気がついたら鮮血でした
最近、日曜日にあげられてません。不定期な投稿ですみません。でも今日も投稿しちゃいます。
俺は【邪神剣ダーインスレイブ】を構え、創造神に立ち向かう。創造神は【神槍エデン】を構えるが満身創痍のその体では上手く扱うことは出来ない。
俺が【邪神剣ダーインスレイブ】を振るとそれに合わせ、【神槍エデン】が動く。がその速度では間に合わない。防御することは叶わず、創造神の肉を裂く。
「ぐっ!痛いなあ!」
創造神は力任せに【神槍エデン】を振り回す。俺は横にずれることで一撃を躱し、【神槍エデン】を掴む。そのまま持ち上げ、地面へ叩きつけた。【神槍エデン】から手を離した創造神。俺はその隙をついて【神槍エデン】を奪い取り、異空間へとしまい込む。
「これで武器は……。」
「そんなもの幾らでも作ってやる!」
その言葉と同時に地面から次々と剣や槍が生えてきた。だがそのどれもが【神槍エデン】と比べてしまえばお粗末なものだった。そしてその程度の武器が【邪神剣ダーインスレイブ】の攻撃に耐えられるわけがない。
一線。それだけで武器たちは崩れ去っていく。生成されては壊されの繰り返しだ。俺は武器を破壊しながら創造神に近づく。その目からはまだ戦う意思を感じた。だがもう1つ別のものを感じた。恐怖だ。
先ほどの様な演技の可能性も捨て切れはしない。だがここまで追い込まれ演技をする余裕はあるのだろうか?
「まだやるか?」
「当たり前だろ!」
俺は創造神に剣を突き付ける。創造神は右手を俺に向ける。そこから光が放たれ、俺に迫った。巨大な魔力に、これは『純潔之神』か。だがこの程度、食らいつくせる。
「『暴食之神』。」
光は消え、眼下には膝をつく創造神の姿がある。諦めたわけではなさそうだが今すぐにでも戦おうとは思っていない様だ。
「何だよ、お前は。僕の世界をめちゃくちゃにして。」
「お前の世界ではないだろ。」
「僕の世界だ!僕が作ったんだ!創造主なんだ!何をしても良いんだ!玩具なんだ!それなのに後から出てきた君が!君が邪魔して!最悪だよ!本当に……本当に。……ひひ。」
創造神が不敵に笑う。
「何がおかしい?」
「だから、君が僕の邪魔をした様に、僕も君の邪魔をしてやる。この大陸以外の人間どもを全て皆殺しにしてやる。」
「…貴様。」
「もう遅いよ!天使たちはとっくに動いてる君が僕と戦い始めた頃からね!」
創造神は楽しそうに笑う。まるで先程までのことが嘘だったかのように。
「僕にたてついた事を後悔するんだなあ!」
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俺たちが戦いを初めて間もない頃、それぞれの大陸のはるか上空に天使たちがいた。創造神が急遽作り上げたその天使たちは生物と言うよりもゴーレムに近い。悪魔たちと戦っていた者たちとは明らかに違う存在だ。
そんな天使たちは創造神の命令で人間の殲滅を行おうとしていた。誰1人として逃さぬよう、意識を集中していた。全ての大陸で同じように。だから気づかなかった。自身たちよりも更に上で佇んでいる者がいることに。
「「「さてやるか。」」」
俺たちが天使たちを狙いすましていることに。
直後、巨大な魔力の渦が天使たちを飲み込んだ。そして形も残すことなく、この世界から消えたのであった。
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「ハハハハハ!どんな気分だい?守ろうとしてたものが死ぬ気分は?」
(知らないって幸せだな。)
俺は高笑いする創造神を見ながらそんな事を思う。まあ無理も無いことだ。普段の創造神ならば兎も角、今の奴は疲弊している。それに加えて俺の結界が張られている以上、外の事を知ることはほぼ不可能だ。それに俺が黙ったことで天使たちを動かしていた事に気付いていなかったと思わせてしまった。つまり奴は上手くいっていると思い込んでいる。
