気がついたら予選でしたーイヅナ編ー
“スピードシューティング”の予選。結果はまあ言わなくても分かるだろう。
「では本日、“スピードシューティング”の予選を勝ち抜いた選手たちを紹介します!」
実況のルルネットがそう言うと、3人の選手がライトで照らされた。
「ではまず、1年生の代表は1-Aから“アスモデウス・ルージュ”選手!」
今名前が呼ばれた通り、アスモデウスは予選を勝ち抜いた。まあ、もはやあれは勝負ではなかった。
アスモデウスは予選の試合全てを余裕で勝った。他の学年の試合も見たが、あそこまで圧倒的な実力差が目に見えて分かる試合は他にはなかった。
「続いて、2年生代表!2-Aから“ノーティー・ヤナカ”選手!3年生代表!3-Aから“フィナ・ジルリア”選手!この3名が明日行われる決勝戦で優勝を争います!。解説のニック先生!先生は明日の決勝戦、どうなると思いますか?」
ルルネットは響音石をニックに向ける。
「そうですねえ。単純に予選のタイムで競うとすれば、フィナ選手が勝つでしょう。」
予選のタイムは速い順にフィナ>アスモデウス>ノーティー、と言った順だ。アスモデウスは全力を出していたわけではないが、それでもアスモデウスよりもタイムが速いフィナは大したものだ。彼女は“雷魔法”を使用していたのだが、発動までの時間が速く、そして、狙った場所めがけ一直線に飛んでいく。それを無駄のない動作で使用することで、彼女は制限時間の半分、つまり2分半ほどで全ての的を破壊することが出来たのだろう。
アスモデウスとの予選のタイム差は1分以上。決勝戦もこのままならば勝ち目がない。しかし…。
「しかし、まだ選手たちが全力を出したわけではないだろう。もしかしたら隠している力はこの3人の中で最もタイムが遅かったノーティ君が隠している力が最も多いかもしれない。つまり、僕にもまだ予想は出来ないと言うことだ。」
「なるほど!つまり明日は誰が優勝してもおかしくない!そう言うことですね?」
「そう言うこと。」
ニック先生はルルネットにウィンクをしながらそう言った。
「わかりました。まあ、何はともあれこれで“スピードシューティング”の予選を終了します!続いての“マジックデュエット”の予選までは少しだけ時間があります、この好きに生徒達が運営している模擬店にぜひ足を運んでみてください!」
“闘魔祭”は期間中、丸1日競技がある。そのため、わざわざ足を運んできた一般の方のためにそれぞれのクラスがも模擬店を出しているのだ。
「それでは、皆さん!移動はゆっくりでお願いします!」
ルルネットのこの言葉に席に座っていた人たちが一斉に移動を始めた。
「……イヅナ……行きましょう。」
「そうですね。」
ちなみに今この場には俺とミカエルしかいない。アスモデウスは選手紹介に行き、3人組は模擬店へ一足早く行ってしまったのだ。
「ミカエルは何か食べたいものとかありますか?」
「……特に。」
「では、適当にぶらつきますか。」
「……はい……そうします。」
俺はミカエルの手を取り、会場を後にした。
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「意外と種類がありますね。」
俺は今、ミカエルとともに模擬店の近くにいた。
「……そう……ですね。」
「とりあえず、AクラスとBクラスの模擬店でも見に行きますか。」
「……イヅナに……任せます。」
「はい。では行きましょう。」
俺達は人混みに紛れながらも進んで行く。しっかりとミカエルの手を繋ぎ、はぐれないよう心がけながらA、Bクラスの模擬店を目指す。が、その歩みはミカエルによって止められた。俺は少しだけ後ろにひかれてしまった。
「どうしたんですか?」
「…………。」
俺の言葉が耳に届いていないのか、ミカエルはこちらに見向きもしない。
「ミカ?」
「…………。」
再び話しかけるも、反応は無い。ずっと同じ方向を向いている。俺は反応がないミカエルの視線の先に何があるのか、確認してみた。
『2-Bクラス 喫茶店』
そこには屋根のないスペースに喫茶店があった。とても開放感がある。
そして、看板のメニューを見ていく。
・コーヒー
・ショートケーキ
・パフェ
・〜〜〜
・〜〜〜
俺はそこで気づいた。ミカエルがずっとあの店を見つめているのか。
「ミカ、もしかして、パフェが食べたいのですか?」
俺の言葉、ではなくパフェという単語にミカエルは体をビクッと反応させた。
「…………。」
しかし、それだけでミカエルは何もいわない。俺はそんなミカエルが少しだけ面白く見え、つい笑ってしまった。
「ミカ、まだ時間もありますし、あのカフェによりますか?」
「……より……ましょう。」
俺とミカエルはそのカフェに寄ることにした。
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「…………。」
「……ん?……どう……しましたか?」
「い、いえ何でもありません。」
「……そう……ですか。」
ミカエルはそう言って再びパフェを食べ始める。ちなみにミカエルはこのカフェに来てから10分ほどで3個のパフェを平らげている。なぜ、俺の周りにはこんな者ばかりが集まるのだろうか。
