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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
156/164

気がついたらその女は?でした

前回、イヅナの戦いが始まると言いましたが、まだ始まりません。すみません。

ーーーアスモデウスSIDEーーー


 私の目の前でイヅナ様は暗闇に飲まれていきました。黒く、その奥が見えない。その先に何があるのか分からない、そんな闇に。


「…………。」


 伸ばした手は届ない。叫ぶ声も届かない。そのことを理解した私は静かに俯きました。

 どうすればいいのか、どうしたらいいのか、私にはもう分からなくなりました。だってそうじゃないですか。ルネが死んで、イヅナ様も消えて…。私の大切な人たちがどんどんいなくなって。これ以上、続けたってきっと…。


「…ルネ…イヅナ様…。」


 きっとイヅナ様は私だったらこんなときでも笑顔で強気でいると思ってくれるのかもしれません。でもそれは違います。イヅナ様、私はこんなに弱いんですよ?2人を失っただけでこんなに大粒の涙を流してしまうんですから。


「…むー(アスモデウス)。」


 ベルゼブが私の背中を摩る。けれどわかります。だって、貴方の手はこんなにも震えている。

 怖いんですね?イヅナ様が消えてしまった今、私たちは一体どうなってしまうのか。それが分からないから。

 私は顔を上げ、周囲を見渡します。まだ武器を構えるもの、手で顔を覆うもの、膝を地につくもの。沢山います。けれど皆さんは決まってその顔を曇らせています。涙を流し、怒りなのか、悲しみなのか分からない感情が表に出てきている。それだけイヅナ様という存在は大きかった。


「よくも!」


 颯太とか言う勇者が剣を握り、創造神たちにその先を向けます。けれどそんなことをしているのは彼くらいです。あの歩とか言う勇者でさえ、その場に立ち尽くしています。

 イヅナ様が転移に失敗したときとは違います。あのときは彼らが諦めなかったのはイヅナ様が何処に転移したか分からなかったから、まだ生きている可能性があると言えたから、自分たちが探せる状況下にいたから、だから心は折れなかった。

 でも今は違います。イヅナ様が暗い闇に飲まれていきました。あの絶望を具現化したような闇の中に。助かるとは思えません。そして、助けに行けるような状況にもいない。だから簡単に諦めてしまう。

 きっと、今の状況を説明してもイヅナ様はそんなことないと、皆は諦めないと言うでしょう。でも違います。貴方がいてくれたから、いると信じていられたから、変わらなかったんです。

 今でも信じています。でも、力を失ってしまった貴方では…。


「そう言えばまだゲストを呼んでいないのではないか?」


「あー、あのセリカとリア?だっけ?あっちゃ〜、お別れの前に呼ぶ筈だったのに。ま、いっか。」


 創造神が空に手を掲げると魔法陣が現れ、よく知った2人が現れました。

 イヅナ様に愛されるもの、イヅナ様を愛すもの。よく知っています。同じ気持ちを持つもの同士ですから。

 地面に降りた2人は何かを言うわけでもなく、座り込んでいました。と言うよりも何も言えないと言うのが正しいようです。涙を流し、絶望している。それがあの2人の状況です。

 何をしてるんですか、とは言えません。私も似たような状況なのですから。

 創造神たちはそんな私たちを見て、つまらなそうに言いました。


「…これでは今まで同じではないか、つまらん。やはり、イヅナで終わりか。」


「だね。彼は何が特別だったのかは分からないけど、面白かったよね。ミカエルも少しは見習ってよね。見てよ、シヴァ。あいつ、イヅナいなくなってからバグったみたいに涙流してるの。」


