気がついたら泣いて、憎んで、笑ってました
久しぶりの更新です。
遅れてすみませんでした。
『イフィートの森』の騒動のあと、俺たちはグレイシア姫と騎士団長さんたちと一緒に王都へと向かっていた。この調子で何事もなければ、もうすぐ王都に着くことだろう。
「いや〜、それにしてもこの前の『イフィートの森』の出来事はすごかったよな。まさか、竜王まで出てきてたとは。よく勝てたな、イヅナ。」
「勝ってはないさ。竜王が勝手に帰って行ったんだ。」
「生き残っただけでも十分すげ〜さ。」
こんな感じでデイビットは同じような話しかしない。他に話題はないのだろうか。
「なあ、デイビット。今ふっと思ったんだが、竜王って魔物全体の中でいうとどのくらい強いんだ?」
「そんなもんトップクラスに決まってんだろ。何当たり前のこと聞いてんだ。頭でもぶったか?」
俺は『ネクロノミコン』を使って調べることはできたが、話題を変えたかったのでデイビットに竜王のことを聞いてみた。
デイビットが言うにはこの世界には幾多の魔物が存在するが、それぞれの魔物の中で“王”の名を持つ者はほんの一握りらしい。
竜王もその一角で、俺が追い払った炎竜王“イフィート”以外にあと4匹いるそうだ。
また、他の魔物の王たちよりも強力な魔物らしく、それこそ竜王を超える魔物といえば悪魔王などくらいしかいないらしい。
「そうなのか。それじゃあその悪魔王は何処にいるんだ?」
俺はそいつとなら少しは戦えるのではないかと思い、居場所を聞いてみた。
「悪魔王の居場所を正確に知る奴はいねえが、噂じゃあ“聖なる祠”の最深部にいるって話だ。もともとは『魔界』?とか言う場所にいたらしいんだが、【神剣エクスカリバー】を差し込んだせいで空間に亀裂が入って、そこを通って『魔界』からやってきたらしい。」
どうやら【神剣エクスカリバー】は空間にも影響を及ぼすほどのものらしい。たいしたものだ。
それにしても悪魔王がこれから行こうとしている場所にいるなら丁度いい。
いったいどの程度の力を持っているのか試してやろう。
「それにしてもイヅナは、以外と常識を知らないんだな。」
「田舎育ちなもんでね。」
「もしかして、“魔神”の事も知らないんじゃないのか?」
「……“魔神”か。」
「おい、まさか本当に知らねえのか?」
俺は魔人のことは知っている。それは当たり前だろう。俺が魔神なのだから。しかしながら、世界からみた“魔神”という存在については知らなかった。
「ああ。もし良ければそのことについても説明してくれないか?」
俺はデイビットに聞いてみることにした。
「分かった。じゃあまずは、誰しも子供のときに聞いたことがある昔話をしてやろう。」
この世界が存在するよりも遥か昔、ある3神の神たちがいた。
創造神“ブラフマー”
繁栄神“ヴィシュヌ”
破壊神“シヴァ”
彼らは、この何もな空間に退屈していた。そこで、彼らは世界を創り、それを観察しようとした。
まず、創造神“ブラフマー”が世界、そしてそこに住まう生命体を創り出す。
次に、繁栄神“ヴィシュヌ”がその世界に繁栄をもたらす。
最後に、破壊神“シヴァ”その世界に、破壊や死を授ける。
こうして、彼らは今の世界、彼らが退屈を凌ぐための世界を創り上げた。
しかし、その創り上げた世界にすぐに飽き、新な刺激を求める神がいた。
破壊神“シヴァ”だ。
彼は創り上げた。この世界を自らの手で破壊しようと考えた。だが、その行為を他の神が黙って見過ごすわけがなく、破壊神“シヴァ”を止めようとした。
しかし、それに刃向かい破壊神“シヴァ”はついに、同じ神である繁栄神“ヴィシュヌ”を殺し、この世界へと向かったのだ。
彼はこの世界で破壊の限りを尽くす。誰もが心を折られ、世界の滅亡すると思っていた。
だが、そこにもう一人の神、創造神“ブラフマー”の手が差し出された。
創造神“ブラフマー”は異世界から勇者を召喚すると、それと同時に人々に知恵と力を授けた。
それから、創造神と人々の力を合わせ、なんとか破壊神“シヴァ”を封印することに成功した。
こうして、この世界には平和が訪れ、破壊神“シヴァ”はその欲にまみれ、己の思うがままにした悪魔のような行為から、恐怖の象徴となり、“魔神”と呼ばれるようになった。
「まあ、こんなところだ。」
「なるほどな。」
デイビットの話を聞いた限りだと、魔神“シヴァ”は世界から悪の化身として見られているようだ。
だがしかし、俺は自分があった魔神“シヴァ”がとてもこのようなことをするとは思えなかった。もしかしたらこの話は誰かの手によって細工されているのではないかと思えた。しかし、それは考えすぎであろう。
そんなことを思っているとスキルがピックアップされた。
マスタースキル
『ネクロノミコン』
そうか、『ネクロノミコン』を使えばこの出来事の真相を知ることができる。
俺は早速、魔神“シヴァ”について調べてみた。
【魔神“シヴァ”】
