気がついたら付き人?でした
「よし、ルシファーいくぞ。」
【邪神剣エクスカリバー】を抜いてから、丸2日。俺はルシファーに稽古の相手をして貰っていた。
もちろん、この稽古の目的は更に強くなるためでも技術を身につけるためでも無い。有り余る力と武器をしっかりコントロールする為のものだ。
「ちょっと強めにいくからな。避けろよ。」
俺はそう言うと【邪神剣エクスカリバー】に魔力を込める。この剣の威力や切れ味は使用者の魔力に相当することはこの2日間で分かっている。
そのため、そのことを知らずに振るった最初の一撃では、ダンジョンの半分から下の階層がほぼ全壊すると言う大惨事になった。
しかし、もうそんなへまをすると俺では無い。俺はルシファーに向けて魔力にして
およそ100000000000(1000億)の力を込め、斬撃を放つ。しかし、それを前にしても斬撃を避ける素振りを見せないルシファー。
「お〜い。避けなくて良いのか?」
「無論だ。」
そんな事を言うルシファーだが、この前確認したステータスではこの斬撃を耐えれるとはとても思えない。
しかし、俺のこの予想はことごとく外れた。
「ハッ!」
何やら力を込めるルシファー。あれでは無理だと思ったそのときだった。何と斬撃が向きを変え俺に向かって飛んできたのだ。
俺は飛んできた斬撃を剣で切り裂く。
「やるな。今のは『反逆之王』の力か。」
「ああ、そうだ。しかし、イヅナよ。少し私を舐めすぎでは無いか?これでも私は“悪魔王”なのだぞ。」
「そう言えば、そうだったな。」
すっかり忘れていた。それにしても、ルシファーの成長ぶりには少し驚いた。たったの2日であの攻撃を凌ぐほどまで成長するとは思っていなかった。どこまで、成長するかどうか見てみたいが、遅くとも明日には遠征のため王都に行かなくてはいけないので、それは出来ない。
「十分、【邪神剣エクスカリバー】の力は把握したし、そろそろ王都に戻ろうかな。」
「そうか。ちなみにイヅナ。お前がいない間、我々がやるべき事はあるか?」
「そうだな…。取り敢えず、鍛錬はしておいた方がいいな。あ、あと俺に1人だけで良いから付き人を頼む。」
俺はこの世界にきてからと言うもの、ずっと1人で行動していたが、やはり、話し相手くらい欲しいものだ。
「分かった。ならば、“アスモデウス”でも連れていくと良いだろう。あいつなら日常的な事から情報収集まで基本、何でもこなせるからな。」
「アスモデウス?誰だ?」
「一応、幹部みたいな立場の奴だな。」
「一応ではなく、しっかりと幹部の立場を務めています!」
ルシファーの後ろに赤髪のグラマーな体型の女悪魔がいた。
「お前がアスモデウスか?」
「はい。この度はイヅナ様の付き人を務めるべく馳せ参じました。」
妖艶な笑みを浮かべ、応えるアスモデウス。しかし、付き人の話をして、まだ10秒ほどしか経っていないのによくここまで来れたものだ。なかなか優秀な奴かもしれない。
「そうか。なら付き人の件はアスモデウスに頼むとする。」
「ありがとうございます。このアスモデウス、命に変えても付き人の務め、果たさせていただきます。」
「あ、ああ。」
ただ付き人をするだけなのに大袈裟だ。
「じゃあルシファー。そろそろ行くとする。何かあったら、俺のことを思って念じてくれれば大体のことは把握できるからそうしてくれ。逆に、俺から何か伝える事があったら“念話”のような形を取って伝える。」
「分かった。」
「よし、じゃあアスモデウス、行くぞ。」
俺はアスモデウスの手を取ると“瞬間移動”をし、王都へと向かった。
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“瞬間移動”をした俺たちは王都のある路地裏にいた。
「さて、何するか。」
取り敢えず、王都には来たものの遠征の集合は明日。それまで、する事が無いのだ。
「こんな所にいてもしょうがない。適当にぶらつくか。」
「そうですね。行きましょう。」
何やら嬉しそうなアスモデウス。
「おっと、待てよ。」
俺はアスモデウスに手を引っ張られながら路地裏から出て行った。
