気がついたら女扱いされました
祝ブックマーク数100人突破!!!
魔物の騒動があってから丸一日が経過した今日。俺とアスモデウスはギルドにいた。
「イヅナ様。暇です。」
「そうだな。だが、これと言ってやることもないしな……。」
椅子に腰をかけながら、そんな会話をしていた。
「城からの使いもまだ来ませんしね。もっと、早く行動できないんでしょうか。」
「そう言うな。あの騒ぎがあった後だぞ。後処理で忙しいんだろ。」
「それはそうですけど…。」
アスモデウスが不機嫌そうにこちらを見てくる。そんな顔をされても、俺は何も出来ない。そんなことを思っていると、1つの案が頭に浮かんだ。
「じゃあ、アスモデウス。決闘でもしてるか?」
「誰とですか?」
「俺と。」
「嫌ですよ。ルシファーに勝てるイヅナ様と戦っても、私が負けるに決まってるじゃないですか。」
「大丈夫だ。ハンデくらいつける。」
「嫌と言ったら、嫌です。」
「………。」
全く、我が儘な付き人だ。
「じゃあ、何するんだよ。」
「そうですね〜。街中のスイーツ食べ歩きとか良いんじゃないですか。」
「却下。今は甘いものを食べたい気分じゃない。」
「何ですか気分じゃないって。恋人のお願いくらい聞いて欲しいものです。」
「いや、恋人じゃなくて付き人だからな。」
そんな会話をしていると、フォード達のパーティーがギルドに入って来た。そして、俺たちに気づくとこちらにやって来た。
「イヅナ。先日は世話になった。」
まず、フォードが話しかけてきた。
「気にするな。」
昨日以降、初めての接触だったが、どうやら最初に俺にあったときのような警戒はしていないらしい。そうなると、わざわざルシファーに頼んで魔物を送って貰った甲斐があったというものだ。
「ところで、1つ聞きたいことが有るんだが。」
「ん?何だ?」
「なぜあの日、“聖なる祠”にいたんだ?」
まさか、まだ聞いてくるとは思っていなかった。フォードは意外と面倒くさい奴かもしれない。俺はテキトーなことを言って誤魔化すことにした。
「実はだな。あの日は遠征のために、下見に行っていたんだ。階層の数を知っていたのは有る情報屋に聞いたからだ。」
「なるほど。そういうことだったのか。」
一切、疑わずに信じたことには驚いたが、信じてくれる分にはありがたい。
「ところで、フォード達は依頼でも受けにきたのか?」
「逆だ。依頼の完了の報告をしにきた。今日はそれだけだ。昨日、あれだけの騒ぎもあり、しっかりと体を休めていないからな。明日からまた依頼を受けていこうと思う。」
「そうか。」
「それじゃあ、我々はこれで。」
「ああ。」
そう行って、フォード達は受付の方に行った。が、セリカだけ残っていた。
「ど、どうしたセリカ?」
俺は昨日のことがあるので少し動揺している。
「昨日はすみませんでした。」
「何がだ?」
「そ、その、突然キスをしてしまって……。」
「い、いや、気にするな。というか、謝る必要はないだろ。俺はむしろ嬉しかった…って、何を言ってるんだ俺は……。」
「…それなら良かったです。私、キスなんて初めてでもしかしたら上手くできてなかったのではないかと…。」
「俺も初めだったからよくわからんが、上手だったと思う。」
「そ、そうですか…。」
「あ、ああ。」
話しているうちに昨日の記憶が戻ってきてしまい、セリカの顔を見ることができなくなってしまった。
「何2人でイチャイチャしてるんですか?私もいるんですけど…。」
アスモデウスが横から入ってきた。
「イ、イチャついてなんかいません。それでは、イヅナ。私はこれで。」
「ああ。」
セリカはフォード達の元に戻って行った。しかし、セリカと話していると緊張してしまう。キスをしたからなのか。好意を向けられているからなのか。
まあ、後者の方はないだろう。なぜなら、リアのときにはこんなことにならなかったからだ。
となると、前者か、もしくは“俺が好意を寄せている”などの他の理由になってくる。
しかし、俺は考えれば考えるほど分からなくなってきてしまった。
「これは考えるだけ無駄だな。」
俺は考えるのをやめ、流れに身を任せることにした。
「やっぱり、お子様ですね。」
アスモデウスが既に、お決まりになりつつある台詞を言う。
「お子様お子様言うけど、アスモデウスはキスしたことあるのか?」
「へ!?も、勿論じゃないですか。」
間違いなく嘘だ。証拠に目が泳いでいる。
「そうか。ちなみに誰とだ?」
「ル、ルシファー?」
「いや、俺に聞くなよ。」
そんな会話をしていると、ギルド内に声が響いた。
「イヅナ殿はいらっしゃるか。」
声のした方を向くとガゼルがいた。
「いるぞ。」
「ん?あ、そこにいましたか。」
ガゼルがこちらに駆け寄ってきた。
「迎えの馬車はギルドの外に。」
「わかった。」
俺はそう言って、立ち上がる。
「イヅナ様。私も行って良いんですか?」
「どうなんだ?ガゼル。」
「ちなみにそちらの方は…。」
「イヅナ様のこい…。」
「付き人だ。」
「でしたら問題ありません。」
「そういうことらしい。」
「…私の言葉を遮られたのは納得いきませんが、まあ、行けるなら良いです。さあ、行きましょう……ってどこに行くんですか?」
「……。」
