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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
42/164

気がついたら“色”がありました

 

  杉本との一件があった後、俺はアスモデウスと共に最初の競技である“スピードシューティング”の会場へと向かった。この競技にはAクラス代表としてアスモデウスが出場する。そのため、アスモデウスから応援に来るようしつこく言われたのだ。


  「それにしてもやはり人が多いですね。」


  「……そう……ですね。」


  まだ、競技開始まで少し時間があるはずなのだが、空いている観客席はほとんどなかった。よく見ると生徒達だけではなく、一般の人も多数見られる。さすがは世界トップクラスの魔法学園だ。それだけ注目されていると言うことだろう。

 

  「しかし、困りましたね。」


  どうせ競技を見るならば、席に座って見たい。そのとき、近くの席から俺を呼ぶ声が聞こえた。


  「お〜い、イヅナちゃ〜ん、ミカちゃ〜ん、こっちこっち〜!」


  声のした方を向くと、ニエーゼ、カレッタ、ソーマがいた。

  俺とミカエルはその3人組のいる場所まで向かう。


  「よかった、私もしものことを考えて2人分の席取っておいたんだよ。」


  「ニエーゼ、わざわざありがとうございます。」


  「……あり……がとう?」


  「このくらいどうってことないよ。それよりも早く座った座った。」


  俺とミカエルはニエーゼの隣の席に座る。すると、ソーマがニエーゼ、カレッタを挟んで俺に話しかけてきた。


  「イヅナちゃん、それにしても大変だね〜。」


  「何がですか?」


  「何やら、杉本様に絡まれたらしいじゃないか。」


  俺はつい先ほどの出来事を思い出す。


  「つい先ほどのことなのによくご存知ですね。」


  「うん、もう学園中の噂だよ。何でもイヅナちゃんに勝ったら、イヅナちゃんと付き合えるとかどうとか。」


  「え?」


  話の内容が少しだけ変わっているような気がする。


  「え?もしかして違ったのかな?僕が聞いた噂ではそうだったんだけど。」


  「え、ええ。実際は、私と杉本様が勝負をして負けたほうが相手の言うことを聞くと言うものだったんですけど……。」


  「そうだったんだ。だけど、もうどうしようもないね。だって、噂はもう生徒達に広がってるもの。多分、1年生はほとんどその間違った噂を聞いてるんじゃないかな?」


  どうやら俺は“マジックデュエット”において、1度の負けも出来ない状況に追い込まれてしまったらしい。全く笑えない。


  「まあ、負けなければ大丈夫だよ。ハハハハ。」


  (ソーマ、人事だと思って…。)

 

  確かに人事なのだが少しだけイラっときた。そのとき、会場全体にアナウンスが響いた。


  「皆さん!大変長らくお待たせしました!」


  ちなみにアナウンス、実況、解説、には“響音石”と言われる石を使っているらしい。この石は魔力を流すことで石に伝わった音を魔力に比例して大きくする物らしい。


  「実況はこの私!3–Cのマスコットこと、“ルルネット・カタリー”が務めさせていただきます!そして、解説には我が学園の学園長!“ニック・ニク”先生をお招きしておりまーす!」


  「どうも。」


  「それでは、早速第1回戦!と行きたいところですが、ここでルール等についてもう一度説明をさせてもらいます。」


  会場からブーイングの嵐がおきた。俺はしなかったが、ニエーゼとソーマは当然のごとくブーイングしていた。


  「やかましい!それでは、ルール説明をします。本競技“スピードシューティング”は各学年ごと一対一による対戦を行います。対戦時間は最大5分。的を先に全て破壊するか、5分までにより多くの的を破壊していた方が勝ちとなります。ちなみに的の数は50個となっております。また、的は常時移動をしています、しっかりと軌道を計算して魔法を打ってくださいね。あ、後そんな事をするお馬鹿さんはいないと思いますが、一応言っておきます。対戦相手への攻撃、妨害は禁止です!良いですね?それでは、今度こそ“スピードシューティング”第1回戦を始めたいと思います!」


  「「「「わぁ〜〜〜!!!」」」


  会場のテンションが一気に上がる。


  「いよいよ始まるよ!イヅナちゃん!」


  ニエーゼが目を輝かせながら言った。


  「そうですね。アスモデウスの応援もしっかりしないといけませんね。」


  「その通り!アモちゃんには優勝したら、ケーキを好きなだけ奢るって言っておいたからね。頑張ってくれるよきっと。」


  「え、ええ。」

 

