気がついたら馬鹿でした
祝!総合評価3000点突破!!!!!
今回はベルゼブさんのお話です
ーーーベルゼブSIDEーーー
(お腹空いた。)
魔力弾が飛び交う空を飛びながら黒いローブを見にまとう紫の髪を持つ少女、ベルゼブはそんなことを思った。
戦闘を行いながら思うことではないが『暴食』を所持し満たされることのない空腹感を持つ彼女ならば仕方のないことなのかもしれない。
「いつまでそう逃げているつもりだい?」
ベルゼブを追いかけながら魔力をねり、攻撃を仕掛けて来る者がいた。桃色の長い髪を頭の後ろで束ねるその男、名をウリエル。創造神に使える天使の1人だ。
「君はいつまでそうしている。勝てないと思い、逃げているのか?ならば言おう。逃げることなど叶わぬと。見せてあげよう僕の力を!」
ウリエルは手を掲げ、魔力を集める。風が吹きあれ、その様子はまるで竜巻のようだ。
「はーっはっはっは!見る良い!これが神に選ばれた僕の力だあ!」
威勢を貼るだけあり、その魔力量は今までの比ではない。直撃を受ければダメージを受けることは免れないだろう。しかし、それは直撃を受ければの話である。
ウリエルは集まって行く魔力を見つめ高笑いを続ける。つまり、戦闘中にも関わらず敵から目を逸らしたのだ。そんな隙をベルゼブが逃すはずもない。
「むー(うるさい)。」
「ぐぶっ!?」
ベルゼブの平手打ちがウリエルの頰を捉える。勢いよく吹き飛ばされたウリエルはまるで扇風機の羽の様に回転した。
「むむー(折角だから貰おう)。」
ベルゼブはウリエルが飛ばされている間に彼の集めた魔力を『暴食之神』を使用しその魔力を吸収する。吸収された魔力は『禁断之箱』により出来た体内のスペースへと向かい隔離される。いつでも取り出すことが可能なその魔力はベルゼブの切り札の1つでもある。
魔力を吸収し終えた頃、吹き飛ばされたウリエルがベルゼブの眼前へと戻ってきた。衣服や髪は汚れているがその表情だけは変わっていない。まだまだ余裕があるそういった表情だ。
「驚いたよ。まさか、僕を吹き飛ばすとは。けどそんなことが出来たのもここまで。本気で行かせて貰うよ。はあっ!」
直後、ベルゼブは体に違和感を覚える。先程までとは明らかに違う感覚。ウリエルが何かをしたのだろう。
ベルゼブはウリエルに視線を戻す。こうすればこのお調子者のような天使は自分からペラペラと話すのではと考えたのだ。そして、その考えは正解であった。
「はーっはっはっはっは!どうかな、動きを制限された気分は?これこそ僕のマスタースキル『節制之神』の能力!まあ、その能力について君に教えるつもりは無いがね。」
とウリエルは言っているが『制限』の部分を強調していたところを見ると『節制之神』の能力は制限に関するものなのだろうとベルゼブは推測する。
右腕を肩の高さまで上げようとする。しかし、右腕は少し斜めになったところで止まってしまう。どうやら推測の通りのようだ。
「むー(馬鹿)。」
「何?それは僕のことか?ふん!絶望的な状況に遂に暴言しか吐かなくなったか。流石は低俗な悪魔だ。」
ウリエルは天高く上がり、再び手をあげ、魔力を集める。風が吹き、要は先程と同じようなことが起こっている。何としてもこの技で決めたいのか、何も考えていないのかは分からない。ただ同じような攻撃を繰り返すウリエルはベルゼブからすれば馬鹿でしかなかった。
「今の君にこの攻撃を避けるすべはない!それに先程は油断したが、今度は違う!ステータスの方も制限させてもらった!これでもう私が吹き飛ばされることはない!」
大声でそう宣言するウリエル。敵に情報を与えるその天使を見て、ベルゼブは呆れるしかなかった。
何故、こんな天使がマスタースキルを持ち自分と同程度のステータスを持っているのか、そして、何故今まで生きてこられたのか、理解できなかった。
