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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第2章 カラドボルグ魔法学園編
33/164

気がついたら目標ができました

  天使ミカエル。神の使い“天使”たちを統べ、神の名に従うだけの存在。そのミカエルが今、俺の目の前にいた。


  〈こいつは一体何者だ?〉


  しかし、俺は突如として現れたこの存在に、どのように対処すれば良いのか分からなかった。いや、そもそも正しい対処法など存在しなかったのかもしれない。

  俺はゆっくりとベンチに腰をかけるミカエルへと近づいていった。それに気づいた鳥達が一羽ずつ、飛び立っていく。ミカエルはその様子をそのまるで感情が無いかのような瞳で眺めていた。そして、俺がミカエルの前に立ったとき、鳥達は全て飛び去っていた。ミカエルは俺が前に来た後も数秒間、鳥が飛んで行った方を眺めていた。そして、その後ゆっくりと俺の方を向いた。

  俺とミカエルの瞳はここで初めて交わった。そして、俺は口を開いた。


  「こんにちは。」


  「…………。」


  ミカエルは黙ったままだ。


  「えーっと、ここで何をしているんですか?」


  「…………。」


  俺はこの後も、ミカエルにいくつもの質問をした。しかし、ミカエルが応える様子はない。それでも、俺はミカエルに話しかけ続けた。

  なぜ俺がこんなことをしているのか、自分でも分からなかった。しかし、俺は口を止めることができなかった。そして、気がつけば辺りは暗くなっていた。

  その頃には俺は話すのをやめ、ただミカエルを見つめていた。


  「……。」


  「…………。」


  気まずい。そんなことを考えているとミカエルがベンチから立ち上がった。


  「ど、どうしました?」


  俺はミカエルに再度話しかけた。しかし、ミカエルはそんな俺を無視してそのまま、闇の中へと消えて行った。


  「………何やってんだ俺は…じゃなかった。何をしているんでしょう私は。」


  俺はミカエルが座っていたベンチに背を向けると、そのまま寮へと戻った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  俺は寮の部屋に戻ると、すでにアスモデウスが帰宅したいた。


  「イヅナ様、何で先に帰ったのに、私より帰宅が遅いんですか?」


  「いや、色々あってな。」


  「色々って何ですか?」


  「そ、それは…。」


  俺はミカエルのことをアスモデウスに話した。敵の幹部クラスが同じ学園にいるのだ。そのくらいは把握していないとまずい。


  「天使長…。まさか、そんな存在が同じ学園にいたなんて。これは存在がばれないように隠密に行かないといけませんね。」


  「そうだな。」


  俺がそう応えると…。アスモデウスが机をバン!と叩きながら、鼓膜が破れるのでは無いかと思うほどの声で言った。


  「何が『そうだな。』ですか!!!!!!分かってるなら、そんな存在に近づかないでくださいよ!!!!!!さらには、近づくだけでなく、話しかけるなんて…。イヅナ様は馬鹿なんですか!?馬鹿なんですね?馬鹿ですね?」


  俺も自分がしたことは、今考えれば良いものではなかったとわかる。しかし、そこまで言われるほどか?


  「おい、アスモデウス。」


  「何ですか?お馬鹿なイヅナ様。」


  ここで俺の堪忍袋の尾が切れた。


  「確かに、俺の行いは悪かった。それは認めよう。」


  「そうですよ、全く。」


  「だが…。」


  「え?」


  「それで、俺が付き人にあそこまで言われるの納得いかない。」

 

  そう言って、俺はアスモデウスを睨んだ。アスモデウスはその場に立ち上がりドアの方へと向かう。しかし、俺はそんなアスモデウスの後ろに瞬時に回り、肩に手を置いた。


  「どこに行くんだ?」


  「ちょっと、用事を思い出しまして………。許してもらえませんか?」


  「無理だな。」


  「いや〜!!!」


  その夜、寮中にアスモデウスの悲鳴が響き渡った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  翌日、俺とアスモデウスは学園中の噂になっていた。おかげで、学園に通うのも一苦労だった。


