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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
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〈アフターストーリー〉気がつくことができたから

久しぶりの投稿です。大変お待たせしました!

 

「ミカ……。」


 このときばかりは自身の能力の高さが嫌になった。風に乗り聞こえてきた彼女の泣き声。

 なぜ泣いているのかはわからない。だが、気づいてしまった以上、放っておくわけにはいかない。


「アスモデウス、少し行ってくる。」


「…わかりました。行ってあげてください。」


 どうやらアスモデウスも気づいていたらしい。俺は大きく頷くと『瞬間移動』を使い、噴水の近くに移動する。


「……うぅ……。」


 ミカはベンチに座り、顔を抑えていた。その理由はわからなかった。

 俺は心が読めるわけでも、不可能なことが無いわけでもない。だが、いつも思うのだ。なぜ、こうなるまで気づけてやらなかったのかと。

 どうしようもないことだったのかもしれない。気づくタイミングなんてなかったのかもしれない。それでも、俺はミカを守ることができなかったのかと思ってしまう。

 ゆっくりとミカに近く俺に彼女は声をかけた。


「……なんで……いつも……私の前に……現れるんですか?……来て欲しいときに……必要と……しているときに……。」


「……友達だからかもな。」


 俺は何の根拠もなく、言った。まるで何も考えずに言ったような一言。だが、俺はこの言葉だけで十分だと考えていた。

 難しく考える必要はないと、辛いときに、側にいて欲しいときにいてくれるのが友達だとそう思っていたから。そして、ミカエルもきっとそれを望んでいるのだと勝手に思い込んでいた。しかし、そんな俺の思い違いは彼女をより傷つけてしまった。


「……友達……ですか……。」


「そうだ…。」


 ミカエルはゆっくりと顔をあげる。そこには笑顔はない。ただただ悲しさが伝わってくる涙を堪える姿がそこにはあった。


「ミカ?」


 俺は手を伸ばし、彼女に近く。しかし、彼女は一歩下がり距離を取る。


「……イヅナ……以前の私には……欲しいものなど……ありません……でした……心に気づくことができず……何にも感心が……わかなかったから……だと思います。」


 彼女はゆっくりと話を始めた。悲しそうに、そして、辛そうに。


「……でも……今は……違います……私の意思で……行動している……何が欲しいのか……何がしたいのか……だんだんと……わかるように……なってきました……でも……いえ……だからこそ……。」


 ミカの抑え込んでいた涙が、気持ちが溢れ出した。


「わかって……しまったんです……私が……イヅナの友達であることが……嫌なのだと……もっと近くで……もっと寄り添って……一緒にいたいのだと……これが恋なのだと……わかって……しまったんです。」


 それは切なく苦しい告白だった。何よりも望んでいた筈の友達という関係。だが、いつの間にかその関係は枷へと変化していたのだ。


「……いつも……イヅナのそばで……想いを口にできる……彼女たちが……羨ましい……私とは違った……イヅナとの関係が……そして……そこに……私がいないのが……辛いです……。」


「ミカ……。」


「……もう……私には……どうすればいいのか……わからない……。」


「……だから、俺から逃げたのか?」


 ミカは小さく頷く。

 俺は予想外の彼女の気持ちにどうすればよいのかわからなくなっていた。友達だから力になれると想い、ミカの支えになろうとここまで来た。だが、実際にミカを苦しめていたのは『友達』という関係だった。

 俺はミカを見て、改めて思う。心とは、感情とは難しいものだと。自分で自分の心すべてを理解することは難しいく、もちろん、誰かの心を理解することは更に難しい。例え神になったとしてもそれは変わらなかった。だから、今の彼女がどんな言葉を望んでいるのか、どんな言葉が彼女を救えるのか、わからなかった。そして、俺はどうすることもできず彼女を見つめている。


「……きっと私は……最初から……イヅナのことが好きだった……でも……無知な私は……それが友情なのだと……勘違いしていました……そして……気づいた頃には……遅すぎました……私は……私は……。」


 悲痛な言葉だった。一言一言が俺に突き刺さる。辛いと、苦しいとミカの想いが伝わってくる。

 だが、その一方でミカが今、どうしたいのか、俺がかけられる言葉が何なのかが少しだが理解できた。なら、俺がすることはミカが本心に従えるよう、サポートするだけだ。


「確かにミカが言っていることは理解できる。友人を異性として突然、意識すればどう反応すれば良いか分からなくなるなんてよくあることだ。そして、その側に他に親しそうにする人物がいれば私が今更何をしてもと、卑屈になることもわかる。

 だけどなミカ、遅すぎるなんてことはないんだよ。」


 俺はゆっくりとミカに歩み寄る。


「素直に慣れば良い。自分が本当はどうしたいのか、それを考えて動けば良いんだ。」


「……私が……何をしたいか……。」


「そうだ。ミカはどうしたいんだ?」


「……私は……。」


 ミカは考えた。自分がどうしたいのか。


(……私は……イヅナと……一緒にいたい……もっと言葉を交わしたい……そして……イヅナを知りたい……そして……私を……知って欲しい……。)


 ミカは理想の未来を想像した。するとミカにとって不思議なことがおきた。先程までは不安でしかたなかったのに、したいこと、やりたいことは次々と頭に浮かんでくる。そして、心が温かくなるのを感じていた。


