気がついたら仇でした
あけましておめでとうございます。と申しましても今年に入り既に6日目です。
因みに私は新年早々インフルエンザにかかってしまいました。小学生ぶりになったのですがやはり辛いですね。
皆さまは私のようにならないように(笑)!
ーーー勇者SIDEーーー
「……ん。」
颯太は意識を取り戻した。そこに天井はなく、天使たちの飛び交う空が見える。意味が分からなかった。何故、自分は床に倒れ空を見上げているのか。だが時間が経ち、意識がはっきりとしてくるにつれ自信の身に起こったことを思い出す。
皆がまるで別人のようにイヅナに敵意を向けたこと。また創造神が耳元で囁いたことを。
(ここまで僕の娯楽のためにご苦労様。このまま最高のフィナーレを迎えられそうだよ。)
「そうだ!」
勢い良く起き上がる颯太。そこで周囲に仲間たちが倒れていることに気づいた。
「おい!歩!」
そばに倒れる歩を心配し、声をかける。すると。
「……もう…食べれねえぜ。」
「………。」
どうやら大丈夫なようだ。他の者たちも意識を失ってはいるものの傷などはない。全員無事なようだ。
そのとき後ろから足音が聞こえた。全員、寝ているのは確認済みでは一体誰が。
「気がついたようですね。」
「お前は…。」
そこには巫女がいた。しかし今の巫女には創造神にその体を乗っ取られているはず。であれば目の前にいるこの少女の正体は。
颯太の手に力が込もる。巫女はその様子を見て彼の考えを理解した。
「待って下さい。今の私は創造神に体を乗っ取られていません。」
「…本当ですか?」
今まで騙されてきたことを知った颯太は巫女の言葉を信用しない。もしも本当に乗っ取られていないとしても彼女が創造神の手先である可能性もある。
疑いの目を向けられ、巫女は落ち込んだ様子だ。だが颯太の言うことは正しい。
「本当です、と言っても信用は出来ないでしょう。ですから無理に信じてもらえなくても良いです。ただ、私も騙されていた、とだけ言わせてください。」
巫女はそう言うと颯太から少し離れた位置に座った。可哀想だが仕方がない。
颯太は巫女に現在の状況について聞いた。
「今はイヅナ様とその仲間の方々が創造神や天使たちと戦っておられます。戦局は分かりません。」
「そうですか。ではこの結界は?」
颯太は自身たちを守るように貼られている結界を見て言う。
「それはイヅナ様が私たちを守る為に張ったものです。この中にいれば安全だと仰っていました。」
「そう何ですか。」
(イヅナ様って。)
うっとりとした表情は正に恋する乙女だ。一体何があったのかは知らないがイヅナに落とされたのは間違いない。
「じゃあここにいれば安全なんですね。」
「はい。」
「じゃあこいつらのことお願いします。」
颯太は【聖剣グラム】を握り、立ち上がる。雅風が戦っているのに自分だけ休むなんてことは出来ない。
「上位の存在とは戦えなくとも天使を倒すくらいなら俺にも出来るはずだ。」
「無茶です。」
「……でも俺は勇者なんです。そして敵は創造神。なら俺は今、俺の出来ることをする。そして、全員で帰るんだ。」
颯太はゆっくりと歩みを進め、結界へと近づいていく。覚悟なら決めた。
パシ。
颯太の足を誰かが掴む。
「待てよ。前に言ったこと忘れたのか?俺たちは守られる仲間じゃなくて共に戦う仲間だって言っただろ?」
「っ!」
そこには颯太を見上げる歩の姿があった。
歩は立ち上がり、今度は颯太の手をしっかりと掴む。
「何1人でカッコつけようとしたんだ?」
ニヤニヤと揶揄いながら言われたその言葉だったが、颯太は励まされた。仲間の存在を心強く感じた。
「……そうだな。みんなで行こう。」
「おうよ!他の奴らもあのクソ神にいいように操られたんだ。このままじゃ腹の虫も治まらないだろ。」
表情や態度はいつもと変わらない。だが歩は間違いなく怒っていた。創造神に操られ、親友に手を挙げた自分に。また操った創造神を。
「取り敢えず全員を起こそうぜ。怪我してるわけじゃねえみたいだしな。」
「そうだな。」
颯太たちは気絶している勇者たちに声をかけていく。
「ここは……そうだ!飯綱くん!」
「…結衣?」
横山の声に反応し、琴羽が目を覚ます。彼女たちも自分が何をしたのかを思い出す。自身の行動を後悔する2人だが今はそれどころではない。何よりあれは2人のせいではないのだから。
勇者全員を起こすと颯太は巫女から聞いた話を全員に話し、いざ出発しようとしたとき。そのとき勇者の1人があることに気づいた。
「なあ、あいつ誰だ?」
1人の見知らぬ人物を発見した。勿論、その人物は勇者ではない。だが国王たちでもないのだ。
