気がついたら勝利でした
あと1、2話で本編は終了する予定です。まあ、その後の後日談やらイヅナと誰かの話などはあげる予定ではいます。
仲間たちの声援を背に受け、俺は醜い神へ向かう。応援が力になる。そんなことは迷信か何かだとばかり思っていた。だが実際に応援を受けると不思議と体に力が入った。真神に進化し、力はすでに増幅していた。その実感はあったし、戦いのなかで確かめることができた。だからこれ以上の力なんてものは見込めないそう考えていた。だが、違った。体が内側から、いや、心の奥から温められているそんな感覚だ。
(きっとあいつらだからこんなにも力になるんだろうな。)
共に旅をし、喜び、楽しみ、悲しみ、苦しんだ仲間たち。そんな彼らの声が届くから力が湧くのだ。
「イヅナあぁぁぁぁ!!!」
肉塊となった神が俺の名を呼ぶ。もはや、あれはシヴァでも創造神でもなかった。力に溺れ、自我を失い、ただ、俺を下ろすためだけの存在。あれがこの世界を作った者の姿だと思うと虚しいものだ。
なぜ、あのようになってしまったのか。今、考えたところでどうしようもないことはわかる。だから、せめてこの世界のために死んでもらおう。
「お前さえ……いなければぁぁぁぁ!!!…死ぬ………死んでしまえ!……死んじゃえよ!!!」
巨大な腕が振り下ろされる。だがあまりに単調なその攻撃では俺は倒せない。俺は『神剣』を使い、腕を両断した。腕は肉体を離れ、地面に落下するかに思われた。しかし…。
「なに?」
腕は地に着くことはなく、宙で止まった。まるで時が止まったかのようにピタリと。だが腕の表面が蠢いており、時が止まったわけではないようだ。
蠢く腕はその形を変え、まるでタコのような化け物へと姿を変える。
俺は腕を振り払い、風圧でタコを潰そうとした。目論見通り潰れたタコだったが、飛び散った肉は動きを止めなかった。犬、鳥、その他にも何の生物とも言えない化け物たちが形をなしていく。スキルを使えば完全に消滅させることも可能だろう。だが、かなり面倒だ。
ダメージを与えられないのなら力を蓄える必要がある。力を蓄えるにはそれ相応の時間が必要だ。あの神はそれを理解し、このような雑兵を俺に仕向けたのだろう。自我が無くなっていながら知恵が回るとは意味のわからない奴だ。しかし、厄介なことには変わりない。
「一々相手にするのも面倒だ。『友達』。」
『友達』。このスキルの能力は肉体などに宿っている力の操作だ。随分と限られた能力ではあるが、それ故に強力だ。流れや放出を操作することはもちろんのこと、増大、減少さえも可能になったする。つまり…。
「生命力と魔力の両方をゼロにすればお前らは動かなくなるだろ?」
生命力、魔力を奪われた雑兵たちはみるみるとその動きを止めていった。相手にするのも面倒なら動けなくすれば良いだけのこと。まあ、結局スキルを使ったことを考えれば消滅させても良かった気はするが気にしたら負けだ。
「よし、物の序でだ。もう1つスキルを見せてやる。」
先ほどのスキルはミカエルとの記憶から作り出された物。次のスキルはルネの記憶から作られたものだ。
「『騎士』」
勇敢だった。誠実だった。そして誰よりも強かったルネ。彼の言葉通り紳士であった。アスモデウスのために戦った彼のためにも俺はその想いを引き継がなければならない。
『騎士』の効果は速さだ。単純故にその効果は強力。その場にいる誰よりも速く動けるというものだ。そして、もう1つの効果もある。それは“犠牲”。元々カラドボルグの能力であったものだ。効果も同様である。
