気がついたら竜王でした
ーーー 騎士団長SIDEーーー
王国騎士団長“ガゼル・ハイナー”はフレアドラゴンの群れに囲まれていた。本来ならこの程度の状況、騎士団長であるガゼルなら突破出来たであろう。
しかし、それはフレアドラゴンだけだったらの話だ。
姫と騎士見習いたちを逃した後ガゼルは押し寄せるフレアドラゴンたちの攻撃を回避し、隙をついて確実に仕留めていっていた。この調子で群れを追い払うことが出来るであろうと思っていたが、その考えもその魔物が現れたことにより一瞬で消えた。
炎竜王“イフィート”
世界にいる5匹の竜王の一角である。本来ならば『イフィート火山』の奥地にいるはずだった。なぜこのような場所に現れたのかはわからなかったが、ガゼルは今の自分を待ち受けている結果をすぐさま把握した。
即ち死だ。
さすがの騎士団長も一人で竜王を倒せるほどの実力は持ち合わせていない。
「全く、今日はついてないぜ。」
そう言いながら、ガゼルは炎竜王“イフィート”に向かって行った。
出し惜しみはしない。ガゼルは初撃から自分の出せる最高の技を出していった。
「魔法付与!!!」
ガゼルは剣に氷の魔法付与を施し、斬撃を放つ。
「ガアァァァ!!!」
しかし、その一撃は竜王の咆哮の前になすすべなく散っていく。
「おいおい、マジかよ。」
少しはダメージを与えられると思っていたこともあり、その出来事に驚いたガゼルは一瞬隙を作ってしまった。その隙を竜王が見逃すはずがなく、特大のブレスをガゼル目掛けて放った。
「まずい!」
何とか反応することが出来たがブレスの威力は尋常ではなく、余波だけでガゼルを吹き飛ばした。
「ぐあっ!!!」
身体中が痛む。肋の2,3本は折れただろう。
「本格的にやばくなってきたな。ガハッ!!!」
肋が肺に刺さったのか、大量の血を吐いてしまう。
「ガアァァァ!!!」
その様子を見ていた竜王が指示を出したらしく、周りのフレアドラゴンたちが一斉にガゼルは目掛けてブレスを吐いてきた。
「ぐあぁぁぁっ!!!」
直撃だった。さすがのガゼルも立っているのがやっとの状態になってしまった。
「はぁ……はぁ…。」
何とか意識を保ち耐えるガゼル。しかし、竜王はそんなガゼルにトドメを刺そうとゆっくりと歩み寄ってくる。
「はぁ…はぁ…くそ。ここまでか…。」
竜王はガゼルの目の前まできていた。そして、その前足をゆっくりと上げ振り降ろす。このまま自分は潰される。ガゼルはそう思いながら目を閉じた。
しかし、いつになっても竜王の一撃が来ない。弄んでいるのかと思い目を開く。
すると、そこには美しい銀髪を持つ少女がいた。
「大丈夫…ではないか。」
その少女に話しかけられたが、そのあまりの美しさに見惚れてしまった。かつて、ここまで自分の心を揺さぶる存在がいただろうか。答えは否だ。
この瞬間、王国騎士団長“ガゼル・ハイナー”は見た目は美少女の元男に一目惚れしてしまったのだ。
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ーーー雅風SIDEーーー
危ないところだった。まさか、“瞬間移動”を使うとは思っていなかった。
俺の予想では騎士団長さんはもう少し粘るだろうと思っていたが、思いの外早くやられてしまいそうになったのだ。
幸い、俺が“瞬間移動”をしたのは見ていなかったらしい。よかった。もし見られていたら説明が面倒くさくなりそうだったので都合がいい。
「大丈夫…ではないか。」
俺は右手で竜の一撃を抑えつつ、騎士団長の様子を見てそう言った。肋は3本折れていて、他にも右腕の骨にひびが入っている。
俺は騎士団長に回復魔法“ヒール”をかけた。“ヒール”と言っても俺が使うのだ。下手な“ハイヒール”よりは効果はあるはずだ。
俺の予想通り、と言うか予想以上の効果を発揮した“ヒール”は騎士団長の傷を完全に治してしまった。
これって本当に“ヒール”か?
まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず今は目の前の竜を倒すことが先決だ。
俺は右手を軽く押し出し、目の前の竜を100メートルほど吹き飛ばした。
「ガッ!?」
竜は驚いた様子だったが、すぐに状態を立て戻した。
「なかなかやるな。」
俺はそう思いつつ、一応今この場にいる魔物のステータスを確認した。
【イフィート】
種族:竜王種
レベル:8370
攻撃力:7000000
防御力:8500000
魔攻撃:7000000
魔防御:8000000
魔力:7300000
俊敏:5000000
運:300
【能力】
マスタースキル
『天照神』
ユニークスキル
『焔統者』
スキル
『威圧レベル100』
『見切りレベル100』
『予測レベル100』
『索敵レベル100』
『念話レベル100』
『直感レベル100』
【フレアドラゴン】
種族:竜種
レベル150〜200
攻撃力:3000〜4500
防御力:3200〜5000
魔攻撃:2500〜4800
魔防御:3000〜4200
魔力:2500〜3400
俊敏:2800〜4000
運:30〜280
【能力】
スキル
『ブレスレベル75〜90』
『炎魔法レベル80〜95』
『直感レベル50〜70』
何と驚くことに俺が片手で攻撃を防いだ奴は竜王だった。しかし、何故こんなところまで竜王が来たのだろうか。まあ、どちらにせよ倒すのだから問題はない。と思ったが、さすがに竜王を倒すのは目立つのではないかと思った。今更な気はするが、それでもさすがに竜王を倒すのはやり過ぎの気がする。
「さて、どうするか。」
そんなことを言うと、すかさず『アザトース』がスキルをピックアップした。毎度のことだが本当に助かる。
俺はスキルを確認した。
マスタースキル
『ウボ・サスラ』
なるほど。『ウボ・サスラ』の精神操作で戦わずに追い払うというわけだ。
「よし、じゃあやりますか。」
俺は『ウボ・サスラ』を使い、竜王とフレアドラゴンたちの精神の操作をした。
結果は上々。全員の精神を操作し、火山に帰るように仕向けることが出来た。
「な、何故急に竜王たちは山へ……。」
スキルを使ったことを知らない騎士団長は突然のことに驚いた様子だ。
「さあな。腹でも減ったんじゃないか?」
とりあえず、適当なことを言っておいた。
「それよりも早く戻ろう。お前のことを待ってる奴らがいるぞ。」
「そうだ!!!姫様と見習いたちは無事なのか?」
突然思い出したらしく、慌てて俺の肩を掴み聞いてきた。
「落ち着け。多分、その姫様と見習いたちは無事だ。」
おそらく騎士団長が言っている姫様と見習いはさっき俺が助けたやつらだろう。
「ほ、本当か?」
「だから、本当だって。落ち着けよ。」
「ん?あ、ああ。す、すまぬ。」
そう言うと、焦った様子で俺から離れた。まあ、こんな見た目美少女の奴とあれだけ近づいたらそうなるだろう。
「じゃあ、行こうか。」
「ああ。」
俺と騎士団長は姫様たちの元へと向かった。
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「ガゼル!!!」
「「「「「「団長!!!」」」」」
俺と騎士団長が戻ってくるなりこの騒ぎだ。
「姫様申し訳ありません。騎士団長でありながら貴方様を危険な目に合わせてしまいました。」
「良いのです。こうして私たちはまた会えたのですから、まずは其れを祝いましょう。」
「姫様……。」
団長さんは泣いていた。そうとう嬉しかったのだろう。
「お、イヅナちゃん…じゃないのか。イヅナ!よく戻ったな〜!」
遅れてデイビットが出てきた。どうやら、俺が男(元)ということを受け入れたらしい。ある意味大した奴だ。しかし、こいつはしっかりと姫様と見習いたちを介抱していたのだろうか。
「ああ。何とかな。」
「そんなこと言って、どうせちょちょいのちょいって済ませてきたんだろ?」
「さて、どうかね。」
「ガーッハッハッハッハ。まあ、何でもいいさ。」
確かにその通りだ。
「よし、じゃあそろそろ王都に行くか。」
「そうだな。急いで行きたかったのに思いの外時間くっちまった。」
そんなことを話していると、
「少しよろしいですか?」
姫様が話しかけてきた。
「ん?何だ?」
「申し遅れましたが、私はエスカ王国王女“グレイシア・メル・エスカ”と申します。先ほどは危ないところを助けていただきありがとうございました。」
「気にするな。」
「えぇ!!!??あんた姫さんだったのか。通りで綺麗な格好してるわけだ」
本当に空気を読んで欲しいものだ。
「はい。一応は。」
「それで、話はそれだけか?」
「いえ、実はこの度のことを考え、正式にお礼をしたいのですが…よろしいでしょうか?」
正直な話嬉しいが、俺は早く【神剣エクスカリバー】を手に入れて、フォートレスの街に帰りたいのだ。
「悪いが……。」
「いいぜ。なあイヅナ。」
断ろうとしたらデイビットに邪魔された。こいつには一度説教が必要だな。
「あ、ああ。そうだな。」
しかし、やはり一度了承したものを断るわけにはいかない。俺は素直にお礼をうけることにした。
「それでは、参りましょう。」
「ああ。」
俺は姫様たちと共に、再び王都に向けて出発した。
〈おまけ〉
竜王のスキルについての説明と、ガゼル・ハイナーのステータスを載せておきます。
マスタースキル
『天照神』・・・自分から生じた焔・光の掌握。自分から生じていなくとも、一部の炎、光にはこのスキルの効果が働く。
ユニークスキル
『焔統者』・・・『炎魔法』の上位互換、焔魔法が使用可能。『ブレス』の威力の大幅UP。また、“炎体化”(体の一部を炎に変化させることができる。)が使用可能。
【ガゼル・ハイナー】
種族:人間
性別:男
レベル:762
攻撃力:12000
防御力:12500
魔攻撃:8000
魔防御:11000
魔力:10000
俊敏:10000
運:240
【能力】
エクストラスキル
『剣王レベル15』
『盾王レベル12』
スキル
『魔法付与レベル50』
『見切りレベル50』
『感知レベル50』