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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
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気がついたら圧倒的でした

ーーー天使“ラジエル”SIDEーーー



 天使“ラジエル”は生まれつきの天才であった。何をしようと周囲の者と差を作り、更にはその力を伸ばしていく。戦闘、歌唱、芸術、何をやらせようとも才能を開花させた。天才。その一言に相応しい存在、それがラジエルだった。

 周囲の者はラジエルを褒め称えた。そしてどんどんと知識、技術を身につけさせた。教えられれば教えられるだけ成長するラジエル。それは異常なことであった。

 だがラジエルからすればそれは当たり前の事であり、何も驚くことや褒められることではなかった。ラジエルは考えていた。何故、この人たちは私を褒めるのだろうか?と。それがラジエルが初めに抱いた疑問だった。

 生まれて初めての疑問。ラジエルがその答えを見つけるまでに時間はかからなかった。


(そうか。自分が違うのだ。他のものよりも優れているのだ。)


 自身の普通は他のもの、自分よりも劣っているもの達から見れば優れている。当たり前のことだが、そういうことだろうとラジエルは考えた。

 ラジエルが成長していくと周りとの差は更に開いた。親の要望通り、創造神の側に付ける仕事に付き、瞬く間に頭角を現していく。だがそこで初めてラジエルは敗北を知った。

 天使長“ミカエル”。ラジエルは戦闘訓練で彼女に負けた。敗因はすぐにわかった。手数の差と経験、つまりはレベル、ステータスの差だ。手数ではラジエルはすぐにミカエルに追いつくことが出来た。しかしレベル、ステータスはそう簡単にはいかなかった。だがラジエルにとって彼女は勝てない存在ではなかった。

 戦闘ならば確かに勝てないだろう。だが芸術では?こなせる仕事の数では?間違いなく、ラジエルが勝てた。

 それは創造神に対してもそうだった。戦闘で劣っていても、別のもので勝てる。そうラジエルは考えたいた。

 ラジエルはミカエルや創造神にさえ自身のような特別な存在だと認識できなかった。だから彼女に忠誠心はない。表面上は敬っているが、それだけだ。

 ある日、ラジエルは疑問を抱いた。


(私よりも優れた存在はいるのだろうか。)と。


 天界、神界にはいない。であれば人間達の住む世界はどうであろうか?ラジエルは地上へと降り立った。人が住み、魔物が跋扈する世界に。

 結論から言えばラジエルはここで自身よりも優れた存在がいることを知った。それはとある絵を見たときだった。また、優れた歌を知ったときだった。ある者の実話を聞いたときだった。どの話も自身よりも優れていた。

 だがそれだけならばラジエルは自身よりも優れた存在であるとは思わない。例え、1つのことでラジエルよりも優れていても他のことでラジエルがより多く、優れていればラジエルの方が優れていると考えたからだ。では何故、ラジエルが自身よりも優れている者がいると思ったのか。簡単な話だ。先程あげた話、その全てが同一人物の者であったからだ。

 ラジエルはその人物が一体何者なのか、知りたくなった。しかし、どれだけ調べてもその者の素性は分からなかった。唯一分かったことは『B』と呼ばれていること。

 はじめての敗北だったが、なぜかラジエルは悔しくはなかった。寧ろ自分の疑問が晴れ心地の良い気分だった。疑問が解消することが出来れば自分はまた成長する。新たな力、知識を得ることが出来るそう考えるようになった。それからラジエルは色々なことに疑問を持ち、その答えを自身なりに出していくことを続けた。

 今回はその標的となったのが勇者たちに過ぎなかっただけの話である。力、技術、知識、そういった物ばかりに疑問を持ち続けていたラジエルが始めて感情というものに興味を持ったのだ。

 勇者たちを見て、その変化にも気づいた。だがやはり分からない。ラジエルは不可能など殆ど無かったラジエルは知らず知らずの内に心の緩急を無くしていた。最初は疑問を解決することによる変化はあったが今となっては1つの疑問を解決した、いつものことだ程度にしか感じていない。長い年月は退化を進める。ラジエルは力、技術、知識は成長していたが、心は廃れ、退化していたのだ。

 しかし、そのラジエルが今、驚き、動揺していた。それは何百年ぶりのことである。何故、ラジエルは動揺しているのか。それは目の前でラジエルを見下すベルフェルのせいであった。


「やっと静かにな……った。」


 やる気の感じられないその声はただ疲労を感じさせた。全く、強者には見えないこの男。だが間違いなくラジエルはこの男にやられた。

 一瞬の出来事だった。ラジエルは『勤勉之神』を使用し、ステータスを上昇させ、ベルフェルに向かった。しかし。


「遅い。」


 その一言の後、ラジエルは倒れ込んでいた。片手で叩きつけられた。それだけのことだ。


「もう終わり…。」


 ベルフェルはそう言って再び、横になる。先程までは隙だらけに見えたその姿。しかし、今はどう攻撃すれば良いのか分からない。だが隙がないなら作れば良い。ラジエルはひれ伏しながら反撃のチャンスを伺う。


