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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
59/164

気がついたら幕を閉じてました

 

ーーールネSIDEーーー


 

 光が収まり、辺りの様子が見えてきた。驚いた表情をする勇者様達にユーメル。まるでこうなることが分かっていたように笑みを浮かべるイヅナさん。そして、僕の手元で薄っすらと光を纏う剣、【聖剣カラドボルグ】。

 僕はカラドボルグを構える。重さは殆んど感じず、体に馴染むようだ。

 

「な、何ですかあ?その剣は?」


 ユーメルは少し怯えている様子だ。それも仕方がない。【聖剣カラドボルグ】。この世界最高峰の剣だ。その存在感は強く濃い。

 そんな剣を向けられたユーメルが怯えるのも無理もない話だ。


「【聖剣カラドボルグ】。さっきもそう言っただろう?」

 

「ハッタリを…。それに、そんな代物があなたに使えるわけがねえ!」


 ユーメルは短剣を両手に握り、僕を切りつけてきた。僕はカラドボルグで短剣を受け止める。先ほどとは違いユーメルの動きが何となくではあるが、目で追えていた。しかし……。


(追いつけない。)


 目では追えていても体がついていけなかった。


「ギャハハハ!やはりやはりやはりぃ!!!あなたにそれは扱えなあい!遅すぎるんですよお!ほらほらほら!悔しかったらカラドボルグの力でも使ってみなさい。」


「くっ…。」


 カラドボルグの力。実を言うと僕はその力を使っていた。

【聖剣カラドボルグ】。この剣の力、それはすなわち『犠牲』である。カラドボルグを手に取ったとき、頭にそのイメージが流れ込んできた。

 自らを犠牲にすることによって、力を発揮する。つまりは代償を払うのだ。

 僕は先ほどから自分の魔力を代償に、ステータス値を上げている。しかし、それでも届かない。それほどの実力がユーメルにはあるのだ。


(このままだと魔力が…。)


 不利な戦況に悩んでいたそのときだった。


 〈力が必要ですか?〉


  (イヅナさん!?)


 僕の頭にイヅナさんの声が響いた。


 〈あなたは【聖剣カラドボルグ】まで手に入れ、その剣の能力もまだ未熟ではありますが使えています。しかし、相手には『神の寵愛』のスキルがあります。それにより強力な力を得ています。はっきり言ってこのままではまだ勝てません。〉


(分かっているさ。でも、どうすれば。)


 〈ルネさん。あなたも『神の寵愛』のスキルを手に入れれば良いんですよ。〉


(何だって?)


 僕には今、イヅナさんがとんでもないことを言ったような気がした。

 

(そんなこと出来るわけ…。)


 〈出来ます。しかし、今後のあなたの人生が大きく変わります。【聖剣カラドボルグ】を手に入れた時点ですでに変わってはいますが、さらに複雑なものになってしまいます。〉


(…………。)


 イヅナさんの言葉は嘘ではない。何の根拠もないが僕はそう感じた。


 〈それでもあなたが良い、とおっしゃるなら……私はあなたに力を与えましょう。〉


(では、お願いするよ。)


 自分のこれからを大きく左右することだったのは間違いない。しかし、そんなこと僕にとっては今更だった。僕はすでに決めていた。


 〈ずいぶん簡単に決めるんですね。……後戻りは出来ませんよ?〉


(良いさ。もうすでに覚悟は決めたんだ。あの人を守るためなら……力だって何だって手に入れてやるってね。)


 〈そうですか。では…。〉


 イヅナさんの言葉が切れると同時に力が溢れてきた。


 《ギフトスキル『邪神の剣』『邪神の寵愛』を入手しました。なお、この宣告は邪神イヅナの名のもとに隠蔽されました。》


 何かおかしなことを言っていた気がするが気のせいだろう。気のせいであってほしい。

 それよりも僕は久しぶりにこの声を聞いた。確か“神のお告げ”だった。スキルを入手したり、レベルが上がったりするとどこからともなく頭の中に響いてくる。この正体が何なのかは僕にもわからない。

 そういえば、『風操者』などのスキルを入手したときやいつの間にかレベルが上がっていたとき、この声は聞こえなった。何故だろうか。


「な〜に突っ立ってるんですかあ?」


 ユーメルは体を揺らしながらこちらに向かって歩いて来ている。その姿を見て僕は思った。


(隙だらけだ。)


 あれほど探しても見つけることの出来なかった隙が今になっては次々と見つかる。僕は思わず笑ってしまった。

 

「何笑ってるんですかあ?」


「いや、すまない。ついね。それよりも僕は君に感謝するよ。ユーメル・フォシアヌス。」


「ああ?」

 

