表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
136/164

気がついたら負けられない戦いでした

以前にも書いたようなサブタイトル。

 ルネは風の槍を放つと同時に『黄泉之神』を発動させる。『黄泉之神』の能力は状態異常の掌握。それはつまり状態異常を付与する事も解除する事も出来るということだ。

 ルネは自身を中心に『毒』、『麻痺』、『混乱』の効果を乗せた風を放つ。勿論、いかにマスタースキルと言えど敵に付与する効果では相手の精神力が高ければ意味がない。それを理解しているメタトロン、ガブリエルは風の槍を回避し、ルネたちに迫る。その行動は正しい判断であり、間違いではない。筈だった。

 最初に異変に気が付いたのはメタトロンだった。一瞬だがルネの姿がぶれて見えたのだ。先程までの戦いで彼らは超高速での移動をしていた。しかし、いくら相手が速かろうとまで追いきれない訳では無かった。だが今、それが起きた。メタトロン自身より速いわけではない。だとすれば。


「ガブリエル、止まるのだ。」


 メタトロンは手を伸ばし、ガブリエルの進路を遮る。不満そうにメタトロンを睨むガブリエルだが、彼女もまた自身に起きている異変に気付いた。


「メタトロンが歪んでいる。」


「気が付いたか。」


 あり得ない現象しかし実際に起きている事実にメタトロンたちは認めざるを得なかった。


「私たちは何らかの状態異常に掛かっている。」


 彼らが異常に気づくきっかけとなった『混乱』。また手足に痺れも感じていた『毒』『麻痺』の効果も少しだが現れている。


「『救恤之神』。」


 ガブリエルは自身とメタトロンに『健康体』を付与する。『健康体』がもたらすのは状態異常にかからなくなるという効果だ。何故、自分たちよりも弱い存在の効果が効いているのかはガブリエルには理解できなかったが、その効果をもたらしているのはマスタースキルである事くらいは見当がついていた。ならばこちらもそのマスタースキルで対応すれば打ち消せると考えたのだ。しかし…。


「何故だ。何故、視界が歪む?」


『健康体』はその効果を発動しなかった。いや、正確には発動しているがそれでもなお状態異常にかかっていると言うのが正しい。

 ルネのマスタースキル『黄泉之神』。その能力は状態異常の掌握。しかし通常ならばこのスキルは他のマスタースキル同様、高いステータス、精神力を持つメタトロンたちには状態異常を付与できない。では何故それが可能となったのか。それは【聖剣カラドボルグ】の能力が関係していた。

【聖剣カラドボルグ】は『犠牲』により担い手に力を与える。ステータス、スキルの威力、効果を上昇させる。それはマスタースキルも例外ではない。ルネは『黄泉之神』の効果を『犠牲』を使い、上昇させたのだ。結果、『黄泉之神』はマスタースキルとしてその格を上げた。ガブリエルが『救恤之神』を使用したにも関わらず状態異常に苦しめられたのはマスタースキルの格が違った為である。


「僕も余りに上手くいって驚いているよ。」


 上から聞こえるルネの声にガブリエルは驚くほど。

 想定外のことがおき、ルネから目を離してしまったガブリエルには隙が生じていた。それをルネたちは見逃さなかった。ルネは【聖剣カラドボルグ】の能力を使い、自身のステータスを上昇させる。そして風を推進力にし一気に距離を詰めたのだ。


「させぬ!」


 メタトロンその速度を活かし、ルネとガブリエルの間に割って入ろうとしたする。だがこの場にはもう1人と言うことを忘れてはならない。


「させませんよ!」


 アスモデウスは【邪神槍アサル】をメタトロンに向け、投擲する。


「…っ!」


 メタトロンは何とか見を翻し回避するがアスモデウスは『色欲之神』を使用している。【邪神槍アサル】は軌道を変え、再び迫る。

 ルネはその間にガブリエルへと迫る。こうして1対1の状況に持ち込む。

 メタトロンは『純潔之神』を使用し、魔力を拡散させる。【邪神槍アサル】はメタトロンから逸れる。何とか回避に成功した。だが【邪神槍アサル】は思えばそこに現れる。気がつけばアスモデウスの手には再び【邪神槍アサル】がある。


(ガブリエルのことを考えられる程の余裕は無いか。ならばせめてあの悪魔だけは私が抑えよう。)


