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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
140/164

気がついたら怠惰でした

短めです。

 

「天使ラジエルでございます。」


 ラジエルは下げた頭をゆっくりとあげる。その表情からは何の感情も感じられない。


「良く俺たちの前に顔を出せたな。」


 そう言い、前に出たのは杉本だった。既に斧を構え、いつでも斬りかかることの出来る状態だ。

 目の前にいる天使は先生を殺した張本人であり、勇者たちを欺いた存在。杉本にとってラジエルは許せない存在だった。

 ラジエルはその様子を見て首をかしげる。


「何をそんなに怒っていらっしゃるのですか?」


「…は?」


 杉本たちは意味がわからなかった。


「お前、本気で言ってるのか?」


「紛うことなき本心ですが…何か不快な気持ちにさせるようなことを言いましたか?」


 考え込むが分からない。その様子に勇者たちは驚きを隠せなかった。

 知人を殺された者たちが殺人犯に対し、怒りや恨み、憎悪を抱くことはあるだろう。無論、殺人犯もその感情が何故、自身に向けられているのかくらい理解出来る。だが目の前の天使にはそれが無い。


「……あ、もしかして中島様を殺したことを怒っていらっしゃるのですか?でしたらそれはお門違いというものでしょう。」


「何がお門違いだ!殺したのはてめえだろ!」


 杉本の怒りは頂点に達する。他の勇者たちも怒りの感情を隠しきれず、いつの間にか手に取った武器に力を込めている。

 杉本がラジエルに向かい歩き出す。が、それを歩が前に出て止める。


「まあ落ち着け杉本。気持ちは分からなくはねえが俺たちじゃあいつに勝てねえだろ?」


「…歩。」


「それにさっさとこの結界の中に入ってこれねえようだし、俺たちに手は出せないはずだ。だから俺たちを引きずり出そうと煽ってきたんだろ。」


「……そうだな。」


 歩の的を得た言葉に杉本も一度落ち着こうと試みる。

 ラジエルはその様子をじっと見つめていた。そして思う。


(分からない。)と。


 何故、あそこまで怒りを感じることが出来るのだろうか。中島のときもそうだった。彼女は自分のことではなく生徒のことを考えていた。

 ラジエルは創造神に忠誠を誓っている。だがもしも創造神が殺されたとして自分はあの様になるとは考えられなかった。自身の一生には何の影響もない。そんな変化に何故、感情を抱くのか。

 ラジエルは知りたくなった。果たしてその現象が起こるのは人だからなのか、それとも異界の者だからなのか。どうすれば分かるのだろうか、ラジエルは考える。そして彼女は答えに至った。


「…殺すのが最も効率が良さそうですね。」


 そこからのラジエルの行動は早かった。幾多もの魔法を同時に展開し、『勤勉之神』の能力でその威力を増大させる。

 颯太は結界があることを忘れ、仲間を守ろうと【聖剣グラム】の形状を変化させ、巨大な盾を形成する。


「みんな!俺の後ろに!」


 勇者たちは巫女や未だ気を失っている国王たちを連れ、颯太の後ろに移動する。その直後、轟音が響く。桁違いの魔力を宿した攻撃が結界に衝突し、消えていく。結界の激しく揺れはその威力の高さを物語っている。


「この結界凄いわね。」


 琴羽が魔法を消滅させる結界を見て思わず呟く。その言葉の通り結界の性能は高く。並大抵の攻撃では破壊不可能なものであった。

 しかし、その結界は僅かな時間でイヅナが生成したものであり攻撃の余波から防ぐ程度にしか考えていなかった。つまり上位の天使からの攻撃を耐えきる程の耐久力などこの結界にはないのだ。

 最初に気づいたのは結界を見つめていた琴羽だった。


「っ!結界が!」


 結界の一部に亀裂が走った。ラジエルはそこを見逃さない。全ての魔法をその一点に向け、正確に放つ。寸分狂わず放たれた魔法は結界の亀裂を増やしていく。


「このままじゃ。」


 勇者の1人が呟く。

 その様子を見た颯太は【聖剣グラム】の力を更に発揮させる。盾となった【聖剣グラム】は颯太の魔力に共鳴し、更に厚く、強固な盾へと変形する。


「大丈夫!俺があの魔法からみんなを守りきってみせる。」


 颯太は励ましの言葉を言う。しかし颯太は気づいていた。あの魔法を防ぎきる程の実力が自分には無いことを。いかに【聖剣グラム】が優れた武器であってもその担い手の力が足りなければその真価を発揮することは出来ない。そして颯太は自身の実力が足りないことを重々承知していた。


(防ぎきれない…。いや、防ぐんだ!ここで成長する。大切な仲間を守る為に!)