ウリエルは昔からこうだった。自信に満ち溢れていた。自分の最も輝く未来しか想像してこなかったのだ。そして、何より最もその性格に拍車をかけたのはその未来が現実となって来たからであろう。
天使として、創造神に使える身として誰にも負けたくない、いや負けない。そう考えたときから彼に負けはない。負けるような相手と戦わなかったからかも知れないが。
マスタースキルを手に入れ、創造神に近づきたい。いや、手に入れる、近く。マスタースキルは手に入り、その結果、創造神に興味を持たれた。そして、その面白い(少し可笑しい)性格を創造神が気に入ったのだ。
望まぬ未来を知らぬウリエル。理想の状態となった現実を見て自分の望む未来がくると確信していた。その喜びから笑顔だけでなく、口を大きくあけ高笑いをする。
ウリエルはポーズを決めるとベルゼブに宣言した。
「終わりだ。散れ!」
発動した魔法により風が吹き荒れる。風系統のものなのだろう。ウリエルの『節制之神』により制限を受けているベルゼブを倒すには十分すぎる威力だろう。しかし、そうはならない。確かにウリエルはマスタースキルを使い、ベルゼブのステータスに制限をかけた。勿論、スキルにも警戒し制限をかけた。しかし、無限に制限は掛けられない。制限が無いからこそ無限なのだ。つまり、絶えることのない無限の空腹感を与え、無限のスペースに吸収を続ける『暴食之神』『禁断之箱』を有するベルゼブにとって制限など意味を成さなかったのだ。
バクン。
大きな音と共に放たれ魔法は消えた。何の前触れもなく、忽然と消えたのだ。考えてもいなかった結果にウリエルは戸惑う。何が起きたか必死に理解しようとするが、望まぬ形になった現実を理解できないのか、なかなか動くことが出来ない。余りに激しい同様によりベルゼブに欠けていた制限が解けたことにも気づいていない。
「私には役目がある。」
「!」
ウリエルは突然、耳元で囁かれたことに驚き、後ろへ飛び退く。自身の背後を取った人物が何者なのか。無論分かってはいた。この場には彼女しかいないのだから。だが再び驚愕した。その顔に。マスクに隠されていた物の正体に。
「き、君。その顔は…。」
「これは……。」
ベルゼブは律儀に答えようとした。しかし、こんな馬鹿に時間を割く必要はないと考えやめた。また、別の考えが彼女の頭を埋め尽くす。
「お腹空いた。」
「何だ……。」
ベルゼブの動きは速かった。考えていなかったことが起きた衝撃により、いつもの力を発揮できていないウリエルは反応が遅れてしまう。
ウリエルの顔前にベルゼブが迫っていた。マスクにより隠されていたものが、口が自分に徐々に迫ってくる。だが、その異様な光景にそれは果たして口なのかウリエルには理解できなかった。そして、判断までもが遅れた。『節制之神』を使用し、ベルゼブの動きを制限出来ていれば助かっていたかもしれない。心を落ち着かせ、精神力を高めていればマスタースキルの、『暴食之神』の餌食になることはなかったかもしれない。まあ、それは可能性の話であって現実に起こったことではない。
バクン。
音が響いた後、そこにはベルゼブの姿のみがあった。いつも通りの紫の髪に黒いローブ、それにあの魔法陣の刻まれたマスクも着用している。
マスクの下でもぐもぐと何かを食べているように口を動かすベルゼブ。
「むー、むーむー(まずい、でもこれで足りる。)」
ベルゼブは『魔力感知』を使用し、今この付近で最も魔力の高い場所を探す。北東の方向、強大な魔力と魔力のぶつかり合いが行われている。「ここだ。」そう思いベルゼブは移動を開始する。
最も高い魔力を持つ者、イヅナの元へ行く為に。
(今度こそは…。)
ベルゼブは向かう。ある思いを胸に。あの時のような失敗はしない。今度こそ。
ベルゼブ・・・・勝利
あの時のような失敗はしない。一体、彼女の過去に何があったのか。果たしてイヅナの元へ行き、何を成そうとするのか。次回に続く。
良い感じにこうまとめれば1話で登場、死亡したウリエルのことは皆気にしないでくれるはず。