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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
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気がついたらその神は

久しぶりの投稿。GW中にもう一話は最低でもあげます。お待たせしてすみません。

 涙を流し、声を上げて泣くアスモデウス。その腕の中にはルネがいた。血を流し、傷だらけとなっている。だがその様子はまるで寝ているようだ。声をかければ目を開き、また動き出すのではないかとそう思わせる程に。

だが現実は非情だ。そんなルネは死んだ。そのような事は二度とおきない。日常となっていたあの光景が戻ってくることはもう叶わないのだ。


「くそっ!」


 俺は思わず、創造神を睨む。


「怒ってるの?」


 創造神がヘラヘラとした表情で嘲笑い、問いかける。その言葉が俺の感情を逆なでする。

 胸が痛い。それは決して肉体的な意味ではない。また嫉妬などといった感情のせいでもない。彼を守りきれなかったと言う罪悪感がそうさせているのだ。

 アスモデウスを思い、学園から今日まで俺たちの為に強くなり、戦い続けてきたルネ。彼女と一緒に居たいから。そんな切実な想いに従い、彼は俺たちについて来た。その努力、覚悟は生半可なものではない。それだけアスモデウスを思っていたのだろう。だが死んでしまっては意味がないではないか。

 ルネは何度も敵と戦い血を流し、苦しい想いをしてきた。最後に想いは届いたのかもしれない。けれど成就はしていない筈だ。彼はもっとアスモデウスと共にいたかった。守りたかった。だからルネは俺にアスモデウスを託したんだ。


「死んじゃったね〜。」


 創造神は楽しそうに笑う。本当に性根の腐ったやつだ。俺はそんな顔を見て怒りも憎悪も抱く。だがそんな創造神に対して抱く感情よりも、自分自身に対する感情の方が大きかった。

 ルネは死んだ。アスモデウスと結ばれることもなく。想われる俺を恨むことなく。アスモデウスの意思を尊重して、紳士として振る舞い続けた。

 俺は妬んだ。ルネがアスモデウスと共にいることを。仲良くする姿を見て。自覚はなかった。だが思い返せばそうだろう。敵意さえ抱いていたのかもしれない。

 ルネのことを大切にしようと考えながら俺はあいつからアスモデウスを引き離そうとしていたのかもしれない。

 結局、俺はルネの為に何かをするどころか邪魔をしていたのかもしれない。ルネはそう思っていなかったとしても俺はそう思ってしまう。だからこそ、俺は自分を許せない。だから俺は俺自身を怒り、憎んでしまう。


「人間って弱いね。それに誰かを守る為に死ぬなんて馬鹿みたいだ。自分が一番でしょ。くだらない。」


「黙れ。」


 創造神は動かなくなったルネを見る。その目はまるでゴミを見るかのようだ。なんの価値もない、理解もしたくない、そんな考えがあの目からは伝わってくる。

 否定したところで創造神は自分の考えを変えないだろう。だが否定してやる。ルネはくだらなくなんかない。ルネはアスモデウスを想い、覚悟を持ち守った。立派な騎士だ。それをくだらないと言っていい理由など何処にもない。


「君もそうでしょ?奪われたくない。自分が全て所持していたい。自分の思う通りの未来を手に入れられないと嫌だ。普通だよ。彼がおかしかったんだよ。」


「黙れ!」


 俺の考えが分かっているのかのように創造神は言う。そして何より創造神の言葉が当たり前のことでもあり、俺も知らず知らずのうちに思っていた感情だと納得してしまう。それが俺の怒りや憎悪を更に高め、剣を持つ手に力が入る。

【ダーインスレイブ】、【エクスカリバー】の二振りの【邪神剣】を握り、創造神に斬りかかる。回避をしようとする創造神だが、彼は見た目の通りボロボロの状態だった。動こうにも無数にある傷が開き、血が流れ、痛みが体の感覚を鈍らせている。体力も魔力もほとんど残っていない。創造神が俺の攻撃を回避出来るはずも無く次々と剣がその身を捉え、切り裂く。

 血や肉が飛び散り、創造神は傷つき、俺は返り血を浴び、汚れていく。痛みがあるのだろう、顔をしかめる。が、その直後にはいつもの憎たらしい表情を浮かべる。そんな攻撃は効かないと言われている気がした。

 切り裂かれながらも創造神は口を開く。


「でも上手くいったよね。即席で作ったスキルだったから一度しか使用できなかったけど、回復魔法とかも効かないあの攻撃はなかなか良かったでしょ?君のその【ダーインスレイブ】を見たお陰だよ。ありがとう。でも本当に治らないんだね。僕の傷が全然直せないよ。」


 創造神は笑顔を崩さない。体力も魔力もスキルもない。ボロ雑巾のようになった体は更に傷つけられている。何処からどう見ても勝ち目はない。無いはずだ。だがあの表情がまだ何かあるのではないかと俺を警戒させる。

