気がついたら赤くなってました
遅れてすみません。
俺は今、混乱している。セリカが言った言葉の意味が理解できない。人生を共に歩む?つまりそれは、結婚すると言う事だろうか。一体何故そんな話になっているのか………。
「セ、セリカ。一応聞くが、それはどう言う意味だ?」
「そのままの意味です。先ほどの必死なプロポーズをお聞きして決心しました。」
「……………。」
俺はそう言われ、先ほど自分が言ったことを思い出す。そして、俺は気づいた。これは完全にプロポーズだ、と。
これはまずい。そう思った俺はすぐに誤解を解こうとセリカの方を見る。しかし、セリカの幸せに満ちたその笑顔を見るととてもそんな事は言えない。
「どうされたのですか?」
「いや……あ、あははは…。」
笑って誤魔化す俺。しかし、実際は…。
(やばいやばいやばい。こんなときどうすれば良いんだ?)
俺は焦り過ぎと思えるほど、焦っていた。そのとき…。
「イヅナ。今の出来事ですっかり忘れていましたが、魔物がまだ…。」
「そ、そう言えばそうだったな。」
俺は時間を再び動かす。
「ヒヒィーーン!!!」
「イヅナ!来ます!」
セリカが俺に呼びかける。しかし、その声は俺には届いていない。今の内にどうするか考えなくては…。と言う事で頭が一杯だった。
「イヅナ!何をしてるんですか。」
「…………。」
まだ俺は考えている。
(と言うか何で俺はこんな事になってるんだ?)
俺はふっとそんな事を思う。そして、前を向く。前からは“スレイプニルホースがこちらに向かって来ていた。
「そう言えば、あいつのせいだよな。」
「何か言いましたか?」
「いや、大した事は言ってない。」
そう言うと俺は“スレイプニルホース”の方へと向かう。
「イヅナ。1人では危険です。」
「大丈夫だ。それよりセリカ。」
「何ですか?」
「危ないから、下がってろ。」
俺はそう言うと、こちらに向かって突進して来た“スレイプニルホース”を片手で止める。
「なっ!?」
驚くセリカ。しかし、俺はそんな事に構いはしない。
「お前のせいでこうなったんだ。それなりの覚悟は出来てるよな?」
そう言うと俺は“スレイプニルホース”を空高く投げた。
「ヒヒ!?」
突然の出来事になすすべなく宙を舞う“スレイプニルホース”。どうにか体制を持ち直そうとするが…。
「歯くいしばれよ。」
そのセリフと共に強烈な衝撃が伝わる。その衝撃に耐えられるわけもなく“スレイプニルホース”は地面に叩きつけられた。
「こんなもんか。」
おれは“スレイプニルホース”が動かなくなるのを確認するとそう言った。そして、動かなくなった“スレイプニルホース”の下に降りた。
「全く。こいつが来なければ、こんなにややこしい事にならなかった。何でこいつはこんな所に…………。あ、俺がルシファーに頼んだんだ………。」
俺は全ての原因が自分にあったと気づいた。
「……。まあ、誰にでも失敗の1つや2つあるもんだ。」
そう言って、自分を無理矢理納得させていると…。
「イヅナ!大丈夫ですか?」
そう言いながら、セリカが走って来た。
「あ、ああ。大丈夫だ。」
「よ、よかった。もしも、イヅナに何かあったら私は…。」
そう言って涙目になるセリカ。その様子を見てどうすれば良いのか分からず悩む俺。
(本当の事を早く伝えないと、状況がどんどん悪化するだけだ……。よし!ここは男らしく素直に本当の事を伝えよう。)
俺はそう心の中で決心する。そして…。
「セリカ。」
「はい。何ですか?」
「そのだな。実は…。」
「イヅナ様〜〜〜!!!」
俺の言葉は突然響いた声によってかき消された。俺は声の聞こえた方を恐る恐る振り向く。すると、そこには笑顔で走ってくるアスモデウスの姿があった。
「イヅナ様〜〜!!!無事に任務完了しました〜。」
そう言いながら笑顔でこちらに向かって走ってくるアスモデウス。そして、あろう事かそのまま俺に抱きついて来たのだ。
「あ、おい!いきなり何するんだ。」
「え?だって恋人ってこう言う事するものじゃないんですか?」
アスモデウスがこの場で最も言ってはならない事を口にする。俺は恐る恐る後ろを振り向く。
すると、そこには笑顔のセリカが。
「セ、セリカ?」
「誰ですか?そちらの方は?」
笑顔が怖い。
「えっと。こいつは…。」
「イヅナ様の恋人のアスモデウスです。」
(バカヤローーーー!!!!!)
