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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
147/164

気がついたら『禁断之箱』でした

明日投稿できなそうなので今日投稿します。

「ミカエル!殺せ!」


「ミカ、好きなようにしろ。」


 俺たちは互いの魔力をぶつけながら、ミカエルに呼びかける。彼女の選択が俺たちの勝敗を決めるのだ。


「ちっ。さっさと終わらせたいんだけどなあ!」


【神槍エデン】が放つ光は勢いを増し、俺に迫る。創造神の魔力が今までにないほど上昇している。どうやら勝負を決めにきているようだ。

 回避をするなら簡単だ。しかしミカエルと共に回避すること、また周囲の者たちを巻き込まないことを考えるとそれは出来なかった。


(どうする?)


 俺は必死に考える。そのときだった。


「……私は……。」


 ミカエルの声が聞こえた。


(ミカ。)


 俺は知りたい。彼女の意思を。例え、俺の敵になる答えだって良い。それが親友である俺の役目だ。

 俺は振り返り、ミカを見つめる。戦闘中に行う行為ではない。だが今は…。

 ミカエルの口が開く。


「……私は!……イヅナともっと……一緒にいたい!……学園の皆と……楽しく……過ごしたい!また!……あんな風に……笑いたい!」


 魔力がぶつかり合い、風が吹き荒れる中、その言葉は確かに俺の耳に届いた。学園で彼女と出会ってからここまで長かった。俺は聞けた。意思を、願いを。だったら俺のすることはもう決まった。親友としてその手助けをしてやるんだ。


「ミカエル!君ってやつは!」


 創造神の言葉に怒りを感じる。どうやらこの結果は想定外だったようだ。


「ミカ。俺も一緒にいたい。またあの笑顔を見たい。だから…。」


 俺はミカエルに手を差し伸べる。


「手伝ってくれないか?」


「…!……はい。」


 ミカエルは俺の手を取った。目からは涙が流れる。しかしそれは決して悲しみが生んだものではない。一度は失ったと思っていた友達が手を指し伸ばしてくれている。こんなに嬉しいことはないだろう。その証拠にミカエルは笑っていた。涙で顔がぐしゃぐしゃになりお世辞にも綺麗とは言えない表情。だがそんな笑顔が嬉しかった。

 俺の視界がボヤけ始める。どうやら俺も涙を流してるみたいだ。


「……イヅナ……何故泣いているの……ですか?」


「それはこっちの台詞だ。何で泣いてるんだ?」


「……それは。」


 ミカエルは俺に更に身を寄せると応えた。


「……嬉しいから……です。」


「俺もだよ。」


 俺は『暴食之神』に意識を集中させる。


(喰らい尽くせ。)


 創造神の魔力を喰らう速度は上がる。しかしこれで創造神の魔力を吸い付くせるわけではない。互いの力は拮抗する。埒があかない。


「……イヅナ。」


 ミカエルは俺に寄り添い、魔力を送ってくれるが余り意味はない。この場を変えられる一手が何か無ければ戦況は変わらない。

 そう考えていたときだった。創造神な魔力が俺とは別の方向へと吸い込まれていくのを感じた。創造神もその異変に気付いたらしく、俺たちはその方向を向く。するとそこには紫色の短い髪に黒い不気味なローブを纏う少女、ベルゼブがいた。


「ベルゼブ。ナイスタイミングだ。」


「むーむー(イヅナ様、助けに来た。)」


 ベルゼブの『暴食之神』が発動したことでこちらが優勢となった。創造神の魔力は喰われていき、『暴食之神』は徐々に迫っていく。流石に分が悪いと創造神は魔力を一瞬高め、『暴食之神』が喰らう時間を無理矢理延長させることでその場を離れた。


「3対1かあ。酷いなあ。これじゃあイジメだよ。」


「勝手に言ったろ。お前を倒せれば今はそれで良い。」


 俺は剣を突き付ける。相変わらず創造神の余裕の表情は変わらない。だがその言葉からは怒りを感じた。創造神にとってもこの流れは予想外の出来事だったのかもしれない。負ける気はしない、しかし思い通りにいかなくてイライラしているそんなところだろう。


