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気がついたら魔神でした  作者: ヴァル原
第5章 教師編
117/164

気がついたら涙が溢れていました

木曜日と言いましたが、仕上がったので投稿します。日曜日には投稿しますが、それまでにもう1話投稿するかは未定です。

「……ん。」


 意識を取り戻した中島は目を開いたが、その眩しさに思わず再び目を閉じた。

 だが、実際はそうではない。今まで見たことのない程に白いその景色を見て、眩しいと錯覚したのだ。

 少しでも情報が欲しい。そう考えた中島は周囲を確認するが、そのときあることに気づいた。


「ジエルさん!」


 側にいたはずの彼女の姿が見当たらないのだ。中島は駆け出し、ジエルを探す。


「どこにいったのかしら。あの人なら大丈夫だとは思うけど。」


「はい、大丈夫です。」


 後ろから掛けられた声。中島は振り向くが、走っていた為勢いを抑えきれず。


「きゃっ!」


 尻餅をついた。

 そんな中島に彼女は手を差し出す。


「中島様、こそ大丈夫でしょうか。」


「……心配したんですよ。」


「そうでしたか。申し訳ありません。」


 ジエルは頭を下げる。流石にそこまでのことをされると中島も何もいえなくなってしまう。


「ところでここはどこでしょうか?」


 ジエルは話を変える。


「わかりません。何も情報もありませんし。」


「そうですか。そういえばあちらに扉があるのを見つけましたが、確認しますか?」


「……仕事が早いと言うか、何と言うか。」


「どうなされましたか?」


「何でもありません。扉の場所まで案内してもらえますか。」


「ではこちらへ。」


 そして、中島はジエルの後につき、白い空間を歩く。

 扉に着くまでの間、中島は改めて周りの様子を確認した。真っ白で、明かりがあるわけでもないのに明るく、自分がどちらの方向から来たのかすらわからなくなりそうな場所。

 ジエルは良く真っ直ぐ目的地に向かって歩いていけるものだ、と感心してしまう。


「不思議な場所ですね。」


「そうでしょうか?」


「はい、このような場所始めて来ました。」


「私は似たような場所に良く訪れるのでそのようには思いません。お気持ちを理解できず申し訳ありません。」


「いえ、気にしないでください。」


「「…………。」」


 その後、2人は無言で歩き続けた。そのせいか目的の場所まで時間が掛かった気がしたが、ジエルが行って戻って来れる距離のはずだし、あまり時間は経っていないのだろうと中島は考えた。

 そして、目的地に到着した。しかし、そこに扉はなく、あるのは白い壁だけだ。


「ジエルさん?扉がありませんが。」


  「いえ、ここに。」


 ジエルは右手を壁にあて、何かをなぞるように動かす。するとどうだろうか。突然、壁であった場所が消え、1つの道が出来た。


「魔法の結界のようです。」


「そうですか。」


 中島はもう驚かない。


「では行きましょう。」


「はい。」


 2人は壁の中の道を進んでいく。奥に進むにつれ、白かった周囲は黒く染まっていく。遂には辺りの様子が分からないほど周囲を黒く染め上げた。


「ジエルさん、大丈夫ですか?」


「はい、それにもう出口のようです。」


 ジエルのその言葉の直後、周囲は再び純白に変わる。だが、今回はただ白いだけではない。書物が積まれ、机の上には紙やペンが乱雑している。


「……ここでしたか。」


「何か言いましたか?」


「いえ、何も。」


 ジエルが何か呟いたような気がしたが、中島の気のせいだったらしい。

 中島はゆっくりと机に近づく。整理されていない机上、だが、埃を被っている様子はなく、つい先程まで誰かが居たのではないかと思わせる。


「これは……。」


 中島は机の上にあった1つの本を取る。


 ダイチ・ツキヤマ


 そう書かれた本を。

 中島はその本を開いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 まずは良く、ここまでたどり着いてくれた。ありがとう。それでは早速本題に入る。


 俺はあの暗号、ローマ字で『この世界の真実を知った』と伝えた。そして、これからはそれについて書く。

 まず、最初に知って欲しいのは君たちの敵は魔神ではなく、創造神であると言うことだ。この世界の人々は魔神が敵であり、創造神が自分たちを守ってくれていると勘違いをしている。

 魔神は人々に何もしていなかった。ここにたどり着いた君に問おう。この世界に来てから魔神からの攻撃を受けたか?受けたとしてもそれは魔神教の奴らではないか?

