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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
54/164

気がついたら眺めてました

 

ーーー勇者SIDEーーー



  イヅナ達が魔神教のもとへと向かっている中、歩、颯太を含む勇者数名は爆発が起こった場所へと向かっていた。

 

  「なあ、颯太。あの爆発は何だと思う?」


  歩はいつになく、真剣な顔をしながら颯太に問いかけた。


  「わからない。ただ、あの爆発は攻撃目的のものなのは間違いないと考えていい。そうなると、この学園に対して攻撃を行える力を持ったもの、ということにはなるね。」


  「なるほどな。ということは気を引き締めて行った方が良さそうだな。」


  「そうだね。………。」


  颯太は表面上はいつも通りの自分を装っていた。いや、颯太はだけではない。ここにいる全員の勇者がそうだった。

  しかし、それは無理もないことなのだろう。彼らは爆発が起こったとき、自ら爆発があった場所へと向かった者たちだ。そのときの彼らの多くは体が反射的に動いた者たちだった。それは彼らの中にある良心がそうさせたのだろう。

  だが、そんな彼らを目的地に近づくにつれて襲うものがあった。

  不安だ。彼らの心の中には不安が生じ始めていた。

  “これから何かと戦うのではないのか?”、“何か危険なことが起こるのではないか?”

  無論、そんなことは百も承知で足を動かし始めたつもりだった。しかし、所詮はつもりだったのだ。

  もともと平和な日本で暮らしていた彼らはこういったこととはほぼ無縁の生活を行なっていたのだ。そんな日本で危険なことといってもたかが知れていた。だが、今はどうだろうか。

  近づくにつれ、空に立ち昇る黒い煙は徐々に大きくなり、嗅ぎ覚えのない匂いが鼻をつきはじめている。

  そんな状況から彼らは察したのだ。彼らが未だ見たことのない光景が、悲劇が、彼らを待ち受けていることを。

  それに気づいてしまった彼らが不安を抱かないはずがない。


  (…くそ!なに弱気になってるんだ俺は!こんなところでつまづいてたら雅風に辿り着けるわけがないだろ!)


  歩は心の中でそんなことを考えていた。

  何があろうと親友の、雅風のもとまで辿り着いてみせる。この世界に来たあのときそう誓った。そのためにはこんなことくらいで怖気付いていたら駄目なのだ。

  しかし、そんなこととは裏腹に歩を含む勇者たちは爆発の現場に到着してしまった。


  「おやおやおやおや〜?どちら様ですかね〜?」


  「貴様こそ何者だ!」


  颯太は目の前にいる黒い装束を着た男にそう言い放った。


  「私が聞いたんですがねえ。」


  その男は不服そうに颯太を睨む。その瞳に颯太は思わず足を下げてしまった。それを見た男は不敵な笑みを浮かべる。


  「まあ、いっか。ええ、では。私は魔神教三柱が1人。“ユーメル・フォシアヌス”でございまーす。よろくしね。あ、あとそこらへんにある死体ゴミ邪魔だからどうにかしといて。」

 

  ユーメルはそう言いながら足元にある死体を足蹴りにする。

  颯太はユーメルのその言葉と行為に怒りを覚えた。 状況から推測するに爆発の原因は間違いなく、ユーメルを含めたこの集団だろう。何の罪もない者たちにまで害を及ぼす行為を行った彼ら。その1人が“よろしくね”などと言ったのだ。

  颯太は無意識に剣に手を掛けていた。


  「落ち着け颯太。むかついてんのはお前だけじゃない。」


  「歩…。」


  歩のその言葉に反応し、颯太は他の者たちの様子を確認する。そこには必死に怒りを抑える仲間たちの姿があった。死体を見たショックなど打ち消すほどの怒りを。そんな中で自分だけその怒りに振り回されるのはあまりに滑稽で、恥じるべき行為だろう。

