気がついたらご愁傷様でした
今回、戦闘描写はありません。次回からは入ら予定です。
それとステータス値について少し修正をしました。異世界の平均的なステータス値を運以外50から500に変更しました。
流石に異世界の平均が低すぎだと最近思い、修正に至りました。
ーーー魔神教SIDEーーー
時は少し遡り、カラドボルグ魔法学園から少し離れたある洞窟の中、そこには黒い装束に身を包んだ者たちの姿があった。そう、彼らこそ魔神を崇め奉る存在、魔神教の教徒たちだ。
そんな彼らがここに集まったのは他でもない。魔神からの神託を受け取ったためだ。
今、そんな彼らの前に黒い渦が現れた。そして、その中からは1人の人物が姿を現わす。
「……憎い……殺す。」
杉本だ。しかし、彼はもはや平生の彼ではない。只々、内に憎悪を抱き、その対象への報復の事しか彼の頭の中にはない。
地球にいた頃の彼も虐めや暴行を行なっていた。しかし、それは自分の欲を満たすため、快楽を手に入れる為のものだった。だが今は違う。憎悪、殺意、そういった感情に支配された、言うなれば“殺人人形”へとなり下がっていた。
そんな杉本の下に近づく人物がいた。
「あなたが勇者様ですかあ?なんか全然生気を感じないんですけども?もしかしてあれですかあ?魔神様に操られて精神破壊されちゃった感じですかあ?ギャハハハ!」
彼は杉本の前に来ると挑発とも思われるような言葉を杉本に投げかけた。
「………。」
しかし、杉本に反応はない。それをいいことに彼は杉本の頭をポンポンと叩く。
「無〜視は良くないですねえ。おい、なんとか言えよ。て、言えねえんでしたっけ、あらまあ、それは災難でしたねえ。ギャハハハ!」
「ユーメル様、そろそろ時間が。」
彼、もといユーメルに教徒の1人そう伝えるが。
「ああ?」
「ですから……。」
一閃。教徒の体は真っ二つになっていた。
「何偉そうに言っちゃってるんですかあ?何様のつもり何ですかあ?ああ?」
ユーメルは真っ二つになった肉塊を踏みつける。
「と言うわけなんで勇者様。行きましょうか。レッツ復讐。」
杉本にそう告げたユーメルは体をくるりと回し、渦の中へと入って行った。
「復讐…。」
杉本も“復讐”と言う言葉にのみ反応し、ユーメルの後につき渦の中へと入っていなのであった。
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ーーー勇者SIDEーーー
「皆さん!こちらに避難してください!」
「こちらです!」
そう言って一般客や生徒を避難誘導するものがいた。結衣と琴羽だ。
結衣は山田の死体を見たことでショックを受け、部屋で休んでいたのだが、爆発音を聞き琴羽たちの下へとやってきたのだ。
まだ、全快とはいかないものの、このような緊急事態に黙っていられるような彼女ではない。戦略的な自信がない彼女は琴羽とともに避難誘導を行う。
「結衣、あなた大丈夫?」
「う〜ん、大丈夫じゃないかな。ハハハ。」
「なら…。」
「でも、私に何かできるなら私はそれをやりたい。1人部屋に引きこもってみんなが頑張ってるのを眺めるだけなんて嫌なの。」
琴羽は今の彼女に何を言っても意味はないとわかった。彼女の芯は強いのだ。もちろん、強いと言っても悲しんだり、苦しんだり、はよくする。しかし、彼女はそう言った自分を受け入れ、できる限りのことをしようとする。だからこそ彼女は強いのだ。
「…わかったは。でも、本当に無理はしないでね。」
「うん。ありがとう琴羽ちゃん。」
結衣は琴羽にそう言うと再び避難誘導へと戻る。
「皆さん。こちらです。焦らなくても大丈夫ですよ。」
結衣は誘導をしながら辺りを見回し、困っているものがいないか、混乱しているものはいないか、細部まで確認する。
流れてくる人の波。先程まで横にいた琴羽の位置もわからない状態だ。
「こちらです!」
それでも彼女は今できる限りのことをする。琴羽には無理をしないように言われたが彼女にその選択肢はない。周りのため、人のために彼女は行動を起こすのだ。
そんな彼女の横を何かがそよ風のように優しく通り過ぎて行った。
「やっぱり変わらないな、横山は。」
「え?」
結衣は辺りを見渡した。避難をしている人たちの姿以外他に何も見当たらない。
「今のは…。」
「結衣。」
「な、何?琴羽ちゃん。」
いつの間にか琴羽は結衣の後ろに立っていた。
「いえ、ただここ一帯の避難はだいたい終わったから他の場所に行かないかって聞こうと思ったのだけど。どうかしたの?」
「べ、別に何でもないよ。それよりも速く次の場所に行こう!」