「はあ、せっかちだなあ。どうせ僕たちが勝つのに。」


 そう言い、ニヤリとやらしい笑みを浮かべる創造神。しかしそんな創造神の言葉がどうしても引っかかった。例えば今の言葉だ。創造神が『僕たち』などと言うだろうか。先程までの会話で創造神が天使のことを道具程度にしか思っていないことは分かった。その天使を仲間と思い、『僕たち』の中に入れるとは考えにくい。


(集中力を削ぐための作戦か。それとも…。)


 俺は頭を振る。今は目の前のことに集中するべきだ。


「行くぞ!」


「はいはい。」


 俺は再び、創造神に向かう。2振りの【邪神剣】を構える俺を【神槍】を構えた奴が迎え撃つ。だが実力に差が無い俺らがこの戦いを続けても消耗戦になるだけだ。だから俺は彼女に賭けていた。


(頼むぞ、ベルゼブ。)


 俺の視線に気づいた彼女が頷いた。どうやら覚悟を決めたらしい。

 俺は創造神の攻撃を受け流し、反撃しながらも彼女から聞いた話を思い出していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時は少し遡る。【聖なる祠】で作戦についての説明を終えた頃だった。珍しく、アスモデウスが側にいなかった俺にベルゼブが話しかけてきた。


「むーむー(少し良い?)」


「ああ。構わないぞ。」


 俺はベルゼブと肩を並べながら通路を進む。

 こう2人きりになるのは2度目だ。1度目はデミア大陸でだった。その時もベルゼブの方から話したいと言ってきた。短い時間だったが、少しだけ彼女のことを知ることが出来た。

 しかし、今回は様子が違う。何処と無くいつもよりも表情が暗い。


(何か重要な話なのか?)


 そんなことを考えていると少し広い空間に辿り着いた。壁などの作りも特に変わらず、何も無い部屋のように見える。だが1つだけ違う点があった。それはこの空間の明るさだ。他の通路や空間も確かに明るかった。しかし、それは日本の電気の様なそんな明るさだった。だがここは月明かりの様なそんな優しい明るさで照らされていた。


「むーむー(あれ見て。)」


 俺はベルゼブの指差す方向を見る。するとそこには石碑が建っていた。決して大きくは無い物が1つだけ、この広い空間にポツンと佇んでいる。


「あれは?」


「むー(皆のお墓。)」


 ベルゼブはゆっくりと歩みを進める。俺も後を追う様に進む。

 近づくにつれて分かったことがある。あの石碑、お墓は決して立派なものではない。しかし管理はしっかりとされていた為か状態は良い。

 俺は彫られている文字を読む。


(大切な家族、仲間たちここに眠る。心配しなくて良いよ。後は私たちに任せて。)


 そこにはメッセージも添えられていた。もういないはずな仲間。けれど伝えたい。そんな切ない想いが感じられた。


「むーむーむむー(私の家族も前の戦いで死んじゃった。)」


 ベルゼブは石碑を撫でる。


「むーむむ。(私が力を使えていれば助けられた命もあった筈なのに。)」


 それは何百年にも及ぶ後悔だった。今となってはどうしようもないこと。しかしだからこそ考えてしまう。俺だって何度もしてきたことだ。だが彼女のそれは俺とは比べ物にならないだろう。


「……何で俺をここに連れてきたんだ?」


「むーむー(覚悟の為。)」


「覚悟?」


 ベルゼブは頷き、こちらへと振り向く。


「むーむーむー。むむーむ。(私はもう覚悟は出来ている。でも貴方の覚悟を知りたい。)」


 ベルゼブは俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「むーむー。むー。むむー。むーむむ。むーむ。むむー(確かにイヅナ様は良い人。だから魔神様の為に創造神と戦おうとしてくれてる。でも、私たちはただの知り合い、それに顔も覚えていない悪魔だっている筈。でもそんな彼らも私からしたら仲間。もう失いたくない。ねえ、イヅナ様。貴方には守る覚悟もあるの?)」