  颯太は剣から手を離す。


  「ん〜?やらないんですかあ?つまんねえの。それじゃあ貴方がたは何しにここに来たんですかあ?」


  「貴様らを止めるためだ。」


  颯太はそう応えると、剣を抜きユーメル達に向けた。先ほどとは違う。彼が剣を抜いたのは怒りをぶつけるためではない。守るためだ。学園を、生徒を、市民を。


  「出来ますかねえ?」


  ユーメルは鼻で笑う。


  「僕たちはこれでも勇者だ。ステータス、スキル、共に君たちにはまさっている。」


  「確かに確かに。」


  ユーメルは深くうなづく。


  「ですけどねえ。貴方たち……人を殺した・・・・・ことないでしょ。」


  「「「!!!」」」


  その言葉は勇者たちの体を締め付けた。


  「やっぱりそうですかあ。それなら私たちにも勝機はありそうですねえ。」


  次の瞬間、ユーメルは二本の短剣を取り出し、それを颯太に向けて投げた。

  明らかな殺意がこもった短剣。スピードや力から考えて、今の颯太ならば容易く剣で弾くことが出来ただろう。が、彼の体は動かなかった。突如、向けられた殺意。颯太は恐怖した。その恐怖が全身を覆ったのだ。


  「颯太!」


  間一髪、後ろから勇者の1人が弓を放ち短剣を射抜く。


  「あ、ありがとう。」


  「ぼーっとするな!取り敢えずあいつらの動きを止めるぞ。どうせ考えたっていまの俺らに人を殺せるほどの勇気なんてないんだ。」


  「…そうだな。」


  颯太はユーメルの方を向きなおる。


  「ん?何ですかね〜。少しだけ……吐き気がする顔つきなりましたね。顔だけ勇者ってかあ?」


  「勝手に言っていろ。」

 