 私はその言葉に反応し、ミカエルを見ます。止まらない涙を必死に抑えようとしてるのか、それともただ悲しさを抑えきれないだけなのか、彼女はその顔を手で覆っています。

 彼女の心の芯にあったのはイヅナ様に対する想いです。だから、そのイヅナ様がいなくなってしまえば彼女自身もどうすれば良いのか分からなくなってしまう。

 いえ、助けたいとは思ってるだと思います。けど、創造神たちの強さを知っている彼女には成すすべがないことくらい理解できるんです。だから彼女は泣くことしかできない。

 私も泣きたいですよ。諦めてしまいたいですよ。けど、泣きたくないし、諦めたくもない。だって諦めてしまったら、イヅナ様が生きていると言えないじゃないですか。

 私が矛盾した気持ちに振り回されているとシヴァが呟きました。


「やはり、つまらん。戦う意思があるものもあるようだが…。」


 シヴァがスキルを発動する。それと同時に私たちを囲むように魔法陣が現れました。そこに含まれる魔力の量は私たちで補えるものではありません。


「飽いた。」


「そーだね。じゃあ、お願い。」


 魔法陣が赤く輝き始めました。ルシファーや勇者の少しが魔法陣を破壊しようと試みます。けれどそんな攻撃では無理です。


「どうして…。」


 何で、こうなったんでしょう。何がいけなかったんでしょう。わかりませんよ。ただ今はもうどうしようもないんです。

 私たちは創造神たちの玩具でしか無かった。弄ばれ、最後には壊される。本当に何のために生きてきたんでしょうね?そう考えたくなります。でも…やっぱり…その答えは決まってるんですよ。


「イヅナ様、玩具でしか無かったとしても、悲惨な最後を迎えることになったとしても、イヅナ様と会えてよかったです。きっと私は貴方に出会うために生まれてきたんだと思います。」


 口に出すことで私がそう考えているのだと強く感じました。


「では、死ぬがよい。」


 魔法陣に魔力が集まり、光と見間違うほど明るい炎が放たれました。もう何も見えません。ひょっとしたらもう死んでるのかもしれません。

 あまりにも絶望的な状況のせいで一周回って冷静になりましたよ。時間の流れが遅く感じますね。これが死を間近にした時の感覚ってやつでしょうか。本当に死ぬんですね、私。

 でも、死ぬなら、せめてもう一度だけ、貴方に会いたかったです、イヅナ様。


「好きな女の子をこんな想いにさせながら死ぬなんて最低男ですよ。」


 死に際の、それも苦し紛れの一言。でもこの言葉はきっと届かない。


(寂しいなあ。)


 身体が徐々に熱くなっていくのを感じます。炎に飲まれ始めたんでしょうか?

 まあ、もうどうでもいいです。私は諦め、自分の死を受け入れることにしました。


(さようなら、私……。)








































 あれ?おかしいですね。いつまでたっても意識が無くなりません。それどころか、熱さも無くなってきたような気がします。死後の世界ってやつですかね?

 私は自身の肉体を確認します。しっかりと動きますね。でも、目を開けるのは少し怖いです。


(でも、開かないとですよね。)


 私は恐る恐る目を開きます。するとそこには先程まで私たちに襲いかかってきていた熱く、眩しい炎はありませんでした。

 そしてもう一つ変わっていた点がありました。私の前に銀色の髪が靡いていることです。見惚れてしまうほどに美しいその髪。けれど私がその髪から目が離せなくなった理由は他にあります。

 私はその髪を、いえ、その人を知っていたんです。いつも隣にいて、頼りになって、でもどこか頼りない。支えてあげたくなるそんな人。もう会うことはできないと諦めていたあの人。

 私は震える口でその名を呼びます。


「……イヅナ様?」


 ここにいるはずがない。創造神たちが見せている幻覚と言われた方がまだ信じられる。

 それでも私が見間違うはずがなかった。私の大切な人、その姿を。

 私の声に反応して、その人はゆっくりと振り向きました。赤い瞳を持つ、凛々しくも、可愛くも、美しくもある顔立ち。よく知ったその顔を見て、私は確信しました。今、目の前にいるイヅナ様は本物なんだと。


「…イ、イヅナ様……イヅナ様……。」


 私は必死で笑顔を作ろうとします。しかし、溢れ出る涙に邪魔をされてしまいそれどころじゃありません。こんな姿見せたくないのに。笑顔で喜びたいのに。

 イヅナ様はそんな私の様子に気づいたのか、優しく微笑むとそばまで来て屈みました。そして、その手を私に伸ばします。ここで私は理解しました。イヅナ様は私の頭を撫でてくれるのだと。デレ期です。完全にデレ期です!

