表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
61/164

気がついたら“心”でした

久しぶりの投稿になってしまいました。

部屋から出た俺は校舎中を走り回った。

寮、教室、図書館…。ミカエルを見かけたことのある場所を探すがその姿はない。


「はあ…はあ…はあ…。」


俺のステータスでは、この程度走ったくらいで息が上がることはない。しかし、このときは違った。疲れていたわけではない。だが、息は上がった。心に余裕がなく、何かを外に吐き出したかったのかもしれない。


「はあ…はあ…。」


俺は校舎をあらかた探したが、結局ミカエルを見つけることは出来ていない。

俺は壁に寄りかかり、息を落ち着かせる。そして、俺はミカエルの居そうな場所を考えた。


(ミカエルが居そうな場所……ニエーゼ達のところ…いや、無いな。あんな表情をする状態で人と会おうとは思わないはずだ…。)


このときの俺はやはり焦っていた。走り回らなくとも、マスタースキルを使えばミカエルの位置くらいすぐに特定できた。しかし、俺はそんなことすら思いつかないほど焦っていたのだ。


(人と会いたく無い…なら、ミカエルが行く場所は…。)


俺は再び走り出した。ミカエルがいるであろうその場所を目指して…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーミカエルSIDEーーー



雨の降り注ぐ中、ミカエルはいた。噴水に寄りかかりながら、腰を下ろし、体を丸めている。


「…………。」


ミカエルは考えていた。なぜ私はこんなところにいるのだろうか。なぜ雨に打たれているのだろうか。


「…………。」


しかし、ミカエルはその考えの答えを知っていた。ただ、思い出したくが無いためにその答えを奥底に隠し、考え続けているのだ。

そうしているとミカエルは楽だった。胸が痛くなることもなく、苦しくなることはなかったのだ。


「…………。」


ただの時間稼ぎ。ミカエル自身この行動のことをそう思っていた。そして、それは的を得ていることに気付いていた。

ブラフマーからの命令を達成することも出来ず、友人とも話すことが出来ず、ただ逃げ回っているだけだ。


「………っ。」


そんなことを考えていると再び、胸に痛みが走った。


「何で……何で。」


ミカエルは小さく丸めていた体をさらに小さくした。その姿は雨に冷え、凍えている小動物だった。とてもか弱かった。

か弱くて、か弱くて、か弱かった。


「誰か……誰でも……いい。」


ミカエルの頰には雨と共に小さな雫が伝っていた。


「誰か……私を……助けて。」


ミカエルはそう呟き、目を閉じようとした。しかし、その閉じかけた瞳は次の瞬間には大きく見開いていた。


「ミカ…。」


「!?……。」


ミカエルが最も出会いたくなかった者がそこにいた。


「イヅナ……。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーイヅナSIDEーーー



初めてミカエルと出会った噴水、そこに彼女はいた。


「ミカ…。」


「イヅナ……。」



昨日から少し会っていないだけだった。しかし、こうしてミカエルと面と面を向かって話していることが、久しぶりでは無いが、久しぶりに感じた。

その久しぶりに感じたミカエルだが、その表情はとても良いものとは言えなかった。

恐怖。一言で表すと今の彼女の表情はこれだった。俺を見た彼女の体は震え、まるで怯えているのかのようだった。


「ミカ、こんなところにいては風邪を引きますよ?」


「…………。」


「さあ、私と一緒に戻りましょう?」


俺はそう言いながら、ミカエルの手を取ろうとした。しかし…。


「ひっ……。」


ミカエルは俺の手を避けた。


「ミカ、どうしたんですか?昨日から変ですよ。」


「…………。」


ミカエルは口を開かない。顔を伏せ、体を丸めたままだ。

俺はミカエルの前にしゃがみ込む。そして、囁くように優しく声を掛ける。


「ミカ…。私はあなたに心が有ると思うんです。」


「え?……。」


ミカはゆっくりと顔を上げる。


「だって、そうじゃ無いですか。何があったのかは私にはわかりませんけど、あなたが今苦しんでるのはわかります。それも理由は私。あなたは私のことで悩んで、苦しんで、そして…。」