だが俺は敢えて創造神の言葉に答えず、奴の策に引っかかったふりをする。その方が都合が良くなりそうだ。
「この世界の奴らは今関係ないだろ。」
「僕の所有物である以上、関係はあるんだよ!」
創造神はふらつきながらも笑顔で答える。
「この世界は僕の物。僕が何をしようと文句を言われる筋合いはないよ。僕はそうやって生きてきたんだよ。何回も滅ぼしたこともあったかもしれない。でも仕方ないよ。彼らは僕の玩具なんだから。」
創造神は俺の側まで歩いてきた。人質を取れたことにより創造神の行動は大胆なものへと変わる。
「そうだなあ。君、確かセリカだっけ?その人間のことが好きなんだよね?」
「…………。」
「そのだんまりは肯定ととって良いよね?僕、別に性欲があるわけじゃないんだけど、犯してみるのも良いかもねえ。ほら、僕を殺さないと、彼女が危ないよ〜。まあ今、僕に手を出したらすぐに殺されちゃうんだけどね〜。ハハハハハ!」
何をどうすればこの様なクズに育つのだろうか。理解したいとは思わないが、不思議でしょうがない。
セリカを犯すか。その気が本当にあったのか、俺を挑発するつもりで言ったのかは分からない。だがもう十分に話も聞けた。こんな奴…。
「ぶん殴って良いよな。」
「え?何だ…っ!?」
俺の拳が創造神の顔面を捉える。拳は顔に沈んでいき、骨が砕けていく音が聞こえる。俺は更に魔力を込め、力一杯拳を振るった。遠くに飛ばれても困るので創造神が吹き飛ばされた瞬間にその背後に結界を張る。
バチィン。
音とスパークを生じさせ、創造神は倒れる。何が起こったのか理解出来なかった様だ。創造神は自身の歪になった顔に触れ、漸く殴られたことに気づく。
「お前!正気か?もう良い!お前がその気ならこの世界の人間は…。」
「教えてやろう。」
俺は創造神の言葉を遮る。
「今、俺は確かにお前と戦っている。俺以外にお前の相手を出来る奴はいないそう考えたからだ。だからそれ以外の天使たちは悪魔たちに任せることにした。だが天使たちがどの程度来るか分からなかった為、戦力になるものたちを全員投入する必要があった。戦場には十分な戦力が集まる。けれど俺はそこであることに気づいた。この戦場以外の場所でお前がコソコソと動く可能性があるとな。」
「何を言って。」
「特に可能性が高かったのが人質だ。その場合、間違いなく俺の知人を人質に取る。ただその一個人を人質にするか、世界に住む者たちを全て人質にするか。だから仕方ない。俺は全て守ることにした。」
そう言って俺は『分身』を行う。目の前で2人になった俺を見て創造神も予想がついたらしい。その顔が青ざめていく。
「ま、まさか。」
「そのまさかだ。天使たちは俺が全て倒した。」
天使の軍団を葬った存在。その正体は俺だった。
『分身』で生み出された俺は普段の俺と比べると遥かに弱い。しかし弱いと言っても天使の軍団程度倒す事くらい造作無い。
「そしてもう1つ良いことを教えてやる。」
俺は光魔法を使い、映像を空に映し出す。それは各大陸の町々の今の状況だ。人々は空を見上げている。そこには今、俺が映し出した様な映像が流れていた。
「この戦いが始まる前から俺は各大陸にてその様子を空に映した。各国の王たちに許可を貰ってな。」
「なっ……。」
「俺は魔神との戦いを映すと言っておいたが、今までのことを全て見た者たちは既にお前が創造神だという事くらい理解している。そしてその創造神が何て口にしたのかもな。」
創造神は自身の言っていたことを思い出す。
『この世界は僕の玩具、何をしても良い。』
はっきりと口にした。そしてそれを聞かれていたのであれば。
「お前は信頼を失う。既に各国の創造神を崇める宗教団体はお怒りだ。勿論、無宗教者もだ。教会は破壊され、お前は創造神、善神から悪神へと成り下がっている。」
口を開いてはいるが創造神は何も言うことが出来ず、ただ呆然としている。
「俺はシヴァからお前を倒してくれと頼まれた。だから考えていた。どうすればお前を世界の敵にし、真実を伝えらることができるのか、と。それがおまえを倒すために必ず必要になると。」
