気がついたら彼女に委ねられました
仕上がったので投稿します。日曜日に上げられず、申し訳ない。
荒野となった戦場の中で俺は白い髪と金色の瞳を持つ少女と再び、対面した。彼女の名はミカエル。カラドボルグ魔法学園で共に時間を過ごした友だ。
「ミカ。俺だ。分かるか?」
「…………。」
俺は笑顔でミカエルに声をかける。しかし彼女に反応はない。その瞳は俺を見ているがまるで俺が映ってないように見える。
「君が何を言ったって無駄だよ。ミカエルは僕に従える天使なんだから。ねえ?ミカエル。」
「……はい。……その通り……です。」
「うんうん。とても良い子だ。じゃあまずは彼を殺してくれるかな?」
ゆっくりと立ち上がった創造神はミカエルの肩に手を回し、顔を近づけ囁くように伝える。その行動に対し、ミカエルは表情を変えることなく、ただゆっくりと頷く。
そのとき、こちらに近づく反応を捉えた。だがその者の魔力は減少しており、弱っている様子だ。ゆっくりと俺の側に着地した。
「ルシファー。大丈夫ではないな。」
「すまない。不覚をとった。」
何とか立ってはいるものの体中傷だらけだ。左腕は折られ、額からは血を流し、3対6枚の羽はその数を減らしている。
ルシファーは悪魔たちの中でも最強の存在。そんな彼がこれだけの傷を負うとは流石の俺も予想外だった。俺はルシファーにスキルを使い、その傷を癒す。相手は直ぐにこちらを攻撃する様子はなく、こちらの様子を見ている。
「あのミカエルと言う天使、何かがおかしい。」
「おかしい?」
「ああ、初めはほぼ互角の戦いをしていたのだが途中から戦闘力が上がった。だがその様子が初めから何かを隠していたと言うよりも新たに得たものに思えた。」
俺はルシファーの説明を受けながらミカエルのステータスを確認する。
【ミカエル】
種族:天使、天使長、神の使い
性別:女
レベル:100000
攻撃力:146800000000
防御力:157400000000
魔攻撃:180500000000
魔防御:174800000000
魔力:179050000000
俊敏:139000000000
運:120
【能力】
マスタースキル
『美徳之神』
『天使之王』
『忠誠之王』
『守護之王』
エクストラスキル
『全属性魔法レベル100』
『物理ダメージ遮断レベル100』
『魔法ダメージ遮断レベル100』
『光速思考レベル100』
学園にいた頃とは比べものにならないステータスをミカエルは持っていた。どの値もルシファーと1つ桁が違っておりスキルを使わない戦闘面において絶対的な優位を持っている。更に1つ気になるスキルがあった。それが『美徳之神』だ。このスキルには『慈愛之神』『救恤之神』『節制之神』『忍耐之神』『純潔之神』『勤勉之神』『謙譲之神』の能力が含まれている。また、おきうる未来を自身に利益のあるもの、望むものへと変える力をも持っている。
ステータスの大きな差、スキルの手数の多さ、そして未来を変える力。ルシファーが勝てないわけだ。しかし、短期間で何故これだけの力を得たのか。それは創造神がわざわざ話してくれた。
「どうだい?僕のミカエルは強かっただろう?この子は『天使之神』を持ってるからね〜。死んだ天使たちの力はこの子に集まる。まあ、雑魚兵どもの力までは集まらないし、100%の力を回収できるわけじゃ無いけど、それでもルシファー君に勝てる程度にはなったね。まあ多分、それ相応の味方が死んでるようだけど。彼女がいれば勝てるでしょ。」
創造神は俺を指差すとミカエルに命じた。
「あいつを殺せ。」
「……………はい。」
ミカエルは返事をすると俺に向い、走り出す。俺たちの間にあった距離は一瞬で無くなり、接触したミカエルはそのまま俺を掴み、空へと向かい上昇する。
「……ミカ。」
「…………。」
俺の呼びかけに彼女は反応しない。俺は彼女に初めて出会った頃を思い出す。
「何を言っても無視されてたな。」
ミカエルは俺を突き飛ばすと魔法を放つ。空から降り注ぐ、光の柱。最初に感知した魔力量は大したものではなかった。しかし変化が起きる。
魔力、熱、範囲、威力。その全てが突然、変わった。俺の視界は白く包まれ、見えていたはずなミカエルの姿さえ見えない。俺は『暴食之神』を使用し、光の吸収を試みる。放たれ続ける光。吸収はなかなか完了しない。そして動かない俺を見て、好機と考えたのかミカエルが動く。先程よりも更に速い速度で飛来する。その手には剣が握られ、また盾を構えている。俺は【邪神剣エクスカリバー】を取り出し、彼女の剣を受ける。【邪神剣ダーインスレイブ】は使わない。その様子を見た創造神は笑みを浮かべる。
