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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
45/164

気がついたら優勝でした

  “闘魔祭”2日目。俺はすでに競技会場にいる。


  「今日は昨日よりも試合数が多いですね。」


  「……そう……ですね。」

 

  今日の競技は“スピードシューティング”、“マジックデュエット”、そして、“マジックスターチ”の3つだ。

  今日初戦が行われる“マジックスターチ”は魔法を使い、像などの芸術作品を作る競技だ。ちなみにAクラスの代表は委員長のムハルだ。

  正直にいうと、俺はこの種目に興味はないが、昨日ニエーゼ達が勝手に俺も応援に行くとムハルに言ってしまったのだ。別に断ればいいのだが、俺が応援に行くと聞いたときの嬉しそうなムハルの顔思い出してしまうため今の俺にはできない。

  俺がそんなことを思い出しつつ、ため息をすると俺の右隣に座っているミカエルが


  「……イヅナ……どうしました?」


  「少し考え事をしてました。」


  「……そう……ですか。」

 

  ミカエルはそれだけ言うと前に向き直った。俺もそれに続くように前を向く。

  今日行われる最初の競技はアスモデウスが出場する“スピードシューティング”の決勝戦だ。そのため、朝早いというのに学園内は人で溢れかえっていた。おかげで会場までの移動が大変だった。ミカエルと一緒に来ていたのだが、危うくはぐれてしまうところだった。


  「あ、す、す、すみましぇん。」


  ちなみに俺の左隣で隣の人に肘が当たってしまい、慌てているのはニエーゼ達とはぐれてしまったカレッタだ。

  会場までの道で偶然、1人あたふたしているのを俺とミカエルが見つけたのだ。


  「カレッタ、もう少しこちらによっても良いんですよ。」


  「え、えっと、は、はい。」


  カレッタは目を閉じ、俺に密着した。


  「さ、流石にそこまでは…。」


  「あ、す、す、すみません!」


  カレッタは俺からすぐに離れようとして、反対側の席の人に当たってしまった。

  この子にはもう少しだけ落ち着いて行動できるよう心掛けて欲しい。


  「ひゃっ!」


  そんなことを考えていると会場が暗くなり始めた。昨日と同じ演出なのだが、それでもカレッタは驚いたようだ。

  カレッタが周りの人達にペコペコと謝っていると、実況のルルネットの声が響いた。


  「さあ〜皆さん!!!ついにやってまいりました“スピードシューティング”決勝戦!!!私はあまりの興奮に心臓が張り裂けてしまいそうです!!!皆さんはどうでしょうか?」


  返事と言わんばかりに歓声が上がった。すごい盛り上がりだ。


  「それでは早速、選手達に入場して貰いましょう!!!」


  ルルネットがそう言うと3人の選手がライトアップされながら入場を開始した。選手達の登場に再び会場が湧いた。


  「時間が勿体無いので今のうちに選手紹介、決勝戦のルール説明をさせて頂います。

  まずは選手紹介から。1年代表“アスモデウス・ルージュ”選手!2年代表“ノーティー・ヤナカ”選手!そして、3年代表“フィナ・ジルリア”選手!以上の3名が決勝戦に出場する選手達です!」


  選手紹介をしている間に選手達は定位置までの移動を終えたらしく、会場が明るくなった。それぞれこれから始まる競技に向け、最後の仕上げ?とでも言うのか魔力を軽く流したり、軽く動いたりしている。

  アスモデウスは観客達に手を振っている。お前も少しはそれっぽいことをしろよ。そんなことを思い、アスモデウスを見ているにらんでいると目があった。アスモデウスは俺に投げキスをしたきたが、俺はそれを掴んで捨てる動作をした。

  俺はアスモデウスが少しばかり落ち込むと思っていたのだが、逆にアスモデウスは嬉しそうにニヤニヤしながらこちらを向いて何か言っているようだった。

  念話を使ったわけでも、声が聞こえたわけでもないが、あいつが何を言ったのかはわかった。


  『もう、イヅナ様ったら照れちゃって〜、可愛いですねえ。』


  俺はアスモデウスから目をそらした。


  「次に決勝戦のルールについて説明をします!」


  ルルネットがニック先生に今日の試合がどうなるか予想を聞いていたらしく、説明は、まだしていなかったらしい。


  「まず、決勝戦は3名同時の試合となり、制限時間は変わりません。選手達には正三角形の頂点に位置する場所に立って貰います。そして、三角形の中に現れる的を破壊してください。またの数はなんと100個となっております!予選よりも集中力、胆力が必要となります。選手の皆さんは頑張ってください!」