俺は創造神の肩に手をおき、笑みを浮かべる。
「こうも上手くいくとは思わなかった。これで本当に終わりだ。」
これは先程までの仕返しだ。そしてシヴァたちの分の仕返しでもある。
世界を、人々を玩具とし、弄び続けた創造神。正しい行いをしたものが蔑まれ、悪神が支配する世界。俺は許せなかった。もしかしたらシヴァはここまで望んでいなかったのかもしれない。創造神を倒しても名だけは残し、世界を今のままで平和にして欲しかったのかもしれない。だが俺は我慢できなかった。善行を行った者たちが間違いであったとそう伝えられるのは違う。悪しき行為をしたものが崇められるなど言語道断だ。
「これは今までの行いに対する罰だ。2度とお前の名が崇められ、奉られることは無い。」
俺は剣を突きつける。しかし創造神は俯いたままで動かない。
「僕が何をしたって言うんだ。僕は悪くない、悪くない、悪くない。神である僕に間違いはない?崇められない?信用はない?関係ない全て消してまた作れば良い。こんな世界なんてもういらない。僕の望まない世界なんて必要ない。でも何で?何でそんなめんどくさいことしないといけないんだ?」
創造神はようやく顔を上げる。その瞳には俺の姿が映る。
「そうか。お前のせいだ。お前がいたからだ。そうか。そうだわ。それしかない。」
創造神は『瞬間移動』を使用し、上空へと移動する。目は虚になり、体はズタボロ。だが魔力だけは上昇している。
「『破壊之神』。」
『破壊之神』。破壊を掌握するその力が発動した。赤黒い魔力が集まり、可視化されていく。膨大な魔力は周囲に変化を与えた。風が吹き荒れ、空は赤く染まり、木々が枯れていく。雷が降り注ぎ、炎が吹き荒れ、氷が生え、地が割れる。まるでこの世の終わりを見ているようだ。魔力はまだ増えていっている。時間がかかりそうだな。今のうちに倒すか?
そんなことを考えていると何処からともなく、声が聞こえた。
「イ!ヅ!ナ!さ!まーーーーー!!!」
俺は創造神の警戒は怠らず、嫌々、背後に目を向ける。するとそこには俺のよく知る悪魔が、アスモデウスがいた。分かってたよ。ただ1つ予想と違ったのはそこにいるのがアスモデウスだけではなかったことだ。ルネに、他の悪魔たち、それに勇者、巫女、気絶はしているが各国の王たちまでいる。何故ここに?
「どうしてここに集まってるんだ?」
「イヅナ様!無事、天使たちをコテンパンにしてきましたよ!褒めてください!抱きしめてください!愛をください!」
「今、頼むことではないわじゃないかな?」
「あ、ルネも欲しいですか?イヅナ様の愛。」
「遠慮させてもらうよ。」
相変わらず話を聞かないアスモデウス。代わりに歩が答えたくれた。
「アスモデウスさんがあんな馬鹿でかいの打たれたら一溜まりもないって言ってな。余波でもかなり危ないらしい。で、どうすれば無事でいられるかって考えた時、雅風の側が一番安全だろって話になったわけだ。」
「それでここに来たのか?全員で。」
「おうよ!」
よく誰も反対しなかったものだ。俺の近くが安全そうだからって、普通魔力の中心地にこないだろ?まあそれだけ信頼されてるってことか。
「はあ。」
「何、溜息してるんですか!ちゃちゃっとやっつけて下さいよ!」
お前のせいで出た溜息だよ、アスモデウス。
「イヅナくんも大変だね。でも僕も信じてるよ。僕たちを守り切ってくれると。って、なかなかカッコ悪いこと言ってるね。」
「まあ確かにカッコ悪いのかもな。」
ルネが苦笑いする。ルネは恐らくこの戦場でもアスモデウスと一緒にいた。本当に苦労しただろう。後で礼を言わないとな。
「まあ、雅風なら余裕だろ?」
「何を根拠に。」
「友達だからだな。」
「そうか。」
ずっと信じ続けてくれた歩。そんな歩が言った『余裕だろ?』と。だとしたら本当に余裕なのかもな。何の根拠もない。だがそれで良い。
「飯綱くん!が、頑張って!」
「ダンジョンの時みたいに助けて頂戴。」
