気がついたらダンジョンでした
今回は少し短めになっています。
「さてと、これからどうしたものか。」
王城から戻った俺は特にすることもなく、近くにあった広間のベンチに座っていた。
デイビットとはすでに別れている。早く商品を運びたかったらしく、王城を出るとすぐに行ってしまった。空気の読めない奴だったが、一緒にいてとても心地よかった。
しかし、今はそのデイビットもいない。
「そういえば、俺って依頼受けてたよな。」
俺はフォートレスの街を出るとき、アニスさんに頼んで『グレーウルフの討伐』依頼を受けていた。
「こっちに来るまでにグレーウルフは10匹以上倒してるし、素材もある、依頼の完了報告でもしにギルドに行くか。」
俺は早速ギルドに向かおうとしたが、そのときフォートレスの街での出来事を思い出した。
そう、ナンパだ。俺はこのままでは、ギルドに着くまでに何十回もナンパされるだろう。
「よし、フード付きのマントでも作るか。」
俺はマスタースキル『ジュブ・二グラス』を使いできる限り強力なマントを作った。その結果……。
【混沌より生まれしマント】
レア度:測定不能
【特殊効果】
“物理・魔法攻撃遮断”
“衝撃完全吸収”
“速攻完全回復”
“完全温度調整”
俺はとんでもないものを作ってしまった。レア度は測定不能。それに加え、性能が高すぎる特殊効果。ただ顔を隠すためのマントを作るはずが、完璧な防具を作ってしまった。
「でも、この効果って俺に必要ない気がするな。」
そうなのだ。実を言うとこのマントの効果は俺のスキルで全て事足りるのだ。まあ、そもそも顔を隠すつもりで作ったのだ。何の問題もない。
俺は早速マントを身に付けるとギルドへと向かった。
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ギルドへはナンパに一切出くわすことなく着いた。マントを作ってよかった。
俺は早速、依頼の完了報告をしようとカウンターに向かった。王都のギルドはフォートレスの街のものよりも大きかった。階数は同じだが、面積が王都のほうが倍近く大きかった。
「さてと、カウンターは……あそこか。」
俺はカウンターを見つけるとすぐに向かった。
「依頼の完了報告をお願いしたいんだが…。」
「分かりました。では、ギルドカードをこちらに。」
「分かった。」
俺は受付にギルドカードを渡した。そして、受付はいつも通り、依頼の完了をするためギルドカードを読み込む。
「え〜っと。名前はイヅナ。ランクは…S!?」
受付の声がギルド内に響いた。どうやら俺のランクがもうSランクにされていたらしい。
しかし、そこまで驚くものか?Sランクの上にはまだ二つも上のランクがあるではないか。
「あの〜。もしかしたら機械が故障しているかもしれないので、確認で聞きたいことがあるんですが〜。」
「何だ?」
「イヅナさんはSランクの冒険者何ですか?」
「ああ。丁度、今日なったところだ。」
「なるほど、それは知らないわけだ。」
受付は何やら一人で納得したようでこくりこくりと頷いている。
「それで、依頼の方は…。」
「ん?ああ、すみません。依頼は無事完了しました。」
「ありがとう。」
それだけ言うと、俺はギルドを後にした。
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「さてと、これからどうしたものか。」
本日2度目のこの台詞である。現在、俺は広間のベンチまで戻ってきていた。日当たりも風通しもよく、少し気に入り始めていた。
「確か、遠征があと3日後だからそれまで暇だな。」
俺は空をボーッと見つめながらそんなことを言った。しかし、そうでもしなければ暇すぎて死んでしまいそうなのだ。
「どうせ、“瞬間移動”で戻ってこれるし、“聖なる祠”にでも行ってくるかな……。よし!そうしよう。」
俺はベンチから勢いよく立ち上がると北のブロックにある1番高い塔を目指し走った。
『ヨグ・ソトース』を使いこの街並みはすでに把握している。
「次は右だな。」
俺は右へと曲がった。
「あ…。」
そこには青年がいた。
「うわっ!?」
