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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
51/164

気がついたら食事でした

リアルが忙しく遅れてしまいました。すみません。来月からは少し更新ペースを上げます!

  闘魔祭も今日で3日目。昨日はルネと杉本の試合で競技会場の防護壁に異常が発生し、競技自体は進んではいない。

  その為、試合は昨日の続きから。俺は朝早くから選手控え室にいるわけだ。まあ、今日の午前中の試合は昨日行われるはずだった試合のため俺は現在進行形で暇なのだ。


  「さて、どうしたものか……。」


  俺は座っている椅子に全体重を預け、だらっとしながら呟く。しかし、そんな事をしていても時間が過ぎていくだけで暇をつぶす方法が思いつかず、また、散歩にでも行こうかとも思ったが、アスモデウスに纏わり付かれ不幸に合いそうな予感がするのだ。

  俺はその後も椅子に座っていた。何回か女性選手が控え室に戻ってくる事があったが、それだけだった。そうこうしているうちに午後になってしまった。


  「……半日無駄にした気分だな。まあ、いいか。飯でも食いに行くか。」


  俺はようやく椅子から立ち上がり、控え室から出ようとした。そのときだった。控え室の扉を叩く音が聞こえた。


  「はい。何でしょうか?」


  「少し、イヅナさんと話しがしたいのですが。」


  「あ、はい。私に用ですか。」


  俺は扉を引き、開けた。そこにいたのは元クラスメートの上条颯太だった。地球にいた頃、彼は基本的に人と話すときには営業スマイルでも習得しているのではないかと思うほどのものだった。

  しかし、今の彼にそんな笑顔はなかった。何かあったのだろうか。


  「少しだけ聞きたいことがあるんですが、良いですか?」


  「どうぞ。」


  質問までが長い。


  「試合が終わった後、杉本を見ませんでしたか?」


  「いえ、見てませんが……何かあったんですか?」


  「……まあ、そんなところです。ただ、詳しいことは話せません。」


  「そうですか。なら聞きません。」


  「ありがとうございます。」


  颯太はそれだけ言うと控え室を後にした。

  まず杉本に何かあったのは間違いないだろう。しかし、颯太の様子から考えると杉本が居なくなったなどの問題ではないだろう。

 

  「……調べて見るか。」


  俺は早速、『ネクロノミコン』を使用し、杉本について調べる。


  【杉本 健二】


  ・父“杉本 剛”と妻“杉本 沙織”の間に………


  毎度のことだが入らない情報は飛ばして行く。


  ・“マジックデュエット”後、寮に戻る。後に創造神ブラフマーに接触。創造神“ブラフマー”により軽い洗脳状態にされ、同室にいた山田直樹を殺害。

  現在、ブラフマーが魔神と名乗った事により集まった魔神教とともにカラドボルグ魔法学園に攻め込む準備をしている。

 


  「ったく……何やってるんだあいつは。」


  俺は思わず口を開いた。

  まさか魔神教と一緒にいるとは思わなかった。一応は勇者である杉本だ。敵とも言える魔神教の集団と一緒にいるなどとは考えられなかった。


  「それに加えブラフマーか。」


  そう、この時間には創造神“ブラフマー”が関与している、と言うよりも主犯格といったほうが正しいかもしれない。

  俺は『ネクロノミコン』で調べ、ブラフマーの性格、これまでの行いを知った。

  ブラフマーは自分の欲を満たすことしか考えていないのだ。

  例をあげれば繁栄神“ヴィシュヌ”を殺した事や破壊神“シヴァ”を魔神へと仕立て上げた事。これらも全ては彼の暇つぶし、欲を満たす為のことのために行ったことだ。

  それを前提に考えるとおそらく今回の件も同じだろう。

  魔神復活の神託を下してから魔神の手がかりなどが一切ない状態が続き、ブラフマーは新たな暇つぶしを始めたのだ。


  「……まあ早い所、先生にでも伝えておくか。」


  俺はこの事態を学園に伝えようと考えた。

  俺は席を立ち、扉に手を掛けようとしたが、扉に触れる直前で俺は手を止める。


  「いや、待てよ。その場合、俺がこの情報をどこで手に入れたか怪しく思われないか?」


  そう、もしもこの情報を伝えてしまった場合、俺がその情報を手に入れた経緯を聞かれるかもしれない。さらに相手は学園だ。その力は大きいだろう。そのため、変に俺が嘘をついた場合、すぐにばれる可能性がある。