俺は昨日の今日で忘れてしまう、アスモデウスの記憶力の無さに呆れて何も言えなかった。
「イヅナ殿。本当に彼女は付き人なのですか?」
「俺にも分からなくなってきた。」
俺はアスモデウスと馬車で王城へと向かった。
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「王城って割に大したことないですね。」
アスモデウスの馬車から降りた後の第一声がこれである。全く、失礼な奴だ。
「そう言うな。」
「イヅナ殿、それと…。」
「アスモデウスです。」
「失礼しました。イヅナ殿とアスモデウス殿、こちらへ。」
俺とアスモデウスはガゼルに客室に案内された。
「ここで少しお待ちください。」
そう言って、ガゼルはどこかへ行ってしまった。
「また、待つんですか?」
「おそらくな。」
「はあ〜。もう、待つの空きました。」
「俺も同意見だ。」
睡眠を必要としない俺達は、昨日からずっと起きているのだ。待ち時間にすると実に20時間ほどである。
「散歩でもして来るかな。」
「あ、良いですねそれ。」
「よし、じゃあ行くか。」
俺は椅子から立ち上がり、ドアノブに手をかけようとしたちゃうどそのとき…。
「イヅナ殿、アスモデウス殿、準備が整いました…。何をしているんですか?」
メイドが入ってきた。
「何でもない。それより、早く連れて行ってくれ。」
「わかりました。」
俺たちはメイドの後について行った。
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「ここに立つのは2度目だな。」
俺はデイビットとともにドアの前で待たされたことを思い出す。
「そうなんですか?あ、開きましたよ。」
俺とアスモデウスは部屋に入るとそこには、この前来たときとほぼ同じメンバーがいた。
「3日ぶりだな。」
王が俺に話しかけて来た。
「そうだな。それで、今度もまた何か礼のついでに頼まれるのか?」
「話が早くて助かる。」
国を治めるだけあって、そう言うところはしっかりしている。
「では、少し説明をさせてもら…。」
「親父〜!!!」
王の言葉は扉の方から響いた声によりかき消された。
「静かにしろ!ジニア!客人が来ているのだぞ!」
「今日も城下町に行って来たんだけどよ。やっぱりあそこの串焼きは最高だな。」
ジニアと呼ばれた、おそらく王子であろう人物は王の言葉が耳に入らないようで、話をやめない。
「イヅナ殿、アスモデウス殿、申し訳ない。我が息子が。」
「全くですよ。もうちょっとちゃんと教育……ん!?ん〜〜〜!!」
アスモデウスが余計なことを言ったので、俺はアスモデウスの口を押さえた。
「気にするな。」
王と会話をしていると、王子が横を通って来た。
(ん?どっかで見たことあるような気がするな……。)
俺はそんなことを思った。
「全く。…ジニア。最近、城から抜け出し、城下町に行く回数が増えている。これ以上増えるようなことがあるなら、それ相応の対処をしなくてはならなくなる。」
「まってくれよ、親父。俺だって何の目的もなく外に出て言ってるわけじゃねえさ。」
「では、何の目的がある。」
「愛しのあの方を見つけるため。」
「……。ジニア。頭でも打ったのか?」
王は本気でジニアを心配している様子だ。
そんな、様子を見ていた俺だったが、王子の顔をはっきり見て思い出した。
(あっ。あの王子、ダンジョンに行く前にあった奴か)
そんなことを思っていると、いつの間にか王と王子の会話が終わっていた。そして、王子が俺を指差していた。
「あ、あの方だ…。間違いない。身長165㎝ほどで、フードを被っていて、男口調。す、全てあの方と同じだ。」
「イ、イヅナ様。あの人と気持ち悪いです。」
「珍しく意見があったな。」
王子はゆっくりとこちらに近づいて来た。
「フードを取ってもらっても、良いか?」
「断る。」
俺は迷わず言った。
「そうか。しかし顔など見なくてもわかる。あなた様は3日前に城下町で出会った、俺が探し続けてきた理想の女性だ。」
「残念ながら、俺は男だ。」
「「「え?」」」
部屋にいた全員が驚いていた。ガゼルには話したはずなのだが、彼も驚いていた。決闘のときに頭でも打ったのだろうか。
「そ、そんな冗談は言わなくて良いぞ。」
「こんなときに冗談をわざわざ言うと思うのか?」
「……。俺の初恋が……終わった。」
王子はその場に崩れ落ちた。すると、王子の元にガゼルが近寄ってきた。
「何だガゼル。俺は今絶望しているんだ。」
「その気持ちわかります。なぜ、今まで忘れていたかはわかりませんが、私もイヅナ殿を男と知らずに想いを寄せていた1人ですから…。」
「ガゼル、お前もだったのか…。」
「はい。」
「世界とは残酷な所だな。」
「全くです。」
2人は涙目になりながらそんなことを話していた。
「国王。この2人どうにかしてくれ。」
俺は国王に頼んで2人に退出するように言ってもらった。2人は互いを慰め合いながら部屋を後にした。
「それで、要件は何だ?」
俺は国王に問う。
「実は、つい先日、神託が下ったのだ。」
神託と言うことは、おそらく創造神“ブラフマー”が何かしてきたのだろう。もしや、俺の存在がばれたのか?