俺はアスモデウスの発言に心の中で叫ぶ。
「……………。」
「違うんだ。これは…。」
本当の事を伝えようとするとそれを遮るようにセリカの剣が俺の喉元に当たる。
「しっかりと説明してもらいますからね。」
顔は笑っているが目は笑ってはいなかった。
(お、女って怖い。)
俺は心の底からそう思った。
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俺が女の怖ろしさを感じて数分が経過した。何とかセリカには本当の事を伝える事が出来た。
「と言う事だ。本当にすまない。プロポーズのつもりは無かったんだ。だが、言っていた事に嘘偽りはない。もしも、セリカが俺を頼るなら俺は全力で応える。」
「イヅナ…。ありがとうございます。私はあなたに頼る事にします。」
「そうしてくれ。」
「イヅナ様イヅナ様。勿論、私が困っていたら助けてくれるんですよね?」
「さて、そろそろ“スレイプニルホース”の片付けでもするか。」
「何で無視するんですか!助けてくれますよね!ね!」
「セリカ手伝ってくれ。」
「は、はい。」
「イヅナ様〜。」
俺はアスモデウスを軽く流し、“スレイプニルホース”が壊した周辺の建物を直す事にした。
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「こんなもんか。」
俺たち(ほぼ俺)はものの5分ほどで先ほど戦闘をしていた場所の建物を元どおりにした。
「こんな事まで出来るですね。」
「まあな。」
そんな会話をしていると丁度、直した建物の奥の通路から冒険者たちと王国騎士団たちがこちらにやって来た。
「よお、ガゼル。」
「イヅナ殿!こちらに墜落した魔物は何処に!」
ガゼルは慌てた様子だった。
「それならそこに倒れてるだろ?」
俺はそう言いながら、動かなくなった“スレイプニルホース”を指差す。
「なっ!?」
「まさか!?」
驚きの声が多々上がる。
「まさか、あなたお一人で?」
「当たり前だろ。」
全員驚きの目(フードを被っていないためまた違う目でも)でこちらを向いた。
「ご、ご協力感謝します。また後日、王城からの使いがお伺いします。」
「いや、いい。自分で行くよ。」
「そのような事をするわけには…。」
ガゼルはそう言う。
「頼む。実は俺、この街で宿に泊まってるわけじゃないんだ。だから、使いを出されても困るんだよ。」
「………。分かりました。しかし、使いを出さないわけには行きません。明日以降、ご予定はありますか?」
「確か、遠征があったな。」
「そちらは今回の騒ぎで延期になる事が決まっております。」
「そうか。じゃあ特にないな。」
「でしたら、明日以降、出来る限りギルドにいては貰えませんか?そうすれば、こちらからも使いを出せます。」
「……分かった。」
特に問題も無いので俺は了承した。
「それでは、イヅナ殿我々はこれで。」
「ああ。あ、1つ聞きたいんだが。“スレイプニルホース”は俺が貰っても良いのか。」
「問題ありません。それにイヅナ殿がトドメを刺した魔物を横取りする権利など我々にはありません。」
「そうか。」
「では。」
そう言うとガゼルは騎士団たちを連れ、王城へと戻って行った。
すると、次はセリカと同じパーティーのメンバーがこちらに来た。
「セリカさん大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。」
「よかったわ。あなたが行った方に魔物が飛んで行ったときは焦ったのよ。でも、あなたが無事で本当によかったわ。ねえ、ロスター。」
「な、何で俺に振るんだよ!!!」
「だってあなた。セリカの事…。」
「わあーーー!!!」
ロスターが叫んで、シルビアの言葉をかき消す。
「どうしたんですか?」
「い、いや何でも無い。」
顔を赤くしながら応えるロスター。
「顔が赤くなってますよ。ロスター先輩。」
「うるせえ!レシィ!何でこう言う時に敬語を使うんだよ!!!」
「冷やかしのためかな。」
「こいつ!!!」
今にも喧嘩を始めそうな2人の頭にセリカの拳が落ちる。
「静かにしてください。」
「「はい。」」
その様子を見てその場にいた冒険者たちは大笑いする。その中でセリカも笑っていた。その事にシルビアは気づいた。
「セリカ。あなた少し変わった?」
「変わったかもしれません。しかし、なぜ?」
「あなたが心の底から笑っているように見えたからよ。前のあなたは何処か私たちと距離をとっているような気がして。正直、私気になってたの。でも、今のセリカを見て安心したわ。だって、さっきのあなたの笑顔は心の底からのものだったんですもの。」
シルビアのこの言葉にセリカは自分が前とは変わっている事に気づいた。
(私は変わる事が出来た。人を頼る事が出来るように。人と共に強くなって行けるように。それもこれも全部あの人のおかげ。)
セリカは俺の方を向いた。
「ん?」