  颯太のその言葉と共に勇者たちは走り出した。

  それを見てユーメルは舌打ちをする。ユーメルは最初に彼らを見たときに気づいていた。自分たちに不安や恐怖を持っていることに。ユーメルはそこに漬け込もうとしたのだ。

  自分たちと戦うのは人を殺すことだと。そうすれば彼らは戦うことが出来なくなるはずだと。しかし、彼らは気づいてしまったのだ。戦うことが殺すことではないことに。


  「面倒だなあ。まあ、それでも負けませんけどね。教徒たちよ。魔神様が味方してくれる我々が負けるわけがない。全力でぶつかりなさい。」


  魔神教徒たちも勇者に向かって走り出す。

  ついに戦いの火蓋が切って落とされたのだ。


  「はああああ!!!」


  歩はこちらに向かってくる教徒たちに向け、全力で剣を振るった。しかし、その剣が教徒たちを切り裂くことはない。代わりに剣から放たれた衝撃波が教徒たちを襲った。


  「ぐわあぁ!」


  「ぐはっ!?」


  たったの一撃。それだけで半分以上の教徒たちを倒す。


  「…殺しはしない。だが、てめえらを許しはしねえ。行くぞ!」


  歩はユーメルへと走り出す。しかし。


  「歩!上だ!」


  歩はそう言われ、上を見上げる。そこには目の前に迫る斧があった。


  「くっ!」


  歩はとっさに剣でその一撃を受け流す。そして、その一撃を与えたものの姿を見て驚いた。


  「…杉本……なのか?」


  「……ふー……ふー。」


  そこにいたのは変わり果てた仲間の姿だった。

  目を充血させ、半開きになった口からは唾液が垂れている。


  「紹介しまーす。こちらにおられるのは魔の勇者様でーす。私たちに力を貸してくれるとっても優しいお・か・た。」


  ユーメルは杉本の横に立つ。


  「杉本!一体どういうつもりだ!」


  颯太は叫ぶがその言葉が杉本に届くことはない。


  「彼に何言っても無駄無駄〜。精神が壊れちゃってますからね〜。さっすが魔神様。エグいことするよね〜。」


  「貴様!」


  颯太がユーメルに魔法を放とうとするがそれは叶わない。


  「ガァァアアア!!!」


  杉本が突然雄叫びをあげたかと思うと颯太たちに向かってはしりだしてきたのだ。


  「なっ!?」


  颯太は放とうとしていた魔法を中断させる。いくら魔神教側にいるとは言えもともと仲間だったものに魔法を放てなかった。しかし、その判断が颯太に危険をもたらした。


  「ガァァア!」


  杉本は斧を振り落とし、颯太の剣を手から弾く。そして、颯太の顔に回し蹴りをいれた。


  「ぐはっ!?」


  「「颯太!」」


  蹴りにより倒れ込んだ颯太を心配した2人の勇者。杉本はその隙を見逃さなかった。

  杉本はその2人に対し、無詠唱で闇魔法『ダークチェーン』を放つ。無防備だった2人に黒い鎖が巻きついた。


  「教徒の皆さ〜ん。今ですよ〜。」


  ユーメルがそういうと残っていた教徒たちが勇者たちに向け魔法を放った。

  その数はとても捌ききれるものではなく、勇者たちに次々と魔法が命中する。一撃一撃ではたいしたダメージを受けないがこの数だと流石に体力が削られていく。


  「そ、颯太。俺が隙を作る。その隙にあいつらを叩いてくれ。」


  「あれを使うのか?」


  「それしかねえだろ?」


  「……そうだな。」


  「よし!それじゃあいくぞ!」


  その言葉とともに歩は動き出す。


  「はああああ!!!」


  「何してるんですか?」


  ユーメルはこちらに向かってくる歩見て、捨て身の策でも考えたのだろうと考えた。


  「勇者様〜。また、邪魔者ですよ〜。」


  ユーメルは杉本を歩にあて、動きを抑えようとする。しかし。


  「その程度で俺は止まらねえぞ!」


  歩はまるでこの行動がくることを分かっていたかのような動きを見せる。

  目の前にくる杉本を最も少ない動作でかわし、勢いを殺さずに進む。

  何を隠そうこれは歩のユニークスキル『探求者』の力なのだ。


  ユニークスキル

  『探求者』・・・・求めるものへの道筋の掌握。


  このスキルが使える場面はとても限られる。なぜなら、『探求者』が掌握できるものが求めるもの・・・・・であるからだ。

  このスキルの能力、自分が求めるものへの完璧な道筋を探し出すものだ。これは自分にしか適応されない。つまり、相手の行動やその結果を求めようとしてもこのスキルは発動することはない。

  さらに付け加え、一回の発動で消費する魔力が非常に多い。そのため、一度の戦闘で使えるのは一回が限度だろう。

  しかし、『探求者』が発動したときの力は絶大だ。どのような障害があろうとその目的までの道筋を完璧にたてるのだ。


  (いける!)


  歩は足にさらに力を加える。


  (あいつのもとまで!届け!)


  そして、ついに歩はユーメルの目の前まで到達する。


  「お〜やおやこれは。」


  「これで終わりだあ!」

 

  歩は拳を握りユーメルの顔目掛け放つ。殺すことはしない。ユーメルの気を失わせればそれでいい。

 

  「うわぁぁぁ!!!」


  何処からか叫び声が上がったが歩はそれに気づかないほど集中していた。

  そして、歩の拳がユーメルに届いた。そう思われた瞬間。


  「ぐふっ!?」


  「うわあ!?」


  歩は横から来た何かに突き飛ばされてしまった。


  「くっ!一体なんだ!」


  「僕はもう駄目だ。」


  目の前には倒れこむ青年の姿があった。


  「おいお前……。」


  歩がその青年に声をかけようとしたそのとき。


  「戦さの始まりじゃ〜〜〜!!!」


  真紅の髪を持つ美女が教徒たちを飛ばしながらこちらに向かって進んで来ていた。


  歩はその光景をただ呆然と眺めることしかできなかった。


 




 

 


 


 


 


 




 

 


 

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