「内容は?」
「“封印は解かれた。その存在は、剣と共に不明。再び、世界は滅亡へと近づいている。”だ。つまり、魔神は封印から解き放たれ、その存在は【神剣エクスカリバー】と共に不明。人類は危機的状況下にあると言うことだ。」
「なるほどな。」
どうやら、創造神はまだ俺の存在に気づけていないらしい。
「それで、その神託のことは分かったが、結局、何をすれば良いんだ?」
「そう、急かすな。順を追って説明する。」
「わかった。」
俺は国王の話を黙って聞く。
「魔神がいつ現れるかわからぬ、危機的状況になった我々は、魔神に対抗すべく、勇者達の成長をできる限り早くするため、彼らにとある学園に入学してもらうことになった。」
この流れだと、俺も学園に行くのは間違いなさそうだ。
「しかし、彼らに技術などは教えることが出来ても、そこの教師達の実力では異世界から来た勇者の暴走を止めることはできない…。そこで、イヅナ殿には見張りとして同じ学園に入学して貰いたいのだ。勿論、礼とは別の、それなりの補償はする。」
やはり、予想通りの展開だ。わざわざ、自分から学園に入学などしたくはないが、久しぶりに歩と横山の顔を見たい。そう考えると、学園の一生徒と言うポジションは悪くはない。
「わかった。その依頼受けてやる。」
「感謝する…。実を言うと断られたときのために、無理やり了承させようと、すでに入学手続きはすませてあるのだ。」
「勝手に何してるんだ。全く、まだ了承したから良かったものを。」
本当にとんでもない国王だ。
「それで、1つ問題が発生したのだ。」
「問題?」
「ああ。入学志願書に勘違いをし、性別を女と書いて出してしまったのだ。」
「変更すれば良いだろ。」
「そうしたいのは山々なのだが、これから入学して貰う“カラドボルグ魔法学園”は特殊でな、入学する者の入学志願書を“契約の釜”と呼ばれる魔道具に入れるのだ。」
「それで?」
「その行為をすることによって初めて入学が許されるのだが、もしも、志願書に記入してあることと異なった点があり、それが学園にばれると、学園に2度と立ち入ることが出来なくなる。さらに、志願書の書き直しなど“契約の釜”に入れた時点で、志願書が燃やされてしまうので不可能。すなわち、今から志願書に間違いがあったと言っても学園に入れなくなるだけなのだ。」
「つ、つまり?」
「イヅナ殿は可憐な容姿の持ち主だ。女装してもばれることはないであろう。制服も準備は出来てるいるぞ。」
国王がそう言うと、メイドが俺に女子の制服を渡した。そして、国王が言った
「まあ、頑張ってくれ。」
(ふざけるなーー!!!)
俺は心の中で叫んだ。
「良かったですね〜。可愛い服もらえて。きっと似合いますよ〜。これで学園でもモテモテですね。あ、そうだ。イヅナ様はこれから女性ってことになるんですから、言葉遣いも気を付けないと駄目ですからね。」
ペラペラとうるさい付き人だ。
「全く、何で俺がこんな目に合うんだ。」
「す、すまん。」
国王が謝る。
「もう良い。その代わり報酬はそれ相応のものを貰うからな。覚悟しておけよ、国王。」
「は、はい。」
急に王の威厳が無くなった。
「それと、俺の付き人の分も用意してくれ、こいつも連れてく。」
「え、私も言って良いんですか?」
「ああ、俺のことを男(元)と知っている奴が1人くらい欲しいからな。」
そうでもしないと俺が辛いのだ。
「わかった。すぐ手配しよう。」
「頼む。くれぐれも間違いのないように!」
「あ、ああ。」
こうして、俺は女としてアスモデウスと共に“カラドボルグ魔法学園”に入学することとなった。
いつも、『気がついたら魔神でした』を読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマーク数も100を超え、総合PVは30000に届きそうです。これも読者様達のおかげです。
次は、ブックマーク数200を目指し、頑張って行こうと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。