「……したいことは……沢山あります……けれど……怖い……今以上を……求めるあまり……今が壊れてしまうのではと……考えてしまう……。」


 何がしたいのかはわかったけれど、それ以上の不安が彼女にはあった。

 好きな人が出来たけれど、今の関係を崩したくなくて、行動に移せない。よくある話だ。恋なんて必ず上手くいくものではない。成功すれば更に深い関係になれるが、失敗してしまえば以前の関係に戻ることは難しい。そして、こういう時には決まって負の感情がまさってしまう。それはミカも例外ではなかった。


「……それに……今さら私が……何かをしたところで……もう……手遅れです。」


 そう言ってミカは俯いた。ミカの考えはよくわかった。けどな、ミカ……。


「確かに、今の関係が壊れてしまうのが怖いのはわかる。俺だって同じ立場ならそうなってしまうかもしれないし、例えばの話だが、俺がミカをふってしまえば気まずくもなるだろう。」


「……そう……ですか。」


「けどな、それだけで俺たちの関係が壊れると思うか?」


「……え?」


 ミカは驚いた表情を見せる。


「確かに前の通りではないのかもしれない。けど、俺がミカのことを嫌いになったり、話したくないなんては思わない。俺はミカと関係を経ちたいだなんて思うわけないだろ?俺にとってミカは特別な存在なんだからさ。」


「……はい……はい……。」


 ミカは涙を流し、返事をするだけだった。けれど少しだけ彼女は笑っていた。


(……私は……イヅナの特別……少し……嬉しいです……。)


 その一言がミカを安心させたのだと、俺は気づいてはいなかった。だが、少しは不安を払拭できたのだと思い安心はしていた。


「それと俺が言うことじゃないのかもしれないが、もう一つだけ言わせてくれ。」


「……何……ですか?……。」


「……手遅れなんてことは無い。未来なんて誰にもわからないんだからな。」


 そう言って俺はこれまでの出来事を思い返す。


「…俺だってそうだ。今だから言えるが俺は創造神たちに力を奪われた時、もう駄目だと思った。まあ実際、俺一人ではどうしようもなかったんだがな。

 けど、仲間たちが力を貸してくれたおかげで今がある。こんな未来、俺にはわからなかった。だからな…。」


 俺はミカの頭を撫でる。


「遅すぎるなんてことはないんだ。諦める必要はない。」


「……イヅナ……。」


「ただ、そのなんだ。こんなこと言っておいて悪いんだが、俺もいきなりのことでちょっと困惑してる。ミカのことは親友だと思ってたから、そういう風に思われてるとは知らなかった。だから、そのすぐに答えられない…。」


 あれだけ諦める必要はないとか言っておいて、これは酷いし、締まらない。それにこんなことでミカの不安が払拭できるのか?

 俺は少しの不安と共にミカの様子を見つめる。しかし、なんで俺まで不安になっているのだろうか。

 ミカは少し考えると俺を見つめ返した。


「……諦めるなと……言っておきながら……答えられないんですか?……。」


「……そ、それは申し訳ないんだがな。」


 ジーっとこちらを見つめる視線が痛い。


「……くす……冗談です……少しふざけた……だけです。」


「じょ、冗談……。」


 ミカも冗談を言うようになったのか。


「……でも……そうですね……情け無い……イヅナのおかげで……やりたいことが……もう一つ……できました。」


「それは?」


「……それは……ですね……。」


 ミカは一歩前に出ると俺に顔を近づける。


「……イヅナに……私を好きになって……貰うことです……もちろん……異性として……そして……これを……私のはじめての……目標にします……。」


「目標?」


「……そうです……たとえ……何十年……何百年かかっても……私は諦めません……だから……イヅナ……。」


「え?」


「……そんな……私に……付き合って……くださいね」


 ミカは笑顔だった。彼女が笑みを浮かべていることなら何度か見たことはあった。だが、今、目の前にある彼女の表情を見たのははじめてだ。


 そして、そんな表情を見せられてドキッとしないわけがない。仕方ないだろ?だって美少女の満面の笑みだぞ?それにとにかく近い。


「……それでは……イヅナ……私は先に……行きます。」


「あ、ああ。」


 ミカエルは校舎へと向かって行った。そして、なぜか俺は一人、広場へ残されていた。


「……ミカって泣くほど辛かったんだよな?なんであんな綺麗な笑顔で、俺より先に校舎に戻っていったんだ?」


 俺は途中からの急展開についてけずに困惑する。


「……まあ、あれだけ笑えてるってことは問題は解決したってことでいいんだよな?」


 俺は頭を抱える。そして、これでよかったのかと悩みながら校舎の方へと戻るのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーーミカSIDEーーー



 一人歩くミカはイヅナのことを考えていた。


(……顔が少し……赤くなっていました……私のことを……意識して……くれたのでしょうか?……。)


 そう考えると嬉しくなった。胸がポカポカする。


(……しかし……恋は盲目……という言葉を……知りましたが……まさに……その通りです。)


 あれだけ悩んでいたのに、苦しんでいたのに、イヅナと話せただけで、言葉を聞けただけでその不安は無くなっていた。


(……私は……イヅナが好き……だから……諦めない……イヅナが……振り向いてくれる……その日まで……。)


 恋を認め、この気持ちを大切にしようと考えたとき、世界が不思議と鮮やかに見えた。


(……恋……素敵なものです……よかった……心があることに……気づけて……いえ……違いますね……ありがとう……イヅナ……心に気づかせてくれて……大好きです……。)


 ミカの恋の物語はようやく始まったのだ。













一応、ミカのアフターは終わりです

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― 新着の感想 ―
[一言] 「……そんな……私に……付き合って……くださいね」 本当に!本当にありがとうございましたっ! これ以上の言葉が見つかりません! 一言で、心が震えました!
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