 私は目を瞑り、少しだけ頭を前に出します。さあ、いつでも来てください。


 ピシッ!


「え?」


 おでこに予想外の衝撃が走ります。デコピンをされました。

 何ででしょうか?理解が追いつきません。


「イ、イヅナ様?そこは頭を撫でてくれる所じゃないんですか?」


「俺の帰りを信じてたならそうしたかもな。」


「信じてました!」


「信じてた奴が『好きな女の子をこんな想いにさせながら死ぬなんて最低男ですよ。』なんて言うか?」


 仕方ないじゃないですか、と言いたい気持ちを抑えて、私はむすっとします。確かにイヅナ様が帰ってくるとは思ってませんでしたけど、そのくらいいいじゃないですか。


「そんなんだからイヅナ様はイヅナ様なんですよーだ。」


「はいはい、お前もそんなんだからアスモデウスなんだよ。」


 いつも通りの会話です。戦場でするようなことじゃありません。けれどたったこれだけの会話で満たされていくのを感じます。

 私は話題を変えます。


「…そう言えばイヅナ様。」


「何だ?」


 言いたいことは沢山あります。それにもっと話したい出す。でも今はこの一言だけ。


「生きていてくれて、ありがとうございます。」


「……どういたしまして。アスモデウス、俺もお前が生きていてくれて嬉しかった。こちらこそ、ありがとう。」


「…はい!どういたしまして。」


「さてと、じゃあやるか。」


 イヅナ様がそう言って創造神たちの方へ向きます。しかし、そんな彼に勇者たちが声をかけました。


「雅風!」


「ん?歩か?どうした?俺は今、見ての通り忙しいんだが。」


 悪戯な笑みを浮かべるイヅナ様。歩もそれだけで分かってしまいます。


「…全く、俺がどんだけ心配したと思って。」


「…まあ、その辺りはすまないと思ってるさ。じゃあ、一応言うか。

 颯太、横山、琴羽、一応歩。それにラフィーエ、エルティナ王族諸君。ルシファー、ベルゼブ、アスモデウス以下、悪魔一同。ミカに、セリカに、リア。」


 イヅナ様は頭を深く下げました。


「すまない。待たせた。」


 帰って来てくれたイヅナ様を許せない人がいるわけが無いじゃないですか。


「気にしなくていいですよ。」


「そうだ!生きてんならいいさ!」


「さっさとあんな奴らやっつけなさい。」


「……頑張って。」


 人が、悪魔が、天使が、皆がイヅナ様の味方です。

 イヅナ様はゆっくりと顔を上げ、頷くと私たちに背を向け、今度こそ創造神たちと相対します。


「…これで終わらせる。行くぞ、ヴィシュヌ。」


「ヴィシュヌ?」


 私は聞きなれない名に首を傾げます。すると突然、イヅナ様の横の空間が歪みました。そしてそこから緑の髪を持つ、温かそうな女性が現れました。


「そうね。終わらせましょう。」


 その女性はイヅナ様の側に立ち、いや、近くないですか?

 目と目を合わせて頷きます。何ですか、あれ?夫婦ですか?

 そして、何やら私たち2人なら大丈夫みたいな雰囲気を出しています。ちょっと待てい!


「イヅナ様!誰ですか、その女は!」


 戦場に私の声が響きました。




次回は出来る限り早く投稿しようと思います。どんなに遅くとも19日には投稿しようと考えています。


そう言えば話題は変わるのですが、前回、投稿した後ですかね、評価点が凄い伸びました。嬉しかったです。

今回も…え?調子に乗るんじゃない?はい、すみません。健全に頑張らせていただきます。


引き続き『気がついたら魔神でした』をよろしくお願いします。

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