 魔神は人を傷つけてはいない。魔神教は人を傷つけた。だが、操っていたのは創造神だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「う、うそ。」


 中島は信じたくなかった。そして、この事が本当であろうと、嘘であろうとこれ以上読みたくなかった。しかし……。


「私が読まなきゃ。」


 中島はページをめくる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 創造神は気まぐれなガキだ。だから、この世界だけで遊ぶことに飽きた。そして俺たちを、勇者たちを召喚させ、魔神と戦わせた。

 俺たちの戦いは、仲間の命は、奴が楽しむためのものだったんだ。俺はそれに気づいたとき、悔しかった。自分を呪った。真実に気づかず、仲間たちを先導した自分を。

 2年以上もの間、創造神に笑われ続けた自分を。

 だから俺はせめて何か、やり返してやろうと考えた。一泡吹かせてやろうと。今考えるとそれがいけなかったのかもしれない。

 俺は国王にこの世界のためになる魔道具を作成したい。そう伝え、設備と資金を貰った。嘘はついていない。この世界を玩具としか思っていないクズを殺す道具を作ろうとしたのだから。

 そして、俺は次の日から専属のメイドなったジエルと共に魔道具の作成に取り掛かった。

 設計から始まり、材料集めに、魔力注入。どれも簡単なことではなかった。

 更に創造神と対面する為の手段、対面したときにまともに戦えるようにする為のステータス値の底上げ。

 どれも大変だった。しかし、ジエルがいてくれたから、手伝ってくれたから、俺は頑張れた。

 一声かければ必要なものは揃えてくれた。俺の体調を考えてくれた。優しくしてくれた。

 俺はきっとジエルに惚れていたんだ。


 予定では半年以上掛かると考えていた魔道具作成は2ヶ月ほどで終わった。創造神と対面する為の手段も見つけた。ステータスもこれまで以上にあげた。このまま行けば成功する。何もかも上手くいっている。そう思った。そう、上手く行き過ぎていた。


 魔道具が完成したその日、俺はジエルに呼び出された。何だろうと、まさか告白かなと心を躍らしながら彼女のもとへ向かった。

 だが、待っていたのは絶望だった。

 彼女の姿が見えたとき、何故か彼女は俺の左腕を持っていた。理解できなかった。突然、俺から消えた左腕と彼女が持っていた左腕を。

 呆然としている俺に彼女は伝えた。

 ご苦労様、と。創造神の娯楽の為にお付き合い頂きありがとうございました、と。

 そこで俺は気づいた。自分が奴の手の中で踊らされていたことを。

 ジエルは言った。役目を終えた貴方に用はありません。魔道具を渡して、死んでください。

 俺はそんな彼女の言葉を無視して、質問した。君は俺のことをどう思ってるのかと。

 なんて言ったと思う?


 道具だ。


 そう、道具。俺はどんなに彼女を思っていても、大切にしたいと思っていてと、彼女これからもずっとこのままで思っていても。彼女には関係なかったのだ。

 俺は笑いながら、泣きながら、逃げた。もう何も分からなくなった。俺を殺そうとした彼女が追いかけてこなかったのは何故かわからない。しかし、そのお陰でこれを残すことができた。

