表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
35/164

気がついたら友達でした

今回は短めです。

  俺はここ1週間程、授業が終わるとすぐにミカエルのもとへと向かった。相変わらず判事が返ってくることはないが、それでも話すことはやめるつもりはない。

  今日も授業が終わり、そんなミカエルの元へと向かった。しかし、いつもの場所につくとそこには2つの人影があった。1つはミカエル。そして、もう1つは……。


  (あれは…中島先生か?)


  そう、地球にいたころ国語を教えていたあの中島先生だ。俺はあの2人が何を話しているのかが気になり、バレないようこっそりと近づいた。


  「それで私ったらまた生徒達に心配かけてしまったの。」


  「…………。」


  ミカエルは相変わらず無反応だ。


  「最近ね、私自分がどうしたいのか、よく分からなくなってきたの。1人の生徒を失ってしまったからなのかしらね。」


  やはり俺が転移に失敗したことは他の人達の心を傷つけてしまったらしい。


  「この世界に来るときは人が困っているのなら助けなくてはいけない。それが当然のことと思っていたの。それでそのことを否定した生徒を叱ったの。」


  杉本のことだ。


  「でもね、こちらの世界に来て私は人助けをするどころか、逆に助けてもらってばかりで……それで………。」


  先生はそう言うと黙ってしまった。きっと、先生自身が言ったように自分がどうしたいのか分からないのだろう。自分の意思が定まらないほどに…。


  「あ、ごめんなさいね。こんな話聞いてもらっちゃって。」


  「…………。」


  「でも、貴方に聞いてもらったおかげで少しだけ気持ちが楽になったわ。ありがとう。」


  「…………。」


  「それじゃあ、また機会があったら会いましょう。」


  それだけ言うと先生は帰って行った。


  「よくあの人とお話するんですか?」


  「…………。」


  俺は先生が見えなくなったのを見計らってミカエルに話しかけた。


  「それでも、よかったです。私以外にもあなたに話しかけてくれる人がいて。」


  「…………。」


  俺は無反応のミカエルに少し近づく。そして、耳元で囁くように言う。


  「実はお友達・・がいたりするんです?」


  そのときだった。


  「友達……。」


  「え?」


  俺は自分の耳を疑った。何故なら今の声がミカエルの方から聞こえてきたように感じたからだ。


  〈今、喋ったのか?〉


  俺はミカエルの正面に回る。


  「今、何か言いましたか?」


  「…………。」

 

  ミカエルは反応しない。


  〈やはり空耳だったか〉


  俺がそう思ったそのとき、ミカエルが顔を上げ、俺を見つめる。


  「…………。」


  「ど、どうしましたか?」


  「…………。」


  「…………。」


  5分ほどだろうか、俺とミカエルはただ見つめあっていた。俺はこのままではまた、ミカエルが帰ってしまうと思い、口を開こうとしたが、それは思いもしない相手によって阻まれた。


  「…質問をします。」


  ついに、ミカエルが口を開いたのだ。


  「な、何でしょう?」


  俺はその言葉についつい身構える。一体、何を聞かれるのだろうか、どう答えたらいいのか、そんな考えが頭の中を埋め尽くす。


  「…友達とは……何ですか?」


  「と、友達ですか?」


  俺の言葉にコクリと頷くミカエル。


  「…そうですね。『楽しい』、『嬉しい』、それから『悲しい』などといった感情を共感しあえる人物ですかね。」


  俺は出来る限りミカエルが納得してくれそうな回答をした。


  「…感情……。」


  ミカエルはそう言うと、何かを考えるかのように顔を伏せる。そして…。


  「……それでは……私に友達は作れません。」


  「え?」


  ミカエルはそれだけを言い残し、いつものようにベンチから立ち上がり、どこかへと歩いていく。しかし、そのときのミカエルの後ろ姿は、俺にはどこか悲しげに見えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  (友達を作れない、か。)


  俺は寮に戻ってからも、ミカエルのことを考えていた。なぜ、今まで何を言おうと反応しなかったミカエルが、“友達”という言葉に反応をしたのか。なぜ、帰り際の姿が悲しげに見えてしまったのか…。

 

  (これはミカエル自身のことをもう少し知る必要があるかもな…。)