 創造神を注視する。話すことに集中しているのか創造神の動きは遅い。俺は大きく振りかぶり、【ダーインスレイブ】を振り下ろす。創造神は回避する様子もなく、刃が右腕を捉え、肉を裂き、骨を断つ。しかし創造神は笑みを浮かべ続ける。


「痛いなあ。殺意が溢れてて怖いよ。もっといい顔になろうよ。ほら丁度あそこで寝ているルネ君みたいに。」


 左足が千切れる。だがまだ笑っている。君の悪いやつだ。

 俺は創造神を空間魔法で固定し、その動きを封じる。マスタースキルでもないただのスキルの力であるが、今の創造神を抑え込むにはこの程度で十分だった。

 俺は創造神の首に刃を突きつける。


「負けちゃいそうだな。それに危ないよ。【ダーインスレイブ】が首に刺さったら流石の僕も死んじゃう。」


「死ぬようにしてるんだ。」


「おー、怖ーい。」


 ただ諦めて馬鹿にしているのか。それともまだ何か策があるのか。分からない。だが分からないと言う現実が俺を焦らせ、動きを加速させる。


「君も大変だよね。こんなわけもわからない世界に呼ばれて邪神になって、世界のために戦わされて。真実も知らないで、哀れで、1人考えて、苦しんで、それでも手を差し伸べて多くの人を救う。いや〜、まるで何処かの物語の主人公だ。きっとセリア?あ、セリカか。彼女がヒロインで今もこの様子を見ながら手を合わせて『頑張って。』とか言ってるんだろうね。」


「時間稼ぎのつもりか?」


 俺の問いかけに創造神は首を横にふる。だがその行動をいちいち信じる俺ではない。


「そんなつもりは無いよ。本当に僕にできることはもう無いからね。君のスキルを振りほどく力も、突き刺される剣を防ぐ力もない。死を待つしかない哀れな神だよ。だから死ぬ前にこうして話してるんじゃないか。」


「そうか。なら早く死ね。」


 俺は殺意を乗せ、剣を振るう。肉を切り裂き、骨を断った【ダーインスレイブ】は遂に創造神の上半身と下半身を切り分けた。


「ハハ、怖いなあ。こんな時僕はなんて言えばいい?嫌だ!死にたくない!僕は神なんだ!この世界の頂点なんだ!ってさっきみたいにしてればいい?それとも負けたけど、君にはいい思いをさせないよ。救えなかった彼を思い出していつまでも苦しむといい。勝利の余韻には浸らせない、ハハ。とか言えば良いのかな?」


 上半身だけになっても創造神は話を続ける。本当によく喋るやつだ。だが何故、ここまで余裕なんだ?俺は警戒するあまり、剣を創造神の首に突き刺すことが出来ない。何かあるのではないかとあと一歩が踏み出せない。

 創造神が突然、空を見上げる。そこに何かあるのだろうか?俺は上空を警戒しつつも創造神から目を離さない。そんな俺に創造神は告げる。


「まあ良いや。僕ももう演技する必要はないみたいだから。僕の手の内で踊らされている君はもうそろそろお終いなはずだよ。」


 どうやらもう隠す気はないらしい。創造神は何かを俺に隠している。そして創造神には協力者がいるようだ。でなければ創造神が『僕ら』などと言うはずがない。

 俺は創造神を問い詰めようと口を開いた。


「それはどう言う意味……っ!?」


 そのときだった。異変は突然起きた。

 丸で雷に体を貫かれた様な衝撃が走る。


「がっ!?」


「お!早速始めたのか。生き残れると良いね。」


 俺の体は震え始めた。手足が痺れ、痛みは感じられない。だが体の中から何かが俺を壊そうと暴れ回っているような感覚を覚える。原因は分からない。だが明らかな異常事態であり、創造神が関与しているのだろう。