俺は『友達』により体内の魔力を増幅させる。そして、それと同時に『騎士』の“犠牲”の能力を発動する。
「やめろおぉおお!!!…やめてえ?………ウォォおお!!!」
異常に高まるエネルギーに危険を感じたのか、神が動く。しかし、『騎士』を使用している俺はこの場の誰よりも速く動くことが出来る。つまり、奴がどれだけ攻撃をしようとも俺に届くことはない。触手が生え、また化け物を生み出し、またその腕を振り何とか俺を止めようとする。だが、どれも無駄だ。
「今です!」
その言葉と共に神の顔に数え切れないほどの魔法が直撃した。魔法は背後から飛来した。俺は魔法の飛んできた方向を向く。するとそこにはグッドサインを出すアスモデウスの姿があった。いや、彼女だけではない。皆が魔法を唱え、援護をしてくれている。それは微々たるものに過ぎない。だが、それでも助けになる。
魔法により神の動きが止まる。その隙にこの場所が俺の一撃に耐えられるように『異世界』で固定する。そして…。
「くらえ!」
巨大なエネルギーを纏った『神剣』を力一杯に振り下ろす。放たれたその一撃は空間を切り裂き、地をえぐり、放たれたエネルギーは光を放ち辺りを包む。
空気は震え、爆音により音も聞こえない。何が起きたのか、何をされたのか、神にはそれさえわからないだろう。ただただ時が流れるのを待つしか無い。
「ふうー。」
光が収まり、辺りの様子が徐々に見え始めた。俺たちの足元には大穴が空いており、また地面には1本の線が真っ直ぐと伸びている。神剣による一撃は地形をも変えた。
「流石はイヅナ様です。」
「す、すごい。」
「結衣、あんまり動くと落ちるわよ。」
結界で守っていた仲間たちはヴィシュヌが作った足場の上にある。辺りの状況の変化に驚くものもいる。だが、そのうちに気づいた。
「お、おい。あいつまだ生きてるぞ。」
歩の一言で皆の視線が大穴に向く。
「「「「イ、ヅナ、デスマ。死ね。きえ、ララや。痛い……キャは…我………楽しいね……ギャハナハナハナヤネフノネル。」」」」
もはや限界を留めず、液体のように大穴の底に溜まるそれは触手のような物を伸ばし、大量の目で俺を探し、大量の口でもはや言葉ですら無い、鳴き声ですらない何かを発していた。
そして、それは不思議なことに徐々大きくなっていた。抑えきれない情報量に体が膨れているのか、俺の一撃を吸収したのかは分からないが、見ていて気味が悪い。
「「「「ボァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」」」」
まるで火山の噴火のように液体となった神が俺に向かってきた。流石にアレに飲まれては俺もどうなるか分からない。
液体の中にある目はこちらをじっと見つめる。そこには憎悪と怒りが込められている。ドス黒い液状の体は俺を包み込むように動く。『騎士』を発動している限り、逃げ場が無くなることは殆どないがそれでも厄介だ。
俺は神に向かい『異世界』を使い、その動きを止めようと試みる。しかし……。
「「「「ボァァァアアアアアアアアアア!!!!」」」」
「何?」
神はその動きを止めることなく、俺を追従してきた。これで分かった。あいつは今、進化をしている。自我を、記憶を、今までの自身の全てを捨てて俺に近い存在へと進化しようとしているのだ。
「不味いな。時間をかけ過ぎた。」