 上から目線の態度が気に入らなかったのか、ユーメルは僕を睨んできた。しかし、僕は動じず、話を続ける。


「君が来たおかげで僕は強くなれた。そして、僕自身が何をしたいのか。それも理解することが出来た。まあ、“闘魔祭”が潰されてしまったのは少し癪だけど……僕は君に感謝するよ。ユーメル。ありがとう。そして、これで終わりだ。」


「調子にの……。」


 再び見せた隙を僕は見逃さない。剣を握る手に力が入る。


「【聖剣カラドボルグ】よ。僕の魔力を吸い尽くせ。」


 僕のその言葉と共に全魔力がカラドボルグに吸われた。すると、カラドボルグは再び強い光を放つ。風を纏い、その様子はまるで嵐を一点に集めたようだ。

 

「はあああ!!!」


 荒れ狂う暴風がユーメルに向かい放たれた。ユーメルは目を見開き、静かになったかと思ったが…。


「あ、あははは。」


 突然、笑い始めた。


「あははは。グホッ!?」


 ユーメルは風に呑まれていった。


「……魔神様……バン…ザイ……。」


 その言葉を最後にユーメルは気絶した。


「勝った……。」


 魔力を全て消費した僕は足に力が入らなくなった。徐々に体が傾いていくのがわかる。


(このまま地面にぶつかったら痛そうだね。)


 そう思いながら僕は目を閉じる。


 むにゅ。


(あれ?思ったよりも柔らか……。)


 目を開くとそこには2つの大きな丘があった。


「まあ、頑張った方ですね。教官直々に褒めてあげましょう。」


「ア、アスモデウスさん!?」


 僕は慌てて、アスモデウスさんから離れようとして、また倒れそうになるが、今度もアスモデウスさんが支えてくれた。


「魔力がもう無いんですから無理しないでください。全く、もうちょっとスマートに勝てなかったんですか?だらしない。」


「それは酷いんじゃないかな?僕も一応、頑張ったんだよ。」


「結果が全てです。」


「なら、倒したんだから良いんじゃないかな?」


「……まあ、細かいことは気にしたら駄目ですよ。」


  「…………。」


 やはり、アスモデウスさんは残念美人何だと僕は思ってしまう。

 しかし、そんなアスモデウスさんだけど、話していると心が自然と安らぐ。幸せを感じる。


「あ、そういえばルネ。私のことを守るとかってませんでしたか?」


「そ、それは……。」


「まあ、私を守るように成りたいならまだまだ訓練が必要ですよね?」

 

「…………そうなのかい?」


「はい!。」


 満面の笑みを浮かべるアスモデウスさん。僕は自分の額を汗が垂れていくのがわかった。


「さあ、早速今から始めましょう!」


「流石に休ませてくれないかな?それにさっきアスモデウスさんだって無理はするなって。」


「問答無用です。」


 僕はそのままアスモデウスさんに手を握られ、いつもの広場まで連れていかれた。

 休みたい、と心の底から思う僕だったが、それと同じくらいに、このままでいたい、そう思う僕もいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーイヅナSIDEーーー



「行ってしまいましたね。」


 俺はアスモデウスとルネの後ろ姿を見ながら呟いた。2人の仲の良い様子をみると、戦いのすぐ後と言うのに、心が和やかになる。

 俺はアスモデウスたちに背を向け、ユーメルのもとまで歩いた。

 近づいて気づいたが、ユーメルは気絶していると言うのに顔が笑っていた。まだ、何か隠し球でもあるのかと思い、あたりを警戒したが、特にそれらしいものはない。

 しかし……。


「やはりばれてしまったでしょうか。」


 ばれた、とは俺の存在のことである。ユーメル・フォシアヌス、こいつには間違いなく創造神“ブラフマー”が関与している。『創造神の寵愛』のスキルまで付けるほどだ。ユーメルが見たものくらいはブラフマーも把握しているだろう。

 後のことを考えずに、ユーメルたちと戦ってしまったが、失敗だったかもしれない。

 

「……とりあえずは様子見ですね。」


 遊び心があるブラフマーだ。俺の存在に気づいたからと言って、すぐには行動に出ないだろう。

 しかし、少しは急いだ方が良さそうだ。時間を与えればブラフマーは俺のことを詳しく知ることになる。知られれば知られるほど俺は不利になる。あまりうかうかしてはいられない。