「砕け。」


 ラジエルのその言葉と共に結界が破られ、視界を埋め尽くす程の魔法が勇者たちに迫る。目を瞑り、体を丸め、衝撃に備える者。颯太を信じ、その背中に手を当て、少しでも力になろうとするも者。それぞれ取った行動は違えども、その心の中には必ず生き残るという強い気持ちがあった。


「こい!」


 颯太は覚悟を決める。そのときだった。颯太の目の前に突然、現れた者がいた。緑の髪を持ち、細身の体にやつれた顔。不健康そうなその男はドサリと音を立てて、颯太の、【聖剣グラム】の前に現れたのだ。


「……煩くて眠れない。」


 地面に倒れたままの男は右手だけを差し出し、こう呟いた。


「怠惰であれ。」


 直後、異変は起きた。先程まで飛来していた魔法が突如としてその姿を消したのだ。いや、正確に言えば視認が出来ないほどに小さく弱々しいものへと変わったのだ。

 突然の出来事に誰もが呆然する中、男はラジエルに手をつける。


「凍れ。」


 その言葉と同時にラジエルを大きな氷が包み込む。先程自身を守る為に使用した技を今度は攻撃へと転じた。ラジエルがいた場所には巨大な氷の柱が佇むのみ。


「やったのか。」


 颯太が思わずそう口にする。その言葉に何人かの勇者が反応する。


「お前!それは言っちゃダメだろ!」


「え?」


 氷の柱にひびが入る。


「ほら見ろ。」


 大きな音を立て砕けた氷の柱。その中には無傷のラジエルの姿があった。


「貴方は何者ですか?先程まで気配すら感じませんでしたが。」


「………。」


 男は反応しない。


「良いです。なら自分で確認するだけです。」


 ラジエルは数あるスキルから相手のステータスを見ることが出来るスキルを発動する。男がステータスを隠蔽していることを予想して最上級のものまで使用するが驚くことに男にステータスを隠す気は無いらしく、簡単にそのステータスを見ることが出来た。


【ベルフェル】

 種族:悪魔

 性別:男

 レベル:91206

 攻撃力:78000000000

 防御力:103000000000

 魔攻撃:75000000000

 魔防御:104000000000

 魔力:69000000000

 俊敏:36000000000

 運:1000

【能力】

 マスタースキル

『怠惰之神』

『堕落之神』

『無之神』

『楽之神』

 エクストラスキル

『時空間魔法レベル100』


 ラジエルは驚いた。何とこの目の前で寝ている男、ベルフェルのステータスが自身を凌駕しているのだ。俊敏では負けていないが他のステータスでは一切勝てていない。レベルにしても同じだ。ラジエルのレベルは69500。10000以上の差がある。


「一体、どのようにしてそれ程までの力を手に入れたのですか?」


「………。」


 ラジエルの言葉にベルフェルは反応しない。


「答えてはくれませんか。ならばその口から吐かせるまでです。」


 ラジエルはベルフェルと戦う気であった。いかにステータスやレベルで負けていてもラジエルには自身が培ってきたスキルがある。また俊敏が上回っていれば相手の攻撃も受けることなく、立ち回ることができる。


(勝機はある。)


「まず貴方を倒……。」


「煩い。」


 突如としてラジエルの体を衝撃が襲う。予想外の出来事にラジエルは自身の体を守ることなど出来ず、そのまま吹き飛ばされる。


「がはっ!?」


 口から血が溢れる。腕は曲がり、片目は潰れた。

 理解不能。しかし、だからこそラジエルは知りたくなる。


「『超再生』『超回復』。」


 ラジエルは自身の数を治すと再び、ベルフェルに向かい進む。


(勇者たちの感情も気になりますが、今は貴方が気になります。)


「ベルフェル。」


「……煩い。」


 新たな戦いの幕が上がる。









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