 メタトロンの目が獲物を狙う肉食獣の様に変化する。

 その直後、刹那だった。急加速したメタトロンはアスモデウスとの距離を詰め、拳が放つ。武器が無いといえど天使最強クラスの男、その攻撃力は伊達では無い。何とか【邪神槍アサル】で防御するもアスモデウスは体勢を崩される。そしてその隙を見逃さない。

 乱撃。逃げる隙さえ与えない攻撃。アスモデウスは『色欲之神』を使うが余りの手数に状況を打破出来ない。


「速度は私の方が上だ。こうなってしまえば…。」


「どうにかはなりませんよ。」


 その言葉と同時に不自然に落下し始めたアスモデウス。意味のわからない行動であったが僅かに聞こえた空を切る音にメタトロンは咄嗟にその場から離れる。直後、黒い風を纏った斬撃が飛来した。


「外した。」


 ルネはガブリエルとメタトロンが一直線上に狙った。ルネの攻撃にはガブリエルを貫通し、メタトロンにダメージを与えるほどの威力は無い。では何故ルネはそうしたのか。それはガブリエルが攻撃を回避すると考えたからだ。ガブリエルたちは何故、状態異常にかかったのか理解出来ていなかった。つまり未知の攻撃だ。それを正面から受ける者はいないだろう。

 アスモデウスには視線を送り、合図を送っていたがどうやら気づいてもらえたようだ。


「厄介な奴だ。」


 メタトロンはルネを睨む。


「それは貴方もですよっ!」


 アスモデウスは両手に持った【邪神槍アサル】を投げた。メタトロンは『純潔之神』を使い魔力阻害を試みる。しかし、【邪神槍アサル】はメタトロンへ向かうに思えたがその軌道を突如変えた。そしてアスモデウスの思惑に気づく。


「ガブリエル!」


「っ!?」


 ガブリエルはメタトロンの声に気づくがもう遅い。【邪神槍アサル】はガブリエルの肩と足を貫く。


「くっ!?」


「そして、その隙を僕は逃がさない。」


 ルネは上段からガブリエルを斬り下ろす。鮮血が宙に舞い、その傷の深さを物語る。


「『純潔之神』!」


「ルネっ!」


 アスモデウスの声に反応し、ルネは退避する。ルネがいた場所には見た目の変化はない。しかし、嫌な魔力を感じる。

 ルネはアスモデウスの横に移動し、メタトロンは移動してガブリエルを支える。ガブリエルは『救恤之神』を使用し自身に『超再生』を付与する。傷は塞がり、丸で何事もなかったかのようだ。だが体力や魔力までが回復したわけではない。1人悪魔で無いと油断したガブリエルのミスだ。


「上手くいきましたね。」


「そうだね。」


 ルネたちは最初から1対1の勝負などする気は無かった。ルネは成長し【聖剣カラドボルグ】の力を使えばステータス的にはガブリエルたちと戦えるまでにはなっていた。しかしそれは辛うじてであって対等では無い。正面からぶつかれば技量や僅かに上回られているステータスの差がでて負けてしまう。だからこそルネとアスモデウスは連携により彼らを惑わし戦うことにした。

 その作戦を思いついたのはアスモデウスだった。彼女は魔法による通信によりルネに作戦を伝え行動に移った。

 先ず行ったのはメタトロンたちの感覚を少しでも鈍らせることだ。特にメタトロンだ。彼のスピードはここにいる4人の中でも最速であり、いかに連携がうまく取れようともそれをメタトロンは持ち前のスピードで防がれる可能性があった。そこでルネが『黄泉之神』の能力に【聖剣カラドボルグ】の力を上乗せする事で彼らに状態異常を付与しようと試みた。駄目元での行動だったが上手くいった。

 ルネはガブリエルに切り込む。メタトロンはそれを阻止しようとするがアスモデウスがそれを防ぐ。この形を作る事でアスモデウスたちが1対1の場を作ろうとしていると思わせた。

