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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第6章 世界大戦編
122/164

気がついたら先生は

日曜日では無いですが仕上がったので投稿します。勿論、日曜日にも投稿します。

 円卓室の前に着くと何人かの兵士たちが扉を守る形で立っていた。俺たちの姿を確認した彼らは名前などを確認すると直ぐに部屋の中へ案内する。もう少し用心してもらいたいものだが、手っ取り早く済んだので今は良しとしよう。

 部屋の中にはその名の通り大きな円卓があった。そこには各国の王たち、それに勇者たちが座っていた。


「もう済んだのか?」


「ああ、待たせてすまない。」


「気にするでない。我々が許したことだ。」


 グラム王国国王“アルバート”はそう言った後、俺たちを席に就かせた。

 どうやらまだ“巫女”は到着していないらしく、会議は始まらない。しかし、それでも既にこの場には張り詰めた空気で満ちていた。勇者たちの中には緊張でも汗を掻き、額を伝っている者までいる。

 だが、そんな空気の中でもいつも通りの者もいる。俺はそっと隣の席を見る。


「暇ですねえ。あっ!イヅナ様!しりとりでもしますか?」


「少し黙ってろ。」


 この部屋に来る前のあの返事は何だったんだ。

 そんなことを考えていると円卓室の扉が開いた。どうやら到着したようだ。


「皆さま、申し訳ありません。」


 そう言って入って来たのは長い黒髪の小柄な少女と白い装束を身に纏った集団だった。前者が“巫女”、後者がそれを守る為の者たちだ。


「気にするな。それよりも。」


「ええ、始めましょうか、世界会議を。」


 巫女も席に着き、いよいよ世界会議が始まった。

 会議の進行はグラム王国国王“アルバート”が行うようだ。


「では、今回は各国の王、それと勇者たちで本会議を行う。主な内容は3つ。魔神が召喚するであろう眷属たちの対応、それに伴う軍の配置、主な戦術の確認、魔神の居場所の確認だ。

 それではまずは眷属たちの対応だが、魔神が召喚した眷属の数は万を超え、空を黒く覆い隠したと言う。しかし、魔神と言えど世界中に一度に大量の召喚などは出来ない。魔神が現れた大陸、そこから離れるにつれ、眷属の数は減った。今回も同じことが起こると予想される。よって、魔神の居場所の確認された場所に30万、他の大陸には10万の兵士を配置する。また、勇者たちにもそれぞれの国に出向き戦って欲しい。ただし、主戦力となりうる者たちには魔神と戦って貰う。」


「「「はい!」」」


 勇者たちは返事をする。そんな勇者たちを心配そうに先生が見ていた。やはり、生徒たちには戦って欲しくないのだろう。戦いが起きればいくら勇者と言えど無事で入られるかは分からない。そして、そんな危険な場所に勇者たちが行くと言うのに、先生の実力では守ることも出来ない。そして、それが分かっているからこそ、先生はあんな顔で生徒たちを………。


「はっ?」


 俺は気づき、思わず声を出してしまう。部屋にいる全員が俺を不思議そうに見つめる。そんな中、フィエンド大陸、エスカ王国国王“モート・メル・エスカ”がその口を開いた。


「どうしたイヅナよ。」


 だが、その声も俺には届かない。それ程のことが目の前で起きていたからだ。

 地球にいた頃から、生徒たちの為に尽力し、その身を削ることも惜しまなかった先生。俺がいじめられていることにこそ、気づかなかったが、それでも優しく接してくれた。皆が仲良くあって欲しいと願っていた。

 そして、それはこちらの世界に来てからも同じだ。いや、それ以上だった。この期間が溢れ、戦いに身を投じる生徒たちを見て、何も出来ない自分を情けなく思い、苦しみながらもどうにか役に立とうと奮闘していた。そんな教師の鑑のような人だ。

 俺は学園で勇者たちと再会してから、辛そうな先生の表情を見てしまい、心配した。しかし、サモン大陸に来てから何かが吹っ切れたかのような様子でいた為、もう大丈夫だと思い、先生のことをあまり気にしなくなっていた。そして、俺は自分の問題を解決しようとしていた。だから……俺は……。


「イヅナ様?」


 俺の雰囲気が変わったことに気づいたのか、アスモデウスが心配そうに声をかける。ありがとう。だが、今はそんなことを口にしている場合ではない。

 俺はゆっくりと席から立ち上がり、ある方向へと歩いていく。そう、先生が座っている席の方へとだ。勇者たちの後ろを通り、俺は先生の後ろに立つ。先生は不思議そうに俺を見た。


