気がついたら半人でした
俺は“マジックスターチ”の予選を見た後、選手の控え室に来ていた。 本当ならば今“マジックスターチ”の予選第2戦目を観戦する予定だったのだが、思わぬことが起きたのだ。
「まさか、ムハルさんが予選で敗退するとは思いませんでしたね。」
そう、ムハルは何と初戦で敗退したのだ。どうやら朝から体調が優れなかったらしく、それでも無理して出場したらしい。
ダン達からはそれならそうと言ってくれればと言われていたが、ムハルは……。
「イヅナさんが応援してくれるのに出場しないわけにいかないでしょう!!!」
と言って、ボコボコにされていた。体調が優れないと言っていたのに容赦はなかった。
というようにいろいろあって1-Aは予選で敗退した。そして、俺は特にやることもなかったので早めに控え室に来たのだ。
とは言っても競技が始まるまでにまだ少し時間がある。俺は時間潰しのために時間まで散歩することにした。
(特に行くところもないな。そういえば、アスモデウスがルネに試合前になんかするって言ってたな。)
俺はアスモデウスのもとに向かうことにした。アスモデウスの位置は『アブソース』『ウボ・サスラ』を使えば簡単に分かる。確かアスモデウスは試合前にルネにアドバイスをしてくると言っていた。
(アスモデウスは本当に付き人なのか?)
俺は歩きながらふっとそんなことを思った。
最近、主人の俺と一緒にいる時間よりも、ルネと共にしている時間の方が長いような気がする。別に俺はアスモデウスの行動などに制限を付けるつもりもなく、ルネと行動を共にしてくれても良いのだが、彼女は俺の付き人ということを忘れているのではないかと考えてしまう。
そうこう考えているうちにアスモデウスの姿が確認できる位置まで来ていた。声をかけようと思った俺だが、何やらアスモデウスがルネの手を握り、語りかけている様子を見て、声をかけるのをやめた。
アドバイスをに行くと聞いた俺だから何とかルネを慰めているのだろうと予測できるが、何も知らない者から見たら、勘違いされかねない状況だ。
「イヅナ様、覗き見は良くないですぞ。」
と、後ろから俺に声をかけてくる人物?がいた。
「そう言うとミノ太はどうなんだ?」
何故俺がミノ太のことを知っているのかと言うと、アスモデウスにルネを何と戦わせているのかと聞いたためだ。
とんでもない化け物もルネを戦わせているのでは無いかと心配で質問をした俺だったが、まさか人語を話すミノタウロスが出てくるとは思わなかった。
「我は少年の最後の訓練をしていたのですが、アスモデウス様と少年がいい雰囲気を出していたので、空気を読んで、逃げて来たわけです。」
「なるほどな。」
「はい。」
俺とミノ太はじっとアスモデウス達の様子を見ていた。そして、5分ほど経ってルネがアスモデウスに礼を言って、競技場の方へと向かって行った。
俺はルネが見えなくなったのを確認してから、アスモデウスの所まで移動した。
アスモデウスは俺の存在に気づいていたようで俺が出て行くと、アスモデウスもこちらに向かって来た。
「何を言ってやったんだ?」
「アドバイスです。」
「そんなことを聞いてるんじゃなくてだな…。」
「そんな大したことは言ってもませんよ。ただ、彼がどうしたいのかを聞いて、迷いを消してあげただけです。本当にそれだけです。」
俺はアスモデウスからアドバイスの内容を聞き驚いた。
「な、何ですか、何でそんなに驚いてるんですか?」
俺はそんなアスモデウスの言葉に応えることなく、アスモデウスをじーっと見ていた。そして……。
「お前本当にアスモデウスか?」
「正真正銘、イヅナ様の恋人のアスモデウスです。あ、もしかして最近ルネと一緒にいすぎて嫉妬しちゃいましたか?そうですか、そうですか、しょうがないですね〜イヅナ様は。良いですよ、思いっきり甘えて良いですよ。」
アスモデウスはそう言って、両手を広げた。
「あ、いつものアスモデウスだ。」
いつもならがっかりするアスモデウスのそんな様子を見て、このときばかりは少しだけホッとした俺だった。
