気がついたら勝利でした
長らくお待たせいたしました。
年末って忙しいですよね。言い訳です。はい。すみません。頑張ります。
「はあ……はあ……。」
全力の一撃を放ったルネは見事ガブリエルを倒すことが出来た。光に飲まれていった彼女は言っていた、『死にたくない』と。やはり誰であろうと死にたくないそんな事は当たり前だ。
ルネは思う。自分の当たり前が天使にも言えた。人としての自分の当たり前が。やはり同じではないのか?人も悪魔もそして天使も。
(だとしたらこの戦いの意味って一体何だろうか。傷つけあって、殺しあって、誰もそんなことを望まない筈なのに。)
ルネの体は震えていた。それは体に現れた疲労などが原因ではない。この世界のあり方に恐怖した為なのかもしれない。
アスモデウスは言っていた。天使は機械のような者たちだと。ガブリエルは言っていた悪魔たちは低俗な者たちだと。どうしてこの考えに行きついたのか。誰かにそう思うように仕組まれているのではないのか。
(やっぱりイヅナくんが言っていたように創造神は…。)
今持ち合わせている情報が正しければその可能性が最も高い。だが情報が間違っているかもしれない。
(考えても切りがないな。でもこの世界はどこかおかしい気がするよ。)
ルネは体を動かす。まだ万全ではないが先ほどの一撃を放った後の倦怠感は少し抜けた。これで少しはアスモデウスの助けになれる筈だ。ルネはただ思考を巡らせていたわけではない。待機に溢れる魔素を利用し、体力の回復を図っていたのだ。
ルネはアスモデウスの元へ向かおうと振り向く。がその動きはそこで止まった。
「何だ。もう大丈夫そうだね。」
ルネはゆっくりとアスモデウスの元へと向かう。
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ルネとガブリエルの戦闘と時同じく、アスモデウスはメタトロンと激しい戦いを繰り広げていた。炎と光が飛び交い、戦場には常に衝撃と熱があった。
弱者の付け入る隙などない強者と強者のぶつかり合い。だがその強者たちは互いの手をよく理解していた。だからこそ炎や光で相手に攻撃する事は出来ても決め手に欠けていた。
アスモデウスの『色欲之神』による攻撃はメタトロンの『純潔之神』に阻まれ、その逆もしかり。アスモデウスは【邪神槍アサル】での攻撃も考えた。だが一度見せたものだ。メタトロンは対応してくるかもしれない。その場合、隙を突かれ不利になるのはアスモデウス自身である。だから彼女は【邪神槍アサル】での大きな攻撃はせず、せいぜいメタトロンの攻撃を防ぐ程度にしか使わない。
メタトロンは【邪神槍アサル】を警戒していた。思えばそこにあるという出鱈目な能力。如何に速さで翻弄しようとも彼女には『色欲之神』があり、位置を把握されてしまう。進行方向に【邪神槍アサル】があると思えばメタトロンは貫かれてしまう。だがアスモデウスはメタトロンを警戒し、先程のように【邪神槍アサル】による攻撃を行わない。
メタトロンは考える。
(警戒しているのか?それとも私を倒すために力を蓄えているのか?いや、どちらにせよ動かない今が好機なのでは?)
その後のメタトロンの行動は速かった。彼は自身の出せる最高速度でアスモデウスの周囲を飛び回る。突然の変化にアスモデウスはメタトロンを見失う。
(今!)
メタトロンは『純潔之神』を発動し、自身の手から1.5mほど横幅30㎝ほどの空間に分解の効果を働かせる。『境界之神』を使用する事でその空間を形どる。
「【滅剣メタトロン】。」
触れたものを分解し、切り裂く剣がアスモデウスに迫る。我が身で受ける訳にはいかぬ技。アスモデウスは自身を守るため、躊躇なく【邪神槍アサル】を周囲に展開させ身を守る。メタトロンの手は【邪神槍アサル】に阻まれる。
「あまい。」
「何を言って…。」
アスモデウスは異変に気付く。自身の左肩が徐々に何かの力に侵食されていることに。
(まさか。)
アスモデウスは【邪神槍アサル】から荊を展開して、メタトロンを遠ざける。無数に迫る荊を避けきることは出来ず、メタトロンも傷を負う。互いに距離を取り睨み合う。
「この程度の攻撃効きませんよ!まさかこれで終わりですか?」
「それに答える筋合いはないだろう。」
両者、表情や態度は変わらない。だが隠された心の中には焦りが生じ始めていた。
(まずいですね。まさか【邪神槍アサル】を超えて私にダメージを与えてくるなんて。取り敢えず距離は取れましたが次の攻撃、下手に防御すればやられるかもしれませんね。)
アスモデウスは荊で周囲を覆い、警戒を高める。
(まずいな。仕留めるつもりが槍とマスタースキルのせいで狙いが外れた。守りは……固めているな。如何に速さで勝ろうとあの状態では太刀打ちできん。)
メタトロンは悔やんでいた。確実に仕留める気で仕掛けた攻撃が【邪神槍アサル】の力で容易く対処されてしまった。もう少しタイミングを計るべきであった。
アスモデウスの周囲を覆う荊。それは全て【邪神槍アサル】である。攻撃を仕掛けることは不可能に近い。メタトロンに残された手は少ないのだ。
(……このまま創造神様の役に立たぬくらいならば、この命失うことになろうとも奴を倒すしかあるまい。それに私が死のうとも彼女に力は受け継がれる。何の心配もいるまい。)
メタトロンの目に闘志が宿る。
それと時を同じくしてアスモデウスに変化が起きた。【邪神槍アサル】に守られている自分をイヅナに包まれるように守られているそう思い笑みを浮かべた時だった、彼女は気づいた。自身には常にイヅナが、彼が渡した【邪神槍アサル】が付いていることに。愛した者が守ってくれる。それがどれだけ心強いか。力が漲ってくる気さえした。
アスモデウスの視界、思考がクリアになる。そして彼女は思い出す。先程までのルネが来る前までの戦いを。
(あれ?そう言えば私ってあいつに勝ちましたよね?)
