気がついたら握られていました
久しぶりの投稿です。と、言うのも只今入院していまして、時間が出来てしまった形です。ただ余り無理は出来ないのでそんなにポンポンとは投稿できません。
まあそんな話はどうでも良いとして、どうぞお楽しみください!
俺の姿が突如、シヴァたちの前から消える。それと時を同じく、シヴァの首が90度にひしゃげて曲がった。肉を骨が突き破り、血が溢れ出す。
そして、漸く風が吹き荒れ、音が続く。邪神であった頃の俺を上回るステータスは伊達ではない。風を、音を置き去りにし、もはや物理法則すら無視した動きを可能としていた。
シヴァは成すすべなく、蹴り飛ばされる。しかし、そこは長い時を生きた神だ。不覚は取ったがその後の行動は早い。空中に突如、出現した炎はシヴァが出したものだ。炎はまるで蛇のように唸り、獲物を狙うように俺に飛来する。また、残りの炎を操り、俺との間に壁を作ることを忘れない。後ろからは創造神が光魔法で追い討ちをかける。
完璧な行動であり、コンビネーションだ。この世界の頂点に立つだけのことはある。だが相手が悪かった。
1人は俺、ステータスだけ見れば奴らを凌駕している。そして、もう1人、俺の背中を守る彼女は奴らに並び立つ存在だ。
光を遮るようにして枯れ果てた荒野から緑の木々が生い茂る。巨大化していくその樹木は光を飲み込まんと闇を生成する。光は消え、光熱に当てられた樹木は燃え尽きる。だが攻撃を防ぐという意味では充分だ。
「助かる。」
「やっぱり、私がいた方がいいわよ。」
「そうだなっ!」
俺は腕を振り、炎を払いのける。
「ん?」
俺の腕に少しだけ焼けたような跡が残る。流石にスキルを一切使わずにシヴァのスキルを受けるのは危険なようだ。
「それじゃあ、そろそろ使うか。」
俺はソーズスキル『イヅナ』により生成したスキルを発動する。その名は『封印空間』。このスキルは俺がこの世界に飛ばされたその場所、シヴァが封印されていた空間の記憶からスキルだ。その効果は絶大。スキルを発動した俺の手から闇が放たれる。その闇はシヴァにとっても何処か見覚えのあるものであろう。闇は炎に触れた瞬間、その効果を見せ始める。炎はゆっくりと闇に沈んでいくように消えていく。そして、闇は広がりやがて炎を包み込む。闇は炎を喰らい尽くし、炎に隠れていたシヴァが驚きの声を上げた。
「馬鹿な!?」
これこそが『封印空間』の効果である“侵食”。何もかもを蝕み、無とするその闇を止めることは出来ない。目の前で起きたことが信じられないと目を見開くシヴァ。だがそんなに隙を見せて大丈夫か?
