気がついたら街を出てました
「武器が欲しいな…。」
ギルドから出てふっとそんなことを思った。今、持っている剣は所詮はレア度3程度の代物だ。
これから、神と戦うことになるのだし、自分の相棒となる武器が必要となってくる。
「まあ、とりあえず武器は剣がいいな。二刀流とかもしてみたいし、最低でも二本は欲しい。」
早速俺は、“部屋”に戻り剣の制作に取りかかろうとしたが、
「そうだな…。剣を作る前にこの世界で1番強い剣が何かくらいは知っておきたいな。」
そんなことを考えていると『アザトース』がスキルをピックアップしてくれた。
マスタースキル
『ネクロノミコン』・・・世界の全ての表象・現象・事象の把握。
また、新しいスキルが出てきた。これで、あらかた世界の全てを知ることができるわけだ。ちなみに、俺のことは魔神シヴァにより世界から秘匿されているため、把握することができないらしい。我ながら恐ろしいものだ。
「さてと、じゃあ世界最強の剣とやらを確認しますか。」
俺は『ネクロノミコン』を使用した。
【神剣エクスカリバー】
どうやらこの剣が剣の頂点らしい。俺は詳しく【神剣エクスカリバー】について調べた。
【神剣エクスカリバー】・・・【聖剣エクスカリバー】が多くの戦いを積み、さらに神の力をまとってようやく完成した剣。
魔神封印のさいに、魔神に多くの傷を与えた。
現在はフィエンド大陸にあるダンジョン“聖なる祠”の最深部に魔神封印の要として存在する。
ざっとこんなところだ。【神剣エクスカリバー】か。是非とも手に入れたいものだ。
魔神封印の要らしいが、現在、封印するべき魔神(俺)は結界の外に出ているから問題ないだろう。
「よし!じゃあ【神剣エクスカリバー】を取りに行くか。」
俺は部屋から出て、ダンジョン“聖なる祠”に向かおうとしたが……
「そうだ。どうせダンジョンに行くんだし、ついでに受けれる依頼がないかギルドによって確認しようかな。」
ということで、俺はギルドに向かった。
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ギルドに入ると冒険者や受付の人たちの視線が俺に集まった。俺はそんなに注目されるようなことした覚えはないのだが。
俺はまだ少しボーッとしてるように見えるリアさんを見つけ、そちらに向かった。
「リアさん。こんにちは。」
「あ、イヅナさん。こんにちは。」
どうやら大丈夫そうだ。さっきボーッとしてるように見えたのは気のせいだろう。
「聞きたいことがあるんだけど、少しいいか?」
「………。」
「おーい…。リアさーん…。」
気のせいではなかったようだ。
「…いまだにイヅナさんが男だなんて信じられません。本当に男なんですか?」
「ああ。本当に男だぞ…。」
「へえー。そうですか。」
これは駄目だ。他の人に聞こう。そう思い受付の方に行こうとすると、
「こんにちは。イヅナさん。それでリアは何をしているんですか?」
リアさんが心配だったのか、アニスさんが声をかけてきた。
「あ、アニス。イヅナさんって男なんだって。知ってた?」
リアさんの言葉に無表情のアニスさんも一瞬驚いた様子だったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「知らなかったわ。確かに男っぽい口調でリアと話しているなとは思ったけど、まさか本当に男性だったなんて…。そうだったんですね。イヅナさん。」
「まあ、一応な。」
俺はもしかしたらこの世界で俺のことを最初から男と認識できる者はいないのではないかと思ってしまった。
「そうだ、アニスさん。少し聞きたいことがあるんだが。」
「はい。何ですか?」
「“聖なる祠”に行くついでにこなせる依頼ってきてないか?」
「!?もしかしてイヅナさんは“聖なる祠”に行くつもりなんですか?」
そんなに驚くことだろうか。
「ああ。そのつもりだが…。何か問題でもあるのか?」
「問題も何も“聖なる祠”といえば世界最高峰のダンジョンですよ。Aランク以上の冒険者が何人もいるパーティーでやっと挑戦できるレベルです。そんなダンジョンにイヅナさんのような冒険者になって間もない人が生きて帰ってこれるわけありません。死にたいんですか?」
どうやら俺が思っていた以上に難易度の高いダンジョンだったらしい。
Aランクの冒険者の実力は知らないが、俺のステータスなら余裕だと思う。しかし、そのことをアニスさんやリアさんに教えるわけにはいかない。
「いや、もちろん“聖なる祠”に挑戦するわけじゃないぞ。ただ、どんなものかと一目見ておきたいと思ってな。」
「…そうですか。そうですよね。そんなまだまだ初心者で、実力も乏しい冒険者が“聖なる祠”に挑むわけありませんよね。」
「は、ははは…。」
さすがにそこまで言われると魔神の俺でも少し気落ちする。