  俺はマスタースキル『ネクロノミコン』を使用した。


  【ミカエル】

 ・創造神“ブラフマー”によって生み出された天使。

 ・天使長ルシファーが魔界に追放されたことにより、天使長の座についた。


  俺はここでルシファーが天使長であったことを知った。


  ・ミカエルは、ルシファーが反乱を起こしたことにより、2度とそのようなことがないよう、天使長の座についたときに創造神“ブラフマー”によって心を抹消された。


  「…………。」


  俺は何故ミカエルが『友達を作ることが出来ない』と言ったのか、やっと理解できた。

  心、つまりは感情がないのだろう。だから、俺の“友達”の説明を聞き、感情がない自分には友達を作ることが出来ない、そう思ったのだろう。


  「創造神“ブラフマー”……。あいつは神なんかじゃないな…。ただのクズ野郎だ。」


  俺は創造神への怒りを露わにした。この世界に来て、これほど怒りが込み上げてきたことはなかったであろう。


  「まあ、今はそんなことよりもミカエルのことを考えないとな。」


  俺は再びミカエルについて考え始める。と言っても次に何をやるかは、もう既に決まっている。

  1つはミカエルの友人になること。そして、もう1つはミカエルの心を取り戻すこと。この2つが俺が今やるべきことだ。

  創造神に心を消すことが出来たのだ。邪神である俺が心を戻すこともきっと出来るはずだ。

  俺は創造神への怒りを心の奥底にしまい、ミカエルの心を取り戻すために動き始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「友達になりましょう!」


  「………。」


  俺は今日もミカエルのもとへときた。


  「………拒否します。」


  昨日のことがあってから、ミカエルは少しだけ会話をしてくれるようになっていた。


  「何故ですか?」


  「……感情を……共感できないから……。」


  「拒否します!」


  「?……。」


  俺の発言にミカエルは首をかしげる。


  「…何故……私が拒否されたのですか?」


  「深い意味はありません。」


  「それなら……。」


「しかし…。」


  俺はミカエルの手を取る。


  「私は貴方を知りたい。仲良くなりたい。そして、この世界が素晴らしいことを知ってもらいたい。」


  「……否。それは無理です。」


  「無理じゃありません。」


  「………。」


  ミカエルは黙って俺を見つめる。


  「……。どうしても……ですか?どうしても……友達になりたいですか?」


  「どうしてもです。」


  「……わかりました。」


  「!それじゃあ!」


  俺はミカエルの言葉に思わず笑顔になってしまった。


  「……はい、私は……貴方の友達になることにします。」


  「…ありがとう…。ありがとう。」


  俺はようやく、一歩近づくことが出来た。

  この日、邪神と天使長という異常な友人関係が成立した。

  これが後の世界を大きく変えるとも知らずに……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  寮についてからも、俺はミカエルに近づけたことが嬉しく、ずっとにやけていた。


  「イヅナ様。さすがにずっとその顔をされると気持ち悪いです。」


  アスモデウスがそんな俺を見て、注意してきた。


  「ん?ああ、すまない。」


  「謝らなくても良いんで、その顔をやめてくださいよ。」


  「無理だな。」


  「はあ〜。全く、イヅナ様はしょうがないですねえ〜。ミカエルと話せたからってこんなに浮かれちゃって…。そのうち、惚れちゃうんじゃないですか?セリカさんのことを忘れて、浮気でもしちゃうんじゃないですか?」


  「それは無いな。」


  「何でですか?」


  「セリカ以上の女性を俺が知らないからだ。」


  「……。そこまで、キッパリ言われると無性に腹が立ってきますね。」

 

  アスモデウスは額に青い線を浮かべながらそう言った。


  「まあ、まだ話せただけだしな。心を取り戻させて、この世界を見せることが出来るのは当分先になるだろう。」


  「そうですね。」


  「まあ、気長にいくさ。」


  俺はそういってベットに潜り込んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  〈ミカエルSIDE〉


  天使長“ミカエル”は創造神“ブラフマー”より、使命を受けていた。

  1つは大陸の監視。そして、もう1つは最近、異世界より召喚された勇者の監視だ。

  この学園にきたのは、勇者達の監視のため。ブラフマーにそう言われたためだ。

  今日もいつものように勇者達の監視を終え、ブラフマーに報告をする。


  〈ブラフマー様。本日も……以上ありません。〉


  ミカエルはブラフマーより渡された“念話石”を使い、ブラフマーへと呼びかける。


  〈ああ、うん。わかったよ。それじゃあね。〉


  普段ならば、これだけで報告は終わる。しかし、今日は違った。


  〈お待ちください。……ブラフマー……様。〉


  〈え?何?〉


  〈……本日、友達が……出来ました。〉


  〈あ、そう。それだけ?〉


  〈はい。〉


  〈全く、そんな下らないことのために僕を引き止めないでくれよ。〉


  〈……しかし。私に……友達を作れと言ったのは……ブラフマー様です。〉


  そう。ブラフマーはミカエルに学園に行くよう命令をしたとき、周りに怪しまれぬよう友達を作れと言っていたのだ。


  〈そうだっけ?まあ、どうでもいいや。それじゃね。〉


  ブラフマーはそう言って、念話を切った。しかし、ブラフマーはこのとき、最大の失態をおかしていた。そう、気づかなかったのだ。あまりにも自然すぎたがために。心を持たぬ筈のミカエルが自分の意思・・でブラフマーを呼び止めたことに。


 


 






 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