•この世界が生まれるはるか昔からいた3神の一柱で破壊・死などをこの世界に与えた。
そんなことはわかっている。今知りたいのはさっきの話についてだ。
•現在、伝わっている昔話では魔神“シヴァ”が繁栄神“ヴィシュヌ”を殺し、世界を滅亡させようとしたことになっている。
しかし、実際は繁栄神“ヴィシュヌ”を殺したのは創造神“ブラフマー”であり、その行為に激怒した魔神“シヴァ”は創造神“ブラフマー”を殺そうとするが、失敗に終わり、さらには濡れ衣を着せられた挙句人間たちを利用した創造神“ブラフマー”により封印されてしまう。これが、昔話の真実である。
「…………。」
「?おい、イヅナどうした?」
「いや、何でもない。」
全くひどい話だ。
長い時を過ごした仲間を殺され、自分たちが作った世界から敵とみなされる。
何が魔神だ。あいつは、シヴァは繁栄神“ヴィシュヌ”のために一矢報いようとすることができるいい神ではないか。
「おいおい、イヅナ。本当に大丈夫か?」
「だから大丈夫だって。」
「……大丈夫な奴はそんなツラして泣かねえと思うがな。」
「え?…。」
俺はデイビットに言われ、自分が泣いていることに気づいた。
「あれ?何で俺泣いてんだ。」
理由はならわかっている。
「ハハ…。俺なんか変なもんでも食ったのかな?」
そんな訳はない。
「ハハ…。」
「イヅナ……。」
俺は魔神のことを思うと涙が止まらなかった。
「何だよあいつ。俺とあったときはあんなに平然としていたくせに…。何が俺と似てるだ。あいつの方が……あいつの方がよっぽど苦しい思いしてんじゃねえか。自分の手で仇を取りたかったはずだろ。なのに俺なんかに任せて……。」
俺はなぜかあいつの気持ちが分かった。いや、分かったのではなく、全く同じ思いを感じているといった方が妥当かもしれない。きっと、『アブホース』や『ウボ・サスラ』が発動したのだろう。強すぎるスキルというものも厄介なものだ。
俺は改めて自分が課せられた義務の重さを痛感した。
俺がやらなくては、あいつの代わりに俺が…。そのときの俺は魔神の憎悪と憎しみに飲まれていた。もともと人間である俺は魔神が押さえ込んできた感情にとてもではないが耐えれなかった。
そうして、ただ憎悪と憎しみ、そして義務のためだけに動く本当の“魔神”が生まれようとしていた。
ポン
俺の背中に何か温かいものが触れた。俺は、ゆっくりと顔を上げた。するとそこには満面の笑みを浮かべたデイビットの顔があった。
「何思いつめた顔してんだ?イヅナ。」
「デイビット…。」
「見たところ、何やら重いものに潰されそうて感じだな。」
「……。」
「だったら簡単なことだ。そんな重いもんに真っ向から苦しんで挑むことはねえ。」
デイビットはいったい何を言っているんだ?
「とりあえず笑え。」
「…………。」
こいつは馬鹿なんだ。俺は確信した。
「いいかイヅナ。人間ってのは笑ってるときが精神的にも1番強い。余裕があるからな。」
それは確かにそうかもしれない。
「それに余裕が出来れば何かしらの打開策が見つかるかもしれねえだろ?」
俺はデイビットの言葉が心の奥底まで流れてくる感じがした。
変な感覚だったが嫌いではない。
「ほら笑え!イヅナ!」
「…ふ。」
魔神の俺がこんな馬鹿に救われているのかと思うと笑えてきた。
「お、笑ったな。そんじゃあ俺も。ガーハッハッハッハ。」
「ハハハハハハ。」
全く大したものだ。
「ありがとなデイビット。」
「おう。気にすんな。」
俺は笑ったことにより少し余裕ができた。そのとき、また魔神の感情が流れ込んできているのを感じた。
しかし、今度の感情は先ほどまでの憎悪や憎しみといったものとは違ったものだった。
〈まあ、とりあえずイヅナに任せとけばいいだろ。〉
俺はこんなやつのためにあそこまで苦しんだのか…。 そうして、俺はさっきまで自分が思っていたことを考えると何だか馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「そうだよな。どうせやるなら笑えて楽しい方がいい。わざわざ、苦しむ必要はないな。」
結局、苦しもうと、楽しもうとやることは何も変わらないのだ。
「そうと決まれば話は早い。」
「ん?何か決心でもついたか?」
「ああ、デイビット。」
昔話を聞くだけでまさかここまで考えるとは思っていなかった。しかも、そうして考えて、考えて、やっとの思いで出した答えが最初に戻っただけ……ただ神を殺すということだ。
「本当に馬鹿だな俺は。」
「全くだ。昔話で何を決心したのやら。」
そんなことを言われていると道の奥に大きな門が見えてきた。
「さあ、着いたぜイヅナ。」
俺たちは、ついに王都エスカに到着した。
思っていたよりも内容が濃くなってしまい、途中何を書いているのかわからなくなっていたときもあり、一部内容がおかしくなっていたかもしれませんがご了承ください。(あまりにもひどい部分があったら教えていただけると助かります。)