  だからと言って、俺が今、魔神教徒たちがいる場所に行き、この事態を収めたとなるとブラフマーに俺の存在がばれる危険性がある。こちらは何としても避けたい。


  「…………学園に来たら迎え撃つか。」


  結局、俺は魔神教徒と杉本が学園に来てから対処する事にした。

  まあ、俺はこの一連のことを知っていて、見逃すわけだ。死傷者など絶対に出さないようにする。


  「よし。じゃあ、今度こそ飯にするか。もう昼過ぎなわけだしな。」


  俺はここでようやく扉に手を掛ける。そして、扉を開いた。するとそこには運営委員の人が立っていた。


  「そろそろ試合となりますので、移動を開始してください。」


  「………。」


  「どうされました?」


  「……あの……食事がまだ……。」


  「それは試合までに済ませていなかったあなたのミスです。」


  「…………。」


  俺は渋々移動を始めた。本来、食事は必要のない俺だが、必要がないだけであって食べてはいけないわけではない。

  俺は1つの楽しみを奪われ、試合会場へと向かった。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

  「イ、イヅナさん。どうしたんだい?」


  「…………。」


  ルネが俺に何か言っているようだが、俺の耳には入らない。


  「さあ〜!いよいよ始まりました“マジックデュエット”一ね………。」


  実況のルルネットの声も届かない。


  「……食事が。」


  俺はまだ飯のことを考えていた。

  実を言うと今日…というか“闘魔祭”が始まってからというもの、朝メシを抜きにし、学園での買い食いを楽しみにしているのだ。

  しかし、それがどうだろうか。今日は飯抜きだ。俺の気は地の底、とまではいかないが相当に落ちていた。


  「食事?それなら僕が奢ってあげるよ。」


  俺はその言葉には素早く反応した。

  一瞬でルネとの距離を詰め、手を握り、ルネの目を見る。


  「本当ですか?」


  「あ、ああ…。」


  ルネは驚いた様子だったが俺は気にしない。


  「それでは試合が終わったらよろしくお願いします。」


  「では、両選手構えて下さい!」


  どうやら、俺とルネが話している間にルルネットさんの選手紹介が終わったらしい。実に丁度いいタイミングだ。

  俺とルネは少し距離を置き、互いに剣を構える。


  「負けると分かっていても僕は全力でいくよ。」


  「ええ、期待してます。」


  最後に軽く会話を交える俺とルネ。


  「それでは“マジックデュエット”1年、最終試合始め!!!」

 

  「はあああ!!!」


  試合開始と同時にルネは“風装化”を使用してきた。ルネの周りに風が集まっていく。本来、こういうときは少し待つのが良いのかもしれないが。

 

  「私は待ちませんよ。“ロックニードル”」


  俺はルネの足元から岩の針(とは言ってもかなり大きい。)を作り出す。しかし、その針がルネに届かなかった。

  風が防御壁となり岩の針を砕いてしまったのだ。


  (込める魔力を弱くしすぎたな。)


  やはり俺はまだ魔法の調整が苦手だ。

  そうこうしているうちにルネは“風装化”を終えていた。


  「イヅナさん。本来ならレディーファーストしたいところだけど、今回僕にそんな余裕はなさそうだ。」


俺の魔法を攻撃だと思ってないらしい。


  「(女じゃないし)良いですよ。どうぞお先に。」


  「じゃあ行かせてもらうよ。」


  次の瞬間、ルネの姿が消えた。ように俺や他数名を除いては見えたはずだ。

  ルネは風を推進力に使うことにより、かなりの速度での移動を可能にしているのだろう。一瞬で俺との距離を詰めるだけでなく、俺の背後まで回り込んできた。良い動きだ。

  しかし、背後を取ったことによりルネに少しの油断が生まれた。無論、その隙を俺が逃すわけがない。

  俺は体をひねり、体を180度反転させる。この行動に驚き、反応が遅れるルネ。俺はそんなルネの頰に蹴りを入れる。

 

  「ぐっ!」


  体勢を崩したルネだったが、風を発生させることにより、俺との距離を取ることに成功した。


  「油断大敵ですよ。」


  「…そうみたいだね。」


  「「「……………。」」」


  普段なら湧く会場だが俺とルネの戦いに見入ってしまい、声も出ないようだ。実況のルルネットさんも仕事を忘れ、只々試合を見ている。


  「ルネさんは動きが少し単調です。そのため、動きがとても読みやすい。」


  「そうなのかい?」

 

  「はい。」


  「それは良いことを聞いた。そしてそこに気づくとは流石イヅナさんだね。」


  (まあ、単純なだけだし。)


  「なら、今度は単調な動きは避けてみるよ。」


  再びルネが動いた。

  今度はルネはいきなり突っ込むということはしない。ルネはルネの周囲に風を集中させる。


  (また、油断してないか?)


