気がついたら決着でした
最初はルネ視点で始まります。
ユニークスキル
『風奏者』
このスキルの力は風の掌握。風を僕の思うがままに操る力だ。
そして、このスキルの所持者にはもう1つのスキルが与えられる。
『風装化』
自らの魔力を消費し続けることにより、風を自分自身にまとわせ、鎧や武器として使うことのできる力だ。また、その風の操作にはは魔力を消費しているため、自らのステータス値に補正もかかる。
「この力なら。」
僕はそう言って、勇者様に剣を向ける。勇者様もそんな俺を見て、斧を構えた。が、僕はもうそこにはいない。
「勇者様。どこを見ているんだい?」
「なっ!?」
僕は勇者様の後ろから声をかける。そして、勇者様がこちらを向くと同時に勇者様の腹に蹴りを入れた。
「ぐっ!」
勇者様は苦しそうな顔をしながら後退していく。
(いける。)
僕は心の中で呟く。再び、僕は剣を構える。しかし、勇者様はそんな僕を見て突然笑い出した。
「な、何がおかしいんだい?」
僕がそう聞くと勇者様は笑うのをやめ、こちらを向いた。
「いや、ただこの程度で勝った気になっているお前が面白くてな。」
「はったりかい?」
「すぐにわかるさ。」
僕は勇者様のいやらしい笑みを見て、悪寒を感じた。何か仕掛けてくると僕は瞬時に判断し、再び、勇者様へと突撃した。しかし、僕の目の前に突然、強力な光が放たれた。
「くっ!?」
僕は目を抑え、その場に停止した。そのとき、勇者様から詠唱が聞こえてきた。
「“我が闇よ、光よ、集え”」
勇者様の短い詠唱が終わると変化が起きた。先程までの光は突然きえ、目の前には白と黒が混じり合う球体があった。
この現象は自分が『風装化』を使用したときのものによく似ている。おそらく、同じ類の魔法なのだろう。
「うおぉぉぉ!!!」
僕は球体に向け、剣を振り下ろした。剣は見事、球体を捉えることができたが、その剣に手応えはなかった。
「外した。」
「後ろだ。」
僕はその言葉が聞こえると、反射的にその場から飛翔した。直後、僕がいた場所から大量の鎖が出現した。
「ち、ちょこまかとうざいやつだ。」
大量の鎖の中から現れたのは闇と光を纏った勇者様だった。ただ、その闇と光は本当に勇者様に纏わり付いているだけだった。
僕の『風装化』に比べればその精度は些細なものだろう。しかし、それでも相手は格上の勇者様だ。その程度の差はもともとのステータス値で埋まるだろう。
「今のは危なかったよ。さすが勇者様といったところだね。」
「ほざけ!」
勇者様は空中にいる俺に向かって、鎖を飛ばしてきた。鎖は空中を逃げる俺の後をしっかりと追いかけてきている。
俺は後ろからやってくる鎖を回避し続ける。しかし…。
「前を見ろ馬鹿が。」
僕が前を向いた直後、体に強い衝撃がはしり僕は地面に墜落した。
「くっ!?」
体を起き上がらせようとする僕にすかさず鎖の追い討ちがやってくる。
鎖は僕の体に向かって飛んでくる。僕は回避をしようとするが、思っていたよりも先ほどの攻撃が聞いていたらしく、体が言うことを聞かない。
しかし、鎖は待ってくれない。鎖は僕を捉えた。そして、体中に巻きつき、僕の動きを止めた。
「が…。」
「これでお前もおしまいだな。“我が闇よ、槍となりて我が敵を打て”『ダークランス』」
僕に向かって無数の黒い槍が放たれた。それはさながら槍の豪雨のようだった。
降り注ぐ槍に僕はされるがままの状態だった。
「終わりだな。」
ようやく勇者様の攻撃が終わった。しかし、僕の姿は砂埃に隠れ、視認することはできなかった。
「おい!これで俺の勝ちだろ!」
「いえ、まだ判断しかねます。」
「ちっ!」
勇者様は舌打ちをし、砂埃が晴れるのを待っていた。
このとき、会場のほとんどの者は僕の敗北を予想しただろう。それは勇者様も同じだ。それが仇となった。
砂埃が晴れるとそこには…。
「ちっ!こいつ!」
勇者様は再び舌打ちをする。なぜなら僕が倒れることなく、その場に立っていたからだろう。
「はあ…はあ…。」
正直に言うと危なかった。とっさに『風装化』に流す魔力を上昇させることで何とか勇者様の攻撃を耐えたが、おかげで魔力は3分の1程度しか残っていなかった。
勇者様は僕を見て、その場に立ち尽くしている。
あの勇者様は少しのことで動揺しすぎだ。おかげで隙を見つけやすい。
僕は砂埃が晴れるまでの間、必死に勇者様を倒す方法を考えた。
(勇者様に回りくどい攻撃をしようと塞がれてしまう。なら……。)
僕は静かに魔力を剣へと集中させた。『風装化』も僕の全体を覆うことをやめ、僕の腕と剣のみに集中させる。
一撃。それに僕は全てをかける。
僕は勇者様の一瞬の隙をつき、全魔力を込めた一撃を放った。
「はぁぁああ!!!」
僕が放った一撃は勇者様めがけ飛んでいく。
「こ、こんなもの!」
勇者様は手に持っていた斧でその一撃を受けた。勇者様は見事その一撃を止めた、ように一瞬見えた。
僕の一撃は勇者様を少しずつ後方へと追いやっていく。
「こ、こんな、こんなもので、俺様が負けるかああ!!!」