「アニス。そこまで言うことないでしょ。イヅナさん傷ついてるよ。」
「あ、すみませんでした。悪気があったわけではないんです。ただ、その…。」
「大丈夫。別に気にしてないから。それで、何かいい依頼ってある?」
俺は再度、リアさんに確認した。
「そうですね。今ある依頼の中からならグレーウルフの討伐ですかね。イヅナさんのランク的にもこれがベストだと思います。」
できれば、もう少しランクの高い依頼が良かったが、せっかくアニスさんが選んでくれたんだ。この依頼を受けよう。
「じゃあ、その依頼を頼む。」
「わかりました。では、ギルドカードを。」
「ああ。」
俺はギルドカードをアニスさんに渡した。依頼を受けるとき、誰がどの依頼を受けたのかをはっきりするために、専用の道具を使い登録をする。そのときにギルドカードが必要となるのだ。
アニスさんはギルドカードを受け取ると、その依頼を登録しに行った。
「ところで、イヅナさん。」
当然、リアさんが話しかけてきた。
「何だ?」
「“聖なる祠”を見に行くってことはこのフォートレスの街から出て行くんですよね?」
「まあ、そうだな。でも、すぐに戻ってくるつもりだぞ。」
「すぐにって。“聖なる祠”があるのは王都ですよ。この街からは、馬車で5日くらいはかかりますし、それに向こうに少しは滞在するでしょうから、早くても戻ってくるのは3週間後くらいになりますよ。」
そんなにかかるものなのか。“瞬間移動”で行ってすぐ戻ってくるつもりだったが、それだとどう考えても移動速度がおかしくなってしまう。
「そうだな。すぐにとはいかないが、また戻ってくるよ。」
「…絶対ですよ。」
可愛い。
「リアはいつの間に、そこまでイヅナさんのことを気に入ったのかしら?」
アニスさんの突然の不意打ちにリアさんは驚いた様子だった。
「なっ!?べ、別にイヅナさんのことが好きなわけじゃないわよ!」
「別に好きとまでは言ってないわよ。」
リアさんは顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「ということなので、できるだけ早く帰ってきてもらえるとありがたいです。」
「うわぁ〜〜〜!!!アニスのバカ〜〜〜!!!!!」
そう言ってギルドの奥の方へリアさんは走って行ってしまった。
「わかった。できる限り早く帰ってくるよ。じゃあ。」
そう言うと俺はギルドを後にした。
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「しかし、人に好意を向けられたのは久しぶりだな。」
俺は“部屋”に戻り、そんなことを考えていた。ギルドでのことを思い返せば、リアさんが俺に好意を向けていることくらいわかった。
以前の俺ならばあの可愛さの前に何もできず、その気持ちを受け入れていただろう。しかし、魔神となって性別がなくなってしまったからか、何故か分からないが、リアさんの気持ちを受け入れようとは思わなかった。
それでも、やはり可愛い女の子に好意を向けられるのは嬉しいものだ。俺は今鏡を見たらだらしない顔が映る自信がある。
「しかし、とりあえずは今は王都に行くことを考えないとな。」
そうなのだ。間違いなく今1番大切なのはリアさんのことなのだが、それでも、【神剣エクスカリバー】を取りに王都までいかなくてはならないのだ。
「移動は“瞬間移動”でもいいが、何となく馬車に乗ってみたいな。」
ということで、俺は馬車で王都を目指すことにした。
「となると、後の準備をしなきゃいけないわけだが…。これといってすることもないな。」
俺は荷物をまとめて、馬車が停めてある場所(『ヨグ・ソトース』で見つけた。)に向かった。
馬車の停留所についた俺は、近くの馬車に乗っていた人に王都まで行く馬車はないか、聞いてみたが、今日はもうすぐ日が暮れてしまうので王都まで行く馬車はないらしい。少し困った。
しかし、丁度話しかけた人=デイビットが明日の朝、王都に向けて出発するらしく、乗せてもらえることになった。
「よし、これで明日の朝を待つだけだが…………。暇だな。」
俺は街の外に出てひたすらグレーウルフ、ゴブリンを狩りまくって朝を待った。
日が昇ってくるのを確認すると、俺はデイビットの下に行った。
「おはよう。デイビット。」
「おはよう。イヅナちゃん。今日も相変わらず可愛いな。ガーハッハッハッハ。」
俺は昨日のうちにデイビットと仲良くなれた。ただ、女として接した方がうまくいきそうだったので女の子設定だ。
「じゃあ。5日間くらいか?よろしく頼む。」
「おうよ。まかしときな。」
そうして俺はフォートレスの街を後にし、【神剣エクスカリバー】を求め、王都エスカに向けて旅立った。
〈おまけ〉
デイビット・カーテス
・坊主で瞳は黒。肌は黒と肌色の中間くらい。
・身長は180ほど
・ぱっと見冒険者をやっていそうだが、職業は商人