 これを読んでる君。暗号を解いた君。どうかこの本の側にある時計の形をした魔道具を使い、創造神を殺してくれ。

 誰も信用するな。信用すれば俺のようになる。


 いつの間にか俺は奴に一泡吹かせてやる為ではなく、あいつを倒してジエルと幸せになることが目的になっていた。

 だから、戦う理由が無くなった。戦えない。もう、そんな気持ちもない。

 けどやっぱり憎いんだ。俺たちを笑い続けたあいつが。

 自分が戦わないのに、こんなことを頼ん



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 文は途中で終わっていた。中島は本を机に置いた。

 中島は結果として、欲しかった情報を得ることはできなかった。だが、それでも重要なことを知れた。自分たちが騙されていること。生徒たちが創造神に弄ばれていること。

 はやく伝えなければ。一刻も早く、世界の真実を。


「ジエルさん!戻りましょう。」


「いえ、戻りません。」


「え?……あ、そうですね。魔道具を忘れるところでした。」


 中島は自分がダイチ・ツキヤマが残した魔道具を忘れたことに気づき、机上を探す。


「確か本の側にあるのよね。どこかしら。」


 中島は重なる本をどかして、魔道具を探す。しかし、本の側にあると書いてあったがその様な物は一切見当たらない。


「どこにあるのかしら。」


「ありません。」


「え?」


「ここに魔道具はありません。」


 中島はジエルが何かの謎に気づき、魔道具の本当の場所がどこか分かったのではと考えた。

 中島はジエルの側に駆け寄る。


「では、一体どこに。」


「創造神様のもとにございます。」


「え?創造神のもとに?な、何故。」


「私がお届けしたからです。」


 中島はジエルの言葉の意味が分からなかった。何故、魔道具を創造神が所持しているのか。何故、ジエルが創造神に届けたのか。

 そこで先程の本に書かれていたあの名を思い出した。


 ジエル。


 内容の方に集中し過ぎていた為、気にもとめなかったが考えてみれば今、目の前にいるメイドと全く同じ名である。専属のメイドで、材料を何でも準備してくれて、体のことを心配してくれて、優しい。全てが当てはまる。


「ジエルさん、偶然ですよね?名前や性格が同じなのはだって……。」


「いえ、その様なことはありません。その本を書いたダイチ・ツキヤマのことはよく知っています。明るく、優しい好青年でした。真実を知ったとき、涙を流し、笑いながら逃げて行きました。その本に書いてある通りです。」


「じゃ、じゃあ、何で……。」


「手伝ってくれたのか?でしょうか。それは簡単なことです。私が以前、ダイチ様の手伝いをし、魔道具を作成したとき、本当はダイチ様を殺し、魔道具をすぐ創造神様に届けるつもりでした。しかし、創造神様はダイチ様を逃すように命じられました。私はそれに従い、彼を逃がしました。

 それから数日が経つと彼は城の中でコソコソと動くようになりました。それがこの数日間、貴方と探したあの仕掛けです。

 戦うことはもう出来ない。何故か彼はそう考えました。しかし、誰かには託そうとした。理解できません。あ、すみません。話を戻します。

 仕掛けが全て完了した頃、創造神様はその仕掛けを破壊して彼を絶望させるか。またいつか勇者たちが召喚されるときにこの仕掛けを使い、絶望させるか。悩みました。数日悩み、後者に決定しました。

 そして、この件を担当することになったのが私です。中島様はとても良く動いてくれました。ありがとうございます。どうでしょうか?絶望なさいましたか?」


「………。」


 中島は何も言わない。口が動かない。


「その様子だと絶望されたようですね。ありがとうございます。創造神様もお喜びになられています。ご協力感謝します。お礼もあります。」


「お、お礼?」


「はい。私も悩みました。何が中島様の礼に相応しいのか、本を読み探しました。中島様に意見も聞きました。すると中島様は“無”を、“死”を望んでいられることがわかりました。……あとはお分かりになるでしょうか?」


