気がついたら神剣抜いてました
ーーー冒険者SIDEーーー
「一体何だったんでしょうか。」
雅風(イヅナ)が去った後、セリカがそんな事を呟くと、フォードが応える。
「分からん。スパイの可能性も考えたが、怪しいと言われた後に自ら名前を明かす様なアホがスパイとはとても思えん。」
イヅナのアホな行為により、ここで一つの誤解が解けた。
「じゃあ、フォードさん。もしかして、“魔神教”の関係者ではないでしょうか?」
「その可能性もありうるな。」
レシィが言った“魔神教”とは、その名の通り魔神を崇め奉る宗教団体だ。もちろん、世界的に禁止されてはいる。しかし、“魔神教”の教徒たちが起こす、“魔神解放”を訴えるデモ問題などは後を絶たない。
そのため、レシィはイヅナが“魔神教”の関係者ではないかと考えたのだろう。
「まあ、何にせよ再び会うことがあれば取り押さえた方が良いだろうな。」
「そうですわね。」
「俺もその意見には賛成だ!色々考えるよりもそっちの方が楽で良いぜ。」
「流石、脳筋ロスターだね。」
「何だと!レシィ!」
また、二人の言い合いが始まるかと思われたが、それよりも早くセリカの拳が二人の頭を打つ。
「反省してください。」
「「…はい。」」
二人は少し涙目になっていた。
「まあ、色々あったが当初の予定通り、これから王都に戻る。帰りも気を抜かず、各自それぞれの役割をしっかりと果たせ。」
「「「「はい(よ!)。」」」」
「では、行くぞ。」
こうして、フォードたちは再び王都へと向かうのだった。
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ーーーイヅナSIDEーーー
「さっきまでの階層とはまるで雰囲気が違うな。」
冒険者たちが王都に向けて出発したのと、時同じくして、俺はダンジョン第800階層にいた。この階層は先程までの洞窟のような見た目とは違い、明らかに何かによって作られたものだった。通路の壁や床には黒いレンガのような物が使われ、天井には赤く輝く宝石が吊るされており、気品すら感じる空間となっていた。
「ここからがダンジョンに本番って感じだな。よし!気合い入れてくか。」
そう言いつつ、俺は歩き出そうとしたが、丁度そのとき通路の奥に何かが動くのを見つけた。
「ん?魔物か?」
俺は試しに、動いた何かのステータスを確認してみた。すると…。
【下級悪魔】
種族:悪魔
性別:なし
レベル:890
攻撃力:42000
防御力:43000
魔攻撃:48000
魔防御:45000
魔力:42000
俊敏:40000
運:30
【能力】
エクストラスキル
『黒炎魔法レベル60』
『黒雷魔法レベル60』
スキル
『索敵レベル80』
どうやら、悪魔らしい。
確か、デイビットの話ではダンジョンの1番奥に“悪魔王”がいるかもしれないと言っていたが、その可能性は十分にありそうだ。
「て言うか、下級悪魔のくせにやたらステータス高いな。こんな奴らが攻めてきたら人間に勝ち目無くないか?」
俺が見た下級悪魔のステータスは運以外全て40000を超えていた。人間の中では強いガゼルですらステータスの値は10000前後。どう戦っても勝てる見込みはない。
「…今のうちに全員倒しておいた方が良いかな?」
そんな事を口走ったが、流石にそれは面倒くさい。そこで、俺は悪魔たちの王であるはずの“悪魔王”に人間を襲わないと誓わせる事にした。
「よし、それじゃあ早速“悪魔王”の所に行きますか。」
俺は『ヨグ・ソトース』と『アブホース』を使い、このダンジョン内で最も強力な存在を探す。
「……お、見つけた。」
ダンジョン第999階層目。そこに、最も強力な力を持つものがいる。
「じゃあ、また“瞬間移動”で行くか。」
そうして俺は、さらにダンジョンの奥深くへと向かった。
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ダンジョン第999階層。そこにはこのダンジョンを統べる存在がいた。雪のような白色の髪に、底の見えぬ黒い瞳。背中には四つの黒い羽を持つ。椅子に座り、頬杖をつく様はまるで見るものが絵の中に入り込んだのではと錯覚させる。
悪魔王“サタン・ルシファー”
悪魔たちの頂点にして、神に等しい力の持ち主だ。その昔、始祖の天使として生み出されたルシファーだったが、創造神“ブラフマー”の残忍非道の行いに激怒。魔神と共に戦いを挑むも敗北。その後、ルシファーはブラフマーにより堕天使とされ、魔界へと追放されてしまう。
だが、そこで終わるルシファーではなかった。彼は魔界に追放されすぐ、再びブラフマーを倒すために動き出した。自らの力を高め、戦うための戦力も集める。気づいたときには、ルシファーは魔界の頂点に君臨する存在になっていた。そして、その力と恐怖から悪魔王“サタン・ルシファー”と呼ばれるようになっていた。
神に反旗をひるがえす準備はできた。ルシファーは悪魔たちを引き連れ、魔界から唯一人間界に移動できる【神剣エクスカリバー】によってできた。空間の穴へと向かった。
しかし、その事を予想していたブラフマーによってルシファーと悪魔たちは【神剣エクスカリバー】によってできた穴を抜けた先、ダンジョン“聖なる祠”の800〜1000階層に結界を張られ、閉じ込められてしまったのだ。
嘆き、怒りながら何千、何万年もの間結界を攻撃し続けたルシファー。しかし、そんな事も虚しく、結界には傷一つつかなかった。
そうして、現在。何をする訳でもなくただただ、椅子に座っている、そんな日々を過ごしていた。
「…シヴァ様。私は一体どうすれば良いのでしょうか。」
そんな事を言いつつ、天井を見つめる。このまま、また幾千の年月が過ぎて行くのだろう。そんな事を思っていたそのときだった。
コツコツ…。
(ん?足音?)