アスモデウスは【邪神槍アサル】を大量に顕現させ、メタトロンの軍勢を倒した。だがメタトロンは彼の持つ剣、【クリューサーオール】の力により体力、魔力を回復し、復活してしまう。このとき一度アスモデウスの心は折れた。自身は負けたのだと。
だからアスモデウスはメタトロンを警戒し、慎重に戦いを進めていた。アスモデウスらしからぬ戦い方だ。
戦法、心、どちらの面でも本気を出せていなかった。
しかしアスモデウスは気づいた。
(なあんだ。私、ちゃんと戦えればあいつに勝てるじゃないですか。だったら話は早いです。)
気持ちの持ち方1つ。両者とも変化があったのはそれだけだった。だがそれだけでこの勝負の行く末は決まったのだ。
メタトロンは思う。
(この命に代えても!)
このときの為に私は生まれてきたのだと。メタトロンは自身の終わりを自覚して動く。
アスモデウスは思う。
(私は勝てる!そしてイヅナ様とまた会える!ついでにルネにも!あ、ルネにはもう会って…。)
余計なことを考えてはいるものの彼女は未来を求め、動いた。それが決定的な差となったのかもしれない。
メタトロンは自身の出せる最高の速度とマスタースキルの力で荊へ向かい飛翔する。
荊が唸り、メタトロンへと進んでいく。
境界を生成し、分解し、最高速で突き進むメタトロン。だが絡みつく荊を破壊することは出来ず、その速度はみるみる落ちていく。体は傷つき、羽はもげ、手足までも体から離れて行く。だが彼は諦めない。唯一残った右手を前に突き出し、進む。そして遂にその手はアスモデウスを貫いた。
メタトロンは涙を流した。嬉しかったのだ。初めて思えた。強力な敵を打破した自分は創造神様の役に立てていると。
(やはり私は今日、この時の為に生まれてきたのだ。)
「創造神様…。」
メタトロンは目を閉じた。彼は満足して自身の一生を終えたのだ。
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「という感じの夢でも見ていたんでしょうね。」
「そうなのかい?」
戦いを終えたアスモデウスはルネに自身の戦いについて話をしていた。荊の中で動かなくなっているメタトロン。その顔は笑っていた。もう思い残すことはないとその顔が物語っている。
その様子を不思議に思ったルネがアスモデウスに事の真相について聞いたのだ。
「最後の攻撃は確かに強力でした。まあ、それでも【邪神槍アサル】を突破することは不可能でしたけどね。で、私は考え、思いました。私がイヅナ様との戦いを見ている間、待ってくれたりした相手だし、どうせ私が勝つなら相手にも良い思いをさせてあげようと。」
「何故、激しい戦いの中その発想に行き着いたんだい?」
「攻撃に全力でいた彼はとても無防備な状態でした。攻撃を仕掛ける方向にはマスタースキルの効果がありましたが、後方には防御も何もしてませんでした。そこで私は魔法で彼に嘘の世界を見せました。彼は望む結果を見ながら死にましたよ。」
「それでこの顔なんだね。でもこの顔が出来るってことはやっぱり…。」
ルネは天使を見る。その表情は何処と無く悲しそうだ。
「ルネ、貴方は私に天使について聞いてきましたね。何が違うのかって。」
「うん、そうだね。」
「私は天使は機械の様な物だと言いました。天使長クラスは違うと言ったのはその機械が学習し、自我に似た様な物を得るから、その程度にしか考えていませんでした。けど。」
「けど?」
「…同じなのかもしれませんね。私たちと。」
アスモデウスはメタトロンの最後の夢がどの様なものであったか知っていた。彼のあり方が誰かの為に生きるという考えがアスモデウスにも理解できた。だからアスモデウスはそう思ったのだ。
「僕もそう思うよ。だからこの戦いは……いや、何でもない。」
「そうですか。」
戦いに勝った両者。しかし彼らが勝利を喜ぶことは出来なかった。
「まあこんな事考えても仕方ありませんね。ルネ!私は一度勇者たちのもとへ戻ります。一応、イヅナ様の友達ですからね。大丈夫だとは思いますが、一応です、一応!決してイヅナ様の結界を疑っているわけではありませんからね!そこの所、しっかりと理解する様に!良いですね!」
「わ、わかったよ。」
アスモデウス、ルネは勇者たちのもとへと向かう。