次の瞬間、攻撃に耐えきれなくなった勇者様は風の中へと巻き込まれていった。そして、勇者様はそのままの勢いで空高くへと打ち上げられた。
少しずつ高度を下げ、落ちてくる勇者様。僕はその姿から目を離さなかった。地面に落ちてもしばらくは警戒を怠らない。
会場にいる全てのものが勇者様の様子を確認している。
「…………。」
勇者様に動く様子はなかった。そして…。
「し、試合終了!!!何と言うことでしょうか!!!この試合を制したのは1-B代表“ルネ・サテライト”選手だあ!!!」
「「「うおぉぉぉ!!!」」」
会場中から歓声が上がった。しかし、そんな歓声も僕の耳には届かなかった。
「アスモデウスさん。」
僕はアスモデウスさんの方を向いていた。アスモデウスさんはそんな僕を見て、口を開いた。
何を言ったのか、聞こえたわけではない。それでも僕には何と言ったのか、わかった。
『よく頑張りました。さすが自称騎士様のルネですね。』
明らかに一言余計だった。しかし、それでこそアスモデウスさんだ。
僕はアスモデウスさんへ、今できる最高の笑顔を見せ、意識を失った。
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ーーーイヅナSIDEーーー
(たいしたものだった。)
俺がルネの戦いを見終わった後に思ったことだ。
少し前まではただの学生(とは言ってもカラドボルグ魔法学園に通えるだけの力はある。)だったルネが短い期間の間に勇者に勝つまで成長したのだ。
「どうですかイヅナ様。私の訓練兵は凄かったですよね。」
自信満々に聞いてくるアスモデウス。というか、まだその設定は存在していたのか。
「はい。きっと、自称騎士から本物の騎士へと近づいたでしょうね。」
「当たり前ですよ。わ・た・し・が!教官なんですからね。」
「本当にたいしたものです。ルネは。」
「あれ?おかしいですね。私も頑張ったんですけど。」
「ルネは凄いです。」
「イヅナ様〜。誰かのこと忘れてませんか〜。」
俺はそんなアスモデウスを無視しながら、ルネを見ていた。
(ルネはもしかしたら大物になるかもな。)
ふっと思ったことだったがこれが間違いではなかったと後々知ることになるとはこのときの俺は知る由もなかった。
「ふざけんじゃねぇ!」
ルネから少し離れた場所で大声をあげるものが1人いた。
杉本だ。
「どうしたんですか?彼は。」
「何でも試合結果に納得いかないみたいですよ。」
俺の問いにアスモデウスがこたえる。
「あいつは不正をした。そうに決まってる!そうでもなければ俺が負けるわけないだろ!」
「し、しかし、試合はもう終わりましたので…。」
杉本の行動に運営委員の人が困っている。
「なら、今倒せばいい。」
次の瞬間、何を考えたのか杉本は意識のないルネに向かって、攻撃を仕掛けた。
「“我が闇よ、槍となりて我が敵を打て”『ダークランス』」
黒い槍がルネめがけ放たれた。が…。
「敗者が何を言っているんですか?」
その槍は全て俺によって塞がれた。俺は杉本が詠唱を始めると同時にルネとの間に移動していたのだ。
「なっ!?てめえは。」
「さあ。約束です。私の言うことを聞いてもらいますよ。」
俺は試合前に決めた。約束をここで提示した。
「はっ!そんなもの知るか!それに俺はお前に負けたわけじゃ……。」
杉本の言葉は最後まで続かなかった。
「いい加減にしろ。」
俺は杉本の後ろに回り込み、喉元に邪神剣“ダーインスレイブ”を向けた。
少し頭にきていたため口調が男に戻っていたが、周りに聞こえないよう、最低限の注意は払った。
「お前の負けだ。約束は守ってもらう。」
「……ちっ。」
杉本もこのまま抵抗してもどうにもならないと察したのだろう。舌打ちをしたものの大人しくなった。
「で、何をやらせる気だ。」
「土下座しろ。学園の全員に向けて。自分の今までの行為を反省しています。すみません、と。」
「何で俺様がそこまで…。「やれ。」
俺は軽く“威圧”をした。こうでもしなければ杉本はいつまで経ったも土下座をしないだろう。
「………。」
杉本はゆっくりとその場に座り込み、そして……土下座をした。
「すみませんでした。」
杉本のこの行為に会場の全員が驚いたことだろう。あの勇者たちの中でいつも自分たちをコケにしてきたものに、突然謝られたのだ。
誰かが口を開く前に、杉本は土下座をやめ、俺を見た。その目には怒り、憎しみ、そう言ったものが感じられた。
しかし、まだ俺に向けられてよかった。これでルネにはとりあえず危害を加えることはないだろう。
杉本は会場を去って行った。
「イヅナ様〜。」
杉本の姿が見えなくなると、アスモデウスが声をかけてきた。
「何ですか?」
「ナイスです。」
そう言ってアスモデウスは右手を出し、親指を立てた。
そして、それに続くように会場から様々な声があがった。
「よくやった。」
「ルネを守ってくれてありがとう。」
そして、会場中から大きな拍手が送られてきた。
体が勝手に動いてしまい、流れでやってしまったことなので、拍手をされると何だかこそばゆかった。
しかし、悪い気はしなかった。
こうして、ルネと杉本の試合は幕を閉じたのであった。