「すげえ。」


 2人の戦いを見ていた歩が思わず、声を上げる。その言葉の通りだった。自分たちではどうしようもない相手をベルフェルはいとも容易く倒した。


『凄い。』


 この言葉以外の何も歩は思いつかなかった。

 他の勇者たちはその余りの力に驚き口を開くこともできない。

 ベルフェルは振り向き、勇者たちの方を向く。


「…な、何だ?」


 颯太が問いかける。するとベルフェルはその右手を上げ、空を指差す。訳の分からないその行動に思わず、首をかしげる。


「はあ〜。」


 説明しないと分からないのか?ベルフェルの溜息から伝わる。


「…天使たちがくる。倒して。あの位ならお前らでも勝て……る。」


 ベルフェルの示した方向の空をみる。するとそこにはまるで雲のように空を白く埋める天使達の姿があった。驚くべき数だ。勇者の中には思わず一歩引くものまでいた。そしてまたその逆も然り。


「…勝てるんだな。」


 歩だ。遂に力が役立つ時が来た。【聖剣デュランダル】を持つ手に力が入る。

 見てわかるやる気。ベルフェルは自身の仕事が減ったことを嬉しく思い、更に言葉を付け加える。


「間違いなくステータスは君たちが上だ……。」


 ベルフェルが話している時だった。突如、現れた光弾がベルフェルを襲った。激しい光と爆風が発生する。


「何をしているの?ラジエル。こんな奴さっさと始末しなさい。」


 そこには天使がいた。ただ空を埋め尽くしているような有象無象とはわけが違う。


「ラファエル。何故、ここに?」


 ラファエルと呼ばれたその天使はラジエルの下に降りる。


「ミカエルに邪魔だから他の誰かを手伝いなさいと言われたからです。勇者たちの様子を伺いに来たのですがまさか貴方がいるとは思いませんでした。もう用もありませんし、早くここから。」


「いえ、まだ用はあります。」


 ラファエルの言葉をラジエルは否定する。


「一体、何を言って…。」


 そこまで言ってラファエルもようやく気づいた。彼女の攻撃を無傷で耐えた者の存在に。


「…面倒くさい。誰か来てよ。」


 ただ怠そうに、やる気も無く立つベルフェル。だがそんなベルフェルにラファエルの攻撃は防がれた。


「私の攻撃を受けて無傷?ありえません。一体、何をしたのですか!」


 ラファエルがベルフェルに問う。しかし…。


「この2人みたいなのはいないから。上の天使はお願い。」


「え、あ、はい!」


 勇者の1人が驚きと流れのせいで思わず返事をする。ベルフェルはそれを聞くとゆっくりとラファエル、ラジエルの方へと向きなおる。


「…めんどくさい。けどやるしかないか。」


 ベルフェルは前のめりになり、そのまま地面に倒れこむ。


「早く終わらせたいから、2人同時でお願い。」


「なめてるのですか?」


 ラファエルは挑発されているのだと勘違いする。


「貴方程度!私、一人で充分です!」


 ラファエルは正面からベルフェルに向かっていく。『慈愛之神』を使用し、一気に老化させてしまえば自分の勝ち。相手は自身の力に慢心している。


(この勝負、私の勝ちですね。)


 手を伸ばす、ラファエル。ベルフェルはその手を交わすことなく掴む。


(『慈愛之神』!)


 ラファエルは作戦通り、スキルを発動する。しかし。


「…え?」


 ベルフェルには何の変化も見られない。予想外の事態に戸惑うラファエル。だがそんなことベルフェルには関係ない。

 力任せにラファエルを振り回し、地に叩きつける。


「がはっ!?」


「おまけ。」


 更にその顔に蹴りを入れ、吹き飛ぶラファエルに氷を飛ばす。

 されるがままにされていたラファエルだが氷は炎魔法を使い、何とか打ち消す。だがこれで理解した。ベルフェルが決して慢心から先ほどの言葉をいった訳ではないのだと。

 ラファエルはベルフェルとの距離をとり、ラジエルの側に移動する。


「ラファエル。貴方では勝てません。」


「……分かりました。2人で…。」


「だから最初からそう言ってる。」


 認識出来ない速度でベルフェルは2人との距離を詰める。そして頭を鷲掴みにし、再び、地面に叩きつける。地面に亀裂が入り、地割れが起きる。


(何という力。)


 ラジエルは何とか振りほどこうとするがベルフェルの腕はピクリとも動かない。


「…早く死んで。面倒いから。」


 ベルフェルにやる気はない。彼はただ怠惰でいたいだけなのだ。













次回は来週の日曜日に。

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