「どうしたんですか?飯綱くん?」


 俺はその顔を見ながら後悔した。何故、もっと早く気づかなかったんだろう、と。もし、気づけていたら先生は……。


「……なあ。」


「はい。何で……かっ!?」


 俺はそいつの首を掴み、持ち上げた。


「飯綱くん!?」


「おい!雅風!」


 勇者たちが声を上げるが、構うことなく質問をする。


「お前は誰だ?」


 この偽物は先生の姿をし、当たり前のようにいた勇者たちに紛れ込んでいた。


「だ、誰って先生に決まってるだろ!その手を離せ!」


 ひとりの勇者が声を上げ、俺の手を掴む。


「お前、本気で言ってるのか?こいつが先生に見えるのか?」


 俺の怒りが伝わったのか、恐れたのか、勇者は思わず手を離す。その先に俺は行動に移る。【邪神剣ダーインスレイブ】を取り出し、そのままの勢いで偽物を切りつける。が、切った感覚はなく、先生の姿は霧のように散る。


「……まさか、バレるとは思いませんでした。」


 全員が、声のした方を向く。そこには無傷の偽物が立っていた。


「もう一度だけ聞く。お前は誰だ。」


「私は…そうですね、悪魔“ジエル”とでも名乗っておきましょうか。魔神様の為に、勇者を殺そうと考えていましたが、失敗しました。」


「つまらない嘘をつくな。」


 俺は小声で言う。何故なら彼女の本当の正体は悪魔などでは無いからだ。


【ラジエル】

種族:天使

性別:女

レベル:69500

攻撃力:58000000000(+2000000000)

防御力:60000000000

魔攻撃:59000000000(+1000000000)

魔防御:60000000000

魔力:52000000000(+8000000000)

俊敏:53000000000(+7000000000)

運:100

【能力】

 マスタースキル

『勤勉之神』

 ユニークスキル

『霧之王』

 エクストラスキル

『全武術レベル100』

『全魔術レベル100』

『剣王レベル100』

『槍王レベル100』

『斧王レベル100』

『弓王レベル100』

 ・

 ・

 ・

 ・

『家事王レベル100』


 彼女は天使であり、信じられない程の数のスキルの所持者だった。『家事王』?いや、今そんなことはどうでも良い。問題なのはこいつが悪魔を名乗ったことだ。

 ラジエルを睨んでいると、彼女の姿が急に朧気になったかと思えば次の瞬間には黒い羽と深い緑色の神を持った姿へと変わっていた、先生の面影など残っていない。


「え?だ、誰?」


 横山さんは姿形の変わったラジエルを見て、思わずそう口にした。


「先ほども申しました通り、悪魔“ジエル”でございます。」


「じゃ、じゃあ、本物の先生は何処に…。」


「中島様でしたらこちらに。」


 そう言ってジエルが懐から取り出したのサッカーボール程の大きさの袋だった。それを見た者たちにはそこで気づいた者、そんな袋に先生がいるわけ無いだろと言いたそうな者がいた、そんな者たちの前にラジエルは袋を放り出した。


 ドシャ。


 そんな音がして袋が落ちる。すると、袋から何かがコロコロと転がり出てきた。しかし、皆それが何なのか分からなかった。分かろうとしなかった。しかし、誰かがそれが何なのかを確信してしまう。それと目が合ってしまったのだ。


「キャーーー!!!」


「うわぁぁぁ!!!」


 部屋に響く声。血の気の引いていく勇者たち。そんな彼らにラジエルは冷静に問いかける。


「中島様はそちらでよろしいでしょうか?既に殺してしまったので生きてはいませんが。」


 そうラジエルが取り出した物、首から上だけの顔が半分程潰れた先生の頭であった。黒い髪は真っ赤に染まり、潰れていない目が開いている。


「う、うえぇぇぇ…。」


 身近な人の残酷な死に方に吐き気を抑え切れぬものが出た。また、怒りを抑えきれぬ者も。


「貴様!」


「このやろーーーー!!」


「よくも先生を!」


 颯太、歩、杉本が飛び出す。しかし、圧倒的なステータスの差がある以上、あの3人ではどうする事も出来ない。


「静かにしてください。」


 ラジエルを霧が包み込む。それを見た3人は逃げ出そうとしていると考え、更に踏み込む。


「『硬化』。」


 次の瞬間、3人は霧に激突・・し、弾かれ地面に倒れこむ。そんな3人に向かってラジエルは『炎魔法』を打ち込もうとする、俺はラジエルと勇者との間にはいる。そのときだった。


「『勤勉之神』よ。」


 ラジエルの作り出していた『炎魔法』から感じる魔力が急激に増加する。


(これは…。)


 そう、これはラジエルの持つマスタースキルの力であった。


『勤勉之神』・・・・上昇の掌握。限度はスキル所持者に依存する。勤勉であればあるほどその限度は上がる。


 今までいくつものマスタースキル見てきたがこれはその中でも上位に入る程のものだ。

 上昇の掌握。これにより彼女は自分のステータスなどを上昇させている。『炎魔法』は恐らく含まれる魔力の量、温度、また、ラジエル自身の魔攻撃が上昇している筈だ。滅茶苦茶な力だ。だが、限度があると言うことはこれ程の威力を何度もは使えないだろう。だが、この威力、上手く無力化しなければ周りに被害が出る。王や巫女では助からない。ならば…。

『炎魔法』が放たれる。それと同時に俺はスキルを発動する。


「『暴食之神』。」


 右手を突き出し、炎を吸い尽くす。吸収を掌握しているこのスキルは威力がどれほど上がろうと魔法相手には絶大な力を発揮する。

 辺りを照らした赤い炎が全て俺の右手に吸い込まれる。それと同時に俺は『瞬間移動』をし、ラジエルの背後をとる。これ程のステータスを持つものを今倒せるならばこちらとしても好都合、そして何よりこいつは先生の仇。

【ダーインスレイブ】がラジエルの首に迫る。


(捉えた!)


