気がついたら魔神でした
俺は確かにあの暗い空間から出たはずだった。しっかりと空間に穴を開け、その中に入ったのだ。
しかし、いざ穴から出てみればそこは先ほどの空間と何ら変わらない暗い場所であった。通り抜けてきた穴もすぐに消えてしまった。
「どうしよう…。」
助かったと思ったら、先ほどの状況に一瞬で逆戻りだ。いや、あいつがいない今の状況のほうが悪いかもしれない。
そのとき、俺はふっと別れ際のあいつの言葉を思い出した。
「そういえばあいつ、魔神とか言ってたよな…。て、魔神って俺たちが転移するときに倒してくれって言われてたやつだよな?」
そう、俺たちがもともとこの世界に来ることになった理由は魔神の討伐だった…。ならば、あいつ、魔神はもう消滅してしまったのだ。
俺たちはこの世界での目的を達成したことになるのではないか?
そんなことを考えていると頭の中にまたしても声が響いた。しかし、その声は今まで聞いてきたものとはどれとも違うものだった。
《この世界に新たな魔神の誕生を確認しました。なお、この宣告は魔神シヴァの名のもとに隠蔽されました。》
「はっ?」
突然のことに俺は驚いた。この世界を着てからというもの驚くことばかりだ。
だが、今はそんなことよりも先ほど聞こえたことのほうが重要だ。ついさきほど、消滅したばかりの魔神がほんの数分の間にまた復活したのだ。もし、何度も魔神を倒しても、このペースで毎回復活されては倒すことなど不可能である。そう頭を抱えていると、再び声が聞こえてきた。
《また、魔神シヴァより伝言を受け取りました。伝言を伝えます。》
「伝言?」
〈あ、あー。聞こえているか?イイヅナ マサカゼよ。〉
魔神の声だ。
「おい、おまッ…〈一応言うが、これは伝言だ。貴様の質問などに対して答えることなどできない。〉
「……………。」
俺は黙って聞くことにした。
〈まず最初にこれを聞いているということは無事に脱出に成功したということだな。〉
無事かどうかは微妙だった。
〈まあ、そんなことはどうでもいい。〉
「よくねえよ!!!」
〈まず、自分のステータスを確認しろ。やり方としては、お前の知っているステータスをイメージするだけだ。〉
試しにやってみた。すると、あたりは暗いはずなのに目の前に幾つかの文字と数字が並んで見えた。
【飯綱 雅風】
種族:魔神
性別:?
レベル:1
攻撃力:測定不能
防御力:測定不能
魔攻撃:測定不能
魔防御:測定不能
魔力:測定不能
俊敏:測定不能
運:測定不能
【能力】
ソーズスキル
『アザトース』
「………。」
驚きすぎて声も出なかった。
〈確認したか?まあ、見なくともステータスが全て測定不能なことくらいはわかるがな。〉
「分かってるのかよ…。」
どうやらこのステータスは魔神からすれば当然のことだったらしい。
〈問題はスキルの方だ。そちらの方も確認しろ…。一応言うとスキルはランク付けがされている。
順に言うと、
スキル<エクストラスキル<ユニークスキル
<マスタースキルという感じだ。
まあ、スキルの方もそれなりになるはずだ。マスタースキルを幾つか持っていても不思議ではない。〉
それを聞きスキルを見てみるが、
ソーズスキル:『アザトース』
…………。そこには今、説明されなかった“ソーズスキル”と言うものがあった。
「何だこれは?」
恐る恐るスキルを確認してみた。
ソーズスキル:『アザトース』・・・全てのスキルの原点。このスキルから派生してできたスキルは全て使用可能。
もはや俺は何も感じなかった。
〈もし、スキルが大したことがなくとも気にすることはない。今の貴様ならばそのステータスだけで人間程度ならば瞬殺出来るであろうからな。〉
ステータスだけで人間を瞬殺出来るのだ。それに加えてこのスキル…。もはや強いとかを通り越してチートの域に達している。
〈また、“偽装”のスキル。これがあるならばステータスを“偽装”しておいた方が良い。〉
俺はスキルを使い、ステータスを“偽装”してみた。
【イヅナ(飯綱 雅風)】
種族:人間(魔神)
性別:男(?)
レベル:1
攻撃力:560(測定不能)
防御力:500(測定不能)
魔攻撃:490(測定不能)
魔防御:480(測定不能)
魔力:420(測定不能)
俊敏:480(測定不能)
運:50(測定不能)
【能力】
スキル
『剣術レベル1』
『炎魔法レベル1』
(ソーズスキル:『アザトース』)
以前、魔神から聞いた人間の平均的なステータスを基準にして“偽装”をした。 ちなみに名前はステータスがばれたときが怖いので偽名(イイヅナ→イヅナ)にしてみた。
「まあ、こんなもんだろう。それにしても、ステータスの値ばっかり気になって気づかなかったが……。種族が魔神って何だよ。」
俺は気がついたら魔神になっていた。
これから主人公はどうなることやら…。