『以心伝心』により伝わるベルゼブの想い。優しさに溢れた願い。

 ベルゼブも俺と旅をしてきて大体の人物像は理解している。しかしそれでも心配なのだ。一度植えつけられた恐怖を排除することは難しい。彼女もまた仲間を失う恐怖を拭えきれていないのだ。だからこそ俺に聞いた。守れる覚悟があるのか?守ってくれるのか?と。俺がどう答えるか分かっている筈なのに。


「その質問、俺がどう答えるか、分かってるだろう?」


「むーむー(うん、でも聞きたい。)。」


「分かった。俺は悪魔たちを失いたくないよ。シヴァがそれを願ったからでもない。俺の仲間だからだ。大切な仲間も見捨てる俺じゃない。それに知ってるだろ?俺はお人よしなんだ。」


 俺はベルゼブの頭に手を置く。


「大切な仲間の願いを叶えてやらない訳にはいかないだろ?」


 分かっていた。けれど確かに聞いた。


「むーむー(ありがとう。これで心配はいらない。)」


 ベルゼブは笑顔で言う。


「むーむー(これで最後の戦いに臨める。)」


 そこまで笑顔だった俺の顔が曇る。


「なあ、それはどういう意味での最後だ?この戦いが最後で創造神との戦いに決着つけられるって意味か?それともベルゼブにとって最後の戦い、つまりこの後の世界にお前がいないって意味か?」


「……むむ(…そ、それは。)」


 黙り込むベルゼブ。それはつまり答えづらい方、後者を意味するという事で良いだろう。全く、何を考えているのか。俺がそんなことを許すわけがないだろう。


「さっきも言ったが俺はお人よしだ。悪魔たち全員を守ろうとするほどの。」


「………。」


「そんな俺がベルゼブ、お前を見捨てると思うか?」


「むむ(思わない。)」


「そういうことだ。」


「むー(けど。)」


「『禁断之箱』か?」


「………。」


 マスタースキル『禁断之箱』。イレギュラーを生じさせるという世界に在るべきでないその力は使用者に負荷を与える。ベルゼブとてそれは例外ではない。先の戦いで『禁断之箱』を使用した際はその影響が口元に出た。その為、今はマスクにより封印し、隠している。

 そして今回、彼女は『禁断之箱』を全力で使用する気だ。その結果自身は命を落とすと考えている。だがそれが何だ。関係ない。


「何がお前の身に起ころうと俺が守ってやる、治してやる。だから安心して戦え。必ずお前は生き残る。だから終わったらまたここに来るぞ。2人で報告しよう。無事に終わったと。」


「……む、むー(う、うん。)」


 予想していなかった言葉にベルゼブさ思わず涙を流す。諦めていた未来を諦めなくて良い。またここに戻ってこれる。そう考えると涙はますます溢れてくる。俺はそんなベルゼブの頭を撫でる。するとベルゼブは突然、俺の手を払いのけると自身の手をマスクに移動させる。そして…。


「…ベルゼブ。」


 彼女はマスクを取った。


「大丈夫なのか?」


「うん。少しなら。」


 イメージなどではないベルゼブの口から言葉を聞くのは初めてだった。

 おおよそ口とは思えないその口は『禁断之箱』の影響の強さを物語っていた。


「治してみるか?」


 ベルゼブは首を振る。


「この口は治したくない。自分の失敗を忘れたくないから。」


「そうか。」


 ベルゼブは頭を下げる。


「イヅナ様、ありがとう。私はイヅナ様を信じる。どうしてもこれだけは自分の口で伝えたかった。」


「十分すぎるほど伝わったさ。こちらこそありがとう。」


 ベルゼブは最後に微笑むと再びマスクを着用する。


「むむ(いこう。)」


「そうだな。」


 俺とベルゼブはこうしてその場を後にした。


「むむ(いってきます。)」


 俺たちなりの覚悟を決めて。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして現在、俺は【神槍エデン】の持ち手を殴り、軌道を逸らすと【邪神剣】で切り上げる。が、それを僅かな動きで回避した創造神は逆に俺にかかと落としを決める。がただでやられる俺ではない。【邪神剣エクスカリバー】を手放し、足を掴むとそのまま振り回し、【邪神剣ダーインスレイブ】で斬りつける。