「やっぱり君、ミカエルを攻撃できないんでしょ?」
俺は創造神を無視して、ミカエルの攻撃を捌き続ける。創造神はその行動を肯定ととる。
「図星かあ。そうだよね〜。大切な友達だもんね〜。」
「黙れ!その口を閉じろ!」
ルシファーが創造神に向かい、怒声をあげる。しかし創造神は話を続ける。
「学園で別れたあの子と感動の再会。しかし友だった彼女は今じゃ敵。僕には攻撃なんて出来ないよ。ハハハ、これは傑作だ。」
「貴様!」
「やめろルシファー。お前じゃそいつの相手は無理だ。」
感情に流されそうになるルシファーを止める。万全の状態でも勝てぬ相手に怪我をした状態で挑んで勝てるわけがない。それに創造神が手を出してこないならこちらから手を出すべきではない。その事を理解しているルシファーは歯を食いしばり、創造神を睨み、思いとどまる。
「そうだよ。僕は今、悲劇を楽しんでるんだから。邪魔はしないでくれよ。」
逆撫でをすることをやめない創造神。気に触るが今はミカエルの相手が最優先だ。
『美徳之神』を使用し、自身のステータスを最大限上昇させたミカエルは強い。創造神と比べればその厄介さは劣るがこちらから攻撃を仕掛けない分、戦いづらい。封印など動きを止める事は可能だが、創造神が解除してしまえばそれまで。その為、何としても彼女を彼女自身の意思で止めたいのだ。
だがそれは容易なことではない。彼女は俺たちの友ではなく創造神の駒として自身を理解している。おまけに俺の呼びかけには応えてくれない。
「無謀だな。でもそれは学園の時も同じだった。」
学園で確かに俺の言葉は、想いは彼女に届いた。ミカエルは涙を流し、俺を思ってくれた。大丈夫だ。今回もきっと上手くいく。
「………い……の……。」
ミカエルの声が聞こえた。
「どうした?ミカ!」
俺は過剰に反応する。すると突然、体に違和感を覚えた。体が動きづらい。俺は大きく後ろに仰け反り、ミカエルの攻撃を回避する。どうやら『節制之神』を使用されたようだ。その対象は俺ではなく、俺たちのいる空間。ミカエルと話そうとする俺を声を出すことで、隙を作り攻撃してきた。流石は天使長なだけはある。まあ今のは俺が安直過ぎた気もするが、仕方あるまい。
「良いよ、良いよ、ミカエル!その調子だ!」
相変わらず創造神は楽しそうに笑う。ミカエルは味方である。それがあいつの認識だ。確かにミカエルはお前に何百年もの間使えてきた。ただ一度も裏切ることなく、絶対的な忠誠があるとそう考えているだろう。だがな、そこにミカエルの意思なんてない。だから俺が今、確認してやる。ミカエルがどうしたいのか。それが友人、親友の俺の役目だ。
「ミカ、最初の頃は今みたいに何を話しても無視してたな。」
「………。」
反応はなく、剣を振り、魔法を放ち続けるミカエル。変わりはない。だが俺は続ける。
「友達になってからやっと話せるようになって、ニエーゼたちとも話をしたりして、それなりに楽しい日を過ごせたよな。」
剣が俺の頬を掠る。魔法が肌を焼く
「後、雨の中ミカを探したこともあったな。噴水の近くで涙を流してた。そのときミカは言ったよな学園での日々は楽しかったって。」
俺は話を続ける。それが面白いのか、創造神は遂に高笑いをして俺を指差す。
「これは本当に傑作だ!ミカエルが楽しい?心も無いのに?ハハハ、ハハハハハハ。バカじゃ無いのか?楽しめる訳ないだろう?なあ、ミカエル。行動で教えてやれ。お前という存在を。お前が何故、存在してるのかを。」
「………はい。」
ミカエルの攻撃が加速する。光の槍が俺たちの周囲に出現し、放たれる。槍はミカエルの体をも貫き、俺に向かってきた。まるで自身がどうなっても良いそう言った攻撃だ。自分は創造神の道具だ。ミカエルにそう言われている気がした。
だがその考えは俺が否定する。
「今は何を思ってる?何も感じないか?そんな訳がない。だって今、ミカは友達と戦ってるんだぞ?」
「無駄だって言ってるだろ?本当に滑稽だね。」
創造神が何か言っているが俺の耳には届かない。今の俺にはミカエルしか見えていない。
「俺は戦いたくない。俺はミカを傷つけたくないんだ。」
ミカエルが剣先を俺に向け、動く。だが俺は動かない。手を広げ、ミカエルを迎える。
ズブリ。
鈍い音が聞こえた。俺の体に剣が突き立てられた。傷口が熱い。
だがこれは好機だ。俺はミカエルを抱きしめる。そして彼女の耳元で問いかける。
「なあ、ミカ。今この戦いにお前の意思はあるのか?」
「…………。」