 手に持っていた【邪神剣】はその姿を消し、俺の体に溢れていた魔力が徐々に抜けていく。力も入らない。


「本当に上手くいったんだ。流石だなあ。」


 創造神は俺の変化を興味深そうに見つめる。その距離は目と鼻の先、確実に殺せる距離だ。

 このまま奴の思い通りになるくらいならと、残りのすべての魔力を右手に込める。今のあいつならばこの一撃でも十分に殺せるはずだ。


「うおおおお!!!」


「ハハ、粘るねえ。でも…。」


 俺の拳が創造神の顔に迫り、そして……。


「終わりだ。」


 俺の拳は創造神に届いた。だが奴は顔色1つ変えず、その拳を正面から受けた。コツ…と弱々しい音を立て。

 ダメージを与えた様子も傷がついた様子もない。間に合わなかったのだ。

 俺の体は重力に従い落下していく。もう体を浮かせておくだけど力もない。地面が徐々に迫る。


「イヅナ様!」


 アスモデウスがルネをそっと寝かせると俺が地面に落ちる前に受け止める。アスモデウスに抱えられても俺は体を動かさず、体重を任せてしまう。体が怠く、動かないのだ。


「助かった。すまない。」


「何いってるんですか!当たり前ですよ。……もうこれ以上、誰も失いたく無いんですから。」


 その言葉に俺は何も言い返すことが出来なかった。いや何かを言う資格すら今の俺には無いのだ。


「さてと。」


 俺たちの空間に静寂が訪れたがそれも束の間。創造神の声が響く。


「イヅナくん。もう君は気づいてるみたいだけど僕には協力者がいるんだ。まあ君の力が消えたのも彼が手を貸してからなんだよ。このくらいは言わなくても分かるだろけどね。」


 創造神は説明を続ける。だがこの時、俺にはその協力者が誰なのか、薄々と気付いていた。しかし俺はそのことを口にしなかった、したくなかった。何故ならそれが俺にとって最も事実であって欲しくないことだったから。


「彼は僕と同じくらい強いよ。そして僕とは違う。顔も体格も声も僕とは似ていない。使う戦い方も考え方も。時には喧嘩もしたことがあったかな。」


 やめろ、それ以上言うな。そう心で叫んでも俺の口から出てくることはない。そんは俺の様子に気付いた創造神は更に説明を続ける。


「でも1つだけ似ていること、いや考えがあったんだ。それはこの世界は僕たちの玩具であり、暇つぶしに丁度いいという事。だからこの計画を提案したら喜んで応じてくれたよ。まあ少し閉じ込めすぎて怒らしたこともあったけど。それでも本当に順調にいったよ。」


「一体何をいってるんですか?」


 アスモデウスがそう問いかける。だが創造神は笑みを浮かべながら説明を続けるだけだ。


「最初は3人でやろうとしてたんだ。でも1人は反対してね。もともと同じだったのになんでだろう?まあ殺した今となっては分からないか。

 まあまあそれはともかく。取り敢えず僕の協力者について言うならば君達もよく知ってる者だよ。と言うかそろそろ気付いてよ。僕と同じくらいの強さに、ずーっと計画のために閉じ込められて、いて何より僕よりも強いイヅナくんから力を奪える存在だよ?もう1人しかいないでしょ?」


 俺の考えは確信へと変わった。悪魔たちはその表情を絶望へと変化させ、勇者たちの中には驚きの表情を浮かべている者もいる。

 気づいたのだ。創造神の言葉が全て事実だとすれば俺たちはただ彼らの暇つぶしとして弄ばれていただけだと言うことに。


 ビキィ。


 そんな音と共に空間にひびが入る。


「お、やっと出てきた。君たちにバレないように時空間を変えて隠れてもらってたんだよね。」


「全く、大変なものだったぞ。」


 その者を、いや神を見たのは初めてだった。だが俺は何者なのかを一瞬で理解していた。黒く染まった神に赤い瞳。鍛え上げられたかのような見事な肉体に黒い装束を身につけていた。

 その神は創造神と会話をする。


「ごめん。でもお陰で面白そうなフィナーレが見れそうだよ。」


「そのようだな。長きに渡る暇つぶしがこれで終わってしまうと思うと名残惜しくも感じるが、まあまた同じことをやれば良い。それに何よりお陰で更なる力を得ることが出来た。」


「そうだよ。」


 旧知の仲。2人の会話を聞いたときに感じた印象だ。だとしたら俺に言ったあの言葉は嘘だったのか?


「…え?な、何で……。」


「馬鹿な…何故貴方がここに……。」


 アスモデウス、ルシファーの表情に余裕はない。何が起きているのか理解できないと言った様子だ。きっと俺も同じ顔をしているのだろう。

 その神もそんな彼らの様子に気付いた。


「アスモデウスにルシファーか。久方ぶりであるな。よく我らの為に働いてくれた実に良い暇つぶしとなった。褒めてやろう。だがこの中で最も褒美の言葉を与えるに相応しいものが他にいるな。」


 神は俺の方を見つめる。俺たちの視線は初めて交差した。

 俺の口がゆっくりと開く。確信はしていた。だが彼から、彼の口からどうしても聞きたかった。だから俺は質問をした。


「シヴァなのか?」


「うむ、こう姿を見せるのは初めてであったな。ではついでに自己紹介もしてやるとしよう。」


 そう言って俺の目の前まで降りると笑みを浮かべた。


「我は破壊神“シヴァ”、破壊を司る神にして、また魔神とも呼ばれる神だ。イヅナ、貴様は気付いていたな。協力者は私なのだと。人の身で大した奴だ。褒めてやろう。」


 その神、シヴァはそう言って俺の頭を撫でるのであった。















シヴァ様のご登場です。


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