「甘いよ。」


 創造神は【神槍エデン】で防御をし、その反動を利用し距離を取る。互いに傷付き消耗はしているが、中々決定的な一撃が生まれない。


「最初から本気でいけばこんな怪我しなかったのに。まあ、仕方ないか。」


 創造神は【邪神剣ダーインスレイブ】でつけられた傷を見てそう呟く。だがそれはお前の油断が原因、自業自得だ。


「まあ良いやっ!と。」


 創造神は【神槍エデン】を投擲し、瞬間移動で背後に回る。【神槍エデン】を回避した俺に更に追撃をする。俺は創造神の両腕を掴み押さえつける。力はこちらに分があるようだ。


「全く、笑えてくるよ。」


「何がだ。」


「君たちがさ。いつまでも僕たちに踊らされて滑稽で滑稽で。本当に可哀想。」


 創造神は笑う。そして俺も笑う。


「何がおかしいのかな?」


「いやこちらも手筈が整ってな。その状況で笑えるお前が滑稽なんだよ。」


「へえ〜。」


 まだ余裕のある表情を浮かべる創造神。だがこれを受けてもまだその表情をしていられるか。


(いけ!ベルゼブ!)


 俺の視線の先にはマスクを外したベルゼブの姿がある。その口元はまるでモザイク、いやテレビの砂嵐、或いはその両方が合わさったような黒い何かがあった。理解できないその存在こそ、『禁断之箱』の影響を受けた証拠であった。

 そして今、彼女は再びそのスキルを使用する。


「『禁断之箱』。」


 世界が歪む。ベルゼブから出たイレギュラーは現れたと同時に創造神に纏わり付いた。距離などまるで無かったかのように。流石に理解が追いつかない創造神も焦りの表情を浮かべる。


「何だよ!」


 振り払おうとする創造神。すると不思議なことが起きた。振り払われた手は創造神の体から離れ、飛んでいったのだ。


「え?な、何だこれ!おかしいだろ!」


「そうだな。だがそれがイレギュラーだ。」


 俺は創造神の顔を殴る。ダメージは入ろうとも決定的な一撃とはなり得ない。それが通常、起こる現状だ。しかし今は違う。俺の拳は創造神の顔を捉えると創造神は血を吐き、なす術なく飛ばされ、地に落ちた。手応えでわかる。致命傷だ。

 俺は創造神を追うことなく、ベルゼブの元へ向かう。謎の現象は口元だけではなく体を覆い、正常に見えるのは目の付近だけだ。よく頑張ってくれた。俺は女に『ヨグ・ソトース』を使用し、体だけを『禁断之箱』を使用する前の状態へと戻す。時間は巻き戻され、徐々にベルゼブの姿は戻っていく。マスクを着用させるとそこには元の彼女の姿があった。


「大丈夫か?」


「むむーむーむ(大丈夫、だからあいつをぶっ飛ばしてきて。)」


 ベルゼブはそう言うと拳を握り、前に突き出す。それだけの元気があれば彼女の言う通り今は大丈夫だろう。


「任せとけ。ミカ、少しの間、こいつを任せても良いか。」


「……はい……イヅナの仲間は……私の仲間です。」


「むーむー(何で天使が?)」


「詳しいことは後だ。」


 俺はミカエルにベルゼブを任せ、地上へ向かう。土埃が舞う中、先程とは打って変わり、怒りの表情を浮かべる創造神の姿があった。片腕は千切れ、顔は歪み、傷だらけのその姿はとても神とは思えない。


「やってくれるよ。まさかここまで追い込まれるとは思わなかった。『禁断之箱』の存在をすっかり忘れてたよ。全く、本当にスパイスになってくれた。」


「スパイスだと?」


「スキルのことを知らない君には分からない話さ。」


「まあ、どちらにせよ関係ない。」


 俺は【邪神剣ダーインスレイブ】を突きつける。


「ここで終わりにしてやる。」


「そう簡単にやられるつもりはないよ。」


 俺は創造神に向かっていく。必ずここで決着をつけてみせる。友の為、仲間の為、そして、この世界の為に。






創造神との戦いもラストスパート。

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