 そうなれば意識は自然と目の前の敵へと向く。更にアスモデウスは【邪神槍アサル】をメタトロンに向け放ちその意識を自身に集中させた。【邪神槍アサル】の能力をしった彼ならばどれ程の脅威となり得るかは理解出来るはずだ、無視などできまい。予想通りメタトロンは【邪神槍アサル】を警戒してくれた。そこで彼らの虚を衝く。アスモデウスは【邪神槍アサル】をガブリエルへと向け投擲する。しかし、メタトロンは自身に向けられた攻撃だと考え、『純潔之神』を使う。そのせいで狙いが少しずれた。結果、ガブリエルは助かる形になったがそれでも作戦は成功した。


「流石は悪魔たち。考えが下らない。」


 ゴミを見るような目でアスモデウスたちを見るガブリエルだが表情は辛そうだ。創造神に使うことを前提として作られた【邪神槍アサル】に貫かれたのだ当然である。優位な状況を作ることは出来た。しかし、油断は出来ない。


「ルネ!行きっ?!」


 アスモデウスは咄嗟にガードをする。しかし、衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。


「アスモデウスさん!」


「油断はするものでは無いぞ。」


 攻撃しようとすればアスモデウスは【邪神槍アサル】を出現させ攻撃を防ぐ。メタトロンはそれを理解していた。付いてこれなくとも反応はできる。であれば先程よりも速く動けばよい。ガブリエルの『救恤之神』で『速度上昇』を付与することによりそへを可能とした。


「痛いじゃないですか!」


「まだまだこれからだ!」


 メタトロンはアスモデウスに向かい飛んでいく。しかしまだ余裕のありそうなアスモデウスの態度にルネは彼女を信用しガブリエルと向かい合う。

 ガブリエルはルネに問いかけた。


「何故、悪魔と共にいる?そんな下劣で、醜悪で、害悪な生き物と。彼女たちは私たちが優越感に浸る為、自己嫌悪に落ちいないために存在を許されているようなもの。何故、人である貴方が悪魔と?」


 ルネは理解した。ガブリエルは全てを見下しているのだと。

 ルネはこの戦い、いやアスモデウスたちの正体を聞いたときからずっと考えていたことがある。それは種族の違いだ。確かに姿、形は違う。だがそれは同じ種族の中でも変わらない。全く同じ見た目の者は存在しない。

 思想などに関してもそうだ。ルネは人生の中で沢山の『人』に囲まれて生きてきた。その中には優しい人、怒りっぽい人、多種族を嫌う人、見下す人、様々な人たちがいた。しかしそれも種族が変わっても変わらない。悪魔であるアスモデウスはルネや人に優しく、明るく接した。同じ悪魔であるルシファーはルネを見下し、毛嫌いした。天使であるメタトロンはアスモデウスを美しいと思った。ガブリエルは悪魔たちを見下していた。個人の思想は様々であり、種族に関係なく同じ全く同じものなどありはしない。

 ルネは考える。種族に意味があるのだろうかと。皆、同じなのだ。人も悪魔も天使もそしてイヅナも。

 だからこそルネはガブリエルの問いにこう答える。


「深い意味はないさ。ただ僕が付いて行きたかった人が悪魔であっただけ。種族なんか関係ないのさ。」


「……愚かな。」


 ガブリエルはそれだけ言うとルネに向かい、光を放つ。しかしルネはそれを剣を斜めに添えることで進路をずらす。ガブリエルの攻撃は止まらない。光が途切れたときガブリエルはルネの目の前にまで移動していた。そしていつの間にか取り出した双剣を振り下ろす。ルネは左の手でガブリエルの手首を抑え、風を起こし距離を取る。

 攻めあぐねたガブリエルは悔しそうだ。


「何故、理解できない?何故、分かろうとしない?その行為がどれだけ愚かであることを。」


「愚か?僕にはそうやって他種族を見下そうとする考えの方が愚かに思えるよ。同じ世界に住む、同じ命でしか無いはずさ。何も変わらない。その価値も、何も。」


「愚か!愚か!愚か!」


 ガブリエルの怒りが頂点に達する。

 直後、ガブリエル身体は不自然に急加速した。その速度は先ほどの比では無い。突然の超スピードに対応が遅れたルネ。何とか後方に下がるも胸、右腕を軽く双剣が掠める。

 ルネは風を纏わせた足で蹴り上げる。が、ガブリエルはくるりと後ろに回転し、一つの双剣をルネに放ちながら回避する。双剣はルネの肩を切り裂く。しかしこの程度の傷でルネは止まらない。距離はまだ離れていない。


(【聖剣カラドボルグ】!)


