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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
57/164

気がついたらあと少しでした

お久しぶりです、すみません。

 

「…………。」


 俺は目の前で膝を地につき、泣いている杉本を見つめていた。もしも、この世界に来る前に、彼に同じことを言ったとしてもここまでのことにはならなかったと俺は思う。

 創造神に催眠をかけられ、その強力な力に呑まれてしまった杉本。その呑み込まれていた時間は彼にとってかけがえの無いものになっていたはずだ。

 創造神にかけられた催眠は精神を縛るもの。今まで自分が経験した苦痛や嘆き、それを縛ることにより彼は恨みや嫉妬の感情が表に出た状態での催眠状態に陥ったのだ。

 しかし、だからこそ彼は自分の感情を、心を、近く近く感じることが出来たはずなのだ。

 だからこそ、俺の言葉が届いた。まあ、『アブホース』を使い、徐々に催眠を解いていっただけでもあるのだが、それでも言葉が届き、彼自身が理解したことで催眠は解けたのだ。

 そして、それがあったからこそ今の、目の前で泣く杉本があるのだろう。


  「……俺は……俺は……。」


 催眠が解け、冷静になり始めた杉本。しかし、それは残酷な現実を知ることでもある。

 仲間である勇者たちと戦ったことに罪悪感を覚えるかもしれない。だが、それよりも彼の心を苦しめるのは……。


「…俺は…山田を…。」


 殺した。その事実だ。

 消えることなく彼を縛る新たなもの。これが彼を苦しめるだろう。

 俺が山田を蘇生してやる、と言うことも考えたが、それは間違っていると考えた。

 一度自分が殺した相手と向き合う。それがどれだけの枷と成るのか想像もできない。


「杉本、お前は人殺しだ。」


「!」


 先程まで優しく言葉をかけられていたのにも関わらず、急にこんなことを言われたのだ。それは驚くだろう。


「その事実は変えることは出来ない。ましてや、償うなんてことも出来ない。なぜなら償うと言う行為は埋め合わせをすると言うことなんだ。だかな、人殺しなんてことに対する埋め合わせなんて出来ないんだよ。」


「………。」


 杉本は何も言わない。言えない。


「人殺しをしたなら、人助けをすれば良い、そう言うやつもいるだろう。しかし、それは埋め合わせにも何にもなっていない。自己満足だ。」


「…………。」


「だけどするしか無いんだよ。自己満足を。」


「は?」


 杉本は俺が何を言っているのかよく分かってないらしい。まあ、俺もいきなりこんなこと言われても理解できないだろう。


「この言い方は不適切だと思うが、あえて言う。お前は運が良かった。殺したのが友人。それもお前のことを考えてくれる友人でな。」


「ふざけんな!友人を殺して運がいいわけあるか!」


 善人“杉本”の言葉が胸に刺さる。


「俺は死ぬ直前の山田が何を考えていたのかを知った。」


「!」


 これは事実だ。本当は魂(精神)と会話が出来るのではないかと試みたのだが、それは無理だった。

 魂とは生きた肉体の中で共にあることで魂であり、肉体が活動を停止させた時点で魂は存在出来なく成る。

 そのため、俺が出来たのは死ぬ直前の山田の考えを知ることくらいだった。


「あいつは最後までお前のことを考えてたよ。『殺されたのが自分でよかった。どうか元に戻ってくれ。』そう言うことしか考えていなかった。」


「山田のやつが…。」


「だからこそお前は…………。」


 俺は杉本に一言だけ告げた。そのとき、それを聞いた杉本がどう思ったかは分からない。

 俺は杉本を残し、戦場へと戻っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なかなか、やりますねえ。」


 戦場の中央部、そこでユーメルは戦況を確認していた。勇者と戦っていた彼がなぜそんな余裕を持って戦況確認ができているのかと言うと、勇者達に『魔神の懐刀』の能力の1つである自分の分身と戦わせているためである。

 ユーメルが確認し終えた戦況は酷いものだった。教徒たちはほぼ全滅、加えて勇者の催眠解除。


(由々しき事態ですね。まっ!どにかなるでしょう。ただ…。)


 どうにか成る。これは本心から思っていたことだ。正直に言うとここには自滅覚悟の上で来た。勇者を数名だけでも打ち取れたならばそれでも良いと。

 しかし、予想していたことと違ったことがあったのだ。

 勇者は弱かったのだ。魔神から寵愛を受けたからこそわかる。精神的なことはもちろんのこと、ステータス的にも自分が優位である。そのためユーメルは、どうにか成る、とそう確信していた。

 だが、そう上手くはいかなかった。学園の生徒だろうか?勇者以上の力を持つ者までいる。特にあの銀髪の少女、いや少年か。魔神様の力によってかけられた催眠を払いのけるだけの力を持っている。

 

(彼は私がお相手するしかないないないですねえ。と言うか、ありませんねえ。)


 ユーメルは動き出した。自分の目的の遂行のために。魔神様のために。

 しかし、彼は気づかないでいた。自分がこの空間で最も危険な場所に足を踏みいれようとしていることに。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーールネSIDEーーー



「はああああ!!!」


 1人、2人と僕は向かってくる魔神教徒たちを剣で倒していく。もちろん倒すと言っても、全員気絶させているだけだ。

 しかし、それでも僕は頑張っているだろう。正直僕は驚いた。いきなり魔神教徒たちと戦わされ、以前なら動揺していただろう、以前・・なら。

 

(やはり、彼女のせいだね。)


 僕はそう思いながら、あらかた魔神教徒たちを倒し、暇を持て余している彼女を見た。

 風にたなびく髪は赤く燃え上がる炎のように美しく、地に腰をつくその姿は気高く凛々しい。

 その様子を見て、あれで中身までも完璧であったならば、落とせない男はいなかっただろう、と思ってしまう僕がいる。


(けど、そんなアスモデウスさんであるこそ僕は……彼女を……。)


 僕は心の中にその気持ちを押しもどす。今はそんなことを考えている場合ではない。

 視線を戦場の方へと戻すと、イヅナさんの背後に回る1つの影を見つけた。


「させないよ!」


 少し慌てた僕は『風装化』を使い、一気に距離を詰め、影の正体を気絶させた……。

 つもりだった。


「全く、小賢しいですねえ…。てめえは……。」

 

 次の瞬間、体が宙を舞った。


「くっ!?」


 僕は風を起こし、何とか体勢を立て直し、着地する。が、僕の体は上手く着地することが出来ず、その場に倒れてしまった。


「勇者以下のてめえごときが僕ちん様のお相手出来るわけねえだろ?」


 ユーメル。確かそう言っていた。ふざけた口調でこちらの調子を損なうようなことをしているので大した実力を持っていないのではと思っていたが違いそうだ。


(強い。)


 一撃を貰ったことで分かった。『風装化』をした状態でこれほどのダメージを僕に与えるほどの攻撃力。自分よりも遥かに強い存在。

 しかし…。


「確かに、僕ごときでは相手にとって不足と言うものだ。」


「理解が早くて助かりますねえ。」


「しかし、それでも僕は君と戦うよ。」


「と、思ったらただの馬鹿ですか。」


 ため息まじりにユーメルはそう言う。


「彼女のところへは行かせない。」


 僕は再び、剣を構えユーメルと向き合う。


「では、死ね。」


 ユーメルは僕に向かって走り出す。そして、戦いが始まった。

 また、このときの僕は知らなかった。この戦いとともにあるカウントダウンが始まっていることに……。



  “騎士の覚醒まであと少し……。”


 

 


 

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