〈アフターストーリー〉気がついたらミカは…
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
今回はアフターミカエルです。
ミカエルの朝は早い。いや、遅いのかもしれない。
彼女は確かに毎朝、5時前には目を覚ます。体を起こし、その様子は側からみれば起きているだろう。だが、そこからが長い。
「……眠い……。」
天使長でも無く、ただの学生として日々を過ごしている。だから、彼女には今、全うする使命はないのだ。しかしながら、そのせいかミカエルは前ほどしっかりとした性格では無くなっていた。時間に縛られることなく、悠々と、ベッドの上で過ごすのだ。
しかし、そうは言っても魔法学園に通う彼女は登校しなければならない。
ミカエルはゆっくりと立ち上がると鏡の前まで移動する。自身の髪がまるでパイナップルのようになっていることに少し驚きつつ、彼女は支度を始める。
「今日は……食パン……。」
朝食を食べ、歯を磨き、鏡の前で自分の姿を確認する。
「……大丈夫……でしょうか?」
いつもならばミカエルは自身の姿をそこまで気にはしない。ある程度、大丈夫だと感じたら寮を出発する。だが、今日は違った。
イヅナが魔法学園に来る。それが理由で彼女はこのように自身を気にかけていたのだ。
「前髪……よし。……制服……シワは……ない。……大丈夫?……。」
いつもは気にならないようなところまで入念に確認してしまう。イヅナと会うと思うと緊張してしまう。きっと、大切な友達だからなのだろう。ミカエルはそう思い、深く息をつくと。覚悟を決める。
「……よし…。」
ミカエルは扉を開け、寮を出発した。
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「そろそろ着く頃かな?」
ニエーゼのその言葉にミカエルは思わず体を震わせる。久しぶりにイヅナに会えることは嬉しい。しかし、いざ会えるとなると何故か緊張してしまう。
イヅナとは会いたいし、話もしたい。出来ることなら一緒に街を歩いて、スイーツを食べたい。話したいこと、やりたいことなら数多く思い浮かぶ。でも、なぜだろうか?イヅナと会えると思うと胸が高鳴ってしまう。緊張してしまう。けれどもそれがミカエルにはわからない。
「……ニエーゼ……カレッタ……ソーマ……少し……聞きたいことが……あります……。」
「ん?ミカミカが僕たちに聞きたいこと?珍しいね、どうしたの?」
3人の視線が集まる中、ミカエルは自身の今の状況を説明した。すると3人はそれぞれ違う反応をした。ニエーゼはなる程〜っと頭をかき、カレッタはなんと答えればわからないようで口が回らなくなっている。そして、ソーマはニヤニヤとしながらミカエルを見つめていた。
「……私は……おかしいの……でしょうか?……。」
「いや、そんなことは無いと思うよ。きっと初めてなんだなあ〜っていうのは伝わったけどね。」
「……初……めて?……。」
ソーマの言葉の意味がミカエルには分からない。しかし、他の2人は理解しているようだった。
「……ニエーゼも……わかるの……ですか?」
「う〜ん。一応わかるかな〜。」
「……ぜひ……教えて……ください……。」
自身の今の感情が何なのか知りたい。その思いがミカエルの体を動かす。前のめりになったミカエルに思わず、ニエーゼは体をのけぞらせる。
「わかった、わかったから。」
そう言って、ミカエルの体を押し戻し、席に戻らせる。目をキラキラさせながら耳を立てるミカエル。そんな彼女にニエーゼはある質問をする。
「ミカちゃんはイヅナちゃんのことどう思ってるの?」
「……イヅナのこと……ですか?……。」
自身のことを大切に思ってくれたイヅナ。彼には感謝しても仕切れない気持ちが募っていた。しかしながらその思いばかりが先行し、最近、イヅナが自分にとってどんな人物なのか、どう思っているのか、考えたことはなかった。
ミカエルは目を詰り、考える。
「そ、そこまで深く考えなくても…。」
ニエーゼがそういうがミカエルには集中しているミカエルには届かない。
