気がついたら主人でした
前回ミカエルのマスタースキルが『天使之神』となっていました。学園編のときは『天使之王』でしたが、これは間違いではなくミカエルのスキルが進化した為となります。
ルシファーの戦闘と時同じくして他の場所でも悪魔たちの戦いは始まっていた。マスタースキルを持つ悪魔たち。その者たちは何も知らずとも導かれるようにそれぞれの場所へと向かっていた。それは悪魔たちが持つマスタースキルと天使たちが持つマスタースキルとが呼び合っているようであった。
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「てめえが俺の相手っつうわけか。」
『強欲之神』のスキルを持つ悪魔マモン。その腕は丸太のように太く、また、その巨体は見るものを圧倒する。そんなマモンの前には紫の髪と純白の翼を持った華奢な少女がいた。
「醜い。」
「あ?」
少女はマモンの姿を見て一言、そう言った。
「魔物のような醜悪な腕、手入れなされていない汚れた髪、体。そして、汚らわしい顔。どうしてそこまで貴方は醜い?」
「醜い?はっ!下らねえな。」
マモンは少女との距離を一瞬で詰め、力一杯拳を振るう。しかし、その拳は少女には当たらなかった。マモンの拳はブォンと音を立て、何もない空間を殴っていた。
「触れるな。」
「ぐっ!」
マモンの体に向かうの切り傷が付く。
「飛べ。」
直後、マモンの体を衝撃が襲った。予想外の攻撃に対応が遅れ、慣性に従い勢いよく飛ばされる。
何とか態勢を立て直したマモンは自分を飛ばした少女を睨む。
(くそが!一体何をした。)
切り傷に衝撃。何方もマモンにダメージを与えるだけの強力な攻撃だった。しかし、あの少女が動いた様子はなく、直接やられたわけではない。だとすれば少女が持つスキルの効果であるとは考えられるが、一体どのようなスキルなのかマモンにはまだ理解できない。
(まあ、俺の戦い方はどんな相手だろうと変わらねえ!しかし、こんな強え奴と戦えるとはなあ。イヅナについて正解だったぜ!)
マモンは主人と認めたイヅナを思い出す。
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「あいつに協力するねえ。へっ!誰がんな事するかよ。」
ダンジョン『聖なる祠』の奥、悪魔たちが集うこの場所でマモンはそんなことを呟く。
ある日、悪魔たちを束ねる悪魔王“サタン・ルシファー”はイヅナと言う男に従い、創造神を倒すと言い始めた。創造神に対抗するには今しかないと。
創造神に恨みのある多数の悪魔たちはその言葉に賛同、またイヅナ本人を見て彼ならば創造神を倒してくれると考えた。しかし、マモンは違った。
「誰が知らねえ奴の下なんかにつくかよ。俺の上に立てんのはシヴァだけだ。」
マモンは力こそ全てと考えている。だからこそ、自分が唯一、完膚無きまでにやられ勝てないと思わされた破壊神“シヴァ”には従った。だが、イヅナには負けていない。
マモンはルシファーの呼び掛けに応えず、イヅナの前で忠誠を誓うようなことはしなかった。そうさせたいのであればイヅナ本人が俺を連れ出すべきだと考えたのだ。
時が流れ、遂に創造神との戦争の具体的な作戦などについての会議が行われることとなった。勿論、マモンは参加しないつもりだった。ダンジョンの壁に寄りかかり、イヅナが此処を去るのを待った。その時だった。自分に何者かが近づいてきた。
悪魔たちにも恐れられているマモン、最初はルシファーか誰かが強引に連れ出しに来たのかと考えたが違った。違うと気づく前に彼が自分の目の前に現れた。
「お前がマモンか?」
「!」
マモンその場から跳びのき、突如として現れた存在と目を合わせた。その目は燃え盛る炎の様に赤く、たなびく髪は銀色に輝いていた。
自分よりも小さき者。しかし、マモンは理解していた、目の前の存在が強者であると。そして、例のイヅナであると。
「俺に何の用だ?」
「会議するからきてくれ。」
「はっ!誰が行くかよ。連れて行きたきゃ力づくでそうしな。」
「良いのか?それなら手っ取り早くて此方としても助かるんだが。」
自分を前にしても一切の焦りも見えない余裕の態度。下に見られているのだと理解した。
マモンはもう一度イヅナを見る。
(確かにこいつは強えな。だが、経験は少ないと見た。)
感じる力は絶大。しかし、達人たちなど経験を積み、極めてきた者たちから感じるそれとは違った。マモンはそこに勝機を見た。
マモンは地面を蹴り、イヅナとの距離を詰める。
(『強欲之神』!)
