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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第1章 フィエンド大陸編
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気がついたら試験を受けてました


  俺とデイビットは今、メイドの後について城内を歩いている。姫様たちの準備が終わったらしく、呼び出されたのだ。


  「それにしても、広いな。」


  俺たちが歩いているのはただの通路なのだが、その幅も高さも尋常ではなく、家が丸々一軒入ってしまうのではないかと思うほどだ。


  「俺もこんな城に住んでみたいぜ。まあ、一生かけても無理だろうけどな。ガーッハッハッハッ。」


  こいつは黙るってことを覚えたほうがいい。いや、覚えさせなければならない。俺はそう心の中で決心した。何だかデイビットと会ってからというもの決心したり、悩んだりすることが増えた気がする…。

  そんなことを考えていると通路の先に扉が見えてきた。


  「着きました。扉の前でお待ちください。」


  どうやら、考え事をしている間に着いたようだ。


  「わかった。扉は部屋の中から開けてくれるのか?」


  「そうです。ではこれで。」


  メイドはそう言うとさっさと何処かへ行ってしまった。

  流石は王室のメイドだ。俺の姿を見て一切動揺しないところと言い、一つの仕事が終わるとすぐ次の仕事へ向かうところと言い、完璧だ。

  きっと、きつい訓練によって培ってきたも…


  「おい、イヅナ。」


  俺がメイドについて考えていると、デイビットが話しかけてきた。


  「………。何だ?」


  全く。人の思考を邪魔しないで貰いたい。


  「扉開いてるぞ。」


  「え?…。」


  デイビットが言った通り、前を向くと扉が開いていた。

 

  「よし。それじゃあ行くか。」


  「全く。しっかりしてくれよ、イヅナ。」


  お前だけには言われたくない!俺はそう思いつつ、部屋の中へと入った。

  中では先程まで外で訓練していた騎士団の者たちが整列していた。よく見ると試験を受けた5人もいるようだ。見た様子ではたいした怪我はしていない。どうやら力のコントロールは完璧だったようだ。

  俺は騎士団たちから目を離し、正面を向いた。壇上の上には大きな椅子に腰をかけた者が3人。一人はもうすでに知っている。エスカ王国王女“グレイシア・メル・エスカ”だ。そして、残りの二人だが、間違いなく王とその妃だろう。

  そんなことを考えていると、国王と思われる男が口を開いた。


  「我は第56代エスカ国王“モート・メル・エスカ”である。イヅナ殿、デイビット殿。この度は我が娘“グレイシア”や騎士団長“ガゼル”を救ってくれた事、心から感謝する。」


  流石は一つの国を治める王だ。なかなかの威厳がある。

 

  「いや、当然の事をしたまでだ。」


  「おうよ。イヅナの言う通りだぜ。当然の事をしたんだから礼なんていらねえよ。」


  だからと言って礼を貰わないわけではない。

 