(……私は……イヅナのことを……どう思って……いる?……。)
ミカエルは考える。しかし、彼女にとってこの質問は難しいものではなかった。イヅナをどう思っているか、それは少し考えただけで次々と口から溢れてきた。
「……イヅナは……優しくて……温かくて……私にとって……かけがえのない……親友です……これからも……側にいて欲しい……そして……笑っていて……欲しい……私はそう思っています……。」
そう言い、イヅナのことを思い出すミカエル。その顔は優しく、そして、幸せそうであった。
その様子をみて、3人は確信した。
「へ〜〜。」
「聞いた感じだと、やっぱりそうだよね?」
「はわわわわ……。」
3人の反応から彼女たちがミカエルの感情が何なのか理解していることがわかった。しかし、彼女たちはなかなか教えてくれない。
「……教えては……くれないの……ですか?」
残念そうにそう呟くミカエルに、流石の3人も口を割った。
「大丈夫…ちゃんと教えるよ。ずばり、僕たちが思うにミカミカは彼に『恋』をしてるんだよ!」
「……『恋』……ですか?……。」
「あ、あれ〜?なんか反応薄くない?」
思っていた結果と違い、ソーマは少し困惑する。
「……私と……イヅナは……親友……です……だから……恋では……無いです……。」
ミカエルはそう言って胸に手を当てる。
「……私はイヅナのことが……好きです……イヅナと一緒にいると……心がポカポカします……これは昔も……今も……変わりません……でも……だからこそわかります……これが……友情なのだと……。」
ミカエルは満足そうに微笑む。自身とイヅナは最高の友達なのだと、そう確信して。しかし、そんな彼女にソーマはいう。
「え、じゃあ、最初からミカミカはイヅナに恋をしてたんじゃ無いの?」
「……え?……。」
予想外の返答にミカエルも思わず、首を傾げる。
「考えてみて、ミカミカは僕たちにも同じ感情を抱くかい?」
「……似た感情を……抱きます……。」
「ほら、同じじゃなくて、似た感情なんだよ。そして、その理由は親友だからでは無いと僕は思うなあ〜。」
「………。」
ミカエルにもソーマの言うことは納得ができた。ミカエルにとってイヅナは特別な存在だ。でも、それは彼が心を開いてくれたから、親友だから、そう思っていた。けれども、そもそも抱いていた感情が違ったらどうだろうか。
イヅナと一緒にいるとポカポカする。頬も火照ってしまう。
ニエーゼたちと一緒にいるときは楽しい。けれど身体の底からポカポカした記憶はない。頬も火照らない。
イヅナもニエーゼもどちらも一緒にいたいと思う。けれど、いつでも思い出すのはイヅナのこと。
ミカエルも『恋』がどのような感情か知っている。『異性に愛情を注ぐ』、それが恋と言うものだ。
(……イヅナは……異性……私は温かい感情を……イヅナに……送っている……)
よくよく考えると全てが当てはまっていた。
「……私は……イヅナのことが……。」
ミカエルの顔が赤く染まる。そのときだった。
「みんな元気にしてましたかー!」
よく聞いた声が教室に響いた。
「アモちゃん!」
ニエーゼたちは席を立ち、声の方へとかけていった。そこにはイヅナの付き人であるアスモデウスの姿があった。そして、彼女がいるということはイヅナもいるということ。
イヅナのことが好きなのだと自覚したミカエルはどうすれば良いのか分からなくなってしまった。どんな顔で合えば良いのか、前は一体どのように話していたのか、この気持ちとどう向き合えば良いのか。
「イヅナ様も早く来てくださいよ!」
アスモデウスがイヅナの名を呼ぶ。ミカエルは辺りを見渡す。
「お前が急ぎすぎなんだよ。久しぶりだな、みんな。元気にしてたか?」
イヅナはアスモデウスに遅れて教室に入ると級友たちに声をかける。
「もちろんだよ!」
「げ、元気でしゅ!」
「僕も元気さ。」
元気な姿を見ることができ、満足したイヅナだったが、ミカエルの姿が無いことに気づく。
「ミカちゃんならそこに……あれ?」
ニエーゼが指をさした場所にミカエルの姿はなく、その奥では開いた窓から風が吹き、カーテンを揺らしていた。