俺はシヴァに突っ込む。闇が晴れるのとシヴァの前に到達するのはほぼ同時だった。
「しまっ…!」
「はあっ!」
俺の拳はシヴァの腹にめり込み、肉をえぐる。そのため、力は乗り切らず、吹き飛ぶことはなかった。だがそのダメージは先ほどよりも大きい。
「…人間の分際で!」
「残念ながら俺は人間じゃないぞ。」
怒りがその顔にも現れ始めている。自身よりも下の存在だったものに遅れをとる。ましてや、遊戯の駒だったものに。そのことは神であるシヴァのプライドを傷つけていた。
「『ヨグ・ソトース』!」
シヴァの手に槍が現れる。矛先が3つに割れ、炎を纏っている。シヴァはその槍を突くのではなく、薙ぎ払った。斬撃が空を切り裂きながら飛来する。
(『ヨグ・ソトース』の力を上乗せして、空間ごと俺を切り裂くつもりか。だが…。)
「甘いな。」
俺はシヴァの攻撃が届く寸前でスキルを発動する。
「『異世界』、『付き人』」
その言葉と同時に俺と攻撃の間に白く半透明な人型の何かが発現する。全身が同じ色のためよく分からないがその姿はどこかアスモデウスに似ていた。だがそれも当たり前だ。これはアスモデウスと出会ったその時の記憶を元に作られたスキルなのだ。
シヴァの攻撃に乗せられた空間を切り裂く効果は『異世界』により無力化している。そして残りの斬撃は人型のスキルによって防ぐ。
「馬鹿な!」
「いや、実力差を考えれば当然だろ。それに…もう少し周りを警戒した方がいいぞ。」
俺の親切な助言でシヴァは背後から迫る気配に気づいた。咄嗟に振り返るシヴァ。その目には近く白い半透明の拳が映る。
『付き人』のスキルで作り出せる人型が1つとは一言も言っていない。俺の前に1つ、そしてシヴァの背後にも1つ人型を生成していたのだ。
大きく振りかぶったその拳を万全の状態ならばシヴァは気づけたであろう。しかし、奴は俺へ意識を集中し過ぎた。
シヴァは地面を蹴り、その場から離れる。拳はシヴァの目と鼻の距離を通り抜け、地面へ突き刺さる。腕を中心にヒビが八方へ広がる。地が沈み、ひび割れた地面が舞い上がる。
人型の追撃に対応しようとシヴァは槍を構える。だが追撃を行うのは人形ではない。俺だ。
「『神剣』」
4本の剣が出現するとまるでミサイルのように放たれた。その速度は光速を超え、更に加速する。もはや、シヴァにもその速度を見切ることは不可能だ。地面を切り裂き、音を置き去りにしたその剣はシヴァの体を貫いた。そして、『付き人』が迫り、顎を蹴り上げる。
いくらスキルとはいえ俺が作り出したものだ。その攻撃をまともに受けてシヴァが耐えれるはずが無かった。
俺の予想通り、シヴァはその背中を地につける。ダメージが大きくなかなか立ち上がることができないようだ。その隙をつき、俺は『付き人』をもう一体生成する。そして、その『付き人』をヴィシュヌのサポートへ回した。彼女だけでは安心はしきれない。彼女にできることもできないことも心得ているからこそ、俺は彼女を信用している。そして、確実に勝つ為にもそのサポートが必要なことも。
ヴィシュヌも俺の行動の意図を汲み取り、『付き人』の方へと移動する。これで俺もヴィシュヌも戦いやすくなるはずだ。
「おのれ!」
視線を向き直すとシヴァがふらつきながらも立ち上がっていた。スキルを使い傷を治さないのは俺がその隙を見逃さないという考えからだろう。だが、治すしかないはずだ。万全でもない状態で俺とやりあえるなどとは考えないだろう。
シヴァの周囲の温度が急激に低下した。地面に霜が降りた次の瞬間、氷の柱が地面を隆起させ出現した。何本かは自身を守るため、何本かは攻撃のため、俺に向かってくる。こちらに向かってきた氷は更に氷の矢を放ち、逃げ道を無くす。シヴァはこの隙に自身の体を治す。
俺は即座に光魔法で氷を砕こうとした。だが光は氷を砕くことなく、氷に吸い込まれていく。
「『暴食之神』か。」
光魔法に含まれていた魔力を吸収することでシヴァの回復速度が早まる。俺は『神剣』を使用し、『暴食之神』の力が乗った氷を力任せに破壊する。強引でもなんでもいい、奴を倒すことができるのなら!