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俺はアスモデウスと少し話すと会場へと戻って来た。思っていたよりもアスモデウスとルネは話をしていたらしく、気がついたら試合開始まで30分程度しかなかったのだ。
俺が控え室に着くと部屋の中には4人の女性選手がいた。1年が1人、2年が2人、3年が1人だ。
何故女子しかいないかというと控え室が男女別に分かれているからだ。つまりこの学園では女ということになっている俺の控え室は女性用の控え室となるのだ。(元)男の俺が女性用の控え室に入るのは抵抗があるのだが試合前に1度全員で点呼を取るというのだ仕方ない。そう、仕方ないのだ。
俺が控え室に来て5分ほどたって闘魔祭運営委員?というもの達が点呼にきた。
「最終点呼を行います。集まってください。」
選手達は運営委員を中心に集まってきた。
「それでは、1-A代表“イヅナ・ルージュ”選手。」
「はい。」
「いますね。はい。では、次に……。」
点呼は名前を読んで選手がいるかどうか確認する簡単なものだった。点呼が再度のルール確認をした。
「それでは早速本日1試合目のイヅナ選手は移動を始めて下さい。」
「はい。」
俺は運営委員に言われ、移動を開始した。
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「いよいよですね、イヅナ様。」
「そうですね。」
現在、俺はこれから始まるルネと杉本との試合を見るため観客席に来ていた。
自分の試合はどうしたのか?そんなもの10秒も掛からずに終わった。
「アスモデウスさん、ルネさんとだいぶ話していたようですが、彼は大丈夫なのですか?」
「さあ?どうですかね。」
そう言ってアスモデウスは腕を組んで考えるような仕草をした。
「…………。」
俺はアスモデウスの言葉を聞き、急にルネが心配になった。
確かにルネは強くなったのだろう。アスモデウスが自慢までしてくるほどだ。しかし、今回の相手は勇者だ。彼らの実力はこの世界の人間からすれば常識外れなもののはずだ。
実際に俺は歩と颯太の訓練を見た。あの2人はエスカ王国騎士団長のガゼルよりも明らかに強かった。そんな2人と同じ勇者の杉本。彼もそれなりの実力は持っているはずだ。
ルネのことを心配していると、アスモデウスが俺の肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。多分……。」
「多分なのか……。」
やはり心配だ。
「私の場合、ルネのステータス見れませんからね。正直、何となくでしか予想できません。」
「アスモデウスさんはステータス見れないのですか?」
「はい、私はそう言ったスキルを持ってませんからね。」
「そうなんですか。」
俺は自分が余りにも簡単にステータスを確認できるため、誰でも気軽に出来るものだと思っていた。
「なら、今ルネさんのステータスを確認して見ますか。」
「あ、私も気になります。」
「それでは彼が入場して来たら確認しましょう。」
俺がそう言った直後、タイミングよく選手の入場が開始した。
俺は入場を始めたルネ、杉本2人のステータスを確認した。
【ルネ・サテライト】
種族:半人
性別:男
レベル:320
攻撃力:36000
防御力:37000
魔攻撃:32000
魔防御:37000
魔力:41000
俊敏:41000
運:5
【能力】
ユニークスキル
『風操者』
『黄泉之者』
エクストラスキル
『剣王レベル2』
スキル
『風魔法レベル50』
【杉本 健二】
種族:勇者
性別:男
レベル:560
攻撃力:43000
防御力:42000
魔攻撃:43000
魔防御:45000
魔力:42000
俊敏:40000
運:500
【能力】
ユニークスキル
『裏切者』
エクストラスキル
『斧王レベル61』
スキル
『光魔法レベル80』
『闇魔法レベル86』
俺は2人のステータスを見て、驚いた。と言うよりもルネのステータスを見て驚いた。
杉本は勇者と言うこともありこの程度のことは予想できていたが、ルネに関しては予想以上のステータスを見せてくれた。