 ルネは自身の魔力を『犠牲』にし、ステータスを上昇させる。このときルネのスピードはガブリエルを上回った。


「くらえ!」


 高速の剣技がガブリエルに迫る。速度はルネが上、それを理解したガブリエルはこの攻撃を防ぎきるのは不可能と考えつく。ならば致命傷を避けるのみ。

 ガブリエルは敢えて前に出た。ルネもまさかこの状況下でこちらに攻めてくるとは考えてはいなかった。焦りが生じる。ガブリエルは少し体を右に反らす。上からの攻撃を交わし、下からの切上げは仕方なく受ける。最後、右からくる攻撃はこれだけは双剣で防ぐ。ルネの剣は確かにガブリエルには届いたものの期待した程のダメージは与えられていない。となれば次はガブリエルのターンだ。ガブリエルは左手を前に出す。魔法かと警戒するルネ。


「ぐっ!?」


 突然の痛み。背中に何かが刺さった。それは先ほどのガブリエルが投げた双剣であった。『リターン』それが双剣に付与されていた効果。持ち主の手元に戻るという物を無くさないように道具に付与されることがあるものだ。しかし『リターン』はあまり世間には知られていない。

 道具に効果を付与するとそれは魔道具となる。炎を纏う剣、魔法の威力を上昇させる杖、光を放ち相手を目くらましする玉などその種類は様々だ。どれも魔法付与士と呼ばれる特殊な職業の者たちによって作られる。その数は少なくそもそも一部の量産が可能な物を除いては世界に出回る魔道具の数は多くない。数が少なければそれだけ値段が上がる。つまり魔道具を買うような者は王族や貴族、または一部の一流冒険者ぐらいだ。彼らが物をなくしたとき、果たしてそれを見つけるまで探すか?否、新しいものを用意するだろう。つまり『リターン』の効果がかかった物をわざわざ購入しないのだ。そしていつしか必要となくなった『リターン』は世間から忘れられた。


「隙あり、だ。」


 ガブリエルはルネの首めがけ双剣を振るがそれを【聖剣カラドボルグ】で防ぐ。ガブリエルは左手をルネの背中に回し、双剣を引き抜きながらもう1つをルネの足に刺す。


「『救恤之神』。」


 ガブリエルは双剣に『重化』を付与する。突然、重くなった足にルネはバランスを崩す。そしてガブリエルはそのルネの頰に膝で打ち込む。強力な一撃に脳が揺れる。


「死ね。」


 ガブリエルの両手には双剣が握られていた。どちらにも『リターン』が付与されていたのだ。ルナの足には傷だけが残っている。

 振り下ろされた双剣を何とか防ぐルネ。しかし、その威力に耐えきれず急降下し、地面に衝突した。


「くっ……。やはり強いね。」


 ルネは【聖剣カラドボルグ】を杖のようにし立ち上がる。口の中は血の味がする。身体は傷つき、服はボロボロだ。それに比べガブリエルは服は汚れてはいるものの、身体は『超再生』により無傷。しかし、体力や魔力までは回復していない。


(見た目は明らかに不利だけど、まだまだ勝機はある。頑張るんだ、僕。)


 ルネは剣を構え、ガブリエルを見つめる。決して諦めない、必ず勝ってみせる。その覚悟の現れであった。だがそれはガブリエルからすれば生意気でしか無かった。


(愚かで、生意気で、無様で、創造神の考えに気づかない。こんな存在が必要か?否だ。)


「『救恤之神』。」


 ガブリエルは自身のステータスを高める効果を付与し準備をする。あの愚かな人間を殺すために。


「貴様のような人間はいらない。死ね。」


「悪いけどそのお願いは聞かないよ。僕はまだ彼女たちと共に居たいからね。」


 ルネは風を使い、空へと飛び上がる。それを見たガブリエルはルネに向かい突撃する。正面からぶつかった2人を中心に衝撃が起こる。『犠牲』により力を得たルネ。『付与』により力を上昇させたガブリエル。彼らの力は拮抗した。ルネはガブリエルを目の前にしもう一度言葉にする。


「確かに君は強い。でも僕は負けるわけにはいかない。僕を待ってくれている人がいるから。僕が待たなければいけない人がいるから。だから、僕はまだ死ねない!」


 負けられない戦いは続く。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