俺はミカエルの手を取る。


「泣いてるじゃないですか。」


「!……。」


ミカエルは驚いた様子で頰に触れた。雨で濡れている頰では涙が流れているのかはわからない。

しかし、俺にはわかる。赤く充血した目からゆっくりと雨とは明らかに違うものが流れていることが。


「心がないものに涙なんか流せません。」


俺はミカエルの肩に手を添える。


「……だから……何だと……言うんですか。」


「え?」


ミカエルは立ち上がり、俺を見下ろす形になった。


「……だから……だから……何だと……言うんですか。……心が……あるから……私は苦しんで。」


ミカエルは声を震わせながら言う。


「……こんなものが……あるから……私は……あなたを思って……胸が……裂けそうになって。……こんなことになるなら……なるなら……心なんていらない!」


大粒の涙を流しながら、声をあげたミカエル。俺は初めて見た。彼女がここまで感情を出している様子を。


「……悲しい……痛い……苦しい……イヅナ……私を助けて。」


「……ミカ。」


ミカの悲痛な叫び。心がいらない。そこまで思うほどの痛みが彼女を襲っているのだろう。それを彼女は知った。逆に言えばそれしか今は知らないのかもしれない。

心を持つことがもたらすものそれが痛みであると彼女は思っているのかもしれない。


「ミカ、なぜあなたの胸が痛くなったのですか?」


「……それは……私が……イヅナを……。」


それから彼女は黙ってしまった。


「ミカ、言葉にしなければ何も始まりません。」


「……でも。」


「いいんです。私に出来ることなら何でもしますから。言ってみて下さい。」


「……でも……それをしたら……イヅナは。」


「私はね、ミカ。あなたに暖かくなってほしい。こんな雨の中泣いて、苦しんでいて欲しくない。」


「…………。」


「ミカ、あなたは私やニエーゼ達と一緒に過ごしていてどう感じましたか?」


「……暖かった……温もりを……感じた……そして……今ならわかる……私……楽しんでた。」


ミカエルの顔が少しだけほころんだ。


「それは心があったから感じられたことです。ミカ、これでも心がいらないなんて言えますか?」


「…………。」


俺は片方の手でミカの手を取る。そして、もう1つの手でミカの頭を撫でる。俺はミカを落ち着かせたかった。そして、少しでも冷静な判断をして欲しかった。

ミカエルは体を震わせながら泣き始めた。


「……言え……ません。」


「なら、次にやることは決まりですね。今、ミカを苦しめている原因を消しましょう。」


「!……それは……。」


「?」


助けてほしいと言うミカ。しかし、その原因を聞こうとすると彼女はそれを隠そうとする。


(俺に伝えたくない原因か。)


俺はなぜかそのときにブラフマーが思い浮かんだ。しかし、俺はこれが今回の原因だと感じた。と言うよりも、それ以外に彼女がここまで悩み、隠す理由を思いつかない。


「!……。」


「?」


突然、ミカエルが驚いた顔をした。そして、暫く俺を見つめ、そして…。


「イヅナ……。」


抱きついてきた。


「ミ、ミカ!?」


俺は突然のことに驚いてしまった。


「よかった……よかった。」


「…………。」


俺の胸の中でなくミカ。その顔は涙でグシャグシャになっていた。酷い顔だ。しかし、先ほどの苦しんでいた顔よりは断然いい。


「よくわかりませんが、どうにかなったみたいですね。」


俺は泣きつくミカエルを抱き締めながら、彼女が泣き止むのを待った。彼女が苦しみから解き放たれたその姿を見た俺は、自分の心が楽になったのも感じた。やはり、彼女を心配していたのだ。アスモデウスの言う通り、行動を起こしてよかったと心から思った。

1人の少女の心。それが今日、確実に芽生え、花咲かせたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーミカエルSIDEーーー



「今、ミカを苦しめている原因を消しましょう。」


「……!……それは。」


ミカエルは何も言えなかった。イヅナの言葉は嬉しかった。だからこそ、イヅナが言ったことを実行することはミカエルには出来なかった。

そんなことをすれば、2度と心に温もりを感じられなくなる、そう確信していた。


(……私は……どうすれば。)


そのときだった。ミカエルに連絡が届いた。


〈ミカエル、聞こえる〜?〉


〈ブラフマー様。〉




〈このあいだの件なんだけどさ、やっぱりなしね。〉


〈え?〉


〈だから、イヅナとか言うやつ?殺さなくて良いや、そゆことでじゃね〜。〉


その一方的な連絡はそのまま切られた。その瞬間、ミカエルは感じた。自分を傷つけていたものが薄れていくのがわかった。そして、それと同時に目から何かが溢れ出てくるのがわかった。


(……イヅナ……イヅナ。)


先ほどまで、見たくもなかったイヅナに今は近づきたかった。


「イヅナ……。」


ミカエルは抱きついた。そして、声を出し、泣いた。

涙とともに自分に溜まっていたものが抜けていっている気がした。

目から溢れ出る涙。近くに感じる友人の温もり。それはとても、嬉しく、暖かく、そして、心地よかった。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