伸びに伸びた緑の髪に細い体。寝息を立て、気持ちよさそうに寝ている男が1人いた。颯太は巫女に彼が誰なのか尋ねる。
「恐らく、イヅナ様がお呼びになった悪魔のお1人ではないかと。」
「悪魔…。」
「おいおい。こいつのステータスとんでもないぞ!戦わないでこんな所で寝てるのが勿体ないくらいだ。」
自身を軽く超えるステータスに驚く歩だが仲間であるなら心強いと声をかける。
「あんた!手を貸してくれないか?」
「ん?………もう終わった?」
やる気の無い返事が返ってくる。
「いや、まだ戦いの最中だぜ。だから力を貸して欲しいんだ。」
その言葉を聞いた悪魔はこの世の終わりのような顔をする。一体どうしたのかと歩は慌てる。
「お、おい。」
「……それは……働けってこと?」
「ま、まあそうなるな。」
「嫌だ。」
「え?」
次の瞬間、悪魔と歩の間を氷の壁が隔てる。一瞬で形成された壁は悪魔を包む様に変形する。
「あぶねっ!」
「歩!大丈夫か?」
「ああ。だけどこりゃどうしようもねえな。カッチカチだ。壊せる気がしねえ。」
突然現れた氷は間違いなくあの悪魔の仕業だ。
「諦めたほうがいいな。」
自分たち以上のステータスを持つ相手を引きずり出す様なことをしていては戦う前に体力、魔力を消耗してしまう。歩はそれを判断し、颯太に諦める様伝える。
「そうだな。仕方はないがもともと僕たちだけでも行く気だったんだ。」
颯太は全員の方へと振りむく。
「みんな!これが最後の戦いだ!頑張ろう!」
「「「おおおおお!!!」」」
戦いに参加する者たちは武器を掲げ、待つ者たちは手を合わせ祈るように彼らを見送る。
巫女はその様子をただ見ていることしか出来なかった。空にまだいる天使たち。その数は減ってはいるものの勇者たちの比ではない。決して有利な戦いではない。けれども彼らは故郷へと帰る為、覚悟を決め、戦場へと向かおうとしている。その覚悟を止める権利など自分にはない。
(イヅナ様。申し訳ございません。私は勇者様たちをここで守ることは出来ませんでした。)
決してそう頼まれたわけではない。しかし、それが彼に救い出された今の自分の使命だと巫女は感じていた。
創造神に体を、自由を奪われたあの瞬間、創造神は巫女に本心を話していた。この世界が自分の玩具でしかないこと。その世界に住む者たち全員もその例外ではない。勿論、巫女も。そして、今日でそれもお終い。もうお前は用済みだ。創造神はそう巫女に告げた。
それを知らされた時、巫女は思った。では今までの自分の人生は何だったのかと。創造神のために生き、自分の全てを捧げるつもりで生きてきた。だがそれは創造神が世界の為に動き、魔神からこの世界を救おうとしていると信じていたからだ。真実は逆だった。ならば自分がしてきたことに何の意味があったのだろうか。
巫女は何も考えられなくなった。怒りも悲しみさえも感じない。このまま役立たずの自分など死んでしまえば良い。何より、それが一番楽だ。
巫女は意識を手放そうとした。そのとき。
「ん…。」
声が出た。
「お、起きたか?」
そこには魔神と呼ばれた者がいた。だがその者は美しかった。この部屋に着いた時にも見ていた筈だったが。今はその何倍も美しく見えた。
「少し寝てろ。」
「あ、ありがとう。」
「お、おう。」
今まで代わり映えのない生活を送ってきたから、諦めた巫女には希望に見えたからかもしれない。理由は何かは分からない。だが巫女は思った。イヅナに助け出して貰ったこの瞬間。きっとこの為に自分は生まれてきたのだと。
巫女にとって初めての恋だった。だからこそ巫女は思った。今はこの人の為にありたいと。創造神なんかではなくこの人の為に。
イヅナは勇者たちが傷つくことは好まないだろう。だから巫女は止めようとした。しかしそれは叶わなかった。
(なら私も。)
巫女は祈る勇者たちを見て同じ様に手を合わせる。
(イヅナ様、勇者様、どうかご無事で。)
巫女はただ祈る。
勇者たちは進み、ついに結界の側に着いたそのとき。
「まだ此方にいらっしゃいましたか。」
1人、此方に向かって歩いてくる者がいた。
「お、お前は!」
颯太が思わず声を上げる。忘れもしないその顔。大切な人を奪った存在。
「どうも皆さま。先程ぶりでございます。それと先程は偽った名前を申し上げたことをお詫びします。真実を知った貴方たちに隠す必要もございませんからね。」
軽く会釈をし、彼女は口を開く。
「本来の名前はラジエル。天使“ラジエル”でございます。」
勇者たちの恩師、中島先生を殺した天使が再び、勇者の前に現れた。