「ミ、ミカはパフェが好きなんですね。」
「……かも……しれません。」
鼻にクリームをつけながらミカエルは言った。そして、4個目のパフェを完食した。
「そんなに食べたら他のものが食べられなくなりますよ。」
「……あ……。」
どうやら、ミカエルは他の店も回るということを忘れていたらしい。
「まあ、しょうがないですね。食べ物は無理でも店の様子だけでも見に行きましょう。」
「………。」
ミカエルは無言でうなづく。そして、今度こそ俺とミカエルはそれぞれのクラスの模擬店へと向かった。
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「意外と人がいますね。」
現在、俺は1人選手達のウォーミングアップ場にいる。なぜ、このような場所にあるのかというと。
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「あ、2人ともよく来たね…じゃなくて、イヅナちゃん!何でこんな所に来てるの!」
俺とミカエルがAクラスの模擬店に着くや否やニエーゼにこんなことを言われた。
「まだ、次の競技まで時間があるので。」
俺の出場する“マジックデュエット”まではまだ2時間ほど時間があるのだ。しかし。
「何言ってるの!選手は1、2時間前からアップに行くのが基本でしょ!」
「え?で、でも……。」
「でもじゃ有りません!」
「し、しかし……。」
「しかしでも有りません!」
「…………。」
「クラスのみんなが想いをイヅナちゃんに預けているんだから、頑張りなさい!」
ニエーゼは本当に怒っているらしい。きっとこの子は1-Aでこの“闘魔祭”を全力で楽しみたいのだろう。そのために俺に頑張って欲しいのだ。
「……すみませんでした。今からアップに行って来ますね。」
「お願いね。私、期待してるから!」
「ええ。期待には応えますよ。あ、あと、ミカのことをお願いします。」
「任せといて。」
「……イヅナ……何処か……行くのですか?」
「ええ。“マジックデュエット”に出場するんです。絶対、応援に来てくださいね?」
「……わかり……ました。」
「ありがとう。それでは行って来ます。」
俺はミカエル達に背を向け、その場を去った。
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そして、現在に至る。
「まさか、ニエーゼさんに叱られるとは思いませんでした。」
先ほどのことを思い出しながら、そんなことをつぶやく。そのとき、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「イヅナさん。あなたもアップに来たんだね。」
「はい。ルネさんもアップですか。早いですね。」
ルネは片手に剣を持っていた。
「ルネさん。もしかして、武器って持参ですか?」
「当たり前じゃないか。そうやって競技の説明をしていただろう?」
一体何の話だろう。聞き覚えがない。
「まあ、武器くらいならすぐに準備も出来ますし、大丈夫ですね。」
「それならいいと思うが。」
「それでは早速ウォーミングアップといきましょう。」
俺はウォーミングアップに取りかかろうとするが…。
「?今度はどうしたんだい?イヅナさん。」
俺はルネに背を向けた状態で固まっている。俺はゆっくりとルネの方を振り向いた。そして…。
「ウォーミングアップって何をすれば良いんですか?」
「そこからかい。」
俺はルネにらしい笑われてしまった。
「まあ、誰にでも知らないことの1つ2つくらいあるものさ。」
「そうですね。」
「では、この“ルネ・サテライト”がウォーミングアップについて、軽い説明をさせて貰うよ。」
ドヤ顔でそんなことを言うルネ。この子は少しばかりアスモデウスに似て来てはいないだろうか。心配だ。
しかし、そんなことを心配しているわけではない。それよりも、ウォーミングアップについて聞かなくては。
「とは言っても、そこまで説明するものは無いんだ。魔力を体の中で循環させて、魔力を使いやすくしたり、ストレッチをしたり、本当にそれだけだからね。」
「そうなんですか。それでは私は試合が始まるまで魔力を循環させておきます。」
「魔力の循環は試合が始まる30分前までにしておいた方が良いよ。体の中でとはいえ、魔力を使用するのとあまり変わらないからね。試合直前までやってると体に疲労が溜まってしまうよ。」
魔力は体内で使っても、消費されてしまうと言うことだろうか。まあ、それはその通りだろう。実際に身体強化などに使用する魔力も体の内側で使われている。
「それでは、30分前までにしておきます。」
「それが良いよ。」
「はい。ではお互い頑張りましょうね。」
「そうだね。」
俺はルネと言葉を交え、アップへと移った。
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アップを終え、試合開始まで10分を切った。俺は北側の入場口まで来ている。
ちなみに今はまだ、第1試合が続いている。1年生の試合ではあるが、そこは各クラスの代表だ。Cクラス対Eクラスの勝負。Cクラスの生徒の方が魔力は多いが、少し技が荒い。Eクラスの生徒は魔力こそ少ないが、繊細な攻撃を繰り出している。この勝負まだどちらが勝つかわからない、と思っている間に勝負がついたようだ。