失敗だ。確実に最初に仕留めるべきだった。だが、奴らがそれをさせなかったのも事実。であれば仕方ないこととも考えられるが、それでも俺は責任を感じる。
バギィ。
そんな音と共に空が割れた。ガラスのように割れた空。その隙間からはこちらを見る充血した瞳があった。百、千、そんな数ではない。空が赤くなったそう錯覚するほどの目がこちらを見つめる。
するとその中の一つ、取り分け大きな目が動いた。その表面が波打ち、中心が盛り上がる。
まず腕が現れた。そして、頭、身体。下半身は目と同化しているようだ。頭は2つ、腕は4本。整った顔、凛々しい顔、太い腕に、細い腕。だが誰も悍しく、醜い。
「「キャヒ。」」
表を挙げ、そんな声を出す。その顔には見覚えがあった。
「……創造神に、シヴァか。」
笑みを浮かべ、こちらを見つめる神たち。もはやそこには自我のかけらもなかった。感じられるのは純粋なものだ。殺す、壊す、消す。ただそれだけの存在であった。
もとは俺に対する殺意だった。だが奴は俺と言う対象すら忘れている。対象がいない、終わりがない衝動に駆られ、あの悪神は動くのだ。
「まあ、お前がどうなろうとやることは変わらないさ。」
俺は『神剣』を構え、悪神に立ち向かう。
俺が動くのと同時に全ての目が俺に向いた。赤い目が体動する。そして赤い涙が溢れ出した。涙はゆっくりとこぼれ落ちると加速した。
だが、その攻撃の対象は俺ではなかった。理解が及ばなかった。
「くそ!」
俺は“瞬間移動”をすると共にこの世界を守るように巨大な結界を張る。赤い涙はまるで雨のように結界に降り注ぐ。だがその一つ一つがこの星を壊すほどのエネルギーを秘めていた。何も考えていない。だからこその攻撃だ。
涙は結界にあたり飛び散る。だがそれだけではない。よく見ると結界が徐々に赤く染まっていた。侵食が始まっている。
俺の力に影響を及ぼし始めた。少しずつ、だが確実に俺に近い存在へと進化してきている。
きっと最悪の状況なのだろう。もしかしたら負けるかもしれない。死んでしまうかもしれない。失うかもしれない。そんな絶望的な状況なのかもしれない。だが不思議と今の俺にそのような感情が湧いてくる事はなかった。そして、その理由をなんとなくだが察している。
「「「「頑張れ!」」」」
「ほら!攻撃の手を緩めないでください!」
「むー!」
「うりゃぁぁああ!!!」
「えい!」
応援、援護が先ほどから止むことがない。仲間たち全員が俺を信じ、必死にサポートをしてくれている。目の前にあるのは絶望を具現化したかのような悍しい神の姿。だがそれでも彼らは俺を信じてくれている。だからこそ、今の俺に絶望などありえない。
そのときだった。今の俺の心に呼応するかのように『イヅナ』が反応した。
『仲間』
一つのスキルが生成された。
この戦いが始まり、何度も、何度も、俺を支え、1人でないことを教えてくれる仲間たち。それは遂に俺の掛け替えの無い記憶となり、スキルとなった。
「『仲間』。」
俺はそのスキルの名を呟く。その効果は『この先の未来にある可能性を掴み取る。』と言うものだ。つまるところ未来を自身の好きなように確定できるというものだ。滅茶苦茶なスキルである。ある意味では真神に相応しい理不尽なスキルなのかもしれない。だがこのスキルの発動には条件が必要だ。
「まあ、今の俺に取っては些細なものだがな。」
俺がスキルを発動しようとしたのと同時に仲間たちに声が届く。
〈真神により『仲間』が発動されようとしています。発動を認めますか?