 俺の目には “闘魔祭”後に涙を流すニエーゼの姿が既に見えていた。


  「お、きたよ。」


  俺はその言葉を聞き目を向けると、北の選手入場口から会場入りするアスモデウスの姿が見えた。そして、反対側、南からは別のクラスの代表選手が入場してきた。

  そして、両者は向き合った。その間の距離およそ30メートル。意外と遠い。

  先ほどの競技についての説明ではイマイチわからなかったが、どうやら“スピードシューティング”は相手と向かい合う形でその間を浮遊する的を破壊するようだ。しかし、そうなると同じ空間に自分の的、相手の的が存在する。うまく狙って自分の的を破壊しなくてはならない。もしも、失敗して相手の的を破壊してしまった場合、自分のロスだけでなく、相手の手助けまでしてしまう事となる。


  (的当てと聞けば単純そうだが、思っていたよりも奥が深そうだな。)


  俺がそんな事を考えているとアスモデウス達選手はいつの間にかお互いの位置に着いていた。そしてその直後、選手の間に魔法陣が出来たかと思うとそこから赤と青の球体の的が出てきた。


  「それでは、準備も整いましたし、早速初めて行きましょう。まずは選手紹介!」


  その言葉ともに辺りが暗くなり、2人の選手が照らされる。


  「まずは、Cクラス代表!その冷たい瞳と、繰り出される氷魔法はもはや氷の女王の姿そのもの!“ナーヤ・アイス”選手!」


  これはなかなか恥ずかしい。氷の女王も顔が真っ赤だ。


  「続いて、Aクラス代表!その赤い髪と魅惑の体に魅了される男は数知れず、今日は何人の男を落とすのか!“アスモデウス・ルージュ”選手!」


  男性陣の盛り上がりがとてつもなかった。まあ、容姿は完璧と言っても良いほどだ。男としてあの反応は必然的なものだろう。

  しかし、俺はいつもアスモデウスの隣にいると、どうしてもアスモデウスが美人だ言うことを忘れてしまう。と言うよりも、美人だと思えない、思いたくない。


  「それでは、両者準備は良いでしょうか?」


  「OKです!」


  「………。」


  アスモデウスはグッと親指を立てながら応え、氷の女王は無言で頷く。


  「それでは、“スピードシューティング”第1回戦始め!」


  合図と共に動き出したのは氷の女王だった。彼女は得意の氷魔法を使い着実に1つずつ、的を破壊していく。


  「ナーヤ選手が的を確実に壊していく!一方のアスモデウス選手はまだ1つも的を破壊できていません!解説のニック先生、この状況どうとりますか?」


  「そうですね。ナーヤ選手の動きはなかなか良いものです。しかし、あのままでは時間内に壊しきれるかは怪しいですね。アスモデウス選手は的をとらえきれていないのですかね?」


  学園長はいかにも解説っぽく話している。


  「このままじゃ負けちゃうよ!アモちゃんは何してるの!」


  隣でニエーゼ達が慌て始めている。確かに普通に見れば、この状況はかなり危ないだろう。残り時間の半分を過ぎて、アスモデウスは1つも的を破壊していないのだ。しかし、それは普通・・だったらの話である。そもそもこの“スピードシューティング”はレベルの高い的当てゲームだ。そう、的当てゲームには的、つまりは標的があるのだ。ここまで言えばアスモデウスのことを知っているやつならば分かるであろう。


  「残り時間1分です!」


  この言葉と共にアスモデウスが動き始めた。アスモデウスがてをかざすと次々と炎の玉がアスモデウスの周りに形成されていく。


  「おーっと!ここでアスモデウス選手が動きました。これは炎魔法でしょうか。まだまだ増えていきます。」

 

  炎の玉。その数50。そして、その炎のたちはアスモデウスによっていま解き放たれる。

  アスモデウスが手を前に突き出す。それと同時に50の火の玉が的をめがけ、一斉に飛んでいく。火の玉は相手の的を避け、寸分狂わず標的に着弾。アスモデウスの的は全て破壊された。