  その言葉に選手達(アスモデウス以外)の顔は真剣なものとなり、緊張感が出始めた。


  「それでは早速始めましょうか。選手の皆さん!準備はよろしいでしょうか。」


  「大丈夫ですよ〜。」


  「俺も問題ない。」


  「………(コクリ)」


  「それではいきますよ。“スピードシューティング”決勝戦始め!!!」


  決勝戦の戦いが今始まった。


  「我が雷は槍、“サンダーランス”」


  最初に魔法を発動させたのはフィナだった。短い詠唱で放った“サンダーランス”が次々と的を破壊していく。


  「おおーっと、フィナ選手、序盤から凄い勢いで的を破壊していく。それに続く、ノーティー選手も的確に的を破壊!そして、アスモデウス選手は………今回もまだ動いておりません!」


  他の選手が的を壊していくなか、アスモデウスはただ立っているだけだ。しかし、その様子を見て、野次を飛ばすものはいない、昨日のアスモデウスの結果を見て、観客は彼女が魔力を溜めていると思っているからかもしれない。

  まあ、まだ試合は始まったばかりだ。結果が決まったわけではない。

  と、ここで試合に動きがあった。


  「これはなんと言うことでしょう!ノーティー選手の的を壊していく速さが上がったあ!!!」


  2年代表のノーティーが仕掛けてきた。彼は何と無詠唱で魔法を放ち始めた。

  詠唱がなくなるのだから、的を破壊するのが速くなるに決まっている。しかし、彼の顔から相当にきついことが伝わってくる。恐らく、詠唱をしないことで魔法一回に必要な魔力の量が増えたのだろう。

 

  「これはわからなく、なってきましたねえ。」


  ニック先生は嬉しそうに言った。


  「そうですねえ。と、ここでアスモデウス選手にも動きがあります!!!」


  観客達の視線が一気にアスモデウスに集まる。そこには、巨大な火球を作り上げているアスモデウスの姿があった。


  「これは凄い魔力ですね。しかし、この火球では大した量の的を破壊できないのではないでしょうか?」


  「そうですねえ、確かにあの大きさの火球、4、5メートルくらいでしょうかね、それでも的はあまり破壊できないですねえ。もしも、あれが大きな爆発を起こすなら60個近い的を破壊できるかもしれませんが、その場合、他の選手の的も同時に壊してしまいます。」


  ニック先生が言った通りだ。確かにあの火球が放たれても、大した量の的を破壊できないだろう。しかし、アスモデウスでもそのくらいはわかっている。そんなことを考えているとアスモデウスが火球を放った。


  「ついに火球が放たれたあ!!!しかし、どう言うことでしょうか、火球は的めがけて飛んでいくのではなく、真上に向かって進んでいきます。」


  そう、アスモデウスは火球を上にはなった。会場にいる全員の目はその火球に集まる。そして、ある程度の高さまで上がった火球は空中で停止した。

  それを確認したアスモデウスは右手を上げ、指を鳴らす。


  パチン!