マモンの持つ『強欲之神』。その効果は剥奪。有りとあらゆる物を奪い取る力だ。取る物の価値が上がる程またその対象が強い程、奪う為の条件は厳しくなる。
マモンは自分の周辺にいる悪魔たちから力(攻撃力)を奪い、全力でイヅナに殴りかかる。そのとき、マモンにとっても予想外のことが起きた。イヅナから力を奪うことが出来たのだ。
(何だ、この力は?)
今までに無いほどの力にマモンは驚き、歓喜する。
(すげえ!この力があれば俺は最強になれる!創造神も目じゃねえ!)
所詮は自分に力を奪われる程度の存在。やはり、従うべき相手ではなかった。
「あばよ!」
マモンの一撃にダンジョン全体が揺れる。亀裂が入り、崩れる壁もある。しかし…。
「中々だな。良い戦力になる。」
そこには無傷のイヅナがいた。
「ば、馬鹿な!き、貴様の力を奪い殴ったんだぞ?何故、無事でいられる!」
「確かに奪わしたが、あの程度奪われたところで俺にダメージを与える程の力にはならない。」
「なっ…。」
勝てないと確信した2度目の経験だった。
「さてと、マモン。これで満足か?」
「……くっくっくっくっ、はーっはっはっはっはっは!!!」
圧倒的強者が目の前に立った時点で自分の選択肢は1つしか無かったことに気づかなかった自分にマモンは笑った。過去の破壊神“シヴァ”の時と同じだ。
イヅナは笑うマモンを見て首をかしげる。
「何がおかしいんだ?」
「別に何もおかしかねえ!ただ、従うしかねえなあと思っただけだ。」
「いや、無理強いはしないぞ?」
「はっ?」
「は?」
マモンはその返答の意味が分からなかった。
「さっき力づくで連れてくとか言ってなかったか?」
「一応会議だけには出てもらおうと思ってな。」
「無理強いはしねえ?」
「俺に無理に従わなくて良いと言う話だ。お前の意見は尊重するつもりだ。」
「…………。」
「何だ、その今までに見たことの無いものを見たような目は。」
正しくその通りだった。
破壊神“シヴァ”を彷彿とさせる力を持つイヅナ。しかし、そんな彼は俺の考えを尊重すると言い始めた。愚かと思いながらも、マモンは本当に目の前の彼は強者なのかと疑ってしまう。
「お前は強者だよな?」
「まあ、強いとは思うぞ。」
「強者は弱者を従わせるものじゃねえのか?」
「そう言う強者も、俺みたいな強者もいる。そう言うことだ。」
「………。俺の意見を聞いてくれるのか?」
「内容によってだ。言ってみてくれ。」
マモンは自分の欲望を素直に言う。
「強い奴と戦いてえ。そして、熱い戦いをしたい。」
「そうか。」
イヅナはマモンに背を向け、来た道を戻って行く。少し歩き、立ち止まるとマモンの方を向く。
「戦いたいならついて来い。」
そう言って再び、歩き出した。
何故だか分からないがマモンには『戦いたいならついて来い。』そう言い、再び歩き始めたその背は超えられない壁に、またついて行くべき背中に見えた。
(こう言う強者もいるか。まあ、強え奴と戦わせてくれるってならどんな強者でも構わねえか。)
マモンはイヅナの後を追った。自分が新たに認めた主人を。
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マモンは目の前の少女に集中する。
「全く、本当に熱い戦いの出来そうな奴と戦わせてくれるとはねえ。そこんとこは破壊神“シヴァ”よりも評価してやろうかね。」
マモンは拳に力を込め、少女へと向かう。
「行くぞ!天使!」
マモンの戦いが始まる。