気がついたら偶然ではありませんでした
久しぶりの主人公です。
それと前回言い忘れましたが、教師編は終了です。今回からは世界会議編になります!
ーーーイヅナSIDEーーー
高校の屋上。そこには横になって空を見上げる俺がいた。
(前にもこんなことあったな。)
地球にいた頃の自分を夢で見た経験は過去にもあった。ただ、そのとき俺の側にいた謎の人物は今はいない。しかし、何の意味も無くこんな夢を見るわけはないだろう。
(そういえば俺が屋上にいるってことは春休みか?)
俺はいつも昼休みになると杉本たちから距離をとるため屋上に行っていた。そして、飯を食った後、今のように横になる。10分程経ったら教室へ行き、先生が来るまで待つ。毎日と言うかではないが、良くしていた。空を見上げるのが趣味だったわけでも、楽かったわけでもない。ただ、あいつがここから見える景色が好きだったのだ。
(あいつ?俺は一体誰のことを言ってるんだ?)
当然のことのように俺は思った。ここからの景色を見て、俺の家が見える、あそこで遊んだことあったね、と俺に呼びかける光景を。しかし、その光景は思い出せても、あいつが誰なのか思い出せない。
(お前は一体誰なんだ?)
俺は思わず頭を抱えた。そのときだった。
「イヅナ、また寝てるの?」
姿形は黒い靄で隠され、見えない。だが、彼女だった。彼女だと思い出した。優しい声で俺に話しかけて、そう、いつも一緒にいた。
「ーーーー?いや、最後に目に焼き付けてた。そろそろお別れするこの街並みを、故郷の景色をな。」
(お別れする?)
俺は自分の言ったことが分からなかった。お別れする。俺は自分の生まれ育ったこの街から離れる予定などなかった筈だ。しかし 夢の中の俺は確かにお別れすると言っていた。だとしたら何故、俺はそんなことを言っているのか。
「ごめんなさい。やっぱりこんなこと、あなたにお願いするべきじゃない。それに本当は引き受けて欲しくない。今もこんなことになるなら、話さなければ良かったと思っているもの。」
顔は見えない。本当に辛いのだろう。そう思わされる程に彼女の言葉からは後悔が伝わってきた。
彼女の言葉を聞いた夢の中の俺は体を起き上がらせると、彼女の方を向いた。
「ーーーー。お前が後悔しているのはわかった。俺に行って欲しくないこともわかった。けど、俺たちもしばらく会えなくなる。それは俺だって悲しいし、引き受けずにこのままずっと2人でいれたらと思う。けど
、それじゃあ駄目だ。ーーーーの世界の人々を心配してーーーーが心の底から笑えていない。心の底から俺を愛せない。」
「そ、それは……そうかもしれない。けど、もしイヅナが死んでしまったらそれでお終いなのよ?そうなってしまったら私には耐えられない。初めて心を惹かれた人が私の為に傷ついて、苦しんで………それに………私のことを忘れさせなければいけないなんて。」
ポタポタと涙が落ちた。知っている筈なのに記憶の中にいない彼女の涙は俺を苦しくし、悲しくさせた。
そして、苦しくなればなるほど思い出せない自分が嫌になった。忘れさせなければならない、そう彼女が言っているのだ、俺が思い出せないのは彼女のせいだろう。しかし、そうだとしてもこんな夢を見るのだから、彼女は俺に思い出させようとしている筈だ。
何故思い出せない?何をしたら思い出せる?俺は彼女に近づいた。そんなことをしても彼女を思い出せるわけでもない。しかし、何をすれば思い出せるのかわからない今、やれる何かをするしかない。
目の前にいる筈の彼女はやはり黒い靄に包まれたまま。手を伸ばしても夢の中の彼女には触れることも出来ない。俺の手が黒い靄をすり抜けたとき夢の中の俺が彼女を抱きしめた。
「俺だって辛いさ。もしかしたらこれでお別れになるのかもしれないんだから。」
「だったら……。」
「けどな、ーーーー。その為には他の誰かが俺の代わりにならないと行けないんだろ?誰かを巻き込まないと。優しいーーーーがそれに耐えられるとは思えない。俺が行くことを認めたのだって覚悟の上だったんだからな。」
「………。」
「それに俺がその役割をしたところで誰かしらは巻き込まれる。けど、俺が行けば守ってやることくらい出来る。例え、記憶が無くなったとしても俺はそういう人間だからな。仲間くらい守り切って見せるさ。」
「わかってますよ。あなたは優しいですから、優しすぎますから。だから、私はあなたのことを好きになったんですから。」
「だから、ーーーーには悪いが俺は行くよ。ーーーーの為に……は駄目か。それがーーーーは辛いんだから。けど、何を選択しようとお互いに辛くはなる。だったら最も成功する確率が高いことをしよう。そして、また2人で笑いあえる日がくるようにしよう。それまで俺は頑張り続ける。」
「……イヅナ。」
「だからーーーー。最後くらい笑顔でいて欲しい。そんな顔を見ているとやっぱり辛くなるからな。」
夢の中の俺はそう言って微笑む。その顔を見て彼女は更に涙を流す。しかし、表情は違ったのだろう。無理をしているとわかる。それでもきっと彼女は笑顔だった。
「そうですね、イヅナ。ありがとう。」
「こちらこそ、最高の笑顔をありがとう、ーーーー。」
「そして……。」
「ああ。」
彼女が夢の中の俺に手を当てる。
「「さよなら(だ、です)。」」
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「やっぱり夢か。」
俺はベッドの上で目を覚ました。世界会議に出席する為、カラドボルグ魔法学園に向かった俺たちはその前に休息をとる為、グラム王国の城に訪れていた。
部屋へ案内された俺はすぐにベッドで横になったわけだが、その結果が先の夢ということだ。
「……彼女。それしか思い出せなかった。いや、結婚してと言っていた時点でわかってはいた筈か。これも記憶が消えてるせいなのか?」
俺は体を起き上がらせ、窓の外を覗いた。さっきの夢で見た街並みとはだいぶ違う。そう思ったとき、俺はふっと思い出した。
(そういえば街の景色をしばらく見れなくなる、とか言ってたな。そんな予定は無かった筈だ。いや、これも忘れているのか?だとしたら、俺が忘れた街からいなくなる理由は………まさか!)
そんなことがあるのか?と思った。しかし、そう考えてしまうとそれ以外に思いつかなかった。記憶が消される理由は分からなかったが、俺があの街からいなくなる出来事など1つしかなかった。
そう、つまりは。
「俺は転移が起こることを知っていたのか?」
俺がこの世界に来たのは偶然ではなかったのかもしれない。