「そうですね。私は変わる事が出来ました。自分のしがらみに囚われていた私から、自由な私に。あの人のおかげで……。」
冒険者のパーティーの全員の視線が俺に集まる。
「あら、可愛いお嬢さんじゃない。」
「「……。」」
シルビアはそんな事を呟き。ロスターとレシィは見惚れている。フォードも一瞬、目を奪われたようだがすぐに我に戻り目をそらす。
「いえ、彼は男性ですよ。」
「「「「え!?」」」」
今度は全員同じ驚きの表情を浮かべた。そして、そんな事には構わず、セリカがこちらに近づいて来た。
「イヅナ。」
「何だ。」
「私はあなたのおかげで変わる事が出来ました。しがらみから離れ、自分の意思で進む事の出来る私に…。」
「俺のおかげなんかじゃ無いさ。セリカ自身が気づき変わる事が出来ただけの話だ。」
「いえ。私だけだったら気づく事さえ出来ませんでした。」
「………。」
「そして、やはり。さっきほどの事が勘違いであったとしても私の気持ちは変わりませんでした。」
「え?」
「イヅナ。私はあなたの事が好きです。」
この発言にロスター、レシィ、そしてシルビアの3人が驚く。
「あなたが私の事を好きで無くとも、いつかきっと振り向かせてみせます。そして、あなたに最も近い場所であなたに寄り添い、頼って生きていきたいです。」
「セリカ…。」
「別に今すぐとは言いません。どんなに時間がかかろうとも、必ずあなたのそばにたどり着いてみせます。」
そう言うとセリカはさらに俺に近づき、そして…。
「これは今の私の気持ちの全てです。」
キスをした。
「…!?」
流石の俺も焦った。何せ俺にとってのファーストキスだったのだ。それは、焦る。
赤面する俺に向かいセリカは言った。
「あなたがどんなに遠い場所へ行こうとも、私はあなたを愛し続けます。何があっても。」
セリカはそう言って微笑み、パーティーたちの下へと戻って行った。
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俺は数分間。その場に立ち尽くしていた。
「……イヅナ様〜。何気が抜けた顔してるんですか?」
「しょ、しょうがないだろ。キスなんて初めてだったんだ。」
その言葉を聞き、アスモデウスはにやにやと薄笑いを浮かべる。何てむかつく顔だ。
「意外とイヅナ様ってお子さまなんですね。」
「………。」
やはり、アスモデウスに馬鹿にされると飛んでもなく腹がたつ。
「………。アスモデウス。」
俺は明るい笑顔でアスモデウスに話しかける。
「そ、そのイヅナ様?何だかとっても嫌な予感がするんですが……。」
「覚悟は出来てるよな?」
「な、何のですって、キャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その日、王都の路地裏に女性の叫び声が響いた。
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ーーー冒険者SIDEーーー
「セリカ〜。あんたいつの間にそんな大人になったのかしら〜?」
パーティーに戻ったセリカをシルビアがからかっていた。
「や、やめてください!恥ずかしいです。」
「どんなに離れても、愛し続けるんですって?」
「もうやめてください。」
赤かった顔がさらに赤くなっていく。その一方で、真っ白になっている人物もいた。
「ロスター。大丈夫?」
「……。へっ?」
そう。ロスターだ。いつもならば、レシィの言葉に反応するロスターだが、今ばかりは違った。
「そう落ち込むなロスター。」
ついには、フォードにまで慰められる始末である。
「グス……フォードさん。そうですね。落ち込んでたって何も無いっすよね。」
「その通りだ。」
「よおし。好きな奴が現れたからって何だ!!!俺は諦めねえ!!!」
「うわー。」
「うわーとは何だレシィ!!!」
「あっ。いつものロスターに戻った。」
調子が戻ったロスター。しかし…。
「え!?ファーストキスだったの!?」
「シルビアさん!!!声が大きいです!!!」
「あら、ついうっかり。」
この会話によりロスターは再び真っ白に染まった。
「フォードさん。これは駄目です。」
「…しょうがない。心の整理がつくのを待つとするか。」
そうして、彼らはギルドへと戻って行った。
〈おまけ〉
セリカ・シア・アイリア
黒髮。身長170程度。貴族出身。剣術に長ける。イヅナに好意を抱く。
〈おまけ(リア・グレイシア編)〉
フォートレスの街にあるギルド。そこで今日もせっせと働く少女が1人。名をリア・グレイシア。イヅナに思いを寄せる者の1人である。
そんな彼女が受付の仕事をしていたときだった。
「ん?」
「どうしたの?リア。」
急に鋭い目つきになったリアに問いかけるアニス。
「今、私の立ち位置が危うくなった気がした。」
「?何をいっているの?」
このとき丁度、セリカがイヅナにあれをしているときだった。
「よく分からないけど、このままじゃ負ける気がする。」
「そう。頑張りなさい。」
リアの心に火がついた瞬間だった。