気がついたら彼女は……でした
午前の授業を終えた俺とアスモデウスは、学園内の食堂に移動し、学級委員長のムハルに学園内の説明をしてもらっている。本来なら、学園内を案内したいようだが、学園のその広さゆえに無理らしい。
しかし、説明が長い。もし、このままの勢いで話されたら休み時間が潰れてしまう。
「次に、この食堂についてですが…。」
「ムハルさん少し良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「学園のことはよく分かったので、話をそろそろ終わりにしてもらってもよろしいですか?そうでないと、休み時間がなくなってしまいます。」
ムハルは時計を確認し、ハッ!とした顔になると頭が机に当たる勢いで謝罪して来た。
「すみません。」
“ゴチン!!!”
痛そうだ。
「いえ、お気になさらず。」
「そう言ってもらえると助かります。では、僕は先生に頼まれていたことがあるのでこれで。」
そう言うとムハルは職員室の方へと向かった。
「それで、アスモデウスさんはいつまで食べているのですか?」
そう、アスモデウスはムハルが学園の説明をしている間ずっと食堂で注文した数々の料理を食べていたのだ。
「だって、ここの料理すっごく美味しいんですよ。我慢したくても出来ませんよ。あ、良かったらイヅナ様も食べます?」
そう言って、今食べていた、“ミートスパゲティ”をフォークで絡め、俺に差し出してきた。
「いりません。」
「そうですか。」
俺が食べないと知ると、あっという間にスパゲティを平らげてしまった。これには周りにいた生徒達も目を大きく開いて驚いていた。
「では、教室に戻りますか。」
「は、はい。そうしましょう。」
俺達が教室へ戻ろうと、席を立ったそのとき…。
「ねえ、君達。」
声がした方を向くと暗い緑色の髪をした、いかにもチャラ男という感じの男子生徒がいた。
「はい、何でしょうか?」
「いや、大したようじゃないんだけどさ。」
「なら、そこどいて下さいよ。私達教室に戻りたいんですから。」
チャラ男の言葉に対し、的確に言い返すアスモデウス。チャラ男はこのことを予想していなかったらしく、急に慌てた様子になった。
「いやいや、本当は大したようじゃなくないんだ。その、2人ともとっても可愛いから野獣のような男子に目をつけられたら大変だろ?」
「ああ、貴方みたいな人のことですね。」
「そうそう、僕みたいな…って違う!僕はそんな君達を教室まで守る騎士“ルネ・サテライト”だよ。」
「別に名前は聞いてませんよ。それに騎士なんかいなくても私やイヅナ様はこの学園にいる野獣なんかに遅れをとることはありません。では、そう言うことで。行きましょうイヅナ様。」
「そうですね、行きましょう。」
そして、俺達は自称騎士“ルネ”から離れ、教室へと向かおうとするが…。
「いやいや、待ってくれよ。君達はこの学園の生徒達を舐めすぎだよ。そのままじゃあ、いつか野獣達に食べられてしまう。」
「だから、大丈夫ですって。」
「いや、大丈夫じゃない!」
全く、しつこい奴だ。
「やはりここは、優秀なBクラスの僕が君達を守ってあげなくてわ。さあ、君達!どこのクラスまで僕は君達を守ってあげればいいのかな?」
「守って貰わなくて良いですが、一応Aクラスと言うことだけ言っておきます。」
「Aクラス?君達が?ハーッハッハッハ。そんなわけ無いだろう。だとしたら、僕が知らないわけないじゃないか。」
「知らないと思いますよ。なんせ私達は今日この学園に来たんですから。」
アスモデウスのその言葉に笑顔のまま固まるルネ。よく見ると額に汗をかき始めている。
「ま、まじですか?」
「まじですよ。」
「………あ、そう言えば僕は別の人に騎士を頼まれていたんだった。大変申し訳ないが今日は君達の騎士にならない。いや〜、本当に残念だ。全くもって残念だ。それでは、またどこかで〜。」
ルネはそう言うとものすごいスピードでどこかへ言ってしまった。
「本当にしつこい人でしたね、イヅナ様。おかげで休み時間少し無駄にしましたよ。」
「そうですね。」
そして、今度こそ俺達は教室へと戻って行った。
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教室に向かい、歩いているとどいつもこいつも俺達のことを見てくる。ここまで、注目されると流石に恥ずかしいものだ。
「この状況どうにかなりませんかね?」
「スキルでも使えば良いんじゃないですか?逆にそうでもしないと無理だと思いますよ。」
「やはり、そうですよね。」
アスモデウスが言ったことは最もだと俺も思う。しかし、俺はそう言ったことにスキルを使いたく無いのだ。と言うのも、何か困ったらスキル。と言うことをやっていたら自分が駄目人間になってしまう気がしてならないのだ。そのため、俺はこの間の森での迷子のように、よっぽどのことがなければスキルを使わないようにしたいのだ。