  「そう言ってもらえるとありがたい。しかし、一国の王女の命を救ったのだ。こちらとしても何もしないというわけにはいかない。」


  「じゃあ、家くれよ。」


  王の前と言うのにデイビットは一切遠慮する様子はない。


  「お前な…。少しは遠慮くらいしろよ。」


  「すまねえな。そういうことは性に合わないもんでね。ガーッハッハッハッ、ゴフ!?」


  俺は軽くデイビットの腹にパンチした。少し黙ってて欲しかったのだ。


  「少しいいか?」


  「何だ?」


  「その礼とやらにもの以外を頼むことはできるか?」


  「良いぞ。可能な限り聞き届けてやろう。」


  「じゃあ、冒険者ランクをSまで上げてくれ。」


  別にものを頼んでもよかったのだが、俺の場合、自分で用意できるのでいらなかった。

  それならば、冒険者ランクを上げるといったような事をお願いしたほうが良いと考えたのだ。


  「分かった。しかし、ギルドの決まり上、推薦して試験を受けさせる事しかできないが、それでも構わんか?」


  「ああ、それでいい。」


  本来ならいくつもの依頼を受けなければならなかったものを、全て飛ばせたのだそれでも問題ない。


  「で、その試験はいつ受けられる?」


  「一応、我もギルドの試験官くらい務める事ができる。この場で試験を受けることはできるが、その場合、相手がガゼルになってしまうが良いのか?」


  「それはガゼルに聞いてくれ。」


  俺は問題ないが、ガゼルの方は分からない。俺が竜王の一撃を止め、吹き飛ばしたところを見ていたのだ、相手にならないことくらいわかるはずだ。


  「それはどういう意味だ?」


  王は不思議そうな顔をした。もしかして王はまだしっかりとこの件の報告を聞いていないのではないか。


  「そのままの意味だ。多分、俺とガゼルが戦ったら俺が余裕で勝つ。」


  「「「「!!!!!」」」」


  デイビット以外のこの場にいる全員が驚いた様子だった。それはそうだろう。この国で1、2を争う実力を持つガゼルが相手にならないと言われたのだ。


  「イヅナ殿。それは少々言い過ぎではないか?」


  王が不満そうな顔をして言った。


  「ガゼルは冒険者にすればS〜SSランクの実力を持っている。Sランクの試験を受けたいということは、イヅナ殿はまだAランクの冒険者なのだろう?」


  「いや、駆け出しだからまだFランクかな?」


  「そんなわけあるか!!!」


  騎士団の方から誰かが声をあげた。


  「我々が5人がかりで負けた相手がFランク冒険者のわけがないだろう!!!」


  どうやら声をあげたのはカイらしい。カイは整列している騎士団たちの間を通って俺の前まで出てきた。


  「カイ止めろ。」


  ガゼルが止めにかかる。


  「しかし、団長。こいつはどう考えても嘘をついているではないですか。それに団長の相手が余裕だとも言いました。こんな俺たちに勝ったくらいでいい気になっている奴……。」


  「カイッ!!!」


  ガゼルの声が部屋に響いた。


  「すみません。」


  カイは列の中に戻っていった。


  「部下が迷惑をかけました。すみません。」


  「気にするな。」


  「しかしながら、カイが言った通り、部下たちに勝ったことで少し強気になっていませんか?そうでもなければ、Fランクの冒険者が俺に余裕で勝つなんて言えないと思いますが…。」


  俺はガゼルにもうたがわれているらしい。しかし、俺にこんなことが言えるとは、もしやガゼルは竜王との戦いを見ていなかったのか?


  「まあ、それは戦えばわかるだろ。それよりも、ガゼル。お前は竜王と遭遇したとき、どうして助かったか覚えているか?」


  「そんなこと覚えているに決まってるじゃないですか。竜王が俺にとどめを刺そうしていましたが突然止め、急に山の方へと帰って行きました。そしてその時、丁度助けにイヅナ殿が来たのではないですか。」


  なるほど、どうやらガゼルは記憶が曖昧らしく、俺が竜王の一撃を止めたことを知らないらしい。それならさっきの言葉も納得がいく。


  「イヅナ殿、もう一度だけ聞こう。本当に試験を行うのだな。」


  王が聞いてきた。


  「さっきから何度も言ってるだろ。」


  「良かろう。では、試験会場に移動しようではないか。」


  俺たちは再び試験会場へと向う。


  「おい、イヅナ。」


  「何だ?」


  復活したデイビットが話しかけてきた。


  「俺には遠慮しろとか何とか、色々言っといて、お前だってなってねえじゃねえか。もっと謙遜したりとかしろよ。」


  「確かにそうだな。次から気をつけるよ。」


  どうやら俺も結構失礼な態度を取っていたらしい。気をつけないとな。

  そんなことを考えていると試験会場に到着した。


  「それではイヅナ殿とガゼルは中へ。」


  「ああ。」


  「はい。」


  試験会場内に入ると俺とガゼルは向かい合った形で立った。


  「イヅナ殿、最後の忠告です。今からでも遅くありません。棄権してください。流石の俺も女性と戦うのは気が引けます。」


  ガゼルは俺のことを女と思っているらしい。


  「いや、いい。俺は棄権なんてしないさ。それともう一つ。」


  「何ですか?」


  「俺は男(元)だ。」


  「え!?」


  毎度お馴染みのリアクションだ。さすがに見飽きてきた。そんなことを考えていた俺は、一人の男の恋がたった今終わったことを知らない。


  「それでは、試験について説明する。試験はお互い武器一つのみ使用可能だ。魔法も問題ない。そして、試験の合格方法だが、制限時間内にガゼルから一本取るというものにする。」


  これが今回の試験のルールだ。一本取ったら合格のようだが、後でまぐれなどと色々言われないよう力の差を見せつけることにしよう。


  「それでは、両者構えよっ!!!」


  俺とガゼルは互いに剣を向け合う。


  「はじめ!!!」


  試験が始まったが、どうやらガゼルから仕掛ける気はないらしい。それはそうだろう。一応、試験官なのだから。


  「イ、イヅナ殿、お先にどうぞ。」

 