勿論、ミカエルに反応はない。だが代わりに創造神が応えた。
「意思なんてあるわけ無いだろ?道具にそんなものは必要ない。ミカエル、まさかここまで出来るとは思わなかった。そいつを切りきざめ。」
嘲笑う創造神はミカエルに更に指示を出す。自分を傷つけた奴が説得を試みた相手に殺されかけている。創造神はこの状況を楽しんでいた。あの笑顔が何よりの証拠だろう。
だがそんな創造神を見て、俺も笑っていた。創造神よりも良い笑顔をしているのかもしれない。腹を貫かれ、血を流し、それでも笑えた。
そんなおかしな状況に創造神は気でも狂ったのかと勘違いをする。だから俺は教えてやった。
「ミカエルはお前の道具で従順な駒。お前の指示に従い、意思なんてない。そう言ったな?」
「言ったよ。それが真実だから。」
創造神は当たり前のようにそう口にする。
俺は抱きかかえるミカエルを見て、言った。
「じゃあ何でミカエルは泣いてるんだ?」
俺に剣を突き立て、創造神に切りきざめと命じられたミカエル。彼女は俺の胸に顔を押し当て、傷口を見つめ泣いていた。声は上げず、静かに涙を流していた。
「涙?ミカエル、少し下がれ。」
流石に異常だと感じたのか。創造神は指示を出す。ミカエルは剣から手を離すと、俺から距離を取る。
悲痛な表情だ。溢れる涙はそのまま辛そうに俺を見つめる。
「なあ、ミカエル。俺はお前にそんな顔して欲しくない。友達の幸せを願うのは当たり前だろ?」
「ミカエル、あんな奴の言葉聞くなお前は僕の指示を聞いて、役目を全うしろ。」
「確かに今のお前には意味がある。創造神に使われ、天界、神界はお前がいなければ成り立たない。ミカという存在に意味はある。」
「その通り!お前は意味のある生き方をしてる、だから僕のもとであいつを殺せ。」
「またそうなると意義もあるのかもしれない。」
「ミカエル。あいつを殺せ。耳障りだ。」
創造神が再び、指示を出す。しかし、ミカエルは動かない。
「ミカエル!」
叫ぶ創造神を尻目に俺は話を続ける。
「ミカの人生、いや天使生は意味があり、意義があるものだ。だがな、そこにミカの、ミカ自身の意思はあるのか?」
「聞くな!」
「創造神の指示に従い、ただ動くだけ。それはお前の望んでいることなのか?なあ、ミカ!お前はどうしたい?俺はお前に意味のある天使生も、意義のある天使生も求めてない!意思のある天使生を歩んで欲しいんだ!例え、それが俺の敵となることだったとしても良い!ミカ自身の意思が知りたいんだ!」
俺は俺の想いを全てぶつける。知りたいんだ。彼女の意思を、心を。
「ミカ!」
「もういい。うるさいお前は死ね。」
創造神は使えるスキル全てを利用し、最大火力で俺へと攻撃をする。【神槍エデン】に魔力を込め、俺目掛け投擲する。その射線にはミカエルがいる。
【神槍エデン】は光となり、俺たちを穿とうと飛来する。光を纏い、魔力が雷の様に走りスパークする。とてもミカエルが耐えられる攻撃ではない。
俺はミカエルのもとに移動し、【邪神剣エクスカリバー、ダーインスレイブ】を構え、【神槍エデン】を受け止める。今までに無い威力の攻撃だ。やはり創造神はまだ本気を出していなかった。
【神槍エデン】に魔力を送り続け、操作する創造神。辛そうな顔をしながらミカエルに指示を出す。
「今だ!殺せ、ミカエル!」
正面から攻撃を受け止める俺はミカエルの攻撃に対処出来ない。攻撃を受けてしまえば体制が崩れ、ミカエルと共に【神槍エデン】に貫かれてしまう。
「……わ、私は……。」
ミカエルが遂に口を開く。嬉しいことだが今は喜んではいられない。
ミカエルは分からなくなっていた。どうすれば良いのか、どの選択を取れば良いのか。創造神には従うべき、しかしミカエルは俺を傷つけたくは無い。だから俺は少しでも助けになればと彼女に自身の気持ちを伝えた。
「俺はミカがどんな選択を取っても良いと思ってる。」
「……イヅナ。」
「俺が尊重したいのはミカの意思だ。それが創造神の指示に従うことでもミカの選択なら仕方ない。確かに俺と一緒にいたいと思ってくれて、俺の味方をしてくれるなら嬉しいが、もし敵になったとしてもこのまま2人で仲良く死ぬわけだ。友達としてどこか誇らしく思える。だからミカのやりたいようにやってくれ。」
「…………。」
ミカエルは俺を黙って見つめる。涙はまだ止まらない。全く、ひどい顔だ。一度でいいから笑った顔も見てみたいものだ。
「ミカエル!殺せ!」
「ミカ、好きなようにしろ。」
創造神と俺の声が響く。この戦いの結末はミカエルの選択に委ねられた。
「……私は……。」
ミカの選択は如何に。