「ここで試合終了ーーー!!!勝者はCクラス代表!“アサ・コク”選手!!!」
第1試合が終了した。やっと俺の出番が来るわけだ。しかし、少しだけ緊張をする。なぜかと言うと、あの実況のルルネットさんに何を言われるのかが心配なのだ。
そうこう考えているうちに入場の合図が出た。俺は会場へと入場した。向かい合っている相手は確かDクラスだった。はずだ、この黒っぽい髪とそうでしている武器から、死神とか言われるのでは無いだろうか。
「では、選手紹介を始めます!まずはDクラス代表!その姿はまさに命を刈り取る漆黒の死神!」
予想通りだ。
「“マーレン・コクレーン”選手!」
しかし、これだけ言われて微動だにしない死神はなかなかに強靭な精神を持っているのだろう。
「続いて、Aクラス代表!」
ついに来てしまった。
「その姿は美そのもの!神すら霞む輝きの結晶!“イヅナ・ルージュ”選手!!!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
何人もの屈強な男たちが荒い鼻息をしながら叫んでいる。
「ファンクラブからの応援も熱いですね!」
!そんなものまで出来ていたのか。初耳だ。
「それでは両者準備は良いで……「ちょっと待ってくれ!!!」
死神がルルネットの言葉を遮った。
「何でしょうか?」
「1つだけ!イヅナさんに質問をしたい!」
「あ、はい。どうぞ。」
軽い。
「イヅナさん!あなたに勝てればあなたと付き合えると言うのは本当か?」
この言葉に会場がざわめく。しかし、そのざわめきは噂を初めて聞いたから出たものではないだろう。
しかし、困ったものだ。変に誤魔化そうとしても面倒なことになりそうだし、説明するのもだるい。ならば……。
「この際なので言わせてもらいます。その噂は私は知りません。」
会場の空気が急に重くなる。
「しかし、良いでしょう。私に勝てると言うのならば、私はその相手とお付き合いでも何でもしましょう。私に勝てるのであれば。」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
俺の言葉に今までにない盛り上がりを見せる会場。
「いや〜イヅナ選手、自信に満ち溢れていますねえ。良いですねえ。私はこういうのは大好物ですよ。」
ルルネットも少しばかり声が大きくなった気がする。
「で、では、イ、イ、イヅナさん!わたしが勝ったら正式にお付き合いさせて貰おう。」
「良いですよ。」
「それでは、“マジックデュエット”第2試合を始めます!今度こそ準備はよろしいですね?」
俺と死神は無言でうなづく。
「それでは試合始め!」
合図とともに死神が闇魔法を使用して来た。
「“我が闇よ!この世界に暗黒をもたらせ!”『ブラックミスト』!」
次の瞬間、会場全体が黒い霧に包まれた。詠唱の割に地味な魔法だ。
「この空間で俺を捕らえられるものはいない!」
死神は迷わず俺の方へと向かってくる。
「おーっとこれはいきなりイヅナ選手ピンチか!?」
死神は長い剣を俺に向かい、振り下ろす。が…。
「甘いですね。」
「な!?」
俺は死神の剣を片手で止めた。
「ば、馬鹿な!?」
「それにこんな状態にしては観客の皆さんが試合を見れません。」
俺はそう言って、指を鳴らした。次の瞬間俺を中心に巨大な竜巻が発生する。
「うわぁぁぁ!?」
死神はなす術なく、風に巻き込まれてしまう。
「おーっとこれはどう言うことだ!?黒い霧が巨大な竜巻へと変わってゆく!一体中で何が起こっているんだ!?」
実況のルルネットは席を立ち、こうしているようだ。
「これほどの魔力!末恐ろしいですね。」
ニック先生は驚いてはいるようだが、ルルネットほどではない。
「そろそろ派手にいきますか。」
俺は竜巻を一点に集中させそして、一気に解き放った。その力により、黒い霧は完全に晴れてしまった。
「これはどうしたことか、会場にはイヅナ選手の姿しか見当たらない。」
ルルネットや他の生徒たちも必死になって死神を探している。
俺は親切にもルルネットの方を向き、上を指差した。
「上ですか?」
ルルネットのこの言葉に全員が空を見上げる。全員が上を見上げ始めてから、10秒ほどだったとき、空から黒い影が落ちて来た。
「うわぁぁぁぁ!!!」
ダメージを喰らわないように計算して吹き飛ばしたのがうまく言ったようだ。
俺は落ちて来た死神を見事にキャッチする。
「イヅナ選手!対戦相手でありながらも、“マーレン”選手を助けた!!!素晴らしいです!私涙が止まりません。」
ルルネットは今にも涙を、流しそうである。
「あ、ありがとう。」
「いえいえ。」
俺は死神を地面におろし、そして、胸に手を当てた。
「?」
「私の勝ちです。」
俺は風魔法を使い、壁まで死神を吹き飛ばした。
「え?」
この光景をルルネットは呆然と眺めていた。もちろん、死神は気絶している。
「死神さんは気絶していますよ。」
「……え?あ。し、試合終了ーーー!!!勝者は“イヅナ・ルージュ選手だ!!!」
こうして俺は“マジックデュエット”初戦を圧勝で終えたのだった。