「はあっ!」
シヴァを守る最後の氷を切り裂く。だが俺が切り裂くのと同時にシヴァは槍を投影していた。俺は『瞬間移動』をするとシヴァの目の前に出現する。シヴァの目から光線が放たれた。俺は伏せ、シヴァの足を蹴り払う。体勢を崩したシヴァに更に蹴りを入れるがシヴァは自身から飛ぶことによりその衝撃を和らげた。
大したダメージにはなっていない。だが、落ち着きは無くしたようだ。
「おのれ!おのれ!おのれーー!!!」
シヴァの叫びと連動するように地面が揺れ、地鳴りをあげる。魔力が集約し、目視できるほどの濃度まで圧縮されている。その姿はまさに破壊神そのものなのだろう。だがその姿は自身の感情に支配されている姿でもある。
俺は知っている。感情に支配されてしまった者は弱いことを。原動力となることは多くある。だが、それを超えれば感情は枷にしかならない。特に怒りという感情は周りを自分自身を見失わせる。
「貴様さえ召喚されなければあ!!!」
シヴァは地面を蹴り、移動すると力任せに拳を振るう。速さと力は大したものだ。だが、そんな単調な攻撃では俺には届かない。
攻撃をいなしつつ、体を貫通しないよう、力を加減し、的確にカウンターを入れる。
何度目になっただろうか。俺の拳がシヴァの顎を捉えた時、シヴァはふらつきながら後ろに下がった。
「はあ……はあ……はあ……。」
「満身創痍だな。」
「黙れ!」
口では強気だが、その姿を見れば一目瞭然だ。次の一撃で終わる。
俺はヴィシュヌたちの様子を確認する。決して優勢というわけではないが、互角以上には渡り合っている。シヴァを倒したあとに俺が協力すれば勝てるだろう。
「……終わりだ。」
「我は終わらぬ。我は神だ。この世界に君臨するものなのだ。それが異世界から来たゴミ風情に負けるわけにはいかぬのだ!そもそもなぜ我らがこのような不快を受けなければならない。貴様らは玩具だ!なぜ、玩具が、玩具のまま遊ばれぬのだ!気に入らぬ!気に入らぬ!気に入らぬぞ!」
シヴァは口から血を吐きながら叫ぶ。その様子は駄々をこねる子供も同然だった。親を知らず、誰からも咎められず、好きなように生きてきた子供。それが破壊神“シヴァ”の正体だった。未熟で、哀れで、それでも許す気にはなれない。
「お前がどう考えていようが関係ない。罪のない人々を弄び、笑い、殺す。そんな存在を俺は、俺たちは神とは認めない。これで終わりだ、シヴァ!」
俺は『神剣』を構える。シヴァは膝をつき、体を震わせる。
「……我が終わり?いや、終わらぬ。我は神なのだ!誰にも我の邪魔をする権利など無いのだ!ブラフマー!!!」
「はーい!」
シヴァの言葉とともに創造神が動いた。『瞬間移動』を使い、俺の目の前に現れると次の瞬間、体内の魔力を暴走させた。魔力の渦は体を突き破り、増大していく。
例えこの距離だとしても俺ならば無傷で済む。だが、ヴィシュヌは無事では済まない。それどころか、アスモデウスたちや勇者たちもこのままでは危険だ。
俺は創造神たちから距離を取り、ヴィシュヌを連れ、仲間たちの元まで戻る。そして、『異世界』を発動させ、空間を固定する。
それと同時に暴走した魔力による爆発が起きた。地をえぐり、大気を震わす程の爆発は予想以上の破壊をもたらした。俺は更なる破壊を防ぐため、創造神たちを囲むように空間を固定した。
魔力の渦が発生し、創造神たちの姿は見えない。
「…自爆?」
ヴィシュヌが驚いたように呟く。
「いや、それは無いだろう。創造神が自身の命を失うようなことをするとは思えない。」
「じゃあ、一体なぜ。」
「その答えは見えてきたぞ。」
その言葉と同時に、全員が俺の視線の先に目を向ける。
そこには醜い肉塊があった。それが生物なのか、この世に存在して良いものなのか、分からない。蠢く肉が形を変えて、そこにあった。