普段、この階層にはルシファー以外の者たちが入ってくることは決してない。だとすれば今、こちらに向かってきているものは一体何なのか。
ルシファーは天井を見つめるのをやめ、正面を向いた。そこには、深くフードを被ったものがいた。
「貴様、何者だ。」
ルシファーが目の前にいるもののステータスを確認したが、明らかに偽装が施されていた。あそこまで数値が低いものがこんな所まで来れるはずがない。
「応えよ。」
ルシファーが再び問うとそのものは口を開いた。
「…そうだな。じゃあ、通りすがりの魔神とでも言っておくか。」
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まさか、1日に2度も同じ質問をされるとは、思っていなかった。そんな事を思いつつ、俺は同じ応答をしようとしたが、それではつまらないと思った。
「応えよ。」
どうやら“悪魔王”は早く答えて欲しいらしい。全くせっかちな奴だ。
俺は他に誰もいないのと目の前の“悪魔王”を逃がすことはないだろう。そう思い俺はこう答えた。
「…そうだな。じゃあ、通りすがりの魔神とでも言っておくか。」
なかなか良い返答が出来たと自分では思っている。俺の予想では、“悪魔王”は俺のことをふざけた奴だと思い笑って馬鹿にしてくるだろう。そしたら、俺は力の片鱗を見せ、“悪魔王”に本物の魔神だと気づかせる。
我ながら完璧な計画だ。そんな事を考えていると相手が口を開くと。
「………い……、……しく………を………するな。」
「え?何だって?」
声が聞こえ小さ過ぎて聞き取れない。そう思い、耳を傾けたそのとき、
「その汚い口で、軽々しく魔神様を、シヴァ様をお呼びするなー!!!」
そう叫びながら突然、物凄いスピードでこちらに突っ込んできた。
「うおっ!?」
あまりに唐突だった為に防御が遅れた。“悪魔王”の拳が腹に直撃した。と同時に俺は壁をぶち破り、ダンジョンの端まで吹き飛ばされてしまった。
「痛くわないけど、すごい威力だな。一体、あいつのステータスってどうなったんだ。」
【サタン・ルシファー】
種族:魔王、悪魔、堕天使、
性別:男
レベル:89600
攻撃力:80020000000
防御力:75300080000
魔攻撃:81560000000
魔防御:80006340000
魔力:84020000000
俊敏:79000000000
運:60
【能力】
マスタースキル
『傲慢之神』
『憤怒之神』
『反逆之王』
『堕天之王』
エクストラスキル
『全武術レベル100』
『全属性魔法レベル100』
『物理ダメージ吸収レベル100』
『魔法ダメージ吸収レベル100』
『光速思考レベル100』
なるほど。飛んだぶっ壊れだ。この世界に来て初めて数値が億に達している奴を見た。
「これは、俺も少し力を解放した方が良いかな。」
俺は自分の周りの空間から外の空間に出る力を数億分の1から数百万分の1にまで下げた。
「よし、行くぞ!」
俺はダンジョンの端から“悪魔王”=ルシファーの下まで一瞬で移動する。
「よお。またあったな。」
「なっ!?」
流石にルシファーもあの一撃を浴びせた奴が戻ってくるとは思っていなかったらしい。
「お返しだ。」
俺はルシファーの顔面が沈む勢いで殴り、吹き飛ぶルシファーの後ろに“瞬間移動”し回し蹴りをくらわした。
「ぐはっ!?」
ルシファーは先程まで俺がいた位置まで吹っ飛んだ。
「やべ。やり過ぎたかな。」
俺はルシファーの前に“瞬間移動”する。すると、そこには体が上半身しかないルシファーがいた。
「…シヴァ……様。」
「………………。」
俺は戦いの中で“悪魔王”がもし死んでも構わないと思っていた。が、しかし、今のルシファーを見るとそんな事を思えなかった。まあ、俺がやり過ぎたからかも知れないけど。
俺はルシファーに“ヒール”を使う。
「!これはシヴァ様と同じ魔力。」
「そんな事まで分かるのか。」
「貴様、その魔力は一体どうしたのだ。」
「貰った。シヴァから。」
「何だと!?」
それから俺はシヴァから力を貰いここまで来た経緯を話した。
「そうだったのか。では、シヴァ様はもう…。」
「ああ。残念だが、もうこの世にはいない。」
「残念だか仕方ないさ。あの方はいつも自由翻弄だったからな。こちらも慣れたものだ。それよりも先程は失礼した。少々、気が滅入っていてな、まともな思考ができていなかった。」