別に避けることはできたが、それだと俺のステータスの高さが目立ってしまうかもしれない。
俺は避けることをせず、青年に突っ込んだ。見事に青年は尻もちをついた。
「イテテ…。」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。日頃から鍛えてるからな。」
それなら尻もちをつかないでほしい。
「そうか。なら良かった。」
俺は手を差し伸べ、その青年の手を取る。しかしそのときだった。突然、強風が俺と青年を襲った。それにより、俺のマントのフードが風でめくれてしまったのだ。
「あ…。」
俺の銀色の髪が風になびいた。あとで、“完全防風”を効果に追加しておこう。そんなことを考えながら俺はフードを被る。そして、青年の方を向いた。
「…………。」
頬を少し赤くして、こちらを見つめていた。まさか、元男の俺に惚れたのか?そんな疑問を抱きつつ俺は青年に話しかけた。
「おい。どうした。」
「……ん?い、いや何でもない。ってうおっ!?」
俺に手を握られているのに気づいたらしく、慌てて手を離し、立ち上がった。
「本当に大丈夫か?」
「ああ、もちろんだとみょ。」
噛んだ。
「そうか。じゃあ俺は先急いでるんで。」
そう言い残し俺は再び“聖なる祠”を目指して走り出した。
ガゼル・ハイヤーに続く第二の被害者が現れたことを知らずに……。
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「よし、ここだな。」
俺は北ブロックにある1番高い塔の根元部分にいる。どうやらこの先に“聖なる祠”があるようだ。
「それじゃあ、行きますか。」
俺は塔の中に入って行く。内部から塔を見ると石レンガ造りなのが分かった。しかし、どの石レンガにもヒビが入っていなかった。
もしかしたら、この塔は意外と最近建てられたのかもしれない。
「少し気になるな…。」
俺はマスタースキル『ネクロノミコン』を使用し、この塔に今いる等について調べてみる。
すると、驚くべきことにこの塔が作られたのは、今から1000年以上前だった。どうやらこの塔は、北ブロックにある6本の塔全て合わせて、一つの役割を果たすらしい。
ちなみにその役割とは“聖なる祠”に結界を張り、魔物がダンジョン内からでないようにするというものだ。
そして、その結界が張られているため、塔自体は周りからの影響を受けにくく、素材となっている石レンガにヒビが入ることがないということだった。
「なるほどな。」
俺は一人で納得していた。塔の中を歩いていると通路の先に何やらギルドの受付らしき人たちがいた。
いったい何をしているのだろうか。
「少しいいか?」
「はい。何でしょうか?」
俺は直接聞いてみることにした。
「今は何をしてるんだ?」
「今は、“聖なる祠”への入場手続きの係の仕事をしています。」
「そうなのか。」
丁度良かった。俺このまま“聖なる祠”へと入るつもりだったのだ。
「俺も“聖なる祠”に入場したいんだが…。」
「分かりました。では、ここに入場するパーティーのメンバーを記入して下さい。」
俺は渡された紙に、他のメンバーもいないので自分の名前だけ書いて係の人に渡した。
「?メンバーの名前が1つしかありませんが……。」
「ああ、1人で入場するからな。」
「あなた死ぬ気ですね。たまに、くるんですよそう言う自殺志願者みたいな人。そう言うのは受け付けてないので早く帰ってください。」
「いや、俺は…「はいはい。言い訳は結構です。」
「…………。」
この人には何を言っても無駄そうだ。俺は諦めて帰ったふりをした。
そして、誰もいない物陰に隠れると“瞬間移動”で“聖なる祠”の地下2階に移動した。
「ここが“聖なる祠”か。」
ダンジョン内は大きな洞窟のようになっていて、所々にある光る水晶らしきものが辺りを照らしていた。
俺はこの日始めてダンジョンへと足を踏み入れた。
この度、「気がついたら魔神でした」の総合PV10000を突破しました。これも皆様のおかげです。
これからもこの調子で頑張っていきますのでこれからも応援よろしくお願いします。