ルネはこの世界にいる人間だ。この世界の人間の一般なステータスは50前後だ。その中でたまにこの学園にいるようなステータス値で言えば、1000程度の生徒が出てくる。そこから鍛錬を組んでいくことで人によっては王国騎士団長のガゼルのように10000を超える者も現れてくる。そう、王国騎士団長でさえ10000程度が限界なのだ。
しかし、今のルネはそんなものをゆうに超えていた。さらにはユニークスキルだ。彼は間違いなくこの世界の現住人の中では最強クラスの者となっているはずだ。俺はこのことについてアスモデウスに聞くことにした。
「どうすればあそこまでステータスが上がるんですか?それに半人って……。」
ルネはもう人間ではなかったのだ。
「そ、それは……。あれですよ…その…。」
アスモデウスは目を泳がせながら必死に言い訳を考えている様子だった。そして、10秒ほど考えた結果が…。
「企業秘密ってやつですよ。」だ。
教えまいと誤魔化そうとするアスモデウス。無理矢理にアスモデウスから聞こうとした俺だったが、『アザトース』が『ネクロノミコン』をピックアップしたのでやめた。
俺は早速、『ネクロノミコン』を使い、ルネの異常なステータスについて調べることにした。
【ルネ・サテライト】
・彼は父“サハ・サテライト”と母“マディ・サテライト”の間にできた長男。
どうでもいい情報が流れてきた。その後もしばらくはどうでもいい情報ばかりが流れてきた。俺はその情報をひたすら無視し、ようやく本命の情報へとたどり着いた。
・訓練を積み重ね、死を経験したことにより、人間の枠を抜け出す。
どうやら彼はすでに死んだことがあるらしい。これには驚きだ。あとでアスモデウスにお仕置きが必要だな。
その後も『ネクロノミコン』を使った。そして、以下のことを俺は知った。
まず、ルネのステータスについてだ。
本来、ステータスを持つ全ての存在はその存在が生まれたときからステータスの限度というものが決まっているらしい。しかし、ルネは死ぬ後に蘇るという本来ありえないことをしたのだ。
それにより彼の中にある人間の限界というものは無くなったのだ。そして、そんな彼が人間という種族におさまるわけもなく、ましてや他の種族に変わることなどできない。
それでなんとか行き着いた種族というのが半人ということだ。
俺はこのことを知り、心が痛んだ。
そもそも、ルネがこんなことになったのは俺とアスモデウスの軽い気持ちで始めた勇者、杉本に仕返しをしようとした頃から始まったのだ。
そんな思いつきのことで、彼に人間をやめさせることとなってしまった。
俺はこの試合が終わったらルネに謝ることにした。そんなことで許されるわけでもないが、そうでもしないと俺の気が済まない。
「ごめんなさい。ルネさん。」
試合後に言おうと決めてすぐに自然と口から声が出てしまった。
「イヅナ様!」
突然かけられた声に俺は思わず、ビクッとなった。
「な、何ですか?」
「早く、私にもステータスを教えてくださいよ!ステータスを見るとか言った後、何にも言わないじゃないですか!早くしないと試合が始まっちゃいますよ。」
アスモデウスが頰を膨らませながら、そんなことを言ってきた。
俺は思わず、アスモデウスにルネのことについて色々と言いたくはなったがやめた。
アスモデウスに何か言うのも、ルネに謝るのも、全てこの試合が終わってからだ。今は俺も彼を全力で応援しよう。
「そんなことよりもアスモデウスさん、応援しますよ。」
「もちろんです!ルネ〜!!!負けたら許しませんよ〜!!!」
「それは応援ですか?」
そんなことを言っていると、ルネと杉本が互いに位置につく。
「2人とも準備はよろしいでしょうか?」
ルルネットさんにルネも杉本は頷く。
「それでは双方、武器を構えてください!」
2人が武器を構える。合図がくるまでのこの時間、会場は静まり、静寂が訪れる。
そして……。
「始め!!!」
試合の幕が切って落とされた。
この度は更新が遅くなりました、すみません。
次話は明日更新する予定です。