 中島は理解した。ジエルのその言葉は決してふざけているわけではない。本気で言っているのだと。

 しかし、それでも確認したかった。


「何でこんなことをするの?」


「創造神様の為です。」


「何で優しくしたの?」


「貴方に何かあれば計画に支障をきたします。」


「彼と同様に…私は……道具なの?」


「はい。」


「な、何で……な、ん……で。私は……信じて………貴方ならと……思って……。」


 中島の目から大粒の涙が溢れた。涙の理由、それは決して1つではない。

 裏切られた。道具だと言われた。もうすぐ死ぬ。中島は沢山のことを思い浮かべた。だが、それでも一番の理由は生徒たちだろう。


「……ごめん…なさい。あなたたちの為に……何も……何も出来なくて。真実を伝えられなくて。」


 ボロボロと涙を流す中島をジエルは不思議に思う。それはダイチ・ツキヤマのときにも思ったことだ。


「何故あなたは、あなた方は、自分が死ぬの直前に誰かを思うのですか?死にたくない、まだ生きていたい。そう思うのではないのですか?」


 中島は生徒のことを、ダイチはジエルのことを思い、口に出している。それがジエルには理解できなかった。

 ダイチにも似た問いをした。だが、帰ってきた答えは…。


『愛した女の幸せを願わない奴なんか、いる訳ないだろ。』


 である。ジエルには理解不能。これ以上は時間の無駄と考え、ジエルはダイチを殺した。

 だが、その後も気になった。そして、もう一度その質問をする機会が巡ってきた。しかし……。


「皆……先生らしいこと……出来なかった。自己満足ばかりして……自分のことばっかり考えてごめんなさい。」


 中島は何も答えてはくれない。

 それなら…。


「もういいです。どうぞお受け取りください。」


 グシャ。


 そこには中島だった肉が残された。

 ジエルはその肉を見つめていた。


「結局、何もわかりませんでした。創造神様は楽しめたと仰いましたが、私はもやもやしたままです。」


 生徒。中島は最後まで彼らのことを考えていた。死のその瞬間まで。


「私も彼らと一緒にいれば、同じようになるのでしょうか。……創造神様からの命令もありませんし、試して見ましょう。」


 ジエルはその場を後にし、城へと戻っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーー謁見の間ーーー



「もう良いのか?」


「はい、知識はもう十分に得られました。後はあの子達の為に活用するだけです。」


「そうか。まあ、また必要となった時の為、書物の閲覧許可は出しておこう。これからもよろしく頼むぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


 そう言い、彼女は謁見の間を後にした。残った国王は側にいた近衛兵に話しかける。


「彼女は良く1人・・で頑張る。戦うことをしなくとも他の面からのサポートをする為に努力を惜しまない。本当に仲間たちのことを思っているのだな。」


「部屋に大量の本を運んでいる姿を見た兵やメイドといます。彼女の頑張りを知らない者は場内にはいないかもしれません。」


「ハッハッハ。それもそうかもしれんな。もう賢者や学者の称号を与えるべきか?賢者“中島”、学者“中島”。うむ、良い響きではないか。」


「それは名案です。」


「であろう?」


 彼女、中島・・が賢者や学者となるのはそう遠くないのかもしれない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「先生!こんにちは。」


「こんにちは。」


 城に残った勇者の1人である田中は中島に声を掛けた。最近、中島は忙しかったようでその姿を食事のとき以外であまり見ることがなかった。そんな中島を偶然、廊下で見つけた田中は思わず声をかけたのだ。


「先生、頑張るのは良いけど無理しちゃ駄目だよ。疲れたらまた、先生と私たちでリフレッシュしに街まで行こうね。この前は先生にリフレッシュしてもらおうと思ってたのに、何から何まで先生がやってくれたからね。“ブルージュ”に行こうとしたらもう予約取ってあるって言ったときは驚いたよ。」


「教師として当然ですよ。」


「そんなことないよ。今度はしっかりと先生がリフレッシュ出来るように私たちで考えるから。くれぐれも予約とかしないようにね。」


「わかりました。」


「よし!じゃあ、また後でね先生。」


「はい。また。」


 そう言って去っていく、田中の背を見ながら彼女は呟いた。


「まだ、分かりませんね。時間がかかるこおなのでしょうか?まあ、創造神様からの命令は暫くは無さそうですし、気長に待つとしましょう。」


 彼女はその後、自室へと戻って行った。純白の羽を残して。













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[気になる点] 中島先生…流石に殺さなくても良かったのでは?捕虜とかにして助けられる、テンプレだけどそっちの方がモヤモヤしないし…
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