「気にするな。」
「そう言ってもらえると助かる。」
こうして、俺とルシファーはめでたく仲直りできたわけだ。本当に良かった。
そんな事を思っているとき、俺は1つ言い忘れている事がある事に気がついた。
「そうだ。なあ、ルシファー。」
「何だ?」
「さっき、俺が魔神になったわけを話しただろ?」
「ああ。」
「話忘れていたんだが、実はそのときにシヴァからある頼みごとをされたんだ。」
「…その頼み込みとは?」
「神を殺す事だ。」
「!と言うことは、シヴァ様の意思を継ぐと言う事か?」
「まあ、一応な。」
「……………。」
そう答えるとルシファーは黙ってしまった。
「おい。どうした?」
「名前。」
「え?」
「そう言えばまだ名前を聞いていなかった。」
「そう言えばそうだったな。イヅナって呼んでくれ。本名は雅風って言うんだがなんかこの姿だとイヅナの方がしっくりくるんだ。」
「そうか。では、イヅナよ。少しだけここで待ってはもらえぬか?」
「?まあ、良いが。」
そう言うとルシファーはどこかへ行ってしまった。
「………。暇だしダンジョンでも直しといてやるか。」
俺はダンジョンの修復をして待つ事にした。
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待つ事3分。ダンジョンはあらかた元どおりになっていた。
「よし、完璧だな。」
「イヅナ。」
「ん?来たか。」
「ああ。」
振り向くとそこにはルシファーと大勢の悪魔がいた。
「それで。これは一体何だ?」
「……イヅナ。お前はさっきシヴァ様の意思を継ぐと言ったな。」
なんか面倒くさい事になりそうだ。
「ああ。言ったな。」
「………では聞こう。その言葉に嘘偽りはないか?」
ルシファーがこちらを真剣な眼差しで見つめる。きっと今のこのやり取りはそれだけ彼ら悪魔にとって大切な事なのだろう。
俺はフードを取りルシファーを見つめ返した。
「ないな。俺の言葉に嘘偽りはない。」
「………。」
「………。」
その場に静寂が訪れる。
「…分かった。では、我々悪魔はたった今より魔神:イヅナに忠誠を誓おう。」
「……。それで良いのか?ルシファーお前はともかく他の奴らは……。」
「ああ。シヴァ様でなくとも本物の魔神と共に戦えるのだ。光栄以外の何でもない。」
「そうか。なら、頼む。俺も神に1人で立ち向かうよりも仲間と一緒の方が良い。」
「「「はっ!」」」
こうして、俺は悪魔の軍勢を手にした。これで、悪魔たちが人を襲いかかるような事が無くなったわけだ。
「よし、それじゃあそろそろ目的を果たすとしますか。」
「【神剣エクスカリバー】か。」
「ああ、そうだ。」
【神剣エクスカリバー】。この世界では最強の剣。俺はこいつを求めてダンジョンに来たのだ。
「この下の階層だ。行けばすぐに見つかるはずだ。」
「分かった。」
俺はダンジョン第1000階層へと“瞬間移動”する。
すると、すぐ目の前に地面に突き刺さった剣があるのに気がついた。
「これが【神剣エクスカリバー】か…。」
その刀身はとてもいくつもの戦いをして来たとは思えないほど美しかった。
「よし、それじゃあ貰うとするか。」
俺は柄に手をかける。そして、俺は【神剣エクスカリバー】を地面から抜き取った。この行為により世界に混乱がもたらされる事を知らずに……。
〈おまけ〉
ルシファーのマスタースキルの紹介をします。
『傲慢之神』・・・・自らの周辺にある魔力やエネルギーの掌握。使い方によれば自分の周辺のものを全て自分の力にできる。
『憤怒之神』・・・・自らの力、感情(怒り)の掌握。使い方によれば純粋に自分の力を上げることや感情(怒り)を自分の力の方にする事ができる
『反逆之王』・・・・力の流れの掌握(主に反射する事)。使い方によれば相手からの攻撃をそのまま相手に返す事ができる。
『堕天之王』・・・・力の流れの掌握(主に引力)。使い方によれば周りの重量を倍にしたり、最終的にはブラックホールを作る事も可能(現ルシファーには不可)。
もちろんそれぞれの能力には限界があり、例えば『反逆之王』の反射は雅風(イヅナ)の攻撃を反射仕切れませんでした。本当にとんでもない主人公です。
「マジで?まあそれほどでもあるかな。」
by雅風
……褒めてません。