YES/NO
〉
仲間全員の承認それが発動の条件だ。ここでいう仲間とは互いに相手のことを仲間と認識している存在に限られる。また、確定できる未来も仲間の数が多い程、確定できることが増える。俺が仲間と思う存在が全員発動を認めた時、俺が確定できない未来は恐らくない。
勇者、悪魔、天使、王、巫女。それぞれが互いの様子を伺う。だがそれも少しのことだった。なぜならもう既に彼らの中で答えは決まっているのだから。また、ここにいない者たちもそれは同じだった。戦いの様子を見て、声の質問に首を横に振るものはいない。
仲間たちは俺の方を向き、首を縦に振る。
「「「「「YESです!(よ!だ!)」」」」」
〈全員の意思が確定しました。『仲間』が発動します。〉
その宣告と同時に俺の右腕が光り輝く。世界を照らし、目の前の絶望をも飲み込むほどの光。それはこの世界の人たちの想いとも言えるものだ。
「シヴァ、創造神。これがこの世界の答えだ。」
「「シネぇエアエエエエエえエエエエエ!!!!」」
神たちはそのエネルギーを俺に向けて放出する。だが、もう既に遅い。
「終わりだ。」
俺は右手を突き出す。俺が確定する未来、それはお前たちが望む明日。皆が笑顔でいられる世界。
「じゃあな、シヴァ、創造神。」
光は進む。俺たちの思いを乗せて、もう決して曲がることのない決意を秘めて。
「「ぎぃ…ぐぅ……イヅナアアアアアアアアアァァァ………。」」
光は神たちを飲み込み、眩く光り輝く。余りの明るさに全員が目を閉じた。
光は徐々に収まっていく。あの悍しい声はもう聞こえない。
俺はゆっくりと目を開く。そこに神たちの姿はない。雲一つない快晴の空がただただ広がっていた。珍しいことでも何でもない。だが俺にはその空が美しく見えた。
俺が下を見下ろすとそこには仲間たちがいた。皆がこちらを見つめる。だから俺はきっと皆が望んでいるであろう一言を口にする。
「俺たちの勝ちだ。」
拳を高く挙げ、俺は宣言した。
皆も俺が神に勝ったという事実は理解していた。だがそれでもその宣言を耳にしたとき身体は震えていた。そして…。
「「「「「やったーーー(よっしゃー)!!!!!」」」」
各々が大きく声をあげた。長い長い戦いの終わりだった。
「イヅナ様ぁぁぁぁああああああ!!!!!」
アスモデウスは涙を流しながら俺の胸に飛び込んで来た。鼻水も垂らし、ぐちゃぐちゃになった彼女をいつもの俺ならば避けていたかもしれない。だが、今はそんなこともどうでもよかった。
「アスモデウス。」
俺は彼女を力一杯抱きしめた。温かく、心地が良い。あの暗い空間を経験したからだろうか、俺は強くそう感じた。
「ひっぐ……信じて……ましたよ。勝てるって……ひっく。」
「それが信じてた奴の顔か?」
「だって……だって。」
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「…嬉しいです。きっとこの涙も嬉し涙なんだと思います。……でも、失ったものも大きい……。死んでしまった人も悪魔もいます。それに…。」
「アスモデウス……。」
「ルネも…。」
ルネ・サテライト。勇敢な騎士は愛する者を守る為にその命を落とした。彼にとっては本望だったのだろう。しかし、それでも残されたものたちは傷を負ってしまう。それは俺も同じだ。だが、俺は同時に託された。
俺はアスモデウスの顔を上げた。
「アスモデウス…俺は約束した。だから…。」
「イヅナ様…。」
俺はルナの意思を、自身の想いを伝えようと覚悟を決める。しかし…。
「「「イヅナ!!!」」」
「「「雅風!!!」」」
「飯綱くん!!!」
それを遮るように皆が俺の周りに集まってきた。俺は思わず口を閉じてしまう。そして、アスモデウスは離され、胴上げをされ、頭を揉みくちゃにされた。
俺はアスモデウスを見つめる。すると彼女はニコッと優しい表情を浮かべた。
(また、今夜会いましょう。)
言葉は聞こえなかったが、確かに彼女はそう言った。俺はその言葉に頷き、再び、仲間たちの波に飲まれる。
喜びや悲しみ、様々な感情がきっと彼らにもある。けれど今は祝おう。この世界に平和が訪れたことを。元の世界に帰れることを。
「よし、それじゃあ……あれ?」
帰るか!そう言おうとしたときだった。俺の視界は暗転した。
「「「イヅナ!!!!」」」
「「「雅風!!!」」」
「飯綱くん!」
(少し力を使い過ぎたのか?)
そんなことを考えながら俺は意識を手放した。
小説を書くことが減り、明らかに文章が下手になっています。申し訳ありません。それでも楽しんでもらえたらと思います。