「諦めるしかありませんね。」
俺が学園生活中はこの状況を我慢しようと考えていると、少し離れたところにいる生徒達が俺達がいない方の廊下を見始めた。
「何ですかね?」
アスモデウスがそんな質問をしていると彼らは現れた。そう、俺達がこの学園に入学したわけであり、今回の依頼の対象、勇者達だ。
俺は久しぶりに元クラスメート達を見て、その場に立ち止まってしまった。まあ、正確には元クラスメート達ではなく、その中にいた歩と横山を見たからだ。
そのときの俺の感情はとても複雑だった。久しぶりに友人と出会えたことや無事を確認出来たことに対する嬉しさはもちろんあった。しかし、その2人が別のクラスメート達と笑顔で楽しそうに話している姿を見て、切なくも感じた。
自分が今までいたはずの場所。しかし、そこにはもう俺の居場所無いのではないか。
あの優しい2人の友人が俺の居場所を用意していないわけは無い。しかし、どうしてもそう考えてしまうのだ。
そんなことを考えているといつのまにか、勇者達が俺の前まで来ていた。
「どうしたんですか?」
先頭を歩いていた颯太が廊下の真ん中で動かない俺を見て、声をかけてきた。
「いえ、何でもありません。」
「そ、そうですか。」
俺の姿を見て、勇者達の何人かは少し赤くなっている。その見とれている相手が元クラスメートと知ったらあいつらはどう言った表情をするだろうか。
俺は軽く会釈をして、道を開けた。勇者達はその開けた道を進んでいく。もちろんこちらを振り向くものはいない。当たり前だ。姿形が前とは違う俺のことを気にかける者など、下心丸出しの奴くらいしかいないだろう。
そんなことを考えていると…。
「待って!」
突然、俺を呼びかける声が聞こえた。振り向くとそこには横山が立っていた。
「え…。」
俺は突然のことに何も言い返すことが出来ない。
「あ、えっと……。ごめん。私の勘違いだったみたい。」
「…い、いえ、お気になさらず。」
「ごめんね。…おかしいなぁ。確かに何か懐かしい感じがしたんだけどなぁ。」
俺はその言葉に思わず、目を見開いた。
「結衣、何してるの?早く行かないと皆行っちゃうわよ。」
「ごめん、すぐ行くね。」
そう言うと、横山は勇者達の方へと戻って行った。そんな横山を俺はじっと見つめていた。先ほどの横山の言葉。あれがどう言った意味だったのかはわからない。それでも、俺は嬉しかった。自分のことを懐かしいと言われた気がしたからだ。そう考えていると、思わず笑顔になってしまった。
「イヅナ様。もしかして、あの子に惚れちゃいましたか?」
「惚れてはいませんが、好きですよ。」
「それってどう言う意味ですか?」
「そうですね…。私がアスモデウス、あなたに向けている感情と似たようなものですね。」
「え!?と言うことは、イヅナ様はあの方のことも愛していると言うんですか?」
「いえ、私があなたを愛していない時点でそれはないでしょう。」
「グハッ!?」
アスモデウスが吐血した。
「やはり、その口調で言われるといつも以上にダメージがありますね。」
手で血を拭いながら、そんなことを言うアスモデウス。
「そんなことを言ってないで、早く教室に戻りますよ。」
「ちょっとくらい心配して下さいよ〜。」
俺の後をアスモデウスが追う形で、教室へと向かった。そして、午後の授業へとのぞんだ。
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「やっと、終わりました〜。」
授業が終わると同時に机に倒れこむアスモデウス。
「情けないですよ。もっとしっかりして下さい。」
「だって、疲れたんですもん。」
そんな会話をしていると、クラスの女子数人が俺達の方へとやってきた。
「ねえねえ、イヅナちゃん、アスモデウスちゃん。これからこのメンバーで出かけるんだけど一緒にどう?最近、学園の近くにケーキ屋が「行きます!!!」
即答だね。」
ケーキと聞いて、アスモデウスが反応しないわけがない。
「じゃあ、アスモデウスちゃんは決定っと。それで〜、イヅナちゃんの方はどうするのかな?」
「わざわざ、断る理由も有りませんし、私も行かせて貰います。」
「よ〜し、それじゃあ早速ケーキ屋目指して、レッツゴー!」
「ゴー!!!」
俺は3人の女子生徒とノリノリのアスモデウスと共にケーキ屋へと向かった。
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「やっぱり、ケーキは最高ですね!」
「あ、うん、そうだね。」
女子生徒達の目が死んでいる。それはそうだろう。目の前でアスモデウスが1台のケーキを1切れのケーキを頼んだ誰よりも早く食べ終えたのだから。
「アスモデウスちゃんはよく食べる娘なんだね。」
「はい、イヅナ様にもよく言われます。それよりもこんな美味しいケーキを売ってるお店を教えてくれてありがとうございます。え〜っとお名前は…。」
