「やあ、イヅナ殿。」
「…………。」
虫……ではなく、エスカ王国第一王子“ジニア・エル・エスカ”。
とまあ、このように“闘魔祭”に出席していた各国の重要人物たちが集まっているわけだ。そして、話が襲撃の内容となれば、他にも参加する者たちがいる。
「失礼します。」
そう、勇者達だ。しかし、今回は代表として、颯太、歩、杉本、そして、中島先生が出席のようだ。
「うん。これで全員揃ったわけだけど…みんな何で呼ばれたかは分かるかな?」
「魔神教の襲撃のことですね?」
颯太が応える。
「流石に分かるか。そう、ここにいる者達は魔神教を制圧した優秀な者たちだ。褒めてあげたいところだが、勇者はともかく、生徒である君たちのか行動は褒められたものじゃないな。」
学園長はそう言って、俺たちの方を見た。まあ、それはそうか。一般生徒に過ぎない俺たちが行動を起こすのは良くないだろう。しかし……。
「では、先生。私たちよりも弱い先生方が戦った方が良かったと思っているんですか?」
「イヅナさん、何を言ってるんだい!?」
俺の発言にルネは驚いた様子だ。まあ、これが普通の反応だろう。ただの学生である俺たちが教師よりも強いとは思わない。
「何言ってるってどう言うことですか、ルネ?」
アスモデウスは不思議そうにルネに聞く。
「だって、そうじゃないか。先生たちが僕たちよりも弱いわけが……。」
「弱いですよ。」
「…………。」
はっきりと言うアスモデウスにルネは何も言えなくなった。
「と言うわけです。しかし、今回のことは一般生徒である私たちが動くのは良くありませんでしたね。すみませんでした。」
俺は学園長に向かい、頭を下げた。すると、それを見た学園長は。
「ハッハッハッハ。」
突然、笑い出した。
「いや、すまない。まさかその展開から謝るとは思っていなかった。」
「そうですか?」
「ああ、そうさ。まあ、良いさ。実を言うと勇者たちから詳しいことは聞いている。君たちがいなかったら危なかったらしいね。流石、エスカ王国から送られてきた実力者だ。」
学園長はもう既に俺の情報を仕入れているようだ。
「……その言葉から察するに既にご存知のようですね。」
「ああ。勇者の監視役何だろ?」
「はい。」
「監視?どう言うのことですか?」
俺と学園長の話に、颯太が割って入ってきた。
「そのままの意味です。勇者様たちがこの学園でトラブルを起こさないよう、監視をしていたんです。ちなみに学園調査員と言うのは嘘です。」
颯太はやはりと言う顔をした。薄々気づいていたのだろうか。
「まあ、前々から怪しいとは思ってたよ。歩が言うには俺達の訓練を見て、アドバイスをするにはステータスが低過ぎると…。だから、僕たちからステータスを隠せる程の実力を持っているイヅナさんは、更に何か隠しているだろうと確信していた。」
「ばれてた訳ですね。」
任務はほぼ失敗していたようだ。やはり、慣れないことはするものでは無い。
「学園長。ちなみに私のことはジニア様から聞いたんですか?」
「一応、ジニア様からも聞いたよ。」
と言うことは本当に全て知っているのだろう。
「なら、もうこんな話し方しなくても良いよな。」
俺はジニアから話を聞いたなら既に俺の性別のことも知っているのだと思い、口調を男口調へと戻した。どうせ、各国の主要人物たちにもばれているのだろう。
が、これが失敗だった。どこか俺は詰めが甘いらしい。
「え?」
学園長は突然変わった俺の口調に戸惑いが隠せない様子だった。
「いや、ジニアから聞いたんだろ?俺のこと。勇者の監視役を任せられた冒険者で男だってこと。」
「「「え?」」」
その部屋にいたアスモデウス以外のものが学園長と同じ表情をしていた。
俺はジニアの方を見た。するとジニアは。
「すまない。でも、仕方がないんだ。俺は夢を覚まさせてやりたくなかったんだ。」
「…………。」
こいつ…。
「イ、イヅナさんが…男?」
ルネは放心状態だ。アスモデウスが叩いても反応する気配がない。
「まあ、そう言うことだ。黙ってて悪かった、学園長。」
俺は学園長に謝罪した。しかし、学園長は顔を伏せたままあげない。そんなにショックだったのだろうか?
「おい、大丈夫か。」
俺は少し前のめりになり、学園長を心配したが。
「……イヅナさんは男……でも可愛い……これはありなのか?」
「………。」
この言葉を聞き、即座にその考えを変えた。
「その見た目で男なのね、あんた。」
「ん?あんたは確か…。」
俺は声のした方を向く。そこにはスレンダーな体型をした金髪の女性の姿があった。目つきは鋭く、まるで俺自身が見通されている感覚を覚えた。
「私は“エルティナ・ナタ・デュラル”。エルダー国現女王よ。」
俺は彼女から何故か他の王族から感じるオーラというものを感じなかった。別のものを感じた。そう、いつも近くにいるような、そんなオーラを感じた。
「何よ、その目は。まさか、私が本物の女王じゃないとおもってるわけ?」
「当たらずも遠からずだな。よく分かったな。」
王族には感じられない。
「よく言われるのよ。と言うかあんた、一国の王女にその口の聞き方は無いんじゃないの?」
「いや、何故かお前に敬語を使おうとは思えないんだ。悪いな。」
俺の言葉に彼女は明らかに嫌そうな雰囲気を出しているが、そんな俺たちに学園長が割って入った。
「イヅナさん、ではなくてイヅナくん、一応相手は王族なのだから敬語は使いなさい。」
「おいニック。一応とは何だ、一応とは?私を馬鹿にしてるのか?」
「いえ、そんなつもりは。」
俺はこのやり取りを見て、確信した。
“エルティナ・ナタ・デュラル”。彼女から感じたオーラの正体を。そう、あいつに似ていたんだ。
「何ですか?イヅナ様。まさか、こんなところで私に惚れ直しましたか?」
そう、この付き人に似ているんだ。だから、俺は敬語を使いたくなかったんだろう。
「まあ、ともかく、話の続きをしよう。」
学園長が話題を強引に切り替えた。
「いきなりで悪いが、単刀直入に聞こう。ルネくん、君は選ばれたのかい?【聖剣カラドボルグ】に。」
その言葉に各国の人物はニックに視線を集めた。
「ニック、それは本当のことなの?」
エルティナは学園長に当たりそうな距離まで詰める。
「今確認しているところですよ。さあ、ルネくん。どうなんだ?」
自然と部屋の中の視線が全てルネに集まっていった。
「え、えーっと。」
ルネは全員からの視線を向けられ、緊張している様子だ。額を汗が流れているのがわかる。
「大丈夫、何も選ばれたからといって君にひどいことをするわけではない。」
「いや、その…。」
「何かな?」
ニックは優しく聞く。
「“カラドボルグ”って何でしたっけ?」
「「「…………え?」」」
緊迫した部屋から、気が抜けた瞬間であった。