  「試合終了ーーー!!!勝者はAクラス代表“アスモデウス・ルージュ”選手だーーー!!!」


  「「「わぁーーーー!!!」」」


  残り時間わずかからの大逆転。その光景を見たの者全員が心震わせたことであろう。


  「やったあ!イヅナちゃん、アモちゃんが勝ったよ!」


  「ええ、取り敢えず一安心ですね。」


  ニエーゼにそう応えた後、俺はアスモデウスの方を向いた。すると、丁度アスモデウスが俺を見つけたのか目が合った。


  「ブイ!」


  アスモデウスは俺に向けてピースをした。まあ、当たり前の結果と言っては結果なのだが、それでもやはり嬉しいのだろう。

  俺はアスモデウスを素直に褒めることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  「イヅナ様〜〜〜!!!」


  一回戦を終え、次の試合まで少し時間のあるアスモデウスは俺たちのところまでやって来た。


  「どうでした、どうでした、私の活躍。あの最後に一気に破壊するところなんて特に良くなかったですか?」


  「良かったと思いますよ、会場全体も盛り上がりましたし…。はい、とても良かったです。」


  俺のこの言葉にアスモデウスが目を開いて固まった。


  「な、何ですか?」


  「イヅナ様が素直に褒めてくれるなんて………もしや偽物!?」


  「………アスモデウスさん。後でちょっとお話があるので……来いよ。」


  俺は後半部分をアスモデウスにしか聞こえない声で言った。


  「あ、いつものイヅナ様です。」


  何を基準にして俺なのか聞いてみようかと思ったが、それはまた次の機会にしておこう。


  「アモちゃんお疲れ様〜。」


  「お疲れ〜。」


  「お、お疲れ様でしゅ…あわわ、また噛んじゃいました。」


  「3人とも応援ありがとうございます。」


  アスモデウスはそのままニエーゼ達と話し始めた。俺はそんな光景を眺めていたが、制服の裾を引っ張られ、そちらを向いた。


  「……イヅナ……私のこと……忘れて……ませんか?」


  ミカエルが制服の裾を掴んだまま、俺に聞いてきた。


  「忘れてませんよ。」


  「……そう……ですか。」


  本当に忘れていたわけではない。今は少しだけアスモデウスと話そうと思っていただけだ。


  「それにしても、先ほどの試合は面白かったですね?」


  「……そう……ですか?」


  やはり心がない彼女は感情を得られない。分かってはいるのだが、何処か切ない気持ちになってしまう。

  そんな事を考えているとミカエルが俺の頰を持ち、上へあげた。


  「な、何をするんですか?」


  「……笑顔。」


  「え?」


  「……笑顔……最も人の……顔の中で……私が理解したいもの……です。」


  「………。」


  「……私には……笑顔は……できない……だからイヅナ……代わりにお願いします。」


  「…ミカ。」


  「……それに……イヅナ……あなたには……笑顔でいて欲しい……自分がそう思っている……気がするから……。」


  俺はミカエルの瞳を真っ直ぐ見つめ、ミカエルの言葉を聞いた。

  そして、俺は1つの疑問をもった。


  (いったい心とは何なのだろうか……。)


  「……イヅナ。」

 

  「え?あ、すみません。笑顔ですよね?笑顔。」


  どうやら考えているうちに顔が険しくなっていたようだ。俺はミカエルに注意され、笑顔を作る。そして、俺はミカエルに質問をした。


  「ミカ……心とは何なのでしょうね?」


  「……私に……とっては……白……です。」


  「そうですか。」


  白。それは無地の生地。何1つ塗られていない、あるかすらもわからない色。

  それがミカエルの今の心。やはり悲しい。しかし、俺には可能性が感じられた。


  「白ですか。良かったです。黒ではなくて。」


  「……何故ですか?」


  ミカエルは首をかしげる。


  「白と黒。心がどちらの色も何もない“無”の状態。でも、白なら色をつけられるからです。もしも、黒だったら、どんなに色を足してもどうしようも無いですから。」


  そのとき、ミカエルの瞳が一瞬光を宿した気がした。が、気のせいだろう。


  「だから、白で良かったと思ったんですよ。」


  「……そう……ですか。」


  ミカエルはいつものようにただ応えただけだった。しかし、俺にはその光景に、ミカエルと言う“絵画”に色を見た気がした。


 


 

 


 

 


 

 


 

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