  俺が男と聞いてから何か様子がおかしい気がするが気のせいだろう。


  「いや、もう始めてるよ。」


  俺はそう言って上を指差した。ガゼルが上を向くとそこには何十本もの氷の槍があった。


  「なっ!?」


  驚いた様子のガゼルに氷の槍は容赦なく発射される。しかし、そこは流石の騎士団長、すぐに冷静さを取り戻し、氷の槍を次々とかわしていく。


  「へえ。やるなガゼル。」


  「喋ってられるのも今のうちです。」


  ガゼルは全ての氷の槍をかわし終えるとこちらに向かって走ってきた。数十メートルの間合いを一瞬で詰めてきた。


  「貰った!!!」


  ガゼルの剣が俺に向かって振り下ろされる。こいつ絶対に試験ってことを忘れてるだろ。そんなことを考えている間にも剣がどんどんと近づいてくる。しかし、それを俺は親指と人差し指だけで止めた。


  「そんな!?」


  「なかなかいい太刀筋だが、まだまだだな。」


  そう言うと、俺は剣ごとガゼルを持ち上げ50メートルほど先の壁まで投げた。

  手加減したつもりだったが、それでもガゼルは壁を突き破り会場外へと行ってしまった。その様子を見ていた騎士団のものと王族の3人は驚きのあまり声も出ていなかった。


  「少しやりすぎたな。」


  もう少し相手をする予定が早々に終わってしまった。


  「これで合格か?」


  俺は試験官である王に聞いた。


  「そ、そうだな。」


  「よし、じゃあ次はデイビットの番だな。」


  「え!?俺もやるのか?」


  そんな訳ない。


  「違う。礼の話だよ。何か欲しいもんとかないのか?」


  「ああ。そう言うことか。」


  そう言うとデイビットは王の方を向いた。まだ、王は騎士団長が負けたのが信じられないらしく呆然としていた。早く助けてやれよ。そんなことを思っているとデイビットの声が試験会場に響いた。


  「俺に馬鹿でかい城をくれ!」


  「…………。」


  王は無反応だ。


  「お〜い。王様?」


  「………ん?」


  隣にいたグレイシア姫に叩かれてやっと反応した。


  「な、何だ?」


  「だから、馬鹿でかい城をくれ。」


  「あ、ああ、良いぞ。ただ城となると王都から離れたところのものになってしまうが、それでも良いか?」


  「それは困るな。それなら、屋敷でいいぜ。」


  「わかった。ではすぐに手配しよう。」


  「おう!ありがとな。」


  これで一応の用事は済んだ。俺はここに長居する必要もないのでさっさと帰ろうとしたが、


  「少し良いかイヅナ殿。」


  俺は王に止められた。


  「何だ?俺はもう帰りたいんだが。」


  「そう言わずに待ってくれないか。」


  断るのも面倒なので俺は王の言う通りにした。


  「手短に頼むぞ。」


  「感謝する。」


  「いいから早くしてくれ。」


  「わかった。実はだな、近々この国で騎士団や冒険者を集めて“聖なる祠”に遠征をしようと考えているのだ。」


  なるほどそれに俺も連れて行きたいということか。


  「いいぞ。」


  俺は早速その願いを聞き入れることにした。


  「ん?まだ要件を伝えてはいないが、良いのか?」


  「ああ。どうせ、その遠征についてきて欲しいということだろ?」


  「その通りだ。話が早くて助かる。」


  「それで、その遠征はいつやるんだ?」


  あまりにも実行日が遅いようならば、先に行ってしまいたい。


  「今日から3日後だ。場所は“聖なる祠”入り口前。朝の7時に集合だ。」


  そのくらいなら俺もついて行くことにしよう。


  「ちなみに“聖なる祠”入り口前って何処だ?」


  「北ブロックにある六つの塔の中で最も高いものの下部にある。」


  「わかった。要件はそれだけだよな?」


  「そうだ。」


  「じゃあこれで失礼する。」


  俺はデイビットと試験会場から出て行こうとしたが、一つあることを忘れているのに気がついた。


  「なあ国王。」


  俺は王を呼んだ。


  「何だ?」


  「早くガゼルを助けてやったほうがいいぞ。」


  「「「「あっ…」」」」


  この場にいる全員、今思い出したようだ。




 


 



 

 

 


 


 


 

 

 


 

 


 

最近、ブックマーク数が伸び悩んでいます。読者の皆さん、もし身近にweb小説を読んでいる方がいましたら「気がついたら魔神でした」をおすすめしてあげてください。

どうか、これからもよろしくお願いします。

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