「え、ええ。」
結衣の突然の変わりように驚く琴羽を連れ結衣は移動を開始する。
(今のってやっぱり…。)
結衣は移動をしながら考えていた。
勘違いではない。確かに聞こえたのだ。彼女が探し求めている彼の声が。
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ーーーイヅナSIDEーーー
「聞こえてしまいましかね?」
「聞こえたんじゃないですか?」
「ん?何か言ったのかい?」
現在、俺は途中で合流したアスモデウスとルネと共に爆発音のした方向へと向かっている途中だ。
「いえ、何でもありません。」
「そうかい。ならいいんだが。」
「何ですかルネ、そんなにイヅナ様のことが気になるんですか?あ!分かりましたよ。ふふふ、さてはルネ、イヅナ様に惚れましたね。」
「「……。」」
「ちょ、ちょっと!何で2人して黙るんですか!」
隣でギャーギャー騒いでいるアスモデウスは放っておく。
「ところで何でルネさんがいるんですか?」
俺はそう言ってルネの方を見る。
「僕も聞きたいところだよ。」
ため息混じりでそう言うルネを見て俺は理解した。
俺は未だギャーギャー騒いでいるアスモデウスの方をじーっと見る。
「な、何ですか!私がルネを無理やり連れてきたと思っているんですか?」
逆に聞きたい。お前以外に誰がいるのだ、と。
「僕の記憶が正しければ……『ルネ、何か向こうで爆発しましたね。これは行くしかありませんね。ほら行きますよ。まさか、行かないわけがないですよね〜?』……と言っていたと思うのだけど。」
「……アスモデウスさん?」
俺はニコリと笑顔を作りながらアスモデウスを改めて見つめる。もちろん、目は笑っていない。
そんな俺に恐怖を感じたのか、アスモデウスは何故ルネを連れてきたのかポツポツと理由を述べていった。
1つ、面白そうだから。
2つ、修行になるかな〜と思ったから。
3つ、隣にいたから。
俺はこの回答を聞いて思った。流石、アスモデウスだ。ふざけてやがる。
「あなた、この先に何がいるかわかって連れてきているんですか?」
「大丈夫ですよ。ルネは無駄に強くなりましたからね。そんじゃそこらの相手なんかに負けません。」
「無駄にとは何だい?無駄にとは。」
「……確かにそうかもしれませんね。」
「イヅナさんまで僕の力が無駄だと……。」
ルネは涙が出てくるのではないかと思うほど悲痛な顔をしていた。思わず吹き出しそうになる俺だが、何とか耐えた。
「ふふふ、違いますよ。」
俺が確かにそうだと言ったのは“ルネが負けない”と言うことだ。
彼は試合とはいえ、“マジックデュエット”で勇者である杉本を倒している。
その実力はこの世界の人間とはかけ離れたものとなっているはずだ。無論、魔神教のやつらもこの世界の人間だ。普通に戦ってまず負けることはないだろう。
「とにかく、ルネさんが無駄に強いなんてことはありません。」
「…イヅナさん。僕は君に出会えて本当に良かった。その言葉が嘘だとしても僕は嬉しく思うよ。」
「大丈夫ですよ。私はルネさんに嘘なんかつきませんから。」
「え?付いてるじゃないですか。実はおと…へぶっ!?」
俺は余計なことを言おうとするアスモデウスの頰を手で挟み込み、喋ることのできないようにした。
「ちょっと黙りましょうか。」
「は、はい。」
駄目付き人を黙らせた俺はようやく前へと向きなおる。すると、ちょうど視界の奥の方に黒い装束に身を包んだ集団と勇者たちの姿が見えてきた。
「あれはまさか魔神教徒!」
「ルネ知らなかったんですか?」
「知るわけないじゃないか。何も言われずにここまで付いてきたんだから。」
「あ、それもそうですね。では、ルネ!これが今回のお相手です!」
「もう分かってるよ。」
ルネもこの駄目付き人に振り回されているようだ。俺はこの感情を共感できるものが出来たことを少しだけ嬉しく思う。そして、ルネ。ご愁傷様です。
「さあ、行きますよルネ!私たちも加わりましょう!」
「い、いやで…。」
「問答無用!」
アスモデウスはそう言うとルネの腕を掴み、そのまま魔神教徒たちの中へと投げ込んだ。
「うわぁぁぁ!!!」
「戦さの始まりじゃ〜〜〜!!!」
それに続き、アスモデウスもどこで覚えたのかわからないことを叫びながら魔神教徒たちへと向かって行く。
「私も行きますか。」
俺はそんな2人から少し遅れ、魔神教徒たちの元へと向かって行った。
「ルネ、ご愁傷様です。」
ルネへの言葉を呟きながら。
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