 そう思った瞬間だった。突然俺の目の前の空間が歪む。


(まずい!)


 危険を感じた俺は咄嗟に後ろは飛ぶ。すると歪んだ空間からどす黒い靄を纏った手が生え、靄が放たれた。

 俺はデミア大陸での腐豚頭王が発生させたあの黒い霧を思い出した。

 俺は再び『暴食之神』を使用する。が、その隙をラジエルは狙う。が、ここにいるのは俺だけじゃない。


「背中がガラ空きです。」


「いや、それはお前だ。」


「はあっ!」


 ラジエルの後ろからアスモデウスが襲う。しかし…。


「『分離』、『合体』。」


 ラジエルが2人に分離、そして、その勢いでアスモデウスの拳を避け、その後また1人に戻る。そして、その背後へ向け霧を放つ。がその霧は俺が吸収する。

 アスモデウスはラジエルに向け、『炎魔法』を放つ。ラジエルは再び、回避の選択を取るがそれは悪手だ。

 ラジエルは炎を避けることに失敗、ラジエルは炎に巻かれる。アスモデウスの『色欲之神』の効果により、標的とされたラジエルは避けることは出来ない。


「くっ。流石に不利ですか。では、ここは一度引かせてもらいます。」


 歪みが再び、ラジエルの背後に現れる。


「また、会いましょう。今度は魔神様と共に貴方達の前に立ちます。」


「逃すわけ無いですよ!」


 アスモデウスが追撃しようとするが、俺はそれを止める。あの歪みは俺に危険だと感じさせた、そんなことを出来るのは恐らく創造神くらいだ。であると、すれば今追撃するのは危険が伴う。


「正しい判断です。それでは。」


 歪みは広がり、ラジエルも歪み始める。そして、歪みが収まったとき、そこには誰もいなかった。


「逃げられたか。」


「い、今のが悪魔?思ってたのとは違うわね。」


 エルティナが冷や汗を流しながら円卓からひよこっと顔を出す。言葉はいつも通りを装っているが、無理をしているのだろう手が震えている。

 俺はエルティナの言葉を肯定も否定も出来なかった。悪魔たちが何を成そうとしていたかを知っているのだ、肯定など出来ない。まだ、俺が邪神、魔神だと知られていない悪魔の存在を何故、知っているのかという話になってしまう。だから、俺は黙った。すると、エルティナとは別の方向で声が上がる。


「嫌!嫌!嫌あぁぁぁ!!!」


 俺は声のした方を向く。1人の勇者が先生の頭を抱え、泣いていた。


「田中さん…。」


 琴羽が田中に寄り添う。彼女は先生と共に城に残り、先生をサポートしようとしていた1人だった。自分たちの為に頑張る先生の負担が少しでも減ればと考えての行動だったらしい。そう、彼女は人一倍先生のことを考えていたのだ。


「何で……私、まだ何も出来てないよ。先生はあんなに私たちの為に頑張ってくれてたのに。何の恩返しも出来てないよお。……うっ……ひぐ…。」


 涙が止まる様子はない。他の勇者たちの目からも涙が溢れる。

 杉本が田中の側に、先生の側に駆け寄る。


「先生、俺……俺……。」


 彼はまた大切な人を失った。初めて泣くところを見た。皆、泣いていた。そう、俺も泣いていた。


「……先生。」


「……どうだろうか、今会議を進行しても内容も理解できぬだろう。勇者たちが落ち着くまで時間を取ろう。どうだろうか?」


「構わない。」


「その方が良いわよ。」


「そうじゃな、妾もそう思う。」


「私も同じ考えです。」


「賛成です。」


 グラム王国国王“アルバート”はそう提案に、エスカ王国、カラド王国、エルダー王国、夜都“デリン”の王たち、それに巫女は賛成する。


「では、落ち着いたら教えてくれ、我々は部屋の外で待とう。」


 そう言って、王や巫女たちは部屋を出て行く。

 部屋に残った勇者たちは泣いていた。涙を流し、小さく見えるその姿はとても勇者とは思えない。やはり、今も彼らは変わらず少年、少女でしかないのだ。そして、邪神となった俺も今はただの少年でしかなかった。
























始まった世界会議が直ぐに中止に。

先生の死を生徒たちはどう受け止めるのか。


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[一言] マスタースキル「ヨグ・ソトース」を使って時間を巻き戻せば蘇らせることができたのでは…?(先生の時間を死ぬ前まで巻き戻して)
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