  この音が会場に響いた。次の瞬間、火球が空中で爆発した。


  「な、何と言うことでしょうか!!!空中で爆発してしまいました!これは失敗ということでしょうか?」


  ルルネットはそういうが違う。それに気づいたのはニック先生だった。


  「ん?こ、これは!?」


  「ど、どうしましたか?ニック先生!」


  「ルルネットさん、あれを見たまえ!」


  「あれ?」


  ルルネットが正面に向き直った。するとそこには空中で爆発した火球が小さく分裂し、的めがけ飛んでいく光景があった。

  別れた火球は『色欲之神』の力により、的めがけ、寸分の狂いもなく飛んでいく。


  「何ということでしょうか!!!アスモデウス選手が出した火球はただ爆発しただけではなかったようです!!!次々と的を破壊していきます!!!」


  アスモデウスの猛烈な追い上げに他の選手が焦る。そのせいかフィナが的を外し始めた。


  「…はあ…はあ…はあ。」


  「くそ!」


  フィナは息を切らしながら、ノーティーは悪態をつきながらも、魔法を放つ。しかし、アスモデウスのスピードを上回ることなど出来るわけもなく……。


  「ここでアスモデウス選手が的を全て破壊した!やって、今年の“スピードシューティング”優勝は1-A代表“アスモデウス・ルージュ”選手だあ!!!」


  アスモデウスはガッツポーズを決めていた。


  「続いて的を破壊し終えたのは2-A代表“ノーティ・ヤナカ”選手だあ!!!」


  ノーティーは魔力切れを起こしたのか、最後の的を破壊した後、倒れてしまった。

  そして、3-A代表のフィナは勝敗が決まると的を破壊するのをやめた。そんな彼女を見ていると、頰を涙が伝っていったのがわかった。

  彼女は3年だ。それなりにこの“闘魔祭”に思い入れがあったのだろう。彼女は服の裾で涙を拭き取ると、会場を後にしていった。

 

  「これで“スピードシューティング”決勝戦を終わります!この後は“マジックスターチ”予選をやります。競技開始までには少し時間があります。トイレなどを済ませておいて下さいね〜。」


  こうして、“スピードシューティング”は幕を閉じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  会場から出るとそこにはアスモデウス、ニエーゼ、ソーマの3人がいた。

  そちらに向かって歩いていくとアスモデウスが気づいたようでこちらに走ってきた。


  「イヅナ様〜〜!!!」


  満面の笑顔で俺に飛びついて来ようとしたので、俺はそれを避けた。


  「へぶ!」


  アスモデウスは見事に地面とキスをした。


  「な、何で避けるんですか!?」


  「いや、何となく。」


  「ひ、酷いですイヅナ様、私優勝したんですよ?優勝ですよ?凄いんですよ?ご褒美くれても良いんですよ?」


  アスモデウスはそう言いながら顔をどんどんと近づけてくる。気づけば、ニエーゼ達も俺の周りに来ていた。カレッタはニエーゼに泣きながら抱きついていた。


  「ご、ご褒美ならあるじゃないですか。」


  「?あるんですか?」


  俺がこの話題を出すと、1人の人物がここから離れようと移動を始めた。


  「ニエーゼ?ど、どこにいくの?」


  カレッタの呼びかけにニエーゼは足を止める。


  「え?えーっと、あーそうだった!私、ムハル君にお弁当を届けないと行けないのよ。」


  「え?それはダンさんの仕事の筈だよ?」


  「…………。」


  何も言えなくなり、固まるニエーゼ。


  「アスモデウス、確か試合が始まる前にニエーゼとケーキどうとかって約束しませんでしたか?」


  「………あ!そうです!私、ニエーゼにケーキ奢ってもらうんでした!」


  「き、気づかれた!それじゃあ皆、私はこれで。」


  ニエーゼは風のように人の波の間を走り抜けていった。


  「あ、こら!待ちなさいニエーゼ!」


  アスモデウスもニエーゼを追いかけて行ってしまった。


  「イヅナちゃん中々酷いことするねえ。」


  ソーマが笑いながら言う。


  「約束を守らない方が十分悪いと思いますよ。」


  「そうだねえ。」


  そこで俺はふっと昨日のことを思い出した。


  「そう言えばソーマ、昨日アスモデウスとルネのところに行くとか行ってましたけど、どうなったんですか?」


  「あ〜、あれね。実は僕たちアスモデウスさんを見つけられなかったんだよ。それで結局わからずじまい。」


  「そうでしたか。」


  恐らく、アスモデウスがルネを見つけたや否や、ルネを連れて訓練にでも向かわせたな違いない。


  「まあ、また機会があれば聞くことにするよ。」


  「ほどほどにした方がいいと思います。」


  「僕もそのつもり。」


  「イヅナちゃ〜〜〜ん!!!助けて〜〜〜!!!」


  俺とソーマが話をしている間にニエーゼはアスモデウスに追いかけられながらこちらに戻って来ていた。

 助けを求められた俺だが……。


  「ソーマ、カレッタ、ミカ、行きましょうか。」


  「そうだね〜。」


  「え、でも2人が……。」


  「……はい……行きます。」


  俺達はニエーゼを無視して、会場へと戻って行った。


  「む、無視しないでよ〜!」


  「待ちなさい!ニエーゼ!」


  「また、今度今度おごるから〜、アモちゃん落ち着いて〜!」


  この後もニエーゼは10分ほどアスモデウスに追いかけられたらしい。

 

 


 


 


 

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