  「イ、イヅナ様。私、今日1日持つ気がしません。」


  アスモデウスは1時間目が始まる前から、すでにボロボロだった。


  「気持ちはわかりますが、もう少ししっかりしてください。」


  「そうだよ。そんなだらしない格好する子にはお仕置きが必要だね。グフフフ。」


  いつの間にか俺たちの後ろに、ニエーゼがいた。


  「ニエーゼ、おはようございます。」


  「おはよう!」


  「おはよう!イヅナちゃん!アモちゃん!」


  「アモちゃん?」


  俺は聞きなれない呼び名に首をかしげた。


  「アスモデウスちゃんのことだよ。ほら、毎回毎回アスモデウスって読んでたら大変でしょ?だから、昨日ニックネームを考えたんだ〜。」


  「そう言うことでしたか。」


  「イヅナ様、羨ましいですか?」


  アスモデウスが自慢気な顔をしながら言ってきた。いちいち、イラつく付き人だ。


  「ところでニエーゼ、カレッタとソーマは一緒じゃないんですか?」


  「無視しないでくださいよ〜。」


  そんなアスモデウスの発言も無視する。


  「ああ、朝は一緒に来ないんだよ。私は寮だけど、あの2人は実家から通ってるからさ。」


  「そうでしたか。」


  そんな会話をしていると、カレッタとソーマが教室に入ってきた。


  「噂をすれば、カレッタ、ソーマ、おっはよ〜う!!!」


  「あ、えっとその、お、おはようございましゅ…あわわ、また噛んじゃいました。」


  「おはよう、ニエーゼ。と、イヅナちゃんにアモちゃん。」


  「おはようございます。」


  「ふたりとも、おはよう。」


  キ〜ン、コ〜ン、カ〜ン、コ〜ン。ここで丁度、授業開始のチャイムがなった。


  「皆さん。席について下さい。」


  ネイティー先生が教室に入ってきた。授業の始まりだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

  「イヅナ様、私はもうここまでの様です。」


  「そうですか。それではお昼ご飯は頂けませんね。」


  「イヅナ様!私はまだまだ元気ですよ〜!」


  単純な奴だ。

  現在、4時間目が終わり、休み時間になっていた。なので、俺達は食堂へと向かうことにした。


  「今日は何にしようかな〜。ん〜、これとこれとそれとあれと……。」


  相変わらず、食べる量が異常だ。ちなみに俺は“カル”と言う“カレー”に似たものを頼んだ。


  「イヅナ様。やっぱり、ここのご飯は美味しいですね。」


  「そうですね。」


  そんな会話をしていると食堂に勇者達がやってきた。


  「いや〜、腹減ったな。よし、今日はがっつり食うぞ!」


  「歩くんの場合、今日はじゃなくて今日もだと思うけど…。」


  「結衣の言う通りね。」


  先頭を来たのは、歩、横山、それと、清水だった。


  「あ、イヅナ様が惚れた人がいますよ。」


  「惚れてません。それよりも早く食べないと冷めてしまいま…………いつの間に食べ終わったんですか?」


  机の上にはいつの間にか、綺麗になった皿が置かれていた。


  「ついさっきです。」


  「そ、そうですか…。」


  「そんなことよりイヅナ様!」


  アスモデウスが顔をこちらに近づけて来た。


  「な、何ですか?」


  「あの人達のこと、見張って無くて良いんですか?」


  そう言って勇者達の方を指差した。


  「問題を起こしたら止めに入れば良いんじゃないでしょうか。」


  俺達が依頼されたことは、勇者達を見張ることだが、問題を起こしていないなら特にすることもないだろう。


  「それもそうですね。」


  そんな会話をしているときだった。


  「ハハ、健ちゃん確かにその通りだね。」


  「だろ?」


  とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。確認のため、俺は声がした方を向いた。案の定、あいつらはいた。そう、俺を虐めていた4人組だ。俺を散々いたぶり、しまいには転移のときのアレである。

  俺はあいつらを見たら、殺意が湧くかもしれないと少し思っていた。殺されかけたのだ、そのくらいあってもおかしくない。しかし、実際は違った。殺意どころか、敵意すら湧かなかった。殺されかけたはしたが、死ななかったからだろうか。