「ありがとう。」
横山と琴羽はエールをくれる。優しい2人だ。他の奴らから応援が無いだけ、余計に嬉しく感じる。
「イヅナ、頼むぞ。全てを託す。」
「むむー(死んじゃダメ。)」
「ああ。」
ルシファーは真剣な眼差しで俺を見つめる。本当ならば自分が倒さなくてはいけない。そう考えているのかもしれない。しかしそれは叶わない。だからこその言葉だろう。
ベルゼブ、その通りだな。俺が死んだら2人で報告に行けなくなる。
「……イヅナ……大丈夫。」
「知ってるよ。」
ミカエルはそう言って俺に微笑みかける。この短時間で笑顔が上手くなったものだ。俺たちの学園での日々は無駄では無かった。
「よし。」
俺は【邪神剣エクスカリバー、ダーインスレイブ】を構え、創造神の方へと向き直る。
「つまらないものを僕に見せるな!」
「じゃあ見るなよ。」
「うるさい!」
最早その様子は駄々をこねる子供だった。魔力の上昇は止まっていた。強大な魔力だ。だがただ大きいだけ。他に何もない。
(ここまで長かったな。)
俺は地面を蹴り、創造神へと向かう。創造神は俺に向け、強大な魔力を放つ。だがこの程度。
「死ねええ!!!」
(シヴァ、ようやくだ。)
俺は『ヨグ・ソトース』『ウボ・サスラ』『アブホース』『色欲之神』『傲慢之神』『暴食之神』を使用する。『色欲之神』で標的を定め、『傲慢之神』『暴食之神』で飛来する魔力を可能な限り吸収する。そして集まった魔力を集め、『ヨグ・ソトース』を使用し、時空間ごと魔力を、創造神を切る。
「終わりだ。」
放たれた斬撃は魔力を裂き、創造神をも切り裂く。『ウボ・サスラ』は命を切り取り、『アブホース』は精神を破壊する。肉体、精神、その両方を無くした創造神は砕けていく。
「……僕は。」
創造神はそう呟き俺の前から消えた。
俺は着地すると空を見上げる。
「シヴァ、約束は果たしたぞ。」
俺はシヴァに届いて欲しい、そう願い言葉にした。それは自己満足の行為なのかもしれない。けれど今はそうさせて欲しい。
「イヅナ様〜〜〜!!!」
アスモデウスが俺に向かって飛び込んでくる。ここは両腕を開いて待つのが正しいのかもしれない。だが。
「アスモデウス!」
「イヅナさ…へぶっ!?」
俺は避けた。
「な、何するんですかあ!」
「何となくだ。」
俺は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「全く、仕方ありませんね。」
「「「雅風!(飯綱くん、イヅナ、イヅナくん、イヅナ様、むむ!!)」」」
アスモデウスに続き次々と俺の元へと仲間たちがやってくる。皆が笑い、喜ぶその様子を見て、俺は思う。本当に終わったのだと。
そう、この時俺は初めて油断した。仲間たちに囲まれ、周囲に目を向けられていなかった。変化に気づいた時にはもう遅い。
ドクン。
時が止まるのを感じた。仲間たちの声は止み、動きは止まる。そんな中で俺の頭に響いた声。
(油断大敵。罰として君の大切なものを奪うよ。)
俺は仲間の間を抜け、駆け出す。大切を奪う。そう言われたとき、俺の頭には何故か1人の人物が思い浮かんだ。どうしてかは分からない。だが俺の体はそいつを守る為に動いていた。
止まっている時の中で動けるのは『ヨグ・ソトース』を持つ俺だけ。守れるのは俺だけなのだ。仲間たちの間を抜ける。するとそこには奴がいた。半身を失い、死に体のその体で奴は、創造神は立っていた。【神槍エデン】をその手に持ち、その先をアスモデウスへと向けて。
俺の姿を見た創造神は口を三日月の形にすると槍を持つ手を動かす。
(間に合え!)
俺は全速力で動く。だがどう考えても槍の方が速い。
(間に合え!)
世界が何故か遅く見える。槍がアスモデウスの胸に近づいて行くのがしっかりとみえる。
何故、さっき抱きしめてやれなかったのか!何故、側に置いていなかった!そんな考えばかりが頭を埋め尽くす。
(アスモデウス!)
俺は地を蹴り、手を伸ばす。しかし。
「残念。」
鮮血が散った。