 そんなことを考え、俺はその場を後にしようとするが俺は後ろからかけられた声により、足を止めた。


「イヅナさん!」


「はい?」


 そこにいたのは颯太だった。


「君たちは一体、何者なんだ?」


 颯太の瞳の中には少しの恐怖が見えた。

 颯太たち勇者はこの世界では強い方に部類される。そのことは彼らもよく知っているだろう。そして、訓練をしていく中で、彼らにもそれなりの自信が付いてきていたはずだ。今日も、魔神教の連中に勝てると思っていただろう。

 しかし、俺たちが戦いに介入してからその考えは変わった。ルネとユーメルの戦いを見て、気づいたはずだ。自分たちでは相手にならないと。そんな存在である俺たちを見る目は自然とそうなってしまったのだろう。

 俺はそんな颯太の瞳を見ながら応えた。


「いずれわかりますよ。」


「……それは一体…。」


「君たち大丈夫か!」


 颯太の声は到着したニック先生の声により遮られた。

 ニック先生に、何があったのか、など聞かれたが、俺たちの疲労を考慮し、その日はすぐに寮に帰るように言われた。

 ただ、杉本だけはニック先生に連れていかれた。精神的な面でまだ心配なところがまだある。ここはニック先生に任せるのが良いだろう。

 こうして、学園を騒がせた事件は幕を閉じたのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

ーーー神界ーーー


 

「つまんないの〜。もう少しくらい僕を楽しませてくれないかな〜〜。」


 創造神“ブラフマー”は下界を見ながらそんなことを呟いていた。

 わざわざ自分が勇者を1人引き入れ、魔神教徒と共に勇者を襲わせたのにも関わらず、その騒動はすぐに解決してしまったのだ。


「杉本もユーメルも強くなってたはずなのに……ん?そういえば何で杉本の催眠解けたんだ?」


 創造神“ブラフマー”はここで違和感に気づいた。自分が施した催眠を、いとも容易く解除する。それはつまり、それだけの力を有していることを意味する。


「………弱めに催眠をしたとはいえ、それを解除する存在……。うん!邪魔だなあ。消すか。」


 創造神“ブラフマー”は邪魔者を消すために学園にいる自分の配下へと連絡をした。


 〈ミカエル、聞こえる?〉


 〈……はい……何で……しょうか?〉


 ミカエルはいつも通り、ブラフマーの呼びかけに応えた。


 〈さっき、そこで魔神教のやつらと戦ったやついたでしょ?〉


 〈……はい。〉


 〈そのとき、魔神教側の勇者の催眠解いたの誰?〉


 〈……イヅナ……というもの……です。〉


 〈じゃあ、そいつ殺して。〉


 〈……。〉

 

 〈ん?おい、ミカエル?〉


 〈……何でしょうか……。〉


 〈全く、しっかりしてくれよ。まあ、一応伝えたからね、後はよろしく。〉


 ブラフマーはミカエルとの念話を終え、その場に寝転んだ。

 

「これで僕の邪魔をするものはいなくなる。今度は何しようかな〜。」


 そんなことを呟くブラフマーの後ろに近づく影があった。

 ブラフマーはその気配に気づき、自分の背後を取った存在を警戒する。


「誰?僕の後ろにいるのは。」


 ブラフマーは声をかけながら振り向く。


  「ん?何だ。君か。急にあんなことするからびっくりしてたところだよ。」


 ブラフマーはその存在が何者か気づくと警戒をとき、話し始めた。


「まあ、正直計画に支障はなかったからどうでも良かったんだけどね〜〜。」


「ーーーーーーーーー。」


「あははは。ごめんごめん。それで、わざわざここまで来たってことは何か言いたいことがあるんじゃないの?」


「ーーーーーーーーー。」


「え?そうなの?じゃあ、ミカエルを止めなきゃいけないじゃん。めんどくさ〜。僕もう疲れたから、一眠りしてからにするよ。」


「ーーーーーーーーー。」


「大丈夫。そのときは別のやつを使えば良いから。というわけで、おや……す…み…。」


 ブラフマーはその存在のことなど気にせず、眠りについた。しかし、その存在もブラフマーがこういった性格だと重々承知している。

 計画とブラフマーが言っていたが、正直、そんな大層なものではない。これも1つの暇つぶしに過ぎないのだ。


「ーーーーーーーー。」

 

 その存在は一言、ブラフマーに告げると神界を後にした。

 イヅナたちの知らぬ場所、存在。

 世界は終末へと加速を始めていた。

 




 


 


 




 


 


 

 

祝ブックマーク数400突破!!!

これも読者の皆さんのおかげです。本当にありがとうござい。

どうぞこれからも『気がついたら魔神でした』をよろしくお願いします。

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