  まあ、よくはわからないがそれならその方が良い。これから接していくのに、気持ち的な面で楽になる。そんなことを考えているとき…。


  「おい!てめえ邪魔だ。」


  「うわっ!な、何をするんだ。ここは僕が座っていた席だぞ!」


  杉本達が他生徒の席を奪った。


  「うるせえ。ただの生徒が勇者様に歯向かってんじゃねえよ。」


  「ハハ、言い過ぎだって健ちゃん。ハハハハ。」


  どうやら、こいつらはどこまでいっても駄目な奴らのようだ。


  「は、早く、席を返してくれ。」


  「あ?うるせえんだよ。これでも食らっとけ。」


  そう言うと杉本は詠唱を始めた。


  「うわぁぁ、助けて!」


  「!おい、杉本何してるんだ!」


  ここでようやく他の勇者達が気づいたがもう遅い。杉本の手から黒い物体が生徒向かって放たれた。そして、生徒がいる場所に着いた瞬間、その物体はまるで弾けたかの様にあたり一面を覆った。

  このとき、誰もが生徒がその黒い物体に飲み込まれたかのように見えただろう。しかし……。


  「品のない方ですね。勇者よりも悪人の方がよっぽど似合います。」


  杉本達がその声がした方をつまり、一斉に俺のいる方を向いた。もちろん、生徒は俺がしっかりと救出している。生徒や勇者達はそんな俺に少しの間、見とれている様だった。


  「どうしましたか?」


  俺のこの言葉にようやく我に返ったようだ。


  「何者だ!てめえは!」


  「名前を聞きたいときは、まず自分から名乗るものでしょう。全く、そんなこともわからないのですか?」


  俺はできる限り馬鹿にしたような言い方をした。そして、そんな言い方をされた杉本が切れないわけがなく。


  「いい度胸だ。覚悟はできてるんだろうな?」


  「何を覚悟する必要があると言うのですか?」


  「やられる覚悟だよ!」


  次の瞬間、杉本が俺に向かって飛びかかってきた。しかし、それは颯太と歩によって阻まれてしまった。


  「杉本!いい加減にしろ!」

 

  「うるせえんだよ!離せ!おいコラァ!」


  そのまま杉本は歩達に引っ張られ何処かへといってしまった。勇者達も全員そのあとを追うようにしていってしまった。


  「困った人達でしたね。」


  アスモデウスがそう言っていると勇者達の方から清水がこちらにやってきた。


  「ごめんなさいね。迷惑をかけて今後はあんなことがないようしっかりと注意しておくわ。」


  「お願いします。」


  「全くです!」


  俺達が応えた後、清水は食堂にいた他の生徒達にも謝り、この場を去った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  「イヅナ様、勇者達にはしっかりとしつけないと駄目ですね。特にあの男!イヅナ様に向かってあんなことを言うなんて身の程をわきまえて欲しいものです!」


  アスモデウスは食堂での出来事が気に入らなかったようで、歩きながらずっとこの調子で文句を言っている。


  「確かにそうですね。しかし、どうやってあの人達の態度を改めさせましょうか。」


  「そうですね。決闘を申し込むとかどうですか?イヅナ様の力で圧勝してしまえば、あいつらの態度も少しはマシになるんじゃないですか?」


  「いや、それだと私達が変に目立ってしまいます。この世界の人間達の中で勇者はトップクラスの実力を持っています。それに決闘で勝ってしまうとなると……。」


  「確かにそうですね。」


  俺達がそんなことを話していると…。


  「あ…。」


  「ん?」


  目の前に自称騎士“ルネ・サテライト”が現れた。


  「何だ。自称騎士様ですか…。」


  アスモデウスがいかにも嫌そうな顔をして言う。


  「な、何だとは何だ!失礼だろ!」


  「先日、私達を前にして逃げ出したあなたも充分失礼ですよ。お詫びとしてケーキを100台くらいおごって欲しいものです。」


  流石にそれはやり過ぎだろ。


  「無茶言うな!」


  「あ!そうだイヅナ様!この方に勇者を倒して貰えば良いんじゃないですか?」


  「それは流石に無理ではないですか?」


  ステータス的にも、メンタル的にも、とてもではないが勝てるとは言えない。


  「だから、私達が鍛えてあげれば良いんですよ。」


  「……それでも…。」


  「できます!」


  「でも…。」


  「大丈夫です!」


  こうなったアスモデウスに何を言っても無駄だろう。


  「分かりました。では、アスモデウス。そこの自称騎士様を本当の騎士様にしてあげなさい。」

 

  「はい!このアスモデウス、やり遂げてみせます。」


  アスモデウスが敬礼でビシッと決める。


  「あ、あの〜、僕の意見は?」


  「うるさいですよ、新兵は黙っていなさい!」


  「し、新兵?」


  ルネはアスモデウスのテンションについていけないようだ。俺もとてもではないがアレにはついていける気がしない。


  「場所はこの学園の最南にある広場!集合時間は6時!遅れないように!」


  それだけ言うとアスモデウスは教室へと走って行ってしまった。

 

  「僕はどうすれば良いのだろうか?」


  ルネは俺に尋ねてきた。


  「もしも、行かなければ生き地獄を見るはめになると思います。」


  「……はあ〜。」


  ルネは大きくまた息を吐くと頭を下げながら、ゆっくりどこ変え行ってしまった。


  「が、頑張って下さいね。」


  きっとこの声は彼に届いていないだろう。俺も向き変え、教室に戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  「イヅナ様、行ってきます。」


  授業が終わるとアスモデウスはさっさと約束の場所へと行ってしまった。


  「さて、私はどうしましょうか。」


  俺は椅子に寄りかかりながらそんなことを呟いた。


  「寮に戻っても暇ですし、あてもなく散歩でもしましょうか。」


  そうして、俺は教室を出る。てきとうに散歩とは言ったものの、俺の足はある場所へと一直線に向かっていた。そう、俺が今日1日中考えていた人の場所へ。

  周囲からは人の気配がどんどんとなくなっていき、そしてついには、周りに人のいる気配はなくなった。ただ、俺ともう1人を除いては……。


  「こんにちは。」


  「………。」


  そう、俺は再びあの噴水へときたのだ。ミカエルに会うために。


  「今日もここにいたんですね。授業はしっかりと受けているんですか?」


  「………。」


  昨日と同じように反応はない。しかし、そんなことは予想していた。このミカエルは何ど俺が話しかけようと結果は変わらないと…。

  それでも、俺はこの場所へ来てしまった。昨日はなぜあのようなことをしたのかは分からなかった。しかし、今日1日考え俺は気づいたのだ。

  あの瞳を見たからだと…。この世界に何の価値も見出せていない瞳。夢も希望も光も写すことなく、ただ灰色の世界を写す瞳を…。

  俺は基本的に誰でも笑顔でいて欲しいと思っている。人の悲しむ顔など、見たくないのだ。そんな顔を見るくらいならば、俺自身がその苦痛、悲しみを肩代わりした方がよっぽど良い。

  そんな俺だからこそ、ミカエルのあの瞳、表情を見て何もしないと言うことは出来なかった。


  「…それでアスモデウスったら、ケーキをおごれって言うんですよ。もう、おかしくて。」


  「…………。」


  ミカエル。俺は敵になるとしても、お前が“灰色の世界”から、俺達が見ている“光溢れる世界”に来るまで何度でも呼びかけよう。


  「面白くありませんでしたか?」


  「…………。」


  何度でも、何度でも、何度でも。


  「…………そういえば、まだあなたの名前聞いていませんでしたね。


  「…………。」



 そして、見せて欲しい。光、希望、そして、夢。それを見つめたときの、君の瞳が……。


  「ちなみに私の名前は“イヅナ・ルージュ”。気軽にイヅナと呼んでください。」


  「…………。」


  何を写し出すのか……。


  ガタッ…。


  「あ……。」


  ミカエルはまた、どこかへと行ってしまった。


  「まだまだ、時間はかかりそうですね…。しかし、それでも私は…。」


  この日、俺は学園で新たな目標を持つこととなった。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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