  そう思った俺が再び魔法を放とうとした直後、ルネは俺に向かって急発進した。

  俺はそんなルネに構うことなく魔法、“ファイヤーボール”を放つ。

  しかし、それを見てもルネは回避をする様子はない。そして、ついにはルネに“ファイヤボール”が直撃。軽い爆発を起こし、ルネのいた場所に煙が立つ。しかし、そんな煙の中からルネが無傷の状態で現れた。

  どうやらルネは特に流れる魔力の濃い風を障壁とし、俺の“ファイヤボール”を無効化したらしい。なかなか良い発想だ。おかげで距離を詰められてしまった。

  ここでついに俺とルネの剣が交える。が、それも一瞬だった。


  ガキィーン。


  「あ。」


  俺の剣が折れたのだ。

  まあ、俺の使っていた剣はプラチナソードに少しだけ魔力を流し、強化したものだ。

  流石にルネの魔力と風を纏わせた剣の一撃に耐えることは出来なかったのだろう。

  武器がなくてもルネに負ける俺ではないがそれでも何か欲しいものである。


  (ダーインスレイブ使っても大丈夫だよな。)


  俺はしょうがなく。そう、しょうがなくだ。しょうがなく邪神剣“ダーインスレイブ”を使うことにした。一応、ダーインスレイブから大量の魔力が流れたりしてブラフマーにバレたりすることのないよう出来る限りの隠蔽はしている。もちろん邪神剣“エクスカリバー”にも同じことをしている。

  しかし、それでも流石にエクスカリバーを使う気にはならなかった。決してダーインスレイブを使いたかったからとかそういう訳ではない。ブラフマーにバレないようにするためだ。

  ん?それならルネと同じレベルの剣を使えば良い?

 

  …………。黙秘権を行使する。


  俺は早速、ダーインスレイブをいつもしまっている空間から取り出す。

  それを見たルネが俺から距離を取った。もしかしたら、ダーインスレイブの危険性を感じ取ったのかもしれない。しかし、それにしてはルネが怯え過ぎている気もする。


  「どうかしたんですか?」


  「ど、どうかしたんですか?どころじゃないよ。何だい?その剣は?」


  「少し強い剣です。」


  「す、少し強い剣がそんな事になるのかい?」


  「え?」


  俺はルネに指摘され、ここで初めて空間から取り出したダーインスレイブを見た。

  そこにあったのは禍々しい黒いオーラを纏い、赤い稲妻を迸らせるダーインスレイブの姿があった。

  この見た目にどうやらルネは怯えているらしい。まあ、普通は怯えるだろう。

  しかし、こんな姿になっているとは驚いた。恐らく、俺が施した隠蔽のために行ったこと。まあ、軽い封印みたいなものだ。そして、その封印の中に留めきれなくなった魔力が少しだけ漏れ出てるようだ。

  まあ、このレベルならまだブラフマーには気づかれないだろう。

  ただ、試合は早く終わらせた方が良さそうだ。


  「では、行きますね。」


  「は…っ!」


  「はい」っと返事をするつもりだったのだろうが、その間に俺はルネとの距離を詰める。そして、一撃。ルネは剣でその一撃を受け止めようとするが邪神剣“ダーインスレイブ”には“空間切断”がある。ルネの剣は纏っていた風と共に真っ二つとなる。

  試合開始直後のルネならばこの光景を見て固まっていたことだろうが、ルネもこの短い間で成長したようだ。すかさず距離を取り、“ウィンドランス”を飛ばして来た。しかし、それもダーインスレイブの前では意味をなさない。“ウィンドランス”も次々と俺の前で消えていく。


  「こ、ここまでとはね。僕には勝てないわけだ。」


  「それでも大したものですよ。私とここまで戦えているのですから。」


  これは本心だ。ルネはこの世界に来てからの戦いで、人(半人だけど)の中では間違いなく1番の戦いぶりだ。


  「そこで特別に少しだけ私の力を見せてあげましょう。」


  ここまでの戦いをしてくれた相手に敬意を払うため俺はそういった。


  「ハ、ハハハハ。………正直、余り見たくないんだけどね。」


  「遠慮なさらず。」


  俺は自分の手首を手刀で軽く切る。俺自身の力であれば、俺の体でも多少は傷つくし、血も出る。そして、その血をダーインスレイブへと垂らしていく。その血をダーインスレイブはまるで食事をするかのように吸収していく。

  ダーインスレイブの特殊効果の1つ。血を吸う事により新たな力に目覚めるという物。果たして今回はどんな能力に目覚めるのか。


  【特殊効果】

  時差攻撃


  うん。至ってシンプル。その攻撃を出したタイミングよりも遅れて攻撃が発動するというものだ。

  罠などにはとても使えそうだが今は役に立たなそうだ。というかよくよく考えるとこんな傷をつけたら一生治らないような剣を人に使う事自体どうかしている。俺は急に冷静になった。

  俺はダーインスレイブを空間の中へと戻す。


  「ルネさん。」


  「な、何だい?」


  「力の少しを見せるって私言いましたけど。」

 

  「言ったね。」


  「あれ、嘘です。」


  「え?ぐぼっ!?」


  俺は手っ取り早くルネの腹にパンチを入れ、気絶させた。


  「し、試合終了〜〜〜!!!この試合を制したのは“イヅナ・ルージュ”選手だ〜〜〜!!!」


  ここで試合終了の合図だ。最後があっけなさ過ぎた気もするがまあ、良しとしよう。そして、そんな事よりも。


  「ルネさん。約束通り食事をって………。」


  「…………。」


  その日、ルネを気絶させた俺は結局、自腹で買い食いする事となったのであった。


 


 

 


 

 



 

 


 


 

 


 


 

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