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「イヅナ様!あそこに美味しそうなケーキがあります!」
「そ、そうだな。」
「今すぐ行くべきです!」
これで10軒目。先程からずっとこの調子だ。めぼしい店を見つけるとすぐ入店。店から出たと思ったらまたすぐ入店。
「な、なあ。アスモデウス。」
「はい。なんでございましょう。」
「お前さ、確か俺の付き人だよな?」
「はい。そうです。」
「じゃあ、今は何をしてるんだ?今の状況、どちらかと言うと俺の方が付き人をしているような気がするんだが。」
「?そうですか?逆に私は今の私ほど付き人として完璧な振る舞いをしているものはいないと思います。」
「ほう。どこが。」
「イヅナ様。付き人と言うのは付き添う相手と手を繋いだり、一緒に何かを食べたり、キスしたり、するものでは無いですか!」
「いや、それは恋人だろ?」
「付き人と恋人って同じですよね?」
「………。」
俺は確信した。騙されたと。アスモデウスは全く優秀な奴じゃなかった。その妖艶な見た目と雰囲気、ルシファーの言ったこと、それとあのときの行動の早さ。確かにあれだけ見れば優秀な奴だった。
しかし、アスモデウスと王都をぶらついて分かった。こいつは馬鹿だ。そして、見た目よりも中身が少し幼い。
きっとルシファーはこいつを迷惑に思い俺に押し付けたのだろう。まさか、力を貸すと言われてすぐにこんな事をする奴だとは思わなかった。
「はあ〜。」
俺は大きくため息をついた。
「どうしたんですか?イヅナ様?」
「何。ただ、自分の愚かさと付き人の残念さを嘆いているだけだ。」
「付き人って他にもいるんですね。」
「何でだ?」
「だって、今ここに残念な付き人なんていないじゃ無いですか。」
豊満な胸を張り、そんな事を言うアスモデウス。
「は、ははは。そうだな…。」
こいつはどうしようもない。そう俺は思った。
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付き人の残念さを嘆きながら俺たちは店を後にした。
「イヅナ様。あそこのケーキまた食べに行きたいですね。」
「ああ…。そうだな…。」
満面の笑みを浮かべるアスモデウス。苦虫を噛んだような顔をする俺。いったいこの差は何なのか…。
「ところでイヅナ様。この後はどうするのですか?」
「そうだな。暇つぶしにギルドにでも行くか。」
俺たちはギルドに向かう事にした。
「私、ギルドに行くのって初めてです。」
「だろうな。」
何せ俺が来るまでずっとダンジョンに閉じ込められていたのだから。
「どんな所なんですか?」
「むさ苦しい男がたくさんいる所だ。」
「何ですかその最悪な場所。」
「俺的にはさっきのケーキ屋の方が最悪に思えるけどな(主にアスモデウスのせいで)。」
「何でですか?あのケーキ屋のケーキ最高じゃないですか。」
そんな会話をしているといつの間にかギルドの前に来ていた。
「ここがギルドだ。」
「建物は綺麗ですね。」
俺たちはギルドに入った。今回は俺がフードを被っていたせいもあり、男たちの目が全てアスモデウスに向けられた。まあ、見た目だけなら相当な美人のアスモデウスだ。こうなっても何もおかしくないだろう。
「イヅナ様。何やら男たちがいやらしい目でこっちを見て来ます。」
「よかったな。」
「よくありません!何でさっきからそんなに冷たいんですか?一応、恋人務めてるんですよ!」
「いや、付き人だって。」
そんな事を言う俺だったが、アスモデウスの言葉を聞いた男たちの耳には届かず、今度は全員俺の方を睨んできた。
全く。アスモデウスといたらろくな事にならなそうだ。
「はあ〜。もういい。行くぞ。」
「え?でも、ギルドに来ただけで、何もしてませんよ?」
「いいから来い。」
俺たちは振り返り、ギルドから出て行こうとした。しかし、そのとき、ギルドのドアが開き誰かが入ってきた。
「はあ〜。やっと着いた。」
「そうですわね。久しぶりのギルドですわ。」
「僕もうクタクタです。」
見覚えのあるパーティーだ。
