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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
56/164

気がついたら認められなくて

本日2話目。頑張りました。

ただ少しだけ短めです。

「ガァァアアア!!!」


 杉本はまるで理性のない獣のように俺にむかってきた。催眠状態であることは確認済みだが、ここまでなるものなのだろうか。

 杉本は力任せに斧を俺にむかって振り下ろした。『創造神の加護』を受けているだけあり、力、速さ、どちらもこの前よりも断然に上がっている。

  しかし、俺にとっては些細なことに過ぎない。別に受けても大したダメージにはならないだろうが、俺は杉本の一撃を回避し、杉本の斧は地面へと深く刺さる。

 隙が生まれたかと思った俺だったが。


「ガァッ!!!」


「ん?」


 杉本は力を入れ、地面に刺さった斧を強引に動かし、地面も切り裂きながら攻撃を続ける。俺は変わらずその攻撃をかわしていく。


(しかし、こんな状態になってまで俺に執着するこの有様。そうとう、恨まれてたんだろうな。)


 俺がそんなことを考えていると、杉本が口を開いた。


「全部……お前の……せいだ。……お前がいなければ……俺は……勇者の……俺は……俺バァァア!!!」


 口を開いたと言っても会話ができるレベルではなかった。しかし、こいつは自分の失敗をよほど認めたくないらしい。いや、失敗を認めたくないのではない。おそらく、自分が俺よりも上だと、そう信じたいのだろう。

 日本にいた頃からそうだ。杉本は高校で俺を虐めの対象にしたように、高校以前にも同じことをしてきたのだろう。人を下に見て、優越感に浸ってきたのだろう。それが彼の当たり前であり、日常だったのだ。

 さらに、この世界への召喚だ。召喚前は嫌がっていた彼だが、この世界に来てその考えは消えたのだろう。

 まあ、それはそうだろう。彼はこの世界ではただの人間ではなく、選ばれた存在、勇者なのだ。この世界の頂点の存在。そのような立場に置かれた彼がどれほどの優越感を覚えたかは俺にもわからない。しかし、その影響は決して小さくはなかっただろう。

 自分が上であり、他のものは下。彼の理想の世界のはずだ。

 しかし、そんな彼の理想を俺やルネのようなイレギュラーによって破壊されてしまったのだろう。それは彼にとって、今までの考えが覆されることであり、自分という存在の価値が大きく変わる瞬間だったはずである。

 そして、その結果が今俺の目の前にいる彼であるのだ。


「グゥゥ……フゥゥゥ……ガァァ!!!」

 

「…………。」


 俺はそんな杉本を見て、哀れに感じた。俺自身、彼には散々なことをされた。殴られ、罵倒され、そんな毎日だった。正直、憎んだり、恨んだり、したことがある。今も自分が気づいていないだけであってそう言った感情を持っているのかもしれない。

 しかし、今はそんな感情よりも彼を、杉本を憐れむ気持ちの方が大きかった。

 俺は杉本の一撃を片手で止める。そして、杉本の瞳を見ながら、口を開いた。


「お前……自分で自分を認められない、そう思ってるのか。」


 俺は女口調ではなく、普段の口調で言った。彼には以前の俺の立場としても、そう接したかったのだ。


「…………。」


 俺のその言葉に杉本の動きは止まる。


「自分に何も見据えることができず、自分という存在に自信が持てなくなった……。」


「グゥゥ……。」


 俺は話を続ける。


「周りが自分よりも輝いて見えて、何で自分はそうではないかって、不安になって、嫉妬したんだろ。」


「……………。」


 杉本は黙る。


「なぜ、自分ではないのか。だったら自分はどうすれば良いのか。考えて、その結果が人を下に見ることだった。

 それは間違いではないとは言えない。ただ、そうでもしないと自分を見いだせなかったんだな。」


「……ぅぅぅ。」


「そして、この世界に来てもそれは変わらなかった。むしろ、都合が良くなったはずだ。だが、問題が生じた。俺、イヅナ……それにルネか。」


 杉本は名前を聞くと体をピクッと動かし、斧を持つ手に力がこもった。しかし、それ以上のことはなく、何やら争っているかのようにも見えた。


「俺たちに負けたことによって自分の中の自分の価値が薄れていった。自分の存在意義を見据えなくなった。まあ、逆戻りしたんだ。」


「グガァァァ!!!」


 杉本は叫びながら斧を持っていない手で俺を殴りつける。俺はその拳を交わすことなく、全て受けた。


「逆戻りしたお前。それは自分にとって自分自身であり、自分として認められず、他人からも認めてもらえない存在になった、そう感じてしまった。」


「ガァァア!!!」


「だが、それは違うぞ杉本。」


「ガッ……。」


 俺の言葉に杉本は殴るのをやめた。


「この世界に、いや、この世界に来る前からも、“杉本 健二”という存在は認められているんだ。

 生まれて、名前をつけられ、育てられ、それはお前の存在が認められているということだろう。」


「………。」


「それにな。お前は悩んだんだろ?自分に自信が持てなくて、信じられなくて、悩んだんだろ?

 その時点で杉本自身も気づきてるはずだ。今の自分はこうなんだって。」


 杉本のほおを涙が伝っていく。


「自分を認められないやつが自分のことで悩むことなんてできない。杉本は自分を認めた。だからこその嫉妬だ。自分もあいつみたいになりたい。そう思ったから。」


「………ぅぅ。」


「でも、杉本は杉本、他の人は他の人だ。それは絶対にかなわない。だから、杉本は杉本であれば良いんだ。」


「………。」


「その杉本が人として、不十分な点があったとしても、自分を認められなくても、杉本の代わりに、認めてくれて、信じてくれてる、そんな奴らはいる。」


 杉本は無言で泣き続ける。


「お前は必要だ。必要にしている奴がいる。だから………。」


 俺は杉本の両肩に手を置き、そして……。


「安心しろ。」


「あ……あ……あ。」


 杉本は何か言いたそうだった。しかし、泣いてしまっているため、何を言いたいのかはわからない。


「お、俺は……俺は……。」


 そんな杉本を俺は包み込むような形をとる。


「大丈夫だ。みんなが認めているさ。心配するな。俺もある意味では杉本、お前を認めてる。」


「………あ、ありがとう。」


 とある戦場の一角、そこでは、人としての新たな物語が始まろうとしていた。


 

 


 


 

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