だがそこから感じ取れる魔力から俺たちはそれが何なのか理解していた。
「まさか!」
「シヴァと創造神だろうな。」
醜い肉塊の正体は神たちだった。もはや神とは言えないそのおぞましい姿に皆が畏怖した。
暫くするとその肉塊を突き破るようにして一本の腕が現れた。2本、3本、4本。まだ、生えてくる。そして次に足が、翼が、角が、異形の姿であった。
立ち上がった。その化け物の体から最後に顔が生えてきた。半分はシヴァ、もう半分は創造神のものだ。
「「ゆるさぬ……ゆるさない。この、ちか……ちからを……で……倒す、殺す……潰す。……早くやろうよ……早く殺す……死ね。……いらない……いらぬ玩具は……壊してしまえ……新しいのを作ろうよ。」」
そこには既に自我はなかった。
「無理な融合をしたんだわ。以前にもブラフマーが思いつきで試そうとしたけれど、それぞれの力が反発しあって上手くいかなかったの。それを今回を強引な形で結びつけた。結果、自我を失ったんだわ。」
「そういうことか。醜いな。」
「ええ、同じ神だとは思いたくも無いわ。」
「同感だな。」
醜い神はその歩を進め、こちらに近づいてくる。もう終わりにしよう。俺は剣を握り、前へ進む。が、誰かが俺の手を掴んだ。
「……何だ?セリカ、アスモデウス、リア。」
俺は振り返り、彼女たちを見つめる。俺は彼女たちが不安を感じて、俺を引き止めたのでは無いかと考えていた。当たり前だ。一度は負けた相手。さらにその相手がより凶悪な姿へと変貌したのだ。だから、彼女たちはそんな敵に向かおうとする俺を止めようとしたのだと、俺は思った。
だが、違った。俺が見た彼女たちは笑っていた。
「あ、その顔は、予想が外れましたかね?イヅナ様。」
アスモデウスが揶揄うように笑みを浮かべる。
「あ、ああ。俺はてっきり。」
「心配していると思ったんですか?」
セリカも笑顔で言った。
「ああ。」
「残念でしたね、イヅナさん。私たちは信じてるんですよ。」
リアも続けて口を開く。
「こんな俺をか?」
「こんな貴方だからです。」
俺の手を握る手に更に力がこもる。
「ただ、信じていても隣に立たないのは悔しいんですよ。だから、私は責めて『頑張れ』って言うこの気持ちをイヅナさんに渡したくて、こうやって手を握ってるんです。」
「リア…。」
「私も同じです。それにもしも強敵だったとしても今度は私が付いています。先ほど負けたときは私がいなかったら、そう言う理由をつければ良いのです。だから、大丈夫です。」
「セリ……。」
「駄目ですよ!その理由だと私の想いじゃ何も変わらなかったことになるじゃ無いですか!私の想いが一番なんですよ!いや〜もう。わかってない!ですよね?イヅナ様!ね?ね?ね?」
グイグイとくるアスモデウスに押されつつも、いつもの彼女を見れ、俺は笑ってしまった。
「3人ともありがとな。必ず勝つよ。」
「私も付いてるわよ。」
ヴィシュヌがそう言って、俺の背中に寄り添う。
「ありがとう。」
「あ、貴方、後でそこら辺のとこ詳しく!詳し〜〜く聞くので忘れないように!」
「ええ、覚えておくわ。」
ヴィシュヌが微笑みながら応える。
「あ、後私も暇なので援護はしますね。」
「頼んだ。」
俺は神たちの方へとむきなおり、剣を構える。迫る神たち。だが、もう恐れも、恐怖も、絶望も何もない。
「いくか。」
「「「いってらっしゃい!」」」
俺は地を蹴り、神たちへと向かう。この世界のために、彼女たちの想いに応えるために。
次で戦いもクライマックスになります。長い長い戦いも終わりますよ。次の投稿がいつになるのかは分かりませんけどね。すみません。
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