「男のくせに情けねえな、レシィ。」
「どっかの誰かさんが体力馬鹿なだけでしょ。」
「何だと!」
今にも喧嘩が始まりそうな2人にセリカの拳が落ちる。
「静かにしてください。」
「「はい…。」」
俺はこの流れにも見覚えがあった。
「各自、取集したアイテムの売却等を済ませろ。それが終了次第、武器の点検のため武器屋へ移動する。」
「「「「はい。」」」」
パーティメンバーは売却所の方へと向かって行く。それを確認したフォードはこちらに振り返った。俺を見たとき、一瞬驚いた様子だったが、すぐに冷静になる。そして、
「また、あったな。」
フォードが話しかけてきた。
「イヅナ様、知り合いですか?」
「いや、知らないぞ。」
ここはとぼけよう。
「ふざけるな。ここにいるパーティー全員がお前の事を見ていた。間違えるはずがない。」
「あんな事言ってますよ?」
「知らない。」
「しらばっくれるつもりか。」
「おーい、フォードさんって、あぁぁぁーーー!!!テメーはダンジョンにいた怪しい奴じゃねえーか!」
ここで、ロスターが合流した。うるさい奴だ。そして、ロスターに続き続々と他のメンバーも集まりあっという間に5人全員集まった。
「さあ、今度こそ話してもらおうか。」
「…………。」
俺は逃げ場を完全に失った。
「あの〜。あなた達はイヅナ様と知り合いなんですか?」
アスモデウスが質問する。
「知り合いも何もこいつがいきなりダンジョン“聖なる祠”に現れたんだよ!しかも、たった1人でだ!」
ロスターが応える。俺はこの2人で話してまともな会話になるか不安だったが、黙って見ている事にした。
「?それがどうかしたんですか?」
「それがって。“聖なる祠”に1人だぞ?」
「別に問題ないじゃないですか。」
俺は話がだんだんと怪しい方向に向かっている気がした。ここはひとつルシファーに頼んで逃げる準備をしておこう。アスモデウスを押し付けたんだこのくらいいいだろう。そんな事を考えている間にも会話は進む。
「てめえには分かんねえんだよ。あそこがどんなに危険な場所か。」
「………。」
アスモデウスが急に黙った。
「おいおい。どうした急に黙って。」
「イヅナ様。」
普通ここで俺に振るか?
「何だ?」
「この人面倒くさいです。」
「何だと!この女!」
ロスターがそう叫ぶとセリカの鉄槌がロスターの頭の上に落ちた。
「女性にそんな態度しないでください。」
「でもよ…。」
「でも、じゃありません。」
「……はい。」
ロスターが落ち込んだそのときだった。王都に警報が鳴り響いた。
「フォードさん。早く向かいましょう。」
レシィが言う。
「そうだな…。貴様、騒ぎが治るまでここにいろ!」
そう言い残し、冒険者達はギルドから出て行った。
「イヅナ様。」
少ししてアスモデウスが話しかけて来た。
「何だ?」
「もしかして、ルシファーに頼んでダンジョンの魔物を王都に送ったりとかしましたか?」
「ああ、送った。そうでもしなきゃ冒険者達から逃げられそうになかったからな。」
そう。実はこの警報は突如、王都の上空に魔物が出現した事によって鳴らされたのだが、その魔物は俺がルシファーに頼み呼び出したものだったのだ。
なぜ、そんな事をしたのかはさっき言った通り。早くあの面倒くさい冒険者達からのがれたかったからだ。
「何やってるんですか。そんな事したらこの王都が地図から消えちゃいますよ。」
アスモデウスに叱られると少しイラッとした。
「まあ、最悪の場合俺が出るさ。」
そもそも、俺はそのつもりで魔物を連れて来させたのだ。
あの冒険者達では勝てない魔物を用意する事で、負けそうになった所を助ける。そして、その流れのままダンジョンでの出来事をチャラにする。
これこそ、冒険者達から逃れ、さらに恩まで着せる完璧な作戦だ。
「とりあえず、冒険者達の腕前とやらを拝見しておくか。」
「そうですね。」
そうして、俺達はギルドから出て、冒険者達と魔物が戦う場所へと向かったのだった。
〈おまけ〉
アスモデウス・・・・身長170ほど。素晴らしい体型の持ち主。赤髪。美人。頭が残念。
ステータスはまた後日。