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私は“ニエーゼ・エユネス”。」
「わ、私は“カレッタ・ネニャーフ”でしゅ…あわわ、また噛んじゃいました。」
「僕は“ソーマ・シダル”。これからよろしくね〜。」
ニエーゼは深緑っぽい瞳と髪で、髪型はポニーテール。喋り方から元気っ娘と言う感じが伝わってくる。
カレッタは薄紫の髪を持ち、髪型はウェーブの入ったロング。身長は小さめで150は無さそうだ。
最後にソーマは、黒髪ツインテールのボクっ娘だ。
「それじゃあ、改めてニエーゼ、カレッタ、それからソーマ。今日はありがとう。」
「いいよ、このくらい。代金をしっかり体で払ってくれれば、私はそれだけで、グフフフって…アイタっ!」
「だ、駄目です〜。そんな不潔なこと駄目です〜。」
そう言いながら、カレッタは鞄でニエーゼの頭を叩き始めた。
「じょ、冗談だってば、カレッタ…って、痛い!ねえ、そろそろ…痛い!……カ、カレッタさ〜ん、聞こえてますか〜…痛い!」
「駄目です。駄目です〜。」
どうやら、カレッタの耳にはニエーゼの声が届かないらしい。
「それで2人はどこからきたのかな?僕すごく気になるんだよね。」
そんな2人を気にする様子もなく、話し始めるソーマ。
「え〜っと、あの2人は放っておいても大丈夫なんですか?」
ニエーゼが少し可哀想なのでソーマに尋ねるが…。
「ん?あ〜。いつものことだから気にしなくていいよ。それで、2人はどこからきたのかな?」
「私達はフィエンド大陸から来ました。」
「へー、フィエンド大陸か。私はまだ行ったことないな〜。それで、フィエンド大陸ってどんなところ?」
「そうですね。地方の村から王都までどこの人もとても優しい方ばかりでした。」
「まあ、その見た目ならどこでも優しい人に会えそうだけどね〜。」
「そうかも知れませんね。」
「「ハハハハ(フフフフ)」」
「で、まだ聞きたいことがあるんだけどさ。」
ここまででわかったが、ソーマはおしゃべりだ。実を言うと俺はおしゃべりな人が少し苦手だ。会話を切らせてくれない人なんかは特に…。
「わ、私は少し用を思い出したのでこれで失礼します。アスモデウスは私の代わりに3人との時間を楽しんでください。」
「わかりました、イヅナ様!」
ビシッと敬礼をするアスモデウス。
「あのお会計は…。」
「あ、いいよ、私が払っとくから、イヅナちゃんは先に帰ってもいいよ…って痛い!」
ニエーゼはまだカレッタに叩かれている。
「そ、それではお先に…。」
そうして、俺はケーキ屋を後にした。
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俺はケーキ屋を出た後、真っ直ぐ学園に向かった。寄り道をしてみたいと言う考えはあったが、そんなことをしていると3人とアスモデウスに追いつかれる気がしたのでやめた。
「はあ〜。それにしても疲れたな。って、やべ…。」
うっかり、男口調を出してしまった。俺は誰かに聞かれていないか心配になり、辺りを見回した。とりあえずは、大丈夫なようだ。一応、“索敵”も使用し、近くに人がいないか調べたが少し先に1人いるだけだ。問題ないだろう。
だが、ここで俺はなぜかその索敵に引っかかったものが気になった。そして、気づけば俺はそのものの方へと向かっていた。歩き始めてから5分もすると、学園内のとある噴水に辿り着いた。
そこにはベンチに腰をかけた白髪で金色の瞳をもつ少女がいた。鳥たちに囲まれ、その白髪を風にたなびかせる。それはまるで、世界の名だたる絵師によって描かれた絵画のように見えた。
俺はさらにその少女に近づこうとした。しかし、そのとき、『アザトース』によってスキルがピックアップされたのだ。
俺はしょうがなく、スキルを確認した。するとそこには…。
マスタースキル
『アブホース』
何故、今このスキルがピックアップされたのか、俺には分からなかった。
(どう言うことだ?『アブホース』を使って出来ることと言えば、精神操作かステータスを見ることぐらいだが…。まさか、あの少女のステータスを確認しろってことか?)
その可能性は少ない、と思ったが俺にはそれ以外の使用方法が理解できなかった。
〈とりあえず、使うしかないか。〉
俺は謎の少女のステータスを確認した。そして、その内容を見たとき、俺は驚いた。
【ミカエル】
種族:天使、天使長、神の使い
性別:女
レベル:88500
攻撃力:79000040000
防御力:80000300010
魔攻撃:85080000000
魔防御:83000003000
魔力:86500000000
俊敏:79000000060
運:120
【能力】
マスタースキル
『謙譲之神』
『天使之王』
『忠誠之王』
『守護之王』
エクストラスキル
『全属性魔法レベル100』
『物理ダメージ遮断レベル100』
『魔法ダメージ遮